ハッピーエンドをとりもどせ!

cheeery

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最後はハッピーエンド?バッドエンド?

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わたしたちは慌てて裏口をコンコンとノックした。

しかし、中からの返答はない。

「どうしよう、シンデレラいないのかな?」
「相手の反応待ってる場合じゃねぇだろ、入るぞ」

陽太くんはドアノブに手をかける。

そうだよね、今は一刻を争うタイミングだから……ごめんね、シンデレラ。

わたしたちが中に入っていくと、シンとしていてシンデレラがいるようには見えなかった。

家の中にいない……?

どうして……。

すると奥の部屋を探していた陽太くんの方から声が聞こえてきた。

「こっちにいたぞ!」

陽太くんが声をかけたのは、裏庭だった。

「シンデレラさん、どうしてこんなところにいるんですか?」
「まぁ、あなたたちは……」

「急に入ってごめんなさい。でもわたしたちはあなたに幸せになって欲しくて……どうしてずっとここにいるんですか?」

「そうだったのね……おねえ様たちに言われたの。家の中を掃除してなさい、そして外には出るなって言われたの……」

「ダメです!シンデレラさん!外ではあなたの落としたガラスのクツがピッタリ合う人を探しているんです。だからシンデレラさんも参加して」

わたしが伝えると、シンデレラはうつむいた。

どうしちゃったの、シンデレラ……。

「わたしはいいわ」
「えっ」

「確かにあの日はとっても楽しくて幸せな時間だった。でも、わたしと王子様はやっぱり身分も違うし釣り合わないわ。魔法使いさんのお陰でわたしは変われたの。彼女がいなければわたしはただの灰かぶり……」

「灰かぶり?」

陽太くんの言葉にわたしは静かに答える。

「灰かぶりは、シンデレラって意味なの……」
「なっ……」

わたしも最初は知らなかった。

でもお母さんに教えてもらってようやく知れたんだ。

なんてヒドイ名前を付けられたんだろうってわたしも思った。

シンデレラがかわいそうだと思った時もある。

「王子様、素敵な男性だったわ。だから王子様にピッタリな人と幸せになってもらいたい。わたしはここで掃除をしている灰かぶりでいるわ」

どうして……。
こんなこと、本当の物語にはない。

周りが邪魔をするんじゃなくて自ら諦めてしまうなんて……。

わたしは目からぽたり、と涙がこぼれた。

いやだよ。
王子様と幸せになって欲しいよ。

一生懸命頑張っているシンデレラが報われる、そんなお話であって欲しいよ。

「釣り合わない、なんて言わないで……っ」

ハッキリと告げると、シンデレラはうつむいていた顔をあげた。

「確かにシンデレラの意味は灰かぶり……あなたは灰をかぶっていた女性なのかもしれない。でも……そんな中でもずっと心は美しかったでしょう?わたしにはずっと、心優しくて美しい女性に見えてた。ドレスやガラスのクツもそう。魔法だったかもしれないけれど、あなたが着るから美しくて……キレイだと思ったの。誰かを傷つけたりせず、一生懸命で心優しいシンデレラ。そんなあなたが、王子様と結ばれないで誰が結ばれるって言うの!」

どうしてこんなに悲しいんだろう。

涙がとまらない。

すると隣にいた陽太くんが言った。

「コイツはずっとシンデレラが幸せになれるようにって、シンデレラのこと考えてたんだ。この物語の主役は……シンデレラ……お前だろう?俺たちだって手助けすることはできる。でも幸せを選ぶのは、全部なんじゃないのか?」

「わたしが主役……?」

「俺たちはずっとシンデレラを見てきた。物語とか、ハッピーエンドとかよく分かんねぇけど、シンデレラは幸せになるべき人だと思う」

まっすぐな陽太くんの言葉にわたしも告げる。

「そう……だからお願い……幸せを掴み取って」

必死に伝えると、シンデレラは不思議そうな顔をした。

「そんなこと言われたのは、はじめてだわ……わたしの幸せを願ってくれる人がここにはいるのね」
「うん。わたしも陽太くんも願ってる」

わたしたちの言葉を聞くと、シンデレラは笑顔になった。

「ありがとう、ふたりの小さい人。わたし……今からガラスのクツを履きに行ってくるわ。だってもう一度王子様に会いたいもの」

「シンデレラ……!」

わたしたちはその言葉を聞いて、こくんとうなずいた。

「じゃあ急ぎましょう!」

わたしと陽太くんはシンデレラの手をとり走った。

このまま使いの人がいなくなってしまったら、ハッピーエンドが消え去ってしまう。

そんなの絶対に嫌だから……早く、そして間に合って!

