65 / 76
第57話 研究施設
しおりを挟む
「今って、アマンダさんの別荘に向かってるんですよね?」
「そうだよ。どうして?」
「ずいぶん歩くなと思って」
「疲れたかい?」
「そういうわけじゃないですけど……」
「私の別荘は、車じゃ立ち入れない場所にあるからね。どうせ歩くなら、みんなにこの街を見てもらおうかと思って」
「車じゃ立ち入れない場所?」
山奥にでも建っているのだろうか。
(でもこの辺りは平野っぽいし……それに車が立ち入れないほど険しい場所に、別荘なんて建てるかな)
嫌な予感がムクムクと湧き上がってくる。
「……まさか」
「察しがいいね」
アマンダさんがニヤリと笑う。
「私の別荘は、ダンジョンにあるんだ」
*
「すっご……」
ゲートを潜り、まず目に飛び込んできたのは、白衣姿の研究者たちだ。
少し進むと、実験機器の数々が。
ダンジョンは気候が安定しているから、剥き出しのままでも問題ないのだろう。
ダンジョンそのものが研究室のような有様だ。
ラストヘイブンの研究施設は有名で、写真や動画で観たことが何度もある。
でもこうして自分の目で見ると、衝撃はひとしおだ。
「……やりたい放題ですね。これで本当に、ダンジョンエラーが起きないんですか?」
「今のところはね。万が一に備えて冒険者が常駐しているし、避難訓練も徹底しているから」
「だからって、危険すぎませんか」
「それも研究の一環らしいよ」
「研究? もしかして、ダンジョンエラーが起きる条件の……」
「あまり無茶はしないようにって言い聞かせてるんだけど、誰も聞きやしない」
「マッドサイエンティストですね……」
自分たちの命で実験しているようなものだ。
でも考えてみたら、ダンジョン内で嬉々として研究に打ち込む人たちなのだ。
普通の感覚を持ち合わせてないくて当然かもしれない。
「お、ちょうどその元締めがやってきたよ」
アマンダさんが指差す先に、金髪の少女然とした女性がいる。
「誰がマッドサイエンティストの元締めだ」
キャスパー博士が吐き捨てるように言った。
心臓がキュッとなる。
怒鳴られて以来の対面だ。
「あの……この間は、本当に……」
キャスパー博士は面倒くさそうに、ヒラヒラと手を振った。
それからお兄さんの前にまで歩いていき、手を差し出した。
「キャスパーだ」
「ジローです」
二人は握手を交わす。
「……あの」
お兄さんが困ったような顔になる。
キャスパー博士が、お兄さんの手を離そうとしないのだ。
それどころか、ガシッと両手で掴んだかと思うと、その手が前腕、二の腕、上半身と、お兄さんの全身を弄り始める。
「ふむ。お前、ちょっと全裸になってみろ」
「ちょっと、何急に! お兄ちゃんに近づかないで!」
アンリが二人の間に割って入った。
「お前が噂の妹か。お前も脱げ、調べさせろ」
「何この人!?」
ギンがキャスパー博士の首根っこを掴んで引き離す。
「悪いな。こいつは変態なんだ」
「誰が変態だ」
「ちっこいクセに態度だけはでかい」
「ちっこいは関係ないだろ!」
「逆だよ、ギン。キャスは幼い見た目がコンプレックスだから、頑張って自分を大きく見せようとしてるんだ」
「はぁああん! 的確な紹介どうもぉ!」
日本語で騒いでいたからだろうか、周りにいた研究者たちがこちらに注目する。
みんな自分の研究に熱中していて、私たちの存在に気づいていなかったみたいだ。
英語で、
「あれってジローじゃね?」
「マジ?」
「草」
的なことを喋りながら、目をキラキラさせて群がってくる。
八つ当たりするように、キャスパー博士が暴れて追い払った。
「これから別荘に行くのか?」
「ああ、そのつもりだよ。キャスもくるかい」
「……まぁ、このメンツなら安全か」
「八階層なんてすぐだよ」
「お前らみたいなバケモンと一緒にすんな」
「別荘って、八階層にあるんですか?」
アマンダさんとキャスパー博士の話に、私は割り込んだ。
「綺麗な湖があってね。そのほとりに建てたんだ」
「まためちゃくちゃな……」
「深階層でソロキャンプすることに比べればマシだろう」
「比べる相手が間違ってます」
お兄さんと比べたら、誰だって正常だ。
私もキャスパー博士と同意見だった。
お兄さんのせいで感覚がバグっているけれど、八階層だって十分危険なのだ。
私は着いていかないほうが……とも思ったけれど、そこもまたキャスパー博士と同じ結論になる。
UDのボス、最年少のS級冒険者。
そして、鈴木兄弟。
このメンツで八階層は、ピクニックに等しい。
「そうだよ。どうして?」
