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第23話 警鐘
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とにかく情報が足りない。
今の段階で、どれだけ仮説を立てても、現実的な対処に繋がらない。
(相手が相手なんだ。こっちも、ちょっとくらいはリスクを冒さないと……)
海外のサーバーをいくつも経由し、何重にも保険をかけた上で、私はUDのサーバーをクラックする。
さすがに厳重だったけれど、問題なくアクセスすることができた。
可能な限り足跡を残さないように気をつけながら情報をさらっていく。
別にUDの機密情報が欲しいわけじゃないから、深く潜る必要はない。
どんな目的を持って来日したのか、お兄さんになにをするつもりなのか。
知りたいのはそれだけだ。
(やっぱり、UDには敵対勢力がたくさんいるみたい……)
アマンダの急な来日に、かなり殺気立っているようだ。
UD内で、厳戒態勢が敷かれている。
一応、敵対勢力の情報を頭に入れておいた。
もしもの時、味方になるかも知れない存在だ。
やはりUDは、お兄さんとの接触を目論んでいるようだ。
調べた限りでは、悪意や敵意は感じ取れなかった。
少なくとも、今すぐ襲おうとは考えていないみたいだ。
ひとまず、ほっと胸を撫で下ろす。
同時に集中がぷつんと途切れてしまう。
時計を見ると、すでに昼の一時を過ぎていた。
万が一にも私の犯行だとバレないように、細心の注意を払っていたから、時間がかかってしまったのだ。
(あぁ……糖分とカフェインが足りない……)
思えば朝に淹れたコーヒーも、ほとんど飲まずに窓際のテーブルに置きっぱなしだ。
(とりあえず、なにか食べよう……)
そう思ってダイニングに向かうと、テーブルの上にフレンチトーストが置かれていた。
そういえばアンリが、出かける前に私に声をかけてきていた気がする。
集中していたから生返事しかできなかったけれど、フレンチトーストがどうとか、言っていたような言っていなかったような……。
窓際に放置していたマグカップも、洗われて食器棚に戻されていた。
(ありがてぇ……ありがてぇ……)
早速、チンして食べる。
私が糖分不足になることを見越していたのか、砂糖マシマシで作られていた。
(美味しい……)
胃がふんわりと暖かくなるのに比例して、アンリへの愛しさが込み上げてくる。
馬鹿みたいに濃く淹れたコーヒーを、テキーラのショットのように喉に流し込みたくなった。
まあテキーラなんて飲んだことがないし、実際にそんなことしたら大火傷だろうけど。
でも後でコーヒーナップをするために、今は我慢しておく。
洗い物は後回しにして、糖分を脳みそに届けるために、軽くストレッチをする。
ウトウトとしてきて、そろそろコーヒーを飲もうと立ち上がった。
(短い昼寝を挟んで、もう少しだけUDの動向を探ってみよう……)
それから帰ってきたアンリに情報を共有する。
そう頭の中で算段を立てていた時だ。
——インターホンが鳴った。
モニターを見ると、昨日知り合ったばかりの少女が映し出されている。
「ギン?」
「春奈か」
「うん、どうしたの?」
「ちょっと用事があって。扉を開けてくれるか?」
「ああ、うん。ちょっと待って」
私は玄関に向かう。
疑問はいくつも浮かんでいた。
どうしてギンが、アポもなく訪ねてきたのか。
そもそもなぜ家の場所を知っているのか。
エントランスはオートロックなのに、なぜ玄関の前にまで……。
でも疲労と眠気に支配された頭では、それ以上考えられなかった。
なにより彼女への好感や親近感が、胸の内で微かに鳴る警鐘を覆い隠してしまう。
私は鍵を開けて、扉を押し開いた。
既視感。
昨日もこんな感じで、お兄さんを出迎えたのだ。
もしかしたらそれも、警戒心が薄れてしまった原因の一つかも知れない。
「どうしたの?」
「春奈……」
ギンは私の目を見ようとしなかった。
「悪いな」
