病み彼

直ぐに帰国します(優空side)

今日も一通り勉強を終え、ほっと一息吐いたところだった。いきなり電話が掛かってくる。知らない番号だ。一体誰からだろう。

「もしもし」

「もしもし。黒金優空さんですか」

「どちら様ですか？」

「警察の者です。黒金愛空君のお兄さんですよね」

「っ…愛空に何かあったんですか？」

僕の心臓はバクバクと音を立てた。警察からかかってくるなんて…何が日本で起きてるんだ。

「一度日本に戻って来れないでしょうか」

「……直ぐに帰国します」

何があったかは分からない。でも僕の所に迄連絡が来るんだからきっと大きな事件か何かが起こったのだろう。


翌日帰国した。空港には警察が居て益々不安になった。

「黒金優空さんですね。少し時間をいただけますか」


僕たち二人は場所を移した。此処は警察署？まさか此処に愛空が居るってわけじゃないよな。

小さな部屋に案内されて座るように促された。僕と対面して警察の人が座る。其の人の顔は暗いもので僕を不安にさせる。

「帰国早々こんな事を言うのは酷かもしれませんが…貴方のご両親が殺害されました」

何だって…？お父さんとお母さんが？何で？誰に？誰からも恨みを買うような人じゃないのに。

「犯人は…犯人は捕まったんですか？」

「はい。本人は否認しているのですが…ご両親を殺害したのは愛空君の恋人でした」

恋人？愛空に恋人が？何で…如何して…

物心ついた時から愛空が好きだった。でも兄弟だから恋愛なんて出来ない。それに男同士だし。そんな愛空の心を奪った挙句の果てにお父さんやお母さんの命も奪うなんて。

「愛空は今何処に居るんですか？」

「病院です」

病院？何で…？若しかして恋人に何かされたとか？

「ご両親が亡くなっているのを発見したのは愛空君でした。それから監視カメラを確認していたのですが…恋人がご両親を殺害するところを見たんです。まぁ殺害したと断言は出来ないんですけどね。自分の両親を殺したのが恋人かもしれないと考えたのか、それとも両親が殺害された事がショックだったのか気を失って倒れてしまいました」

「それで…愛空は無事なんですか？」

「何処にも異常はありません。ですが…一部の記憶を失っているようです」

一部の記憶…ショック性の記憶喪失って事か。自分にとって嫌だった部分を一時的に忘れてしまうものだ。

「じゃあ若しかして今の愛空はお父さんとお母さんが殺されたって事を忘れてるんですか？」

「其の通りです。そして恋人の存在すら忘れているようです」

愛空には相当辛かったのだろう。自分の目で親が殺されている所を見たんだから。しかも恋人が殺したとなると尚更辛い筈だ。

「愛空の恋人ってどんな人ですか？俺たちの両親を殺した人は….」

警察の人は写真を見せてくれた。青来夢という人らしい。男じゃん。

此の人は愛空と同じ学校に通い同じバスケ部で、後輩だという事だった。何でこんな奴が愛空の心を奪い親の命を奪ったんだよ。許せない。