上 下
11 / 76

第11話 質問箱

しおりを挟む
「朝ご飯にしよっか」
「あ、今日の当番は私だよね」
「いいよ、誕生日なんだから」

 立ちあがろうとするアンリを手で制す。

「ゆっくりしてて。簡単なのでいいよね?」
「うん、ありがとう」

 時計を見る。
 今日はアンリと一緒に、誕生日プレゼントを買いに行く予定なのだ。

(正直、お兄さんのテディベアを超えられるとは思えないけど……)

 三人分の朝食を作る。
 卵焼きとシャケの切り身と味噌汁。
 それからサラダとお漬物も。

(簡単なので、とか自分で言いつつ、ちゃんとしたものを作ってしまった)

 いただきますの挨拶をしてから、私たちは食べ始める。 

「あ、そうだ、アンリ。ひとつ相談があるんだけど」
「なに?」
「最近、お兄さんの配信がちょっと荒れててさ」
「そうなの?」
「うん。ほら、お兄さんって一方的に配信するだけで、コメント見ないでしょ? その一方通行な感じがいいって人もいるんだけどね。お兄さんが好き勝手やってるのを眺めてるのが面白いって。でも一部からは、やっぱり不満が上がっててさ」
「ふうん。それで、誰を?」
「誰をって?」
「だから、誰を消せばいいの?」
「いや、そんな物騒な話じゃなくて……」
「春奈ならパパッと個人情報特定できるでしょ。前みたいにさ」
「そりゃできるけど……」

 本当に、お兄さんが絡むと見境がない。

「そういうのは今回はなし。だからさ、質問箱みたいなの設置したらどうかなと思ってて」
「質問箱?」
「お兄さんには、他の配信者みたいに質疑応答配信とかできないでしょ? だから事前に質問を集めておくの。それにお兄さんに答えてもらえば、不満も減るんじゃないかなって」
「いいと思うけど……でも質問の管理とか大変そうじゃない? 多分世界中から殺到さっとうするだろうし」
「そこはAIを活用しようと思ってる。届いた質問を片っ端から読み込ませて、より多くの視聴者を満足させる質問をアウトプットさせたらいいんじゃないかって。そしたら言語も関係ないし、効率もいいかなって」
「AIってそんなこともできるんだ。画像生成しかできないと思ってた」
「いや、そんなことないよ……むしろこっちの方が本来の使い方だし」
「まあ、好きにすれば?」
「こいつ……」

 さっき叱られたばかりなのに、もう自分でネタにしやがった。
 アンリが悪戯いたずらっぽく笑う。
 こういうウィットを好むのが、本来のアンリなのだ。

「じゃあとりあえず、質問箱を設置するってことでいいのね?」

 私は無意識のうちに端末に手を伸ばしていた。
 アンリがそれを視線だけでとがめてくる。
 私はそっと端末を置いて、食事に戻った。

(本当、お兄さんが絡まないと、しっかりしてるんだよなぁ……)

 私とアンリの関係性は、基本的にアンリにイニシアティブがある。
 上下関係があるわけではないんだけど、お互いの性格や、やっぱり出会いが先輩後輩だったことが大きい。
 それがポンコツタイム中だけ逆転するのだ。

(ああ、ポンコツアンリが恋しい……)

 味噌汁をすすりながらしみじみと思う。
 もちろん普段のアンリも好きだけど、あのポンコツっぷりがあったからこそ、先輩後輩を超えて仲良くなれたのだ。

(そういう意味じゃ、全部お兄さんのおかげなんだよなぁ……)

 ご馳走様をすると、アンリが私の分の食器までシンクに運ぼうとする。

「あ、洗い物も私が」
「いいよ。それよりやっちゃいな」

 私がむずむずしてるのを察して、気を遣ってくれたみたいだ。

「ありがとう」

 お言葉に甘えて、端末を開いた。
 頭の中ではすでに完成している。
 そもそもそんなに複雑な仕組みでもない。

 質問箱の設置と、届いた質問をAIに自動で読み込ませるプログラムを作る。
 それらを解析してまとめて、最適な質問を出力するようにプロンプトを書く。
 それだけだ。
 アンリが洗い物を終えるまでには完成してしまう。

「相変わらず、すごいねー」

 アンリは毎回、素直に感心してくれる。
 出会った当初から変わらない。

「私にはこれくらいしか取り柄がないから」

 アンリがムッとしたような顔になった。

「そういうとこ、やっと治ったと思ったのに」
「あ、違うの。今のは……ごめん……」
「謝ることはないけどさ」

 昔のことを思い出してしまったせいだ。
 アンリのおかげで、少しだけ自分を好きになれた。
 自信も持てるようになったし、自分を卑下する癖も治ってきた。

「本当に、ありがとね」

 アンリは首を傾げて、

「どういたしまして?」

 と定型的に返す。
 こういう無自覚なところも、お兄さんそっくりだ。

「さ、出かける準備しよ」

 気恥ずかしさを誤魔化すために、私は話題を逸らして立ち上がった。

 ーーーーーーーーー

 ジローへの質問はこちらへ!
 配信中にジローが答えてくれるかも!?
 
 https://dungeonlink.comぜひ感想に/giro~~~
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...