私はわかっていたはずだ。
彼女の想いと、UDの目的は、全くの別物だと。
今の段階で、どれだけ仮説を立てても、現実的な対処に繋がらない。
(相手が相手なんだ。こっちも、ちょっとくらいはリスクを冒さないと……)
海外のサーバーをいくつも経由し、何重にも保険をかけた上で、私はUDのサーバーをクラックする。
さすがに厳重だったけれど、問題なくアクセスすることができた。
可能な限り足跡を残さないように気をつけながら情報をさらっていく。
別にUDの機密情報が欲しいわけじゃないから、深く潜る必要はない。
どんな目的を持って来日したのか、お兄さんになにをするつもりなのか。
知りたいのはそれだけだ。
(やっぱり、UDには敵対勢力がたくさんいるみたい……)
アマンダの急な来日に、かなり殺気立っているようだ。
UD内で、厳戒態勢が敷かれている。
一応、敵対勢力の情報を頭に入れておいた。
もしもの時、味方になるかも知れない存在だ。
やはりUDは、お兄さんとの接触を目論んでいるようだ。
調べた限りでは、悪意や敵意は感じ取れなかった。
少なくとも、今すぐ襲おうとは考えていないみたいだ。
ひとまず、ほっと胸を撫で下ろす。
同時に集中がぷつんと途切れてしまう。
時計を見ると、すでに昼の一時を過ぎていた。
万が一にも私の犯行だとバレないように、細心の注意を払っていたから、時間がかかってしまったのだ。
(あぁ……糖分とカフェインが足りない……)
思えば朝に淹れたコーヒーも、ほとんど飲まずに窓際のテーブルに置きっぱなしだ。
(とりあえず、なにか食べよう……)
そう思ってダイニングに向かうと、テーブルの上にフレンチトーストが置かれていた。
そういえばアンリが、出かける前に私に声をかけてきていた気がする。
集中していたから生返事しかできなかったけれど、フレンチトーストがどうとか、言っていたような言っていなかったような……。
窓際に放置していたマグカップも、洗われて食器棚に戻されていた。
(ありがてぇ……ありがてぇ……)
早速、チンして食べる。
私が糖分不足になることを見越していたのか、砂糖マシマシで作られていた。
(美味しい……)
胃がふんわりと暖かくなるのに比例して、アンリへの愛しさが込み上げてくる。
馬鹿みたいに濃く淹れたコーヒーを、テキーラのショットのように喉に流し込みたくなった。
まあテキーラなんて飲んだことがないし、実際にそんなことしたら大火傷だろうけど。
でも後でコーヒーナップをするために、今は我慢しておく。
洗い物は後回しにして、糖分を脳みそに届けるために、軽くストレッチをする。
ウトウトとしてきて、そろそろコーヒーを飲もうと立ち上がった。
(短い昼寝を挟んで、もう少しだけUDの動向を探ってみよう……)
それから帰ってきたアンリに情報を共有する。
そう頭の中で算段を立てていた時だ。
——インターホンが鳴った。
モニターを見ると、昨日知り合ったばかりの少女が映し出されている。
「ギン?」
「春奈か」
「うん、どうしたの?」
「ちょっと用事があって。扉を開けてくれるか?」
「ああ、うん。ちょっと待って」
私は玄関に向かう。
疑問はいくつも浮かんでいた。
どうしてギンが、アポもなく訪ねてきたのか。
そもそもなぜ家の場所を知っているのか。
エントランスはオートロックなのに、なぜ玄関の前にまで……。
でも疲労と眠気に支配された頭では、それ以上考えられなかった。
なにより彼女への好感や親近感が、胸の内で微かに鳴る警鐘を覆い隠してしまう。
私は鍵を開けて、扉を押し開いた。
既視感。
昨日もこんな感じで、お兄さんを出迎えたのだ。
もしかしたらそれも、警戒心が薄れてしまった原因の一つかも知れない。
「どうしたの?」
「春奈……」
ギンは私の目を見ようとしなかった。
「悪いな」
私はわかっていたはずだ。
彼女の想いと、UDの目的は、全くの別物だと。
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