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パン屋さんをお手伝い
しおりを挟む「はぁ……はぁ」
「少し歩けばあるって言ってたじゃねぇか」
歩くこと約30分。
山道を歩いて、やっと市場が見えてきた。
「あったぞ」
少し歩くって言ってたけど、全然少しじゃない……っ。
でもよくやくたどりついた。
「広いね~!」
たくさんの人がいて、たくさんのお店やさんがある。
こんな大きな市場ならカボチャが売っているかもしれない。
「あれ、でもさミミ……わたしたちお金持ってないよ?」
市場ってお買い物するところだよね?
「僕も持ってないニャ」
「えっ、じゃあ買えなくない?」
「買えないニャ」
「じゃ、じゃあなんのために来たの……!」
わたしが大きな声を出すと、ミミはしれっという。
「どう手に入れるかは知らないニャ。僕はカボチャが売っているかもって言っただけだニャ」
「コイツ……もっとかわいいネコだと思ったのに」
陽太くんがぼやく。
ミミ、意外と冷たい……。
そんなことよりお金を使わないで、カボチャを手に入れる方法を考えないといけない。
「とりあえず、カボチャを売っている人を探そう」
「ああ」
市場でかぼちゃを売っているところを探すけれど、カボチャらしいものは全然見つからなかった。
やっぱり、不作っていうのが関係しているんだろう。
「あの、カボチャを探してるんですけど……」
色んな人に聞いてまわってみると、ようやくひとりの人がカボチャの場所を教えてくれた。
「ああ、カボチャの場所ならこの奥にカボチャだけを売ってるじいさんがいるよ。今はかなり高いと思うがね、行ってみな」
「ありがとうございます!」
わたしたちは、言われた通り奥にあるカボチャ売りのおじいさんの元に向かった。
そのおじさんは、木のワゴンにカボチャをたくさん積んでいた。
すごい……!
不作って言ってたけど、こんなにたくさん採れる人もいるんだ!
「良かった……陽太くん、あったよ」
「ああ」
良かったけど、後はどうやってもらうかだよね。
「もらえないか聞いてみるか」
「そんなこと出来るのかな……」
だって畑で採れなくて、欲しいのにみんなのお家にもないってことは売っていたとしても高いはずで……。ただでもらえるようなものじゃないよね。
すると後ろにいた陽太くんがいつの間にか消えていた。
「そのカボチャ……欲しいんだけど」
ちょっ、陽太くん!?
「子どもか……金はあんのかい?」
「ねぇ」
「冷やかしなら帰った帰った!」
「陽太くん!」
そうなるに決まってるよ……。
「こっちも商売をしてるもんでね、カボチャは特に値段が高騰してるんだ。うちの畑は条件がよくて採れたが、金のないやつにあげるなんて出来んよ」
そうだよね……。
わたしがうつむと、後ろから30代くらいの女性がやってきて言った。
「おっちゃん。カボチャ、3つちょうだい」
「へい、お待ち」
すごい、あの人3つもカボチャ買えるんだ……。
ぼーっと見ていると、その女性が言う。
「あんたたち、さっき見てたけどカボチャが欲しいのかい?」
「はい……」
わたしたちが返事をすると、その女の人は考え込みながら言う。
「なるほどね……」
そしてしばらく沈黙があった後、その人は言った。
「分かった。家の手伝いをしてくれるなら、カボチャをただで分けてあげるよ」
「いいんですか!?」
「ああ、今人手に困ってるからね。その代わり働いてもらうよ」
「ありがとうございます!」
わたしが深く頭を下げると、陽太くんも真似するようにペコっと頭を下げた。
すると3つのカボチャがおじいさんから渡される。
「あんたたち、悪いけどカボチャを一つずつ持ってくれ」
「はい!」
「ここから10分だ。歩いてわたしの家に向かうよ!」
「分かりました!」
わたしはウキウキした気持ちでその女性についていった。
「おい、いいのかよ。勝手についていって」
「だって、この人がカボチャを分けてくれるって言ってるんだよ?」
そのチャンスを逃すわけにはいかない。
陽太くんは呆れ顔をしながらも、わたしのカボチャをひょいっと持ち上げた。
「2個くらい持てる」
陽太くんは軽々カボチャをふたつ手に抱えた。
「ありがとう!」
陽太くん、すごい……力持ちだ。
わたしの手が空いた分、その女の人になにか持つものはないかと聞いて、小さな買い物袋を持たせてもらった。
「助かったよ、買い物に来ていた知人が知り合いと出会って遊びに行くって言うんだ」
「そうだったんですね。力になれて良かったです」
「わたしの名前はリサ。あんたたちは?」
「わたしは加奈です。この子はミミ」
肩に乗るミミがニャーと鳴く。
リサさんがいる前では普通のネコのフリをしていてしゃべらなかった。
「俺は陽太」
「キミ、力持ちでいいね!よろしくね」
リサさんは笑顔を見せた。
「でも、貴重なカボチャを本当にいただいていいんですか?」
「ああ。今はカボチャよりも人手が足りなくてね。手伝ってくれると助かるからさ」
なんの手伝いをするんだろう?
