長編「地球の子」

るりさん

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第二十一章 広い休日

変化していく生活

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 輝たちが英国に来て三年目の冬。
 輝たちは新しい学舎で、新しい生活を始めていた。そんな折、クリスマスから年末年始にかけての休暇に、パーティーをやろうという話になった。
 場所は、新しくできた南棟の屋敷と、今までの北棟の屋敷の間にあるちょっとしたダンスホールで、料理や飲み物などの手配は町子の祖父であるガルセスが行うという。
 パーティーは三日かけて行われる。その中には結婚式の披露宴も含まれていた。
「ナギ先生とケンさんかな」
 講義の教授待ちの間、予習した部分を確かめている輝の隣で、メルヴィンがボーッとしていた。
「メルヴィンにも、そういう日が来るさ」
「そうかな。僕、今日も朝美と喧嘩してさ。いつもより派手にやっちゃったから、これでも落ち込んでるんだよ」
 それを聞いて、輝は少し楽しくなった。予習した部分の確認が終わると、一息ついて背中を椅子に預ける。
「俺もさ、昨日少しやっちゃったんだ。町子の妹のことについてさ。俺が地雷を踏んだんだけど、そんな、何が地雷になるかなんてわからないだろ」
 メルヴィンは、うんうんと頷いた。
「それで、それをその通り言ったら、今度は、ちゃんと謝らない俺が悪いんだって」
「納得いかないよなあ、それは」
 メルヴィンは、嬉しいのか、ニコニコと笑って輝の話を聞いていた。
「なあ、輝」
 少し不機嫌になっている輝を見て、メルヴィンは少し真剣な顔をした。正面にある教壇に視線を移す。
「輝がこうやって人に愚痴を言うのも、町子と喧嘩をするのも、最近のことだろ。なんかさ、輝が身近になってきている気がするんだ。正直な話、僕は嬉しくてしょうがない」
 メルヴィンは、視線をそのままに、笑った。
「町子も、そう感じているんだよ。だから喧嘩も派手になるんじゃないかな」
 そう言うと、輝は少し納得いかないような顔をしながら、それでも笑った。
 そのうちに講義が始まったので、二人は真面目に講義を受けた。講義が終わると、すでに午前中の仕事を終えているドロシーに電話をした。
 輝とメルヴィンは、フットボールをやめて、講義が終わった後、ドロシーとの予定が合った時にナリアとメティスが代わる代わる働いている喫茶店でバイトをしていた。今日がその日で、クリスマスパーティーまで時間があるので、ナリアに色々教わりながらお茶を入れていた。
 喫茶店に着くと、早速店のコスチュームに着替える。クリスマスが近いのでそれなりの色のエプロンやシャツを着ることになっていた。
「明日は、台湾に行って、梨山と阿里山でのお茶の買い付けを教わるんだ。ナリアさんに連れていってもらうんだけど、久しぶりに天佑たちに会えるから楽しみでさ」
 そんな話をしているうちに、悠太もバックヤードに入ってきた。三人で色々な話をしながら着替えて店に出ると、もう数人の客が来て待っていた。
 明日台湾に買い付けに行くため、ナリアは休みで、今日の店番はメティスだった。輝たちが来るのを見ると、にこりと笑って迎えてくれた。
 バイトの内容は、輝がお茶を入れ、メティスやナリアが作ったお菓子を悠太とメルヴィンが運ぶ。今日はメティスのお菓子だったので、チーズケーキやショートブレッドなどが多かった。ナリアが当番の日は、もっとフルーツの乗ったものが多い。生地に果物を練り込んだフルーツ・ケーキやストロベリー・タルトなどだ。
 店が終わると、屋敷に帰ってから、メティスは輝たちのレポートをまとめて見てくれた。その後、夕食が終わると、ときどきだが、その日のお茶のことを話してくれる。
 その中で、こんな話があった。
「あの店も、急に作ったものだからすぐにガタが来る。私たちも、君たちが卒業したら譲ろうと思うのだが、そうなったら、君たちの好きなように作り替えていいからね」
 メティスもナリアも、いつまでもこの星にいるわけではない。十年もすれば自分の星に帰ってしまうだろう。寂しかったが、それでも喫茶店のベースを残していってくれるのだから、ありがたい。
 それから輝たちは、クリスマス・パーティーの前に、たくさんのお金を貯めるためのバイトをたくさんした。
 そして、クリスマスを含むニューイヤー・ホリデーに入ると、輝たちの周りは一気に色気だった。
 まずはクリスマス・イブの前の日。この日は土曜日だった。この日に行うパーティーは、ナギとケンの結婚式だった。次の日と、その次の日はクリスマス・イヴとクリスマスだったが、何かがあるのではないかとの噂だった。
 そして、パーティー当日。
 輝たちは、今までにない一日を過ごすことになった。
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