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陽太の変化
しおりを挟むわたしたちはお城から少し離れたテントに再び歩いて戻ってきた。
外が真っ暗なこともあってか、身体は疲れ切っている。
テントの中には、相変わらずいい香りがした。
テントを出て戻ってきたら料理が出来ているなんて、今思うけどすごいよね。
この魔法のテントはわたしたちのために作られたテントなのかな?
「ご飯食べようか」
「そうだな……」
今日のご飯はカレーだった。
大きな鍋にカレーがあって、サラダとスープも用意されていた。
「カレーうれしい……!」
「俺も……カレー好きだ」
陽太くんもカレー好きなんだ!わたしと同じだ!
「わたしね、お母さんの作ったカレーが大好きなんだ!具がたくさん入ってて美味しいの」
いただきますと手を合わせて、わくわくしながら食べる。
しかし……。
お母さんの作ったカレーの味とは違った。
すごく美味しいんだけど、なにかが違う。
食べれば食べるほど、なんだかさみしくなって……。
「お母さんのカレー食べたいな……」
ポツリとつぶやくと陽太くんが言う。
「そんなにうまいのか?」
「うん、美味しいよ。もし良かったら陽太くんも今度食べに来て!きっとお母さんもおいでって言うよ」
「……行ってもいいなら」
珍しく陽太くんが素直につぶやく。
陽太くんが食べに来てくれたらうれしいな。
でも、本当に元に戻れるだろうか。
そんな不安から一通り話したらテントの中は静かになってしまった。
疲れもあるのか、陽太くんもミミもしゃべろうとしない。
お父さんとお母さんは今どうしているだろう?
わたしのこと心配していないかな。
静かにご飯を食べていると、陽太くんが言う。
「いっつもうるせぇのに元気ねぇじゃん」
「ちょっとさみしくなっちゃっただけだよ。いつもね、お父さんとお母さんと一緒にご飯を食べるんだ。ふたりとも帰りは遅いけど、図書室で借りた本を寝る前に読んでくれて……わたし、その時間が大好きなの」
「だからお前って本ばっかり読んでたんだな」
「えっ」
わたしがビックリして顔をあげると、陽太くんは言った。
「お前、放課後に毎日図書室来てただろ。毎日毎日本読んで飽きねぇのかってずっと思ってた」
陽太くん、わたしのこと知ってたんだ……。
ってことは、わたしが気づかなかっただけで陽太くんも毎日図書室にいたんだ。
陽太くんは図書室で寝ているだけだったけど、今回の旅で本の魅力にも気づいてもらえたらうれしいな。
「わたし、図書室だったら無限に入れる気がするの。だって本ってたくさんあるんだもん。わたしが生きていても一生かけても全部読み切れないの。楽しいことがいつまでも続くって本当に幸せなことじゃない?」
わたしが陽太くんに伝えると、彼は静かに言った。
「俺は、本とか読んでもらったことねぇから知らね」
「お父さんとかお母さんとかにも?」
陽太くんがシンデレラを知らないって言ってた時は驚いたけれど、昔に読んだから忘れているのかと思ってた。
「……ああ、両親はどうせ俺のこと興味ないから放っておかれてる」
陽太くんは床を見つめながらそうつぶやいた。
彼が床をさみしげに見つめる時、なんだか距離があるような気がしてしまうんだ。
せっかくここまで仲良くなれたのに。
「あっ、じゃあさ、今度はわたしと一緒に本読もうよ。寝るのもいいけどさ、本の楽しさを知るのも面白くない?」
「はぁ!?なんでそうなるんだよ」
「そしたら陽太くんも毎日楽しくなるかなって……」
「あの場所にいたのはただ寝心地がいいからいただけだ。帰ったら元通り、お前とだって他人に戻る」
「どうして……っ」
「俺はひとりでいい」
どうしてそんなさみしいこと言うの……。
「よ、陽太くん!」
わたしは大きな声でハッキリと言った。
「このシンデレラの本はもうすぐ終わるかもしれないけど、わたしたちの物語はずっと続いていくんだよ!わたしは……自分の物語があるとしたら、陽太くんと仲良くなっていたらいいなって思うの」
伝わるかな。
だってこのまま他人に戻るなんて嫌だ。
陽太くんにも学校の楽しさを知って欲しいし、おススメの本とかだって教えたい。
「一緒に元の世界に帰ってさ、新しい生活を踏み出してみようよ」
まっすぐに伝えると、陽太くんはぐっと唇をかみしめた。
「……それは、帰ってからの気分で決める」
「うん!」
わたしは笑顔でうなずいた。
さっきは他人に戻るって言っていたからほんの少しだけでも陽太くんの気持ちが変わったってことなんだよね?
「だいたいまず本当に帰れるか分かんねぇだろ。ここで俺らは一生閉じ込められるかもしれないんだぞ!」
「確かに……でも、陽太くんとなら最後まで出来る気がするよ!」
陽太くんと話して、わたしは前向きになれた。
ふとミミを見ると、毛づくろいをしている。
そういえば……戻ったらミミはどうなってしまうんだろう。
今までなんでわたしたちがここに連れて来られたのかって深く考えたことが無かったな……。
「ねぇ、ミミ。わたしたちをここに連れてきたのはミミなの?ミミはさ、なにか目的があったのかな?」
わたしがミミにたずねると、ミミは「ニャー」と鳴いて目を閉じてしまった。
あっ、ネコのフリしてる……!
ってネコなんだけど……。
それは話すつもりはないってことなのかな。
「わたしたちが元の世界に戻ってもミミもそこにいるよね?」
「いるニャ。ずっと側に」
なんだ、良かった……。
あんまり深くは教えてくれなかったけど、ミミと一緒に戻って来れるならそれも良かった。
ミミが先に眠って、わたしたちもそれを見ていたら眠くなってきた。
物語はもう終盤。
もうそろそろ終わりに差し掛かるから、気合いを入れないとね……。
「おやすみ陽太くん、ミミ」
「おやすみ」
「ニャー……」
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