「こっちだ!」

陽太くんが先頭を行き、案内してくれる。

するとシンデレラは言った。

「ねぇ、あなたたち……カボチャのおすそ分けもありがとう。ずっと見ていてくれたのね」
「えっ」

わたしが顔をあげると、シンデレラは笑った。

そっか、シンデレラはわたしたちの存在に気づいていたんだ。

「心優しい人たちとお友達になれて幸せよ。わたし、主役になってもいいのよね?」
「はい、もちろんです……!わたしはね、シンデレラのことが大好きなの……。だから幸せになって」

シンデレラはこくんとうなずいた。

家の前までやってくると、シンデレラの手を掴んだまま、家の前に飛び出す。

すると、ちょうど使いの人がガラスのクツをしまおうとしているところだった。

「待ってください!まだここに人がいます!」

わたしは大きな声でそう告げた。

一斉に注目を浴びるわたし。

一瞬、ドキっとしてしまったけれど堂々としていないといけない。

だって、王子様と幸せになるのはシンデレラで間違いないから。

「まだ、ガラスのクツを履いてない人がいます」

わたしがそう伝えると、シンデレラがすっと前に出た。

いじわるなお姉さんたちはシンデレラを見て目を見開く。

 「お前……家の中にいろとあんなに言ったのに……!」
「そうだ、なんで出て来てるんだ!」

「わたしもガラスのクツを履けるか試してみたいわ」

 シンデレラが使いの人に言うと、いじわるなお姉さんとおかあさんは笑いはじめた。

「シンデレラ、お前が何を言うんだい」
「シンデレラには必要ないわ」

 バカにしたように笑う。

しかし、使いの人は言った。

『すべてのむすめに履かせてほしいという命令でしたので。さぁどうぞ。チャレンジしてみてください』

『シンデレラなんかにガラスのくつが履けるわけないわ!』

 「そうよ、そうよ」

ううん、絶対入るんだよ。
だってそのクツを落としたのはシンデレラなんだから。

『それでは、むすめよ。足を通すように』

使いの人がそう告げたことで、わたしと陽太くんは草むらへ隠れることにした。

あの時はとっさに出ちゃったけど、後で騒ぎになるかもしれないから。

あとはシンデレラがガラスのクツに足を通すのを見届けるだけだ。

「大丈夫だよね?きっと」
「大丈夫だろ」

だってシンデレラが決意してきてくれたんだもん。

シンデレラはゆっくりとガラスのクツに足を通す。

わたしはその瞬間を、瞬きもせずに見つめていた。

お願い……。

きっと入るよね?

シンデレラの足はするりとガラスのクツにとおった。

「おお、なんとぴったりじゃないか……!」

使いの人たちが感動したように声をあげる。

「な、なんでシンデレラが!?」
「ウソよ、インチキしてるにちがいないわ!」

お姉さんとお母さんたちが文句を言う。

すると、いつの間にやってきたのか魔法使いがシンデレラに向かって杖をふった。

服に杖で触れたとたん、再びシンデレラのボロボロの服がキレイなドレスに変わる。

「うわぁっ……!」

これでみんな分かっただろう。

あの時の王子様のダンスの相手はシンデレラだったのだと。

いじわるなお母さんとお姉さんは口をあんぐりあけていた。

良かった、シンデレラ……。

わたしが感動していると、隣から声が聞こえてきた。

「ステキですね、シンデレラ……」

するといつの間に変身したのか御者さんが隣でそうつぶやいた。

「あっ、ネズミさん!」

「シンデレラがどうなったか見届けたくて来てみたら、さっき魔法使いが僕たちにも杖を振ってくれたんです」
御者さんはうれしそうな顔をしている。

「みんなもシンデレラの幸せを願っていたんだね」

「ええ、そうです。シンデレラは、いつも罠に引っ掛かった僕を逃がしてくれていたんです。怪我をしたら治療をしてくれて、もう引っ掛からないようにって外に出してくれました」

「優しいんだね」

だからこそ、シンデレラはこうやって幸せになれたんだと思う。

みんなが幸せになって欲しいと願われる人だったから。

「シンデレラ、一緒に王子様の元に向かいましょう」

使いの人がそう伝えると、シンデレラはコクンとうなずく。

シンデレラ……行ってしまうんだね。

そう思っていると、シンデレラは使いの人になにかを話した後にこっちにやってきた。

「小さな人……」
「シンデレラ、どうしたの?またなにかあった?」

わたしがたずねると、シンデレラは首をふる。

「お礼を伝えたくて……ありがとう、ずっと見守っていてくれて」

シンデレラはドレスの裾を掴むと、広げて見せてからお辞儀をした。

大人っぽくてキレイな姿にわたしは思わず見とれてしまう。

「またどこかで会えたら……」

そしてシンデレラはそれだけを告げると、わたしたちに手を振ってから去っていった。 

「幸せになってね、シンデレラ」


少しさみしくも、うれしい時間が過ぎ去った。

「シンデレラの物語はこれで終わりだニャ。僕たちは本当にシンデレラが幸せになれたのか、あの本で確認するニャ」
「そうだね、行こう!」

ねずみさんに別れを告げ、テントの中に戻ってきたわたしたち。

テントのテーブルには、昨日置いた本がそのまま置かれていた。

この本はここに着いた瞬間、開かなくなってしまった。

ミミが言うには、物語が終わるまではロックのかかった状態になっているとか。

『シンデレラ』の物語はこれで終わったから、この本も開くのかな。


「陽太くん、開いてみよう」
「ああ」

わたしと陽太くんがふたりでゆっくりと開いてみる。

開く手が少し震える。

大丈夫だよね?
だってわたしたち、あんなに頑張ったんだもん!

「開け……」

前まで開かなかったゆっくりと開く。

「開いた……」

でもまだこれで終わりじゃない。

物語が最後、ハッピーエンドで終わっているのか……。

わたしたちはそれを確認しないといけない。

「えっと……最後のページ、最後のページっと……」

ページをめくり、最後まで到達する。

するとそこには文字が書いてあった。
 

【それからしばらくすると、シンデレラはお城へ迎えられました。
王子様と対面して、ふたりは手を取り合い再会をよろこびました。
そしてシンデレラは王子様と結婚をして、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。おしまい】
 