リサさんの話を聞きながら歩いていると、大きな家に到着した。
「どうぞ」
そう言われて、家の中に入ってみるとわたしは目を丸めた。
「わぁ……っ」
中からは美味しそうないい香りと、人が座れるようにたくさんの机とイスが用意されていた。
「リサさん、ここは?」
「うちはね、パン屋なんだ。カボチャはカボチャパンを作るために必要だったんだよ。常連さんがね、どうしても食べたいってさ」
パン屋さんをやってるなんてすごい……!
だから高くてもカボチャを買っていたんだ!
「さぁお客さんの相手をしてくれ。パンを運んでミルクを出して、片付けもお願いね」
「分かりました!」
わたしたちはリサさんに言われた白い服に着替えた。自分たちの服を包み隠して、コックさんみたいな帽子もかぶって完璧だ。
陽太くんも……意外と服が似合ってる。
「ふふっ」
「なんだよ、ジロジロ見るな」
「だって……」
きっと学校生活を普通に過ごしていたら、陽太くんのこんな姿見られないだろう。
「つーか、本当にカボチャもらえんのかよ」
「リサさんはいい人だからきっとくれるよ!お店のお手伝いしよっ!」
こうしてわたしと陽太くんは手分けをしてお店の手伝いをすることにした。
リサさんが家の前に看板を出すなり、お客さんがたくさん。
ひっきりなしにこの家に入ってくる。
「おやおや、はじめて見る顔だね」
「リサさんと偶然町で出会って……お手伝いすることになったんです」
「そうかい、そうかい、じゃあ木の実のパンをいただこうかね」
「はい、おひとつですね?」
わたしはおばあさんと会話をしていると、次にやってきたお客さんが陽太くんに話しかける。
「このチーズのパンは新作かい?」
「知らねぇ、けど確認する……」
陽太くんは接客は苦手そうだったけど、頑張っているみたい。
陽太くんが本領を発揮したのは、力の部分だ。力持ちで出来たてのパンを運ぶ役割や、パンを買ってくれた人にミルクを入れる作業をしてくれた。
「陽太くん、こんなに一気に持てるなんてすごいね」
「このくらいは楽勝だ」
陽太くんもなんだか楽しそう……。
一方ミミは看板ネコとして、外でお客さんの接客。
「あら、かわいいネコだね」
「ニャー」
お客さんに撫でられたり、ネコが寝ているパン屋さんとしてお客さんが集まっていた。
「ここのキイチゴのパンが大好きなんだよ」
「そうなんですね!」
確かに生地がふわふわで甘い香りがして美味しそう!
「ゆっくりしていって下さいね」
わたしたちはお店に並んだパンがキレイになくなるまで接客を続けた。
「お、終わった……」
最後のお客さんを見送り、ようやく家の扉をしめたリサさん。
「疲れたろ?あんたたちのお陰で大繁盛だよ!ありがとね、ふたりとも!」
リサさんはわたしと陽太くんの肩をポンっと叩いた。
「良かったです!」
とっても疲れたけど、すごく楽しかった!
