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第44話 決着?

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「アンリ!」

 名前を呼ばれ、背後からガッと羽交締はがいじめにされた。
 肩越しに振り返ると、そこにいたのは……。

「……え? 春奈?」
「落ち着いて、アンリ。私は大丈夫だから」
「なんで? あの人に、酷いことされたんじゃ……」
「うん、めちゃくちゃ酷いことされた」

 春奈がゲンナリとした顔になる。

「一晩中、くすぐられ続けた」
「くすぐられ……?」
「というか、いくら薄暗いって言っても、怪我をしてないことくらいわかったでしょ?」
「……服の下の、目立たないとこだけなのかなって」
「いやいや、アンリじゃないんだから……」
「でも、色んな道具を使って攻め立てたって……」

 くつくつと笑う声に振り返ると、さっきまで戦っていた背の高い女性が、愉快そうに笑っていた。

「筆、羽、猫じゃらし、綿、指先、舌先、エトセトラ」

 指折りしながら、そんなことを言う。
 最後の方は道具じゃない気がするが……。

「ジローの関係者に、怪我をさせるわけないじゃないか」

 彼女はあっけらかんと言う。
 なにを今更……と思ったけれど、振り返ってみると、私との戦闘中も、防ぐだけで一度も攻撃してこなかった。

 私は春奈に顔を向ける。

「でもだったら、もっと早く止めてくれても……」
「ごめん、爆睡してた」
「すぐ近くで、こんなにド派手にやり合ってたのに!?」
「本当に一睡もさせてもらえなかったから……」
「なにそれ……」

 私は呆気に取られる。
 でもすぐに、ハッと我に返った。

「いや、待って。そんなの関係ないじゃない。だって拉致監禁したんだから。怪我をさせてないからって、許されることじゃないでしょ」

 私が憤慨すると、なぜかしらっとした空気が流れた。

「……ごめんなさい、アンリ」
「どうして春奈が謝るの? 春奈は被害者なのに……」

 あれ? と私は思う。
 なんだか昔に、似たようなやり取りをしたような……。

「被害者……」

 春奈が複雑な顔になる。
 答えたのは、背の高い外国の女性だった。

「その子はね、UDのサーバーをクラックしたんだ」
「クラック?」
「要は不正アクセスだね。それに気づいてすぐ、私は日本政府を脅して、捜査権逮捕権尋問権その他諸々、無理やり委譲いじょうさせたんだ。ジローの関係者だって知ってたら、そんなこと認めなかっただろうから、そこはうまいことね」
「え、じゃあ……」
「私たちがしたことは、拉致監禁というよりも、逮捕尋問って言った方が正しい。つまり——正義はこっちにあるんだよ」

 春奈がなにも言い返さず、俯いている。
 それで彼女の言っていることが、嘘ではないとわかった。

「でもだからって、一晩中くすぐるなんて……」
「まあ、そこはご愛嬌ということで」
「ご愛嬌で許されるわけないでしょ!」
「そう? むしろ許されないのは君の方じゃないかな」
「え?」

 彼女が部屋の中を——もうほとんど廃墟はいきょと呼ぶべき建物の残骸ざんがいを見まわした。

「ずいぶん派手に暴れてくれたね」
「いや、これは……」
「不法侵入、器物損壊、暴行傷害、そうえば刀も盗んでいたね……いや、そんなことよりも」

 彼女が歩み寄ってきて、私に顔を寄せる。

「このアマンダ・D・ホプキンスの暗殺未遂だ。可哀想に……」
「可哀想って……」
「君はもう一生、大好きなお兄さんにもお友達にも、鉄格子てつごうし越しじゃないと会えないかもしれないね」

 その言葉に、背筋が凍る。
 私の中でなにかが、ぽきりと音を立てて折れた。

「ご、ごめんなさい……」
「ごめんで済んだら警察はいらないねぇ!」

 悪魔のような哄笑こうしょう

「でもまあ、君はまだ子供だからね。さすがにそれは可哀想か」

 私の中で、希望が芽生える。

「じゃあ……」
「君は今いくつなんだい?」
「……一昨日、十八になったばかりだけど」
「ああ、じゃあもう大人じゃないか。惜しい。これが三日前なら、話が全然違ったんだが」

 彼女は本当に楽しそうだった。
 きっと私が誕生日を迎えたばかりなのも知っていて、わざわざ話を振ったのだろう。

 それをわかってなお、私は感情が揺さぶられてしまう。
 お兄ちゃんと春奈から引き離されるなんて……。

「本当にごめんなさい……なんでもしますから……」
「ほぅ、なんでもねぇ」

 彼女が私の背後に回る。
 そのまま後ろから抱きついてきた。

「え?」
「実はね」

 耳元で甘い声。

「私はバイセクシャルなんだ。君が一晩付き合ってくれるというなら……」

 彼女のしなやかな手が、服の下に忍び込んでくる。

「きゃああああ!」
「こら、暴れるな。パンツが脱がせにくいだろうが」
「ぎゃああああ! は、春奈っ! 助けて!」
「すー、すー……」
「二度寝してやがるっ!」

 私は死に物狂いで暴れ——

 親友を残して家に逃げ帰った。



 ———————

 ざまぁを期待されていた方、申し訳ありません!
 もう少しだけ、長い目で見ていただけると幸いです!
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