「うわぁ……すごい、ハッピーエンドだ……!物語ってやっぱりすごいね、陽太くん。だって人をこんなに幸せにできるんだから」

「ふっ、加奈はいっつもオーバーだよな」

「陽太くんはシンデレラが幸せになってうれしくないの!?」

「そりゃ……まぁ、うれしいけど、なんか変な感じだよな。俺たちが変えたっつーか」

「ねっ、こんなことが起きるなんて思いもしなかったよ」

光につられて図書室の奥に行ったら秘密の部屋があって、そこが物語の世界に繋がっていたなんて誰も思わないだろう。

 「じゃあこれで、正真正銘ハッピーエンドを取り戻したってことだな」
「そうだニャ。ふたりの活躍はすごかったニャ」

たくさんヒヤヒヤすることもあったけど、無事ハッピーエンドを取り戻すことができた。

これでシンデレラはお話しどおり王子様といつまでも幸せに暮らすだろう。

そしてハッピーエンドを取り戻したってことは……。

「これでわたしたち、本当に元の世界に戻れるんだよね?」
「ああ、そうだニャ」

「やっとか」

この世界にわたしたちはもう必要ない。

シンデレラとのお別れはさみしいけど、わたしたちには帰る場所があるから……。

「加奈、陽太。その本を持ってついてくるニャ」

ミミが先にテントから出た。

わたしたちもミミの後ろをおいかけるように外へ出ると、そこにはここに来る時にも見た大きな扉が存在していた。

「あっ、これ……!」
「現実世界と物語の世界を繋ぐ扉ニャ」

真ん中が本が一つ分入るようにかたどられている扉。

来る時はここに本を埋め込んでそれから、ハンドルを回転したら扉が開いたんだよね。

「ねぇミミ。どうしてこの扉が急に現れたの?」

「この扉は物語がハッピーエンドにならないと、表れないニャ。加奈と陽太がハッピーエンドにしたから現れたんだニャ」

そっか……。

もしわたしたちがハッピーエンドを取り戻せなかったら、扉は存在せずこの世界に閉じ込められてしまうんだ。

「じゃあ帰ろうか、ミミ……陽太くん」
「ああ」

陽太くんは返事をしたけれど、ミミは返事をしなかった。

「今からあの空洞に本を差し込んでハンドルを回したら、扉が開くニャ。そこは、最初に来た図書室と繋がっているニャ」
「うん、分かった」

「それから……元の世界に戻ったら約束して欲しいことがあるニャ」

「なんだ?」

わたしと陽太くんが疑問に思っていると、ミミは真面目な顔で言った。

「今日、ここで体験した出来事は周りの人には言わないこと」

言ったらダメなんだ……。

「もし言ったらどうなるんだ?」
「言ったら僕は消えてしまうニャ」

「えっ、どうして……?」

わたしは心配になってたずねる。

せっかくここまで一緒に旅をしてきたのに、ミミが消えちゃうなんて……。

「そういう決まりなのニャ」

ミミのことまだ何も知らない。

どうして図書室にいたのかとか、どうしてわたしたちを連れてきたのかとか、ミミは他のネコと違うのはどうしてなのかって。

聞きたいけど、聞けなかったこともたくさんある。

「ミミは……わたしたちが言わなかったら、まだ一緒にいてくれるんだよね?」

わたしが不安げにたずねると、ミミは言った。

「お前たちと一緒にいるニャ」

良かった……。

「分かったよ、絶対に言わない!」

だってミミが消えてしまうなんて嫌だもん。

「陽太くんも、言わないでくれるよね?」
「別にそんなこと話すような相手いねぇし……どうせこんなことがあったなんて言ったって信じるやつもいねぇだろうしな」

そっか……わたしたち、特別な経験をしたんだもんね。

みんなが信じられないくらいの特別な経験。
だったら、このお話はわたしと陽太くんの中にとどめておきたいと思った。

「ありがとうニャ」

ミミはほっとしたように答えた。

「それじゃあ、完成した正式なシンデレラの本を入れるんだニャ」
「うん!」

わたしは持っていた本をその扉の穴の中に入れた。

「陽太くんもきて」

わたしと陽太くんは一緒に本を入れると、カチっと音がした。

最初の時と同じだ……。

「回すニャ」

ミミに言われるがまま、ゆっくりと本をもち、ハンドルを回して見ると、中からまぶしい光が見えた。

「……っ」

ぐっと目を細める。

「一歩踏み出すニャ!」

ミミの掛け声とともに、わたしたちは一歩扉の向こうへ足を踏み出した。

本当に戻れるんだ。
うれしいけど、なんだかさみしい。

物語の世界にいるのも嫌いじゃなかったなぁ……。

歩き出すと、光は消えてしまった。

そしていつの間にか、緑は消え、大きな扉も消え……気づいたらそこは学校の図書室になっていた。

「……わっ」
「戻ってきた」

シーンと静まり返った図書室。

辺りには人がいなくて、わたしたちが扉の向こうに行く前のまま止まっている。

もちろん通り抜けた壁は触れて見ても、ただの壁で透けることはなかった。

「戻ってこれたね」
「ああ」

時間は……?

図書室にある時計をみてみると、1時間ほど時間が進んでいるだけだった。

そっか、毎日朝が来て、夜がきて、時間が経っているように感じたけれど、それは物語だけの話しだったんだ。
ひとまずほっとした。

「あれ、ミミは……?」
「さぁ」

あたりを見渡すと、ミミの姿がない。

一緒に扉の向こうに来たはずなのに……。

不安に思っていると、物陰の隙間からミミが出てきて「ニャー」と鳴いた。

「ミミー!心配したじゃん。良かったよ~」
「ニャー……」

ミミの頭を撫でてもしゃべることはない。

「ミミ……しゃべらない」
「当然だろ」

「えっ」

「物語の中の世界は、不思議な魔法が使われてた。帰ってきたんだからミミはもうしゃべれねぇだろ」

「そっかぁ……」

ここでミミが話し出したら、みんなビックリしちゃうもんね。

この世界にいる限りミミと話すことはもう出来ないんだ。

「ミミはずっとこの図書室にいた」
「……え?」

「会いたいならいつでも会えるだろってこと」

これは陽太くんなりに励ましてくれてるのかな……?

