長編「地球の子」

るりさん

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第十八章 暁光

暁の主人

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 次の日は、アースが午前中に約束を入れてくれたので、すぐにメティス神父のいる教会に行くことができた。地球からの移民の多いこの暁の星は数多の宗教が混じり合っている。原住民の宗教だけでもいくつもある状態で、それを全て取りまとめる存在が必要だった。それが神父という役柄だった。
 神父メティスは長身の男性で、アースより少し背が高かった。ひどく美形で、非の打ちどころのない顔立ちだった。長いプラチナブロンドに紅の瞳を持ち、物腰も柔らかく、優しい印象を受けた。
「瞳の色、アースは地球の瑠璃色だろ。メティスの瞳の色もこの星の色なんだ」
 シリウスの言葉を聞いて、もしやアルビノでは、と疑っていた輝の中で合点が行った。メティスは暁色、アースの瞳の色は地球の色だったのだ。
 輝は、気持ちの良い気分でメティスに右手を差し出した。
「自己紹介が遅れてすみません。高橋輝です。地球人で、その」
 輝は、どこまで自分のことを言っていいのか分からなかった。そこで、アースの顔を見ると、大丈夫だという顔をしていたので、メティスの目をしっかり見て続けた。
「戻す者です」
 すると、メティスは輝の手を握り返した。
「暁の星のシリン、メティス・ランダーだ。君のことはアースからよく聞いている。頑張っているみたいだね」
 メティスがそう言って笑うので、輝は照れて赤くなった。こんなすごいイケメンから褒められると一気に緊張してしまう。
 すると、メティスは楽しそうに笑った。
「絶対印象コントロール、これにアースも私も、そしてナリアも苦しんでいてね。これは、どんな価値観のどんな生き物からも、同じ印象で見られてしまう、惑星のシリンの特殊能力なんだ。私は美しさ、ナリアは賢さ、そして、アースは強さだ。君も、アースに初めて会った時はなんて強そうな人なんだろうと思っただろう」
 輝は、そう言われてハッとした。確かにそうだ。アースに初めて会った時も、メティスやナリアに会ったときもそうだ。それぞれの印象に沿った感じ方をした。
「メティスさん」
 輝は、その印象コントロールのせいで誰がどのように苦しんできたか、想像してみて、震えた。アースのことはエルやけケンから聞いていた。しかし、他がまだだ。
 ここに来る前、シリウスは輝に、アースのことを守ってやってくれと言っていた。もしそれが、彼の持つ〝強さ〟から解放させることだとしたら?
「メティスさん、ナリアさんが地球に来た意味がわかりました。俺は今、あなたに、地球へ来てほしい」
 メティスは、驚きも動揺もしなかった。何もかも見通している、そんな態度だった。
「私は地球で、何をすればいいのかな?」
 すると、輝は力のある声で、こう言った。
「おじさんを、守ってほしい。俺と一緒に」
 アースが、びっくりとした表情をした。輝とメティスを交互に見ると、困ったような顔をしてシリウスを見た。
「お前もか」
 シリウスのおどけた表情を見て、アースが肩を落とした。
「地球は俺の一部なんだ。自分の身くらい自分で」
 そう言いかけたアースの言葉を、輝の手が遮った。
「おじさんは大人しく守られていればいいんです。そういう立場に立ったって、なんの問題もありませんよ。むしろ今は睡眠を十分にとってください」
 アースは、輝の言葉を聞いて、言葉を失った。そして、その場で頭を抱えた。
「そこまで管理されるのか」
 すると、メティスがアースの方を見て吹き出した。
「そうだね、君のことは我々で徹底的に管理させてもらおう」
 その後、輝はメティスからいろいろなことを聞いた。この星のこと、この星であったこと、シリウスやアース、エルとの関わり。
 そんなことを聞いていると時間はすぐに経っていった。最後に、メティスは二人の女性を輝に紹介した。一人はショートヘアの金髪の女性。とても活発そうで笑顔が素敵だった。もう一人は髪の長い金髪の女性で、大人しく気品に満ちていた。ショートヘアの女性はメアリー、ロングヘアの女性はケリーと言った。
「私の双子の妹たちだよ」
 メティスは自慢げにそう話して、輝と握手をさせた。メティスが地球に行っている間、マリンゴートのことを任せるのだという。
 メアリーとケリーは、兄が教会を離れると、すぐに執務にとりかかった。メティスは少ない荷物で教会を離れ、先に地球に行っているといい、森で別れて跳躍した。
 輝は、アースやシリウスと一緒に病院に入った。すると、アースは手術の準備があると言って輝たちと別れて行った。
 母の病室に入ると、母と一緒にモリモトがいた。母は幸せそうな笑顔を輝に見せた。
「モリモトさん、救護隊顧問なんですって。今回は私のことを心配してくれて、休みを取るって聞かなかったから、私は、遠くでも私のことを守っていてくださいって言ったの。そしたら、救護隊の隊員さん数人に頼んで、手術が終わるまでの間、病院の警護ができるように手配したって」
 母は、嬉しいのか、ニコニコと笑っていた。
「手術は重大な人生の選択肢だよ。モリモトさんもそれが良くわかる人なんだから、母さんについていて下さるんだ」
 輝は、ベッドの上にいる母の代わりに、モリモトとああだこうだ言いながらテレビをつける。
「母さんは、モリモトさんのことが好きなんだな」
 すると、モリモトがびっくりした顔をした。
「輝くん、そんなあけすけな」
 輝は、それを聞いておかしくなった。メティスに会ってからというもの、ずいぶん度胸がついた気がする。シリウスを見ると、照れた顔で窓の外を見ていた。
「母さんを、よろしくお願いしますね。父さんが死んで以来、初めて本気で好きになった人だと思うから。それに、もしかしたら将来、俺の父さんになるかも知れないんでしょ?」
 輝は、ふざけた話題を出したわけではなかった。真剣に物を言ったつもりだ。もし、それがきちんととられなかったら、それは輝の力不足なのだろう。
 しばらく、部屋の中が静かになった。明日手術をする母は、点滴を打っていて食事を摂っていない。そんな母は、寂しい笑いを浮かべながら窓の外を見ていた。
「輝は地球の戻す者だから、先生が一緒じゃないとこの星には来られない。母さんはこの星でモリモトさんと住むつもり。それでもいい?」
 母の言葉に、輝は頷いた。なんだか少し嬉しかった。
「俺はもう独り立ちできるし、彼女もいる。これからは母さんだけで歩んで行ける人生なんだから、母さんのしたいようにするのが一番だよ。俺もその方がいい。モリモトさんなら信頼できるからさ」
 それを聞いて、モリモトも母も、黙ったまま少し嬉しそうに微笑んだ。輝は物分かりがいい。だが、芳江はそれが少し気掛かりだった。輝は自分の気持ちを後回しにしてまで他人を立てようとする。今回もそれが出たとしたら、あまり良いことではないのではないか。
 そして、芳江はその気持ちを抱えたまま、次の日の手術に挑んだ。
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