「じゃあこれ、約束のカボチャだよ。使っておくれ」
「ありがとうございます!!」
「本当はずっといて欲しいくらい。いい働きっぷりだったよ。加奈は接客が上手だし、陽太はパンも一気に運べていい腕してるよ」
「ありがとうございます!」
「……そう、か。なら良かった、けど」
わたしたちは恥ずかしくなりながらも、お礼を告げた。
「でもあんたたちには、助けなきゃいけない人がいるんだもんね」
「そうなんです……」
「別れはさみしいけど、仕方ないな。じゃあ良かったらこれも持っていっておくれ」
「これは……?」
紙袋に包まれた四角のものを渡される。
「これはチーズだよ。うちはチーズも作ってるんだ」
「うわぁすごい……!」
リサさんってなんでも出来るんだなぁ。
「もちろんこっちもね!」
そう言って大量のパンを袋につめてくれた。
チーズも、パンに付けたら美味しそう。
カボチャ以外にもこんなにもらっちゃった。
「困ったことがあったら、またおいでね」
「ありがとうございます!」
わたしと陽太くんはお礼を言ってリサさんの家を出た。
「ミミ、行くよ」
外で日なたに当たっていたミミに声をかける。
「無事カボチャはゲットできたのかニャ?」
「出来たよ!」
「良かったニャ。ふたりともやるニャ!」
「へへん!」
リサさん、優しい人だったな……。
「それじゃあ急ぐニャ」
わたしたちは走って戻ることにした。
けっこう時間を使っちゃった。
シンデレラがわたしたちのいない間に諦めてしまったら……。
それに魔法使いのおばさんが帰ってしまったら終わりだ。
「急げー!」
わたしたちは急ぎ足でシンデレラのいる家に戻った。
「はぁ……はぁ」
すっかり日が暮れてしまった。
なんとかシンデレラの住む家に戻ってくると、シンデレラの声が聞こえてきた。
「やっぱりもう、無理なのかしら……」
シンデレラはまだ色んなところを探しているようだった。
こんな時間までシンデレラも諦めないで探していたんだ……。
「このカボチャどうすんだ?」
「わたしたちが渡すと、遠慮して受け取れないって言われちゃう可能性もあるから、そっと畑の上に置いておくのはどうかな?」
「そうだな」
陽太くんは持っていたカボチャを何もなっていない畑の上に置いた。
「あとは部屋の中にいるシンデレラに気づいてもらえるようにアクションを起こそう!」
わたしは近くにあった小さな石を拾うと、窓ガラスにあたるように軽く投げた。
コンっという音がしてシンデレラが中から出て来る。
「なんの音かしら」
部屋から出てきて辺りを見渡すシンデレラ。
「あら……!」
するとすぐ畑にあったカボチャが視界に入ったようだ。
「どうして……さっきずっと探しても見つからなかったのに……」
シンデレラは信じられないとでも言うように口を手のひらで覆った。
「ああ、きっと神様が用意してくれたんだわ」
シンデレラはうれしそうにカボチャを手に取る。
「よしっ!」
わたしと陽太くんは顔を合わせてハイタッチをした。
ふふっ、これで成功だ。
物語は上手く進むだろう。
そんなことを考えていた時、シンデレラがつぶやく。
「でも困ったわ……ネズミ捕りにもネズミがかかっていないなんて」
「えっ!!」
「どうしたんだ?」
陽太くんがたずねる。
「あのね、ネズミはネズミ捕りの中にいて実際の物語だとすぐに用意できるはずなの」
「じゃあなんでいねぇんだ……」
「分からない。陽太くん!ネズミも探さないといけないかも……!」
「またかよ」
「じゃないとシンデレラが舞踏会に行けなくなっちゃう」
わたしたちは今度はネズミを捕まえることにした。
「でもさ、陽太くん……ネズミってどうやって捕まえたらいいの?」
「部屋の中を探して見るとか、それこそまた街にいって探し回ったりすれば……」
するとミミが言う。
「そんな時間はないニャ。カボチャでかなり時間を使っているし、場所を移動せずこの辺りで探すしかニャ」
そう言われても……。
ネズミ捕りにもいなかったネズミがここに来てくれることってあるのかな。
うーんと考え込むわたし。
すると陽太くんがなにかをひらめいた。
「おい、それがあるじゃんか」
陽太くんはわたしが手に持っているチーズを指さした。
「あっ、リサさんのチーズ!」
そういえば、ネズミはチーズが好きだって聞いたことがある!
「それいいアイデア!さっそくこれでネズミをおびき出そう!ちょっともったいないけど……」
わたしたちはネズミ捕りの中にリサさんからもらったチーズをひとかけとって中へ入れた。
匂いがして、興味を持ったらネズミがやってくるだろう。
「まぁ、リサの作ったチーズだし……絶対来るはず!」
ネズミ捕りの前でパンパンと手を叩いて合わせる。
「どうかネズミが捕れますように」
「それ、なんか違うだろ」
「えっ、そうかな?」
「とりあえず俺たちがいるとビビって来ねぇだろ?離れて待つぞ」
「うん、そうだね!」
陽太くんにそう促され、わたしたちはネズミ捕りの籠から距離をとって待っていた。
少し待つたびに、身体が重たくなる。
なんだろう……。
今日はたくさん動いたからかな。
眠くなってきちゃった……。
思わずうとうとしそうになった時、なにか音が聞こえてきた。
──カサ、カサ。
なんの音?