「うん、そうだね!これからも会えるもんね!」

この図書室に来る限りは……。

わたしはミミの頭を優しく撫でた。

大変だったけど、楽しい旅だった。

大好きなシンデレラが幸せになれるようにお手伝い出来て、目の前でシンデレラが幸せになるところが見れたのが本当にうれしかったんだ。

「下校の時間なので帰宅してください」

すると、図書委員の人が見周りにきてわたしたちに声をかけた。

時刻はもう18時になっていた。

「帰らないとだね」
「ああ」

楽しい冒険だったから、終わってしまうのが少しさみしい。

わたしはぼーっと立ち尽くしながらつぶやいた。

「もう、会えないんだよね」

シンデレラはもちろん、物語に出てくる出てくるネズミさんや、魔法使い、王子様を見られることはもう二度とないだろう。

「なんかさみしいな……」

わたしがつぶやくと、陽太くんが言った。

「何度でも見れるってお前が言ってただろ?」
「えっ」

そう言って、陽太くんは本棚を指さした。

キレイに並べられた本の中に『シンデレラ』と書かれた本がある。

「そっか!」 

そうだ、わたしが本を開く限りまたシンデレラたちの世界に入ることが出来るんだ。

「陽太くん、これだけ借りさせて!」

そう言ってわたしは、シンデレラの本を手に取り貸出カウンターへ急いだ。

さみしくなったら、何回でも本を読み返せばいい。
きっとその度に、わたしは今日の冒険のことを思い出すだろう──。

 
本を借りて、わたしと陽太くんは校舎を出た。

「陽太くんは、家どっちなの?」
「あっち」

陽太くんが指をさしたのは、わたしとは別の方向だった。

じゃあここでお別れだ。 

 「じゃあな」

陽太くんが背中を向けて去っていこうとする。

「ちょっと待って……!」

わたしは彼を呼び止めた。

ピタリと止まって振り返る陽太くん。

わたしは彼の元に行くとあるものを差し出した。

「これ……陽太くんに貸してあげる」

差し出したのはさっき借りた『シンデレラ』だ。

「本当はわたしが先に読みたかったんだけど、陽太くんは大事な友達だから一番に貸してあげる!」
「さっき生で見てきたばっかりだろ」

「だってほら……陽太くんも改めてこの『シンデレラ』を最初から見てみない?」

わたしがといかけると、陽太くんはふんっと鼻を鳴らした。

「俺は昼寝の邪魔されるわ、変なことに巻き込まれるわ。お前みたいなうるさいやつにつきまとわれて、メーワクだったけど?」
「ええ……」

ガーン、わたしうるさいって思われてたんだ……。

もうちょっと仲良くなれたと思っていたんだけど、わたしの勘違い?

すると陽太くんは言う。

「でも、割と楽しかった……誰かと一緒にいてそう思ったのははじめてだ」
「陽太くん……!」

ぱあっと顔をあげると、陽太くんはふっと笑った。

「読んだら、学校で返す」

そう言ってわたしの差し出した本を受け取った陽太くん。

学校で返すって……!

「同じクラスなんだろ、俺ら」
「もちろんっ!」 

大好きな物語の中で、大切な友達が出来た。

今回の主役はシンデレラだったけど、いつかわたしと陽太くんが主役になるような物語もやってくるのかな?
 
「また明日、教室でね。陽太くん!」
「またな」
 
わたしは陽太くんの後ろ姿に手をふる。

「あら、加奈……さっきの子お友達?」
「うんっ!陽太くんって言うの。カレーが大好きなんだって。今度、ママのカレー食べさせてあげてもいい?」

「もちろんよ」

旅は終わってしまったけど、わたしと陽太くんの物語もあるとしたら、その物語の最後は──ハッピーエンドだ。
 
 
 
 
 END
 
 
 
 

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