長編「地球の子」

るりさん

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第十五章 大地に集う星

一番欲しかった薬

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 朝は、皆早く起きてきた。輝の母・芳江もきょうの料理勝負のことに興味を持っていて、ぜひ一口でもいいから食べてみたいと言っていた。屋敷中を巻き込む騒ぎになっていて、屋敷に住む全ての人間と、近隣に住むクチャナとセインの家族も関わる大きな騒ぎになっていた。
 ロビーには、真っ先に起きてきたマルスとカリムが、大きな四角いテーブルを持ち出してきてテーブルクロスを敷き、何人もの人間が座ることのできる椅子をしつらえていた。テーブルの上にはイースター・エッグと花籠が昨日のように飾られていた。他に、昨日朝美と友子と芳江の三人で作ったケーキとビスケットが置かれていて、紅茶を入れる準備が整っていた。
「輝、待っていたよ」
 輝が着替えをして行くと、マルスがロビーで待っていた。エントランスは花飾りで飾られていて、イースターのお祭りの雰囲気がよく出ていた。それに驚いていると、ナリアがたくさんの花束を持って外から中に入ってきた。
「これも飾りましょう。全てエマさんの許可は頂いていますから、安心してください」
 ナリアから花を受け取ったのは、先に起きていたアイリーンだった。クローディアはまだ眠っていた。ナリアは、ロビーに輝がいるのを見ると、輝の元へ行った。
「アースはまだ目を覚ましていないのですね」
 そう聞いてきたので、はい、と答えると、ナリアは自分の手と手を合わせてそれを膨らませ、右手を下にして輝の前に差し出した。その手を開くと、そこには少し大きめの香水びんがあった。
「これをあなたに。オークの木についた朝露を集めて作ったお薬です。どんな傷もたちどころに癒え、どんな疲れも奇跡のように無くなっていく。すべての毒を消し、全ての病気を治すでしょう。量が少ないので、気をつけてお使いなさい」
 輝は、ナリアから香水びんを受け取った。
 これだ。
 これが欲しかったのだ。戻す力はあっても、癒す力はない。輝に足りないものはこれだった。今すぐにでも使いたいくらいだ。喉から手が出るほど欲しかったものだ。
「焦らずに、じっくりと考えてお使いなさい。この薬はすぐに効くのですから」
 ナリアは、そう言ってにこりと笑った。輝は、ナリアに礼を言うと、家に帰って香水びんを自分の部屋にある、いつも使っているバッグの中に入れた。その時にはもう、アースは起きていて、とっくに支度を終えていた。
「おじさん、朝食はどうやら下でみんなで食べるみたいです」
 そう話しかけると、アースは了解だと短く輝に告げた。いつもより少し、表情が明るかった気がする。今日の料理勝負が楽しみなのだろうか。
 輝が行ってしまうと、アースは、輝が夜、寝ていたソファーに腰掛けた。そして、少しの間、そこに座っていると、立ち上がって、こう言った。
「あまり心配をかけてはいけないな。でも、ありがとう、輝」
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