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第41話 親友との出会い その6
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本当に大変なのはそれからだった。
狂蛇一門のバックには〇〇連合が付いていて、〇〇連合のバックには××組が付いていて……。
みたいな感じで、どんどん大事になって行ったのだ。
しかも厄介なことに、先輩は小細工が嫌いだった。
いや嫌いというよりも、そもそも小細工って概念を理解していない節があった。
毒島姫路と揉めて停学になったのもそうだし、狂蛇一門に素直に着いて行ったのもそう。
全てが真っ向勝負。
生まれ持っての強者だ。
それでこそ先輩って感じもするけれど、そんな真っ向勝負ばかりしていたら、情状酌量の余地がいくつあっても足りない。
自然と私が、参謀のような役割を果たすようになる。
家族に迷惑がかからないように、家を出て二人で生活をし始める。
ホテルや民泊なんかを転々としながら、この辺の不良、半グレその他諸々、先輩がボコった。
そうしてようやく、私たちは平穏な生活を取り戻す。
「そういえば先輩って、下の名前なんて言うんですか?」
ずっと気になっていたけれど、騒々しい毎日に聞くタイミングがなかったのだ。
学年が違うから、自然と知る機会もなかった。
大変なことを二人で乗り越えて、そろそろ名前で呼び合ってもいいころじゃないかなー、なんて考えて軽い気持ちで訊いたんだけど……。
先輩が、般若のような顔になった。
私は恐れ慄いて、泣きそうになる。
「ご、ごめんなさい……馴れ馴れしかったですよね……」
「あ、違うの。そうじゃなくて……」
先輩は髪の毛を掻きむしりながら、うんうんと唸った。
(どうしたんだろう……)
やがて先輩は、諦めたように嘆息した。
「私ね、アンリエッタって言うの」
「……え? アンリエッタ?」
「両親がフランス旅行中に私を孕ったみたいで。本当、嫌になっちゃう」
「そうだったんですね……」
「あ、ちなみにお兄ちゃんはジローラモっていうの」
「えぇっ!?」
「やばいでしょ? でも、お父さんの方がすごい名前だから、なかなか文句も言えなくてさ。それが原因かはわかんないけど、お爺ちゃんとめちゃくちゃ仲が悪いみたいだし」
「絶縁してるってことですか?」
「いや、たまに連絡は取り合ってるみたいなんだけど、私は一度も会ったことなくて」
「なるほど……」
ジローラモやアンリエッタを超えるすごい名前には、ちょっと興味があった。
でもそんなことよりも、ショックがあまりにも大きい。
(先輩と、名前で呼び合う仲になりたかったな……)
私の落胆を察したのかは、わからない。
先輩は、
「だからさ」
と言う。
「私のことは、アンリって呼んで。春奈ちゃん」
胸がキュッと締め付けられる。
「はい! アンリ先輩!」
そんな生活を送りながら、私はダンジョン配信専用のプラットフォーム作りにも情熱を注いでいた。
映像内に映った魔物やアイテムを自動判別し画面上に情報を出すシステムや、擬似的なダンジョンマップを表示して、現在配信中の人が何人いるのか、どの階層にいるのかを一覧表示するシステムなんかを構築する。
今の私の技術では、その程度が関の山だった。
でもまだまだ実現したいアイデアが、湯水のように湧いてくる。
アンリ先輩が、私の固定観念をぶち壊してくれたおかげだ。
そしてリリースが現実的になってきた時。
私はふと思った。
(名前はどうしよう……?)
作るのが楽しすぎて、考えたことがなかった。
でも不思議なことに、考えるまでもなかった。
最初から決められていたみたいに、私の中にそれはあったからだ。
ダンジョンリンク。
ダンジョンの話題が、私とアンリ先輩を繋いでくれたように——
ダンジョンが世界を繋いでくれますように。
そんな願いを込めて。
*
体を揺すられ、私は目を覚ます。
「春奈! 春奈!」
「……アンリ、先輩?」
先輩の顔が、辛そうに歪む。
「ああ……」
私は思い出す。
ここはUDの拠点で、私は攫われて、そして——。
「助けに、来てくれたの?」
「当たり前でしょ。友達なんだから」
「……そっか。ありが——」
最後まで言えず、私の意識は、また闇の底に沈む。
———————
回想が長くなって申し訳ありません!