「ずいぶん歩くなと思って」
「疲れたかい?」
「そういうわけじゃないですけど……」
「私の別荘は、車じゃ立ち入れない場所にあるからね。どうせ歩くなら、みんなにこの街を見てもらおうかと思って」
「車じゃ立ち入れない場所?」
山奥にでも建っているのだろうか。
(でもこの辺りは平野っぽいし……それに車が立ち入れないほど険しい場所に、別荘なんて建てるかな)
嫌な予感がムクムクと湧き上がってくる。
「……まさか」
「察しがいいね」
アマンダさんがニヤリと笑う。
「私の別荘は、ダンジョンにあるんだ」
*
「すっご……」
ゲートを潜り、まず目に飛び込んできたのは、白衣姿の研究者たちだ。
少し進むと、実験機器の数々が。
ダンジョンは気候が安定しているから、剥き出しのままでも問題ないのだろう。
ダンジョンそのものが研究室のような有様だ。
ラストヘイブンの研究施設は有名で、写真や動画で観たことが何度もある。
でもこうして自分の目で見ると、衝撃はひとしおだ。
「……やりたい放題ですね。これで本当に、ダンジョンエラーが起きないんですか?」
「今のところはね。万が一に備えて冒険者が常駐しているし、避難訓練も徹底しているから」
「だからって、危険すぎませんか」
「それも研究の一環らしいよ」
「研究? もしかして、ダンジョンエラーが起きる条件の……」
「あまり無茶はしないようにって言い聞かせてるんだけど、誰も聞きやしない」
「マッドサイエンティストですね……」
自分たちの命で実験しているようなものだ。
でも考えてみたら、ダンジョン内で嬉々として研究に打ち込む人たちなのだ。
普通の感覚を持ち合わせてないくて当然かもしれない。
「お、ちょうどその元締めがやってきたよ」
アマンダさんが指差す先に、金髪の少女然とした女性がいる。
「誰がマッドサイエンティストの元締めだ」
キャスパー博士が吐き捨てるように言った。
心臓がキュッとなる。
怒鳴られて以来の対面だ。
「あの……この間は、本当に……」
キャスパー博士は面倒くさそうに、ヒラヒラと手を振った。
それからお兄さんの前にまで歩いていき、手を差し出した。
「キャスパーだ」
「ジローです」
二人は握手を交わす。
「……あの」
お兄さんが困ったような顔になる。
キャスパー博士が、お兄さんの手を離そうとしないのだ。
それどころか、ガシッと両手で掴んだかと思うと、その手が前腕、二の腕、上半身と、お兄さんの全身を弄り始める。
「ふむ。お前、ちょっと全裸になってみろ」
「ちょっと、何急に! お兄ちゃんに近づかないで!」
アンリが二人の間に割って入った。
「お前が噂の妹か。お前も脱げ、調べさせろ」
「何この人!?」
ギンがキャスパー博士の首根っこを掴んで引き離す。
「悪いな。こいつは変態なんだ」
「誰が変態だ」
「ちっこいクセに態度だけはでかい」
「ちっこいは関係ないだろ!」
「逆だよ、ギン。キャスは幼い見た目がコンプレックスだから、頑張って自分を大きく見せようとしてるんだ」
「はぁああん! 的確な紹介どうもぉ!」
日本語で騒いでいたからだろうか、周りにいた研究者たちがこちらに注目する。
みんな自分の研究に熱中していて、私たちの存在に気づいていなかったみたいだ。
英語で、
「あれってジローじゃね?」
「マジ?」
「草」
的なことを喋りながら、目をキラキラさせて群がってくる。
八つ当たりするように、キャスパー博士が暴れて追い払った。
「これから別荘に行くのか?」
「ああ、そのつもりだよ。キャスもくるかい」
「……まぁ、このメンツなら安全か」
「八階層なんてすぐだよ」
「お前らみたいなバケモンと一緒にすんな」
「別荘って、八階層にあるんですか?」
アマンダさんとキャスパー博士の話に、私は割り込んだ。
「綺麗な湖があってね。そのほとりに建てたんだ」
「まためちゃくちゃな……」
「深階層でソロキャンプすることに比べればマシだろう」
「比べる相手が間違ってます」
お兄さんと比べたら、誰だって正常だ。
私もキャスパー博士と同意見だった。
お兄さんのせいで感覚がバグっているけれど、八階層だって十分危険なのだ。
私は着いていかないほうが……とも思ったけれど、そこもまたキャスパー博士と同じ結論になる。
UDのボス、最年少のS級冒険者。
そして、鈴木兄弟。
このメンツで八階層は、ピクニックに等しい。
166
お気に入りに追加
1,680
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる