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学校なんかくだらねぇ

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テントの中へ入っていくと、そこにはいい匂いが広がっていた。

あっ、鍋になにかがあるみたい。

「みて、陽太くん!きのこのポタージュがあるよ!」

鍋には熱々のきのこのポタージュ。

そしてテーブルには野菜がたくさん入ったサラダが用意されていた。

「サラダとスープだけか」

たくさん動いたわたしたちはお腹がペコペコ。

こんなんじゃ足りないけれど……。

「ほら、あれ忘れてない?」

わたしはそう言って陽太くんが持っている袋を指さした。

「そうか、リサのパン……!」

わたしたちが帰る時、リサさんが余ったパンをたーくさん分けてくれたんだ。

袋の中には食パンから、くるみのパン、ベリーのパン。
カボチャのパンとたくさんのパンが入っている。

「お腹ペコペコ~」
「早く食おうぜ」

わたしたちはパンを並べると、ちぎってパンを食べることにした。

「リサさんのパン、食べるの楽しみ~!」

手を合わせる。

「いただきます!」

わたしはリサさんの大きなくるみパンにかぶりついた。

「んん~っ、美味しい……!」

ふわふわしてて、くるみも美味しくていくらでも食べられそう!

この熱々のきのこのポタージュもパンがよくあっていて美味しい。

ミミにはお皿にシチューをついであげると、ペロペロと舐めていた。

「ミミもリサさんのパンどうぞ」

ミミには一口サイズになるようにパンをちぎってあげる。

陽太くんはお腹が空いていたのか、バクバクパンを食べていた。

「うめぇ。こんなうまいパン初めて食った」

それから食パンは焚火の火で焼いてリサさんからもらったチーズをのせて食べた。

「うーん、このチーズも、今まで食べた中で一番美味しい……っ」

リサさんの作ったものは、どれもとっても美味しかった。

あんなにたくさんお客さんが来る理由が分かるなぁ。


「ごちそうさまでした」

丁寧に手を合わせると、わたしは今日のことを思い出していた。

 「今日は大変だったこともあったけどすごく楽しかったなぁ。シンデレラのハッピーエンドを見届けるのも楽しみだよね!」

「……そうか?」

そっか陽太くんは『シンデレラ』がどういう風に終わるか分からないから、楽しみにもなれないか……。

「ねぇ陽太くん。本当に『シンデレラ』って覚えてない?小さい頃にさ、お父さんとかお母さんが本読んでくれなかった?すっごく有名なお話だから陽太くんも物語を見ていたら思い出すかもしれないよ?」

「俺の家は、そういう家じゃねぇから。本とか読んでもらったこともねぇし……物語とか他人の話だろ?そんなの興味もねぇよ。俺はハッピーエンドを取り戻して元に戻れれば、登場人物がどうなったっていい」

そんな……。
どうなったっていいなんてさみしいな。

せっかくやるなら陽太くんにも『シンデレラ』を好きになってもらいたいな……。

「ねぇ陽太くん!じゃあさ、もし、元の世界に戻れたら、陽太くんも一緒に本を読み返そうよ!教室に持って行って、わたしたちが体験したことをみんなに話してみるのも楽しくない?」

わたしがワクワクしながらそう答えると、彼は言った。

「そんなの、全然楽しくねぇよ」
「陽太くん……?」

「俺は戻っても、教室なんかいかねぇよ。くだらねぇんだよ!みんな見た目で俺を判断して、暴力振るってるとか、危ないやつとか付き合ってるとか。そんなうわさばっかりでうんざりだ」

それが陽太くんが教室に来ない原因なの……?

ずっと教室にぽかんと空いていた机。

ここには海藤陽太くんという人が座るはずなんだってクラスの人から聞いた。

5年生になる時にクラス替えをしてから海藤くんは、一度も学校に来たことがない。

話したこともないし、顔をしっかり見たこともほとんどなかった。

「わたしも最初は、陽太くんのこと……怖い人なのかもって思ってたよ」
「ほらみろ。どうせみんな同じだ」

「だって目つきも悪いし、口も悪いし……」
「おい!ケンカ売ってんのか?」

ケンカなんか売ってない。

でも……。

「ずっと授業にきていないから……陽太くんがどういう人なのか分からなかったんだもん!」

さっきまで文句を言っていた陽太くんは今は何も言わず、わたしの話を聞いていた。

「でも今は一緒に冒険して陽太くんのことを知れたから、悪いことする人じゃないんだって分かるよ。頼まれたことは一生懸命やるし、口が悪いところがあっても、まっすぐで優しい人なんだって思った」

陽太くんは学校が嫌いなのかもしれない。

クラスの人に会いたくないのかもしれない。

でもそうやって教室に来ないのはもったいないって思うんだ。

「あのね、陽太くん。物語を知ったら、どんどん好きになるのと同じように、みんな陽太くんのことを知ったら好きになってくれると思うの。だってわたしも陽太くんのこと、好きになったから。だから、自分のことを伝えるっていうのも大事なことなんじゃないかな」

嫌なんだ。
クラスの人に陽太くんが悪い人だって勘違いされたままなのも。

陽太くんがクラスメイトはどうせ自分を嫌っているって思っているままにしておくのも。

わたしがしっかりと伝えると、彼はふんっと顔をそむけた。

「自分のことを話すのは得意じゃねぇんだ……でも、お前の言うことは確かにちょっと分かった」

陽太くん……!

わたしはうれしくなった。

「ゆっくりでいいと思うの。わたし、もっと陽太くんのこと知りたい!」
「ふん、変なやつ……」

陽太くんは顔をそむけた。

するとミミが言う。

「照れてるニャ」
「えっ、陽太くん照れてるの!?」

「うっせ、照れてなんかねぇよ!」
「確かに耳赤いかも」

「耳赤いニャ」
「分析すんな!」

「ふふっ」

わたしの言葉が陽太くんに届いたかは分からないけれど、今陽太くんと過ごしているこの時間はわたしにとっても楽しい時間だって思えるんだ。

 
それからわたしたちはご飯を食べると、すぐに眠くなってしまってそのまま寝袋で寝ることにした。

明日もシンデレラの間違いをきちんと修正できますように──。
 
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