すると、陽太くんが言う。
「おい、みてみろよ」
ネズミ捕りを見てみると、中でなにかが動いていた。
「もしかしてネズミ!?」
「匂いにつられて入ったのかもしれねぇな」
「さっそくシンデレラに知らせよう!」
わたしが声をあげた瞬間、シンデレラは家の中から出てきた。
「あっ、シンデレラ……」
「さっきからずっと探し回ってた。諦めず、よくやるなって思うぜ……」
だってシンデレラがはじめて自分で“わたしも舞踏会に行ってみたいわ”と告げたんだ。
彼女の心の中の願いなんだと思う。
なんとしてでも舞踏会に行ってもらいたい。
そしてシンデレラはもう一度、再確認のためにネズミ捕りの籠を開いた。
「あら……っ。さっきはいなかったのに。良かった、ネズミさんがいたわ……。美味しいチーズを食べたかったのね、でもどうしてこんなところにチーズが?」
シンデレラは優しくネズミを捕獲した。
「まぁそんなことを考えていても仕方ないわね。これで全部そろったのだから急がないと」
魔法使いが持ってきて欲しいと言っていた、3つのうちの一つ、とかげはシンデレラがわたしたちがいない間に見つけていたみたいだ。
「良かったね、陽太くん!これで全部そろったよ!」
「やっとかよ」
シンデレラはお話と同じように魔法使いがいるところへ向かった。
「ずいぶん遅かったのね」
「ごめんなさい。ようやく見つかったの」
そう言ってシンデレラはカボチャとねずみ、そしてとかげを魔法使いの前に差し出した。
今から舞踏会に行く準備が始まるんだ。
すごく楽しみだ……。
魔法使いはとかげ、カボチャ、そしてネズミに向かって魔法の杖をふって見せる。
すると、それらがたちまち光を放った。
さぁ、変身だ。
かぼちゃは金色の馬車に、ねずみは馬と御者に、そしてとかげはめしつかいへと変わった。
「すげぇ……本当に馬車になるのか」
陽太くんが思わず声をあげる。
「ねっ、ビックりするでしょう?魔法って本当にあるんだよ」
わたしは魔法使いから目が離せなくなっていた。
「さぁ次はお前の番だよ」
魔法使いがそう言うと、今度魔法使いはシンデレラに向かって魔法の杖をふった。
杖の触れたところから、シンデレラの着ていたボロボロの服は美しいドレスに変わる。
薄い水色で品があって、シンデレラにピッタリのドレスだった。
「キレイ……」
思わず声が出る。
そして今度は足に向かって杖をふった。
裸足だったシンデレラの足にはピカピカに輝くガラスのクツがあった。
「魔法ってすげぇな……」
「ね、本当にすごいよね」
陽太くん、魔法にちょっと興味持ってる?
だったら、魔法が出てくるお話を今度紹介してあげようかな。
そして魔法使いはシンデレラに向かって言った。
「さぁ舞踏会を楽しんでおいで。でも12時には帰ってくるんだよ。12時のかねが鳴ると魔法が解けてしまうからね」
「ええ、わたしそれまでに必ず帰ってくるわ」
そんなやり取りを交わすと、シンデレラは馬車に乗ってお城へ向かっていった。
「行っちゃったね、シンデレラ」
「ああ……つーかなんで12時なんだ?」
「魔法は特別だから日付が変わるまでってことだよ」
「ふぅん」
陽太くん、前から思ってたけど本当にシンデレラのお話のこと知らないんだな……。
12時のかねが鳴って、慌てて帰るシンデレラがガラスのクツを落としたことで、また王子様と出会うことが出来るんだよね。
本当にステキな再会だ……。
はじめて『シンデレラ』を読んだ時に感動したのを覚えてる。
「シンデレラがお城につくまで時間がかかるニャ。今日もまたあのテントでゆっくり過ごすニャ」
「そうだね……もうクタクタ」
わたしたちはテントに戻ることにした。
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