長編「地球の子」

るりさん

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第二十一章 広い休日

結婚式での告白

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 ダンスが終わると、一斉にホールが空いて、そこから管楽器の重厚な音楽がかかって、花嫁と花婿が入ってきた。結婚式を兼ねたウエディング・パーティーで、この星のキリスト教に属していないナギとケンは、招待者全員の承認をもって結婚の誓いとした。
 式を取り仕切るのは、彼らがいた星の神父であったメティスだ。
「ナギ先生、綺麗だなあ。たまに見るお化粧もいいし。黒い直毛のロングヘアがドレスに映えて綺麗」
 友子がため息をつく。
 ナギのドレスは裾が開いて、いくつかのひだがあり、小さなビーズがドレス中に散りばめられていてキラキラと輝いていた。
 ケンは黒のタキシードで、少し派手だった。ナギが目立ちすぎるのでバランスをとった形だ。
 式の途中、花嫁と花婿に見入っている朝美やメルヴィン達の横で、友子は寂しそうにため息をついて、ふと目の前にいる瞳を見た。楽しんではいるがなんとなく辛いように見えて、声をかけようとした。
「ナギ・フジ、ケン・コバヤシ、ここへ」
 メティスが、二人に指輪を授けるために壇上に上がった。目の前には誓約書がある。そこにサインし、指輪を交換してキスをすれば式はおしまいだ。
 友子は、それを瞳に見せるのが嫌だった。しかし、声をかけようとした友子の手を、誰かが止めた。
 クチャナだ。
「瞳はいま、大きな壁を越えようとしている。これが終わったら、彼女にも新しい恋の扉が開かれるだろう。あなたは、ただ見ていればいい」
 そう言われ、友子は手を引いた。目の前では瞳が肩を震わせている。さらにその前では、誓約書にサインをし終えた二人が、会場の祝福を待っていた。
「新しい門出を迎えるふたりのために、祝福と承認のの拍手を!」
 メティスがそう言うと、会場中が拍手で満たされた。瞳も、大きな拍手を送っていた。
 その大勢の拍手の中、ナギはケンとキスをした。みんなの中からいくつかの声や口笛が上がる。その間休んでいた室内楽団が、拍手の終わりとともに、静かに音楽を奏で出す。
 そんな中、会場のバーカウンターでカクテルを受け取ったソラートが会話の相手を探してうろうろとしていると、誰かが背中を叩いた。
 メルヴィンだった。
「君は、メルヴィン君だったね?」
 問うと、メルヴィンは顔を真っ赤にして強く頷いた。
「あ、あの、その。ミシェル先生は人気だし、カリーヌさんはマルスさんと忙しそうだし、カリムさんはクローディアさん達と楽しそうだから、シングルのソラートさんに声をかけようかなって」
 ソラートは、メルヴィンのいいように、なんだか今まで一人でいたことが良かったと思えるようになってきた。
「君も言うね。噂には聞いたよ。君はこれから、ブーケトスの後に彼女にプロポーズするんだろう?」
 メルヴィンは、顔を赤らめたまま首をブンブンと縦に振った。
「だ、だからっ、その、ソラートさんに立ち会ってもらえたらって! 証人というか、そういう、その」
 メルヴィンがどもっていると、そこに一組のカップルがやってきた。辰徳となつだ。
 二人は幸せそうで、常に笑っていたが、真っ赤な顔をしているメルヴィンを見て、立ち止まった。
「あ、ソラートさん、先ほどはどうも」
 辰徳がそう言うものだから、メルヴィンは訳がわからず、赤い顔を元に戻してソラートを見た。
「あれ? 知り合いなの?」
 すると、ソラートが楽しそうに笑った。
「辰徳さんがダンスを知らないというので、簡単なステップを教えてあげたんだ。なつさんにも少し教えたんだが、そっちの方は苦手でね」
「そうだったんですか。あ、そういえばなんで僕は踊れるんだろ?」
 メルヴィンが自分の手を眺めて不思議がっていると、なつがくすくすと笑った。

「鍛冶屋のハンマーは、あなたにシリンと同等の力を与えているでしょ。環にアクセスできるんですもの。ダンスなんてお手のものよ、きっと」
 そう言っていると、メルヴィンの後ろの方で歓声が上がった。すでにブーケトスが行われていたのだ。ナギが思いっきり投げたブーケを取ったのは瞳だった。しかし、瞳は幸せそうな顔をして、そのブーケを朝美に手渡した。
「今、これが必要なのはあなた」
 そう言って、少し離れたところにいるメルヴィンを見た。
「しまった!」
 メルヴィンは焦ってソラートの方を見た。すると、大柄なアメリカの捜査官は、そっとメルヴィンの背を押した。
 メルヴィンは、その手の優しさに落ち着きを取り戻し、ゆっくりと朝美の元へ歩いて行った。
 メルヴィンが近づいていくと、朝美は真っ赤な顔をしてうろたえた。しかし、瞳がその背中を支えてくれたので、落ち着きを取り戻してメルヴィンを見た。後ろから二人のカップルと大天使がやってくる。
「立会人を紹介します。ソラートさんと、小松なつさん、小松辰徳さん」
 メルヴィンはそう言って、堂々と朝美の前に立ち、笑顔を見せた。そして、ソラートと小松夫妻がお辞儀をすると、朝美の前に片膝をついた。
「限りある互いの時間を、共にしてほしい。朝美、君の時間を僕に預けてくれ。結婚してほしい」
 朝美は、少しだけ頬を赤く染めて、満面の笑みを浮かべた。そして、片膝をついているメルヴィンを立ち上がらせると、勢いよく飛びついた。
「あなたの時間も、私のものだよ。一緒に生きよう。大好き、メルヴィン!」
 そう言って、そばにいた瞳に、ブーケを手渡した。
「これは本来、瞳さんのものだから」
 そう言って、目に滲んだ涙を拭いた。
 立会人の三人が手を叩くと、会場中から拍手が起こった。そこで改めて、メルヴィンと朝美は照れた。
 瞳は、ブーケを手にして、その香りをそっと楽しんだ。

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