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第43話 二匹のバケモノ
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鉄筋コンクリートの壁が、豆腐のように砕け散る。
アンリの持つ短刀は、たった二振りしただけでバラバラに砕けてしまった。
Aランク冒険者の短刀だ。
上等なもののはずなのに、どんな膂力をしていたらそうなるのか。
それからは肉弾戦だった。
二人が交錯するたびに、爆発音と衝撃波が轟く。
(これが、生身の人間がぶつかる音かよ……)
くノ一隊とアンリの戦いを思い出す。
(あれでも、手加減していたなんて……)
本気になったアンリは、まさに鬼人だった。
でも……。
(やっぱり、ボスの方が何枚も上手だ)
アンリの猛攻をいなし、相手の勢いを利用してひょいと投げ飛ばす。
アンリは空中で体を回転させて、壁に着地。
そのまま壁を蹴り、ミサイルのようにボスに突っ込んでいく。
ボスは横から最小限の力だけを加えて、その軌道を逸らした。
アンリは棚に激突して、破壊を撒き散らす。
「その程度か、アンリエッタ」
「……」
アンリは何事もなかったように立ち上がると、また戦闘が繰り広げられる。
しばらくは、ずっとその構図が続いた。
アンリが突っ込み、ボスがそれを軽くあしらう。
でも攻防が二百を超えた辺りだった。
アンリが右のパンチを繰り出した。
そのパンチはボスの顔の十センチ前を通過する。
疲労で目測を誤ったのかと思ったけれど、そうじゃなかった。
空振った勢いで体を捻り、胴回し回転蹴りを放ったのだ。
ボスは腕でその蹴りを防いだ。
「ほぅ」
ボスが感嘆の声を出す。
真正面からアンリの攻撃を防いだのは、それが初めてだった。
きっとアンリはこれまで、同格や格上と戦ったことがなかったのだろう。
身体能力に頼った直線的な攻撃ばかりだったのが、ここに来て急速に戦い方を身につけていく。
アンリの攻撃が、ボスに届きそうになる場面が散見されるようになる。
(ダメだ……)
今はまだ、ボスに余裕がある。
アンリを軽くあしらうだけの力の差がある。
でも……。
このままじゃ、殺し合いになる。
確実に、どちらかが死ぬ。
(止めないと……)
そう思い、オレは一歩前に出た。
でもそれ以上は、踏み出せなかった。
(……止める? どうやって?)
争うバケモノが二匹。
その時だった。
「アンリ!」
割って入る人影。
アンリの持つ短刀は、たった二振りしただけでバラバラに砕けてしまった。
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くノ一隊とアンリの戦いを思い出す。
(あれでも、手加減していたなんて……)
本気になったアンリは、まさに鬼人だった。
でも……。
(やっぱり、ボスの方が何枚も上手だ)
アンリの猛攻をいなし、相手の勢いを利用してひょいと投げ飛ばす。
アンリは空中で体を回転させて、壁に着地。
そのまま壁を蹴り、ミサイルのようにボスに突っ込んでいく。
ボスは横から最小限の力だけを加えて、その軌道を逸らした。
アンリは棚に激突して、破壊を撒き散らす。
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「……」
アンリは何事もなかったように立ち上がると、また戦闘が繰り広げられる。
しばらくは、ずっとその構図が続いた。
アンリが突っ込み、ボスがそれを軽くあしらう。
でも攻防が二百を超えた辺りだった。
アンリが右のパンチを繰り出した。
そのパンチはボスの顔の十センチ前を通過する。
疲労で目測を誤ったのかと思ったけれど、そうじゃなかった。
空振った勢いで体を捻り、胴回し回転蹴りを放ったのだ。
ボスは腕でその蹴りを防いだ。
「ほぅ」
ボスが感嘆の声を出す。
真正面からアンリの攻撃を防いだのは、それが初めてだった。
きっとアンリはこれまで、同格や格上と戦ったことがなかったのだろう。
身体能力に頼った直線的な攻撃ばかりだったのが、ここに来て急速に戦い方を身につけていく。
アンリの攻撃が、ボスに届きそうになる場面が散見されるようになる。
(ダメだ……)
今はまだ、ボスに余裕がある。
アンリを軽くあしらうだけの力の差がある。
でも……。
このままじゃ、殺し合いになる。
確実に、どちらかが死ぬ。
(止めないと……)
そう思い、オレは一歩前に出た。
でもそれ以上は、踏み出せなかった。
(……止める? どうやって?)
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「アンリ!」
割って入る人影。
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