本当は二、三話くらいで短くまとめるつもりだったのですが、書いているうちに筆が乗ってしまって……。
自分でもテンポが悪いなと思いつつ、このエピソードだけはどうしてもここに挿入したくて。
『その1』の前書きにも書いたのですが、とりあえず最後まで書いてしまってから、全体の構成を見直そうと思います。
これからはテンポが良くなる予定なので、ご容赦ください。
狂蛇一門のバックには〇〇連合が付いていて、〇〇連合のバックには××組が付いていて……。
みたいな感じで、どんどん大事になって行ったのだ。
しかも厄介なことに、先輩は小細工が嫌いだった。
いや嫌いというよりも、そもそも小細工って概念を理解していない節があった。
毒島姫路と揉めて停学になったのもそうだし、狂蛇一門に素直に着いて行ったのもそう。
全てが真っ向勝負。
生まれ持っての強者だ。
それでこそ先輩って感じもするけれど、そんな真っ向勝負ばかりしていたら、情状酌量の余地がいくつあっても足りない。
自然と私が、参謀のような役割を果たすようになる。
家族に迷惑がかからないように、家を出て二人で生活をし始める。
ホテルや民泊なんかを転々としながら、この辺の不良、半グレその他諸々、先輩がボコった。
そうしてようやく、私たちは平穏な生活を取り戻す。
「そういえば先輩って、下の名前なんて言うんですか?」
ずっと気になっていたけれど、騒々しい毎日に聞くタイミングがなかったのだ。
学年が違うから、自然と知る機会もなかった。
大変なことを二人で乗り越えて、そろそろ名前で呼び合ってもいいころじゃないかなー、なんて考えて軽い気持ちで訊いたんだけど……。
先輩が、般若のような顔になった。
私は恐れ慄いて、泣きそうになる。
「ご、ごめんなさい……馴れ馴れしかったですよね……」
「あ、違うの。そうじゃなくて……」
先輩は髪の毛を掻きむしりながら、うんうんと唸った。
(どうしたんだろう……)
やがて先輩は、諦めたように嘆息した。
「私ね、アンリエッタって言うの」
「……え? アンリエッタ?」
「両親がフランス旅行中に私を孕ったみたいで。本当、嫌になっちゃう」
「そうだったんですね……」
「あ、ちなみにお兄ちゃんはジローラモっていうの」
「えぇっ!?」
「やばいでしょ? でも、お父さんの方がすごい名前だから、なかなか文句も言えなくてさ。それが原因かはわかんないけど、お爺ちゃんとめちゃくちゃ仲が悪いみたいだし」
「絶縁してるってことですか?」
「いや、たまに連絡は取り合ってるみたいなんだけど、私は一度も会ったことなくて」
「なるほど……」
ジローラモやアンリエッタを超えるすごい名前には、ちょっと興味があった。
でもそんなことよりも、ショックがあまりにも大きい。
(先輩と、名前で呼び合う仲になりたかったな……)
私の落胆を察したのかは、わからない。
先輩は、
「だからさ」
と言う。
「私のことは、アンリって呼んで。春奈ちゃん」
胸がキュッと締め付けられる。
「はい! アンリ先輩!」
そんな生活を送りながら、私はダンジョン配信専用のプラットフォーム作りにも情熱を注いでいた。
映像内に映った魔物やアイテムを自動判別し画面上に情報を出すシステムや、擬似的なダンジョンマップを表示して、現在配信中の人が何人いるのか、どの階層にいるのかを一覧表示するシステムなんかを構築する。
今の私の技術では、その程度が関の山だった。
でもまだまだ実現したいアイデアが、湯水のように湧いてくる。
アンリ先輩が、私の固定観念をぶち壊してくれたおかげだ。
そしてリリースが現実的になってきた時。
私はふと思った。
(名前はどうしよう……?)
作るのが楽しすぎて、考えたことがなかった。
でも不思議なことに、考えるまでもなかった。
最初から決められていたみたいに、私の中にそれはあったからだ。
ダンジョンリンク。
ダンジョンの話題が、私とアンリ先輩を繋いでくれたように——
ダンジョンが世界を繋いでくれますように。
そんな願いを込めて。
*
体を揺すられ、私は目を覚ます。
「春奈! 春奈!」
「……アンリ、先輩?」
先輩の顔が、辛そうに歪む。
「ああ……」
私は思い出す。
ここはUDの拠点で、私は攫われて、そして——。
「助けに、来てくれたの?」
「当たり前でしょ。友達なんだから」
「……そっか。ありが——」
最後まで言えず、私の意識は、また闇の底に沈む。
———————
回想が長くなって申し訳ありません!
本当は二、三話くらいで短くまとめるつもりだったのですが、書いているうちに筆が乗ってしまって……。
自分でもテンポが悪いなと思いつつ、このエピソードだけはどうしてもここに挿入したくて。
『その1』の前書きにも書いたのですが、とりあえず最後まで書いてしまってから、全体の構成を見直そうと思います。
これからはテンポが良くなる予定なので、ご容赦ください。
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