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第八章 滑空する夢
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「地球の子」
八、滑空する夢
新潟県糸魚川市。
輝と町子の故郷だ。
故郷に着いて市内にある民宿に泊まると、興奮しているメルヴィンを横目に、輝は幼馴染の親友に連絡をとった。しかし、携帯をどれだけ鳴らしても出ない。おかしい。今日ここに来ることは手紙で知らせていたのに。
輝が不思議に思ってそのことを町子に相談しようと部屋に戻ると、町子もメルヴィンも何か様子がおかしかった。二人とも、虚ろな目をしていて、目の焦点は合っていない。体から力を抜いて、ぼーっとしている。隣の部屋に行くと、突然瞳が飛び出してきて、何かから輝を守るように両手を広げて立ち塞がった。
「彼らには、触れさせない!」
瞳は、そう言って毅然とした態度をとった。彼女の前に何がいるのかは分からなかったが、次第に輝の中に以前の記憶が蘇ってきた。
異空間にも似たおかしい感覚。自分が絶対的敗北を喫する空間。普通の人間はもとより、まともなシリンの人間であれば気絶するほどに感覚を狂わされる。
「ムーン・アークの環」
輝がそうつぶやくと、瞳の目の前に、一人の見知らぬ人間が現れた。輝は咄嗟に瞳の前に出て、その人物の腕を掴んだ。
「瞳さん、下がって!」
輝がそう叫んだ途端、景色が変わった。
禍々しい空気は澄んだ凛とした空気に、閉ざされた景色は、大樹を湛える泉を抱く、森につながる草原へ。澱んだ風は爽やかな風に、暗い空間は明るい空間へ。
輝が手を掴んだ人工シリンが、悲鳴をあげて倒れた。
「地球の環へと戻れ」
輝がそう言うと、倒れた人工シリンはむくりと起き上がり、今までのことが嘘であったかのように穏やかな瞳をして輝たちを見た。そして、びっくりする瞳をよそに、一つ、誰にともなく頷くと、薄くなって消えていってしまった。
「この空間、地球のシリンの意識の中」
瞳が、そう呟いて、あたりを見渡す。先ほどまで民宿の部屋の中だったのが、全く違う場所になっていた。彼女は一度だけ、ここに来たことがある。はるか昔、桜のシリンとして生を受ける時に、一度だけ。
その地球のシリンが、どうしてわざわざ意識世界を広げて輝や瞳たちを助けたのだろう。
地球のシリンの意識空間のなか、空には大きな地球が見えた。こちらの時間に合わせて陽がどんどん暮れていって、ついには夜になった。しかし、夜になってもその空間は美しく、どこか懐かしい感覚を抱かせる場所で、いつまでもここにいたいと思わせてくれた。
その空間で、輝は、一つのメッセージを受け取った。輝は、わかりました、と、一言だけ言って、目を閉じた。すると、そこにいた全ての人間のところから、地球のシリンの意識空間は消えていった。
「綺麗な場所だったなあ」
いつから目を冷ましていたのか、メルヴィンがため息をつきながら立ち上がった。輝は、瞳と一緒に二人のいる部屋に行き、今受け取ったメッセージを町子たちに告げた。
「ムーン・アークが不審な動きをしているみたいなんだ。それがどんな動きなのかは、おじさんも調査中らしいんだけど、すでに何人かのシリンが行方をくらませている」
「おじさんが守れないってことが、あるの?」
町子は不安そうにしている。今まで地球のシリンがミスをすることなど一度もなかった。それなのに、今、目の前で何かが起こり、それを抑え切ることができていない。
「ムーン・アークの環が、そこらじゅうにできているみたいなんだ」
輝は、そう言うと、ムーン・アークの環の説明をした。町子たちは真剣に聞いていたが、途中から疑問を持ち始めたのか、首を傾げだした。
「でもおかしいよ。ムーン・アークの環って、あくまで地球因果律の中にあるんでしょ? おじさんが制御できないはずはないよ」
町子はそう言って、はっと何かに気がついた。今考えたこと全てが本当ならば、恐ろしいことになる。手が震えてきた。
その手を、瞳が包み込んだ。
「町子さんが何かに気がついたみたいですね。ここは私とメルヴィンくんがどうにかしますから、地球のシリンの指示に従ってください」
輝は、強く頷いて、震える町子の手を取った。そして、ゆっくりと立ち上がらせると、荷物を瞳たちに託して軽装になり、民宿の外に出た。
外は雨が降っていて、湿った空気が体にまとわりついてきた。町子はまだ震えている。少し歩くと、歩道に赤い車が横付けされた。車はドアを開け、そこから白い手が出てきて輝たちを誘った。どこかで見たことのある車、フォーラだった。
何も言わなくなってしまった町子と輝を乗せ、フォーラは急いで車を走らせた。
「地球のシリンがゲートを開いたわ。少し走ればそこを抜けて英国に出る。瞳さんとメルヴィン君には結界が張られているから大丈夫。事情はあなたたちの英国の家で話すわ」
フォーラは早口でそう話してから、歯を食いしばって車を限界の速度にまで加速させた。角を曲がるたびに横転しかけたが、なんとか持ち直してはスピードを上げる。後ろから何かが追ってきているのだろうか。赤信号さえも無視して走っていたが、不思議と歩行者や他の車はいない。
ムーン・アークの環の中の空間。
今、フォーラや輝たちがいるのはそこなのだろう。地球のシリンの空間で裂くことはできないのだろうか。
そう思った瞬間、輝たちの目の前の雨は止んだ。
突然、青空の元に出て、今まで車をたたいていた雨粒はポタポタと乾いた地面をたたいて滲みを作っていった。フォーラは車を停止させて、周りを確かめた。目の前には、輝たちが学校から帰る途中にあるコンビニがあり、利用客が突然現れた車にびっくりしていた。
「英国」
フォーラは、つぶやいてハッとし、後ろを見た。すると、無数の手が現れ、この車を捕まえようとこちらに伸びてきた。そこにいた人間の全てが悲鳴を上げて逃げた。フォーラが、止まっていた車を動かすためにエンジンをかけようとするが、かからない。
「やられた! あいつらの目的はこっちだったの?」
ここで輝たちを外に出すのは危なかった。しかし、動かない車の中にいても危険だ。どうしようかと迷っていると、突然、無数の手が動きを止め、空間に開いた裂け目の中に帰っていった。
まるで急いで帰るかのように消えていった無数の手が跡形もなくなるまで、時間はかからなかった。目の前には、クチャナとセインがいた。
「アースからの依頼でこちらにきました。読みが当たっていたようでなによりです」
セインがそう言い、右腕を胸の前に出した。そこに、大きな鷲が止まる。
「世界中のシリンたちに、地球のシリンによるフィルターがかけられました。ムーン・アークに、普通の人間とシリンを見分ける力は無くなりました。あなた方の安全を確保するためにも、屋敷へ急いでください」
クチャナがそう言い、左手を胸の前に出した。そこに大きな鷹が止まる。先ほどの手を追い払ったのはこの二匹の猛禽類に込められた巫女と長老の力だったのだろう。
フォーラは輝と町子を連れて、車を捨て、屋敷に向かうことにした。
輝も町子も、今の出来事でかなり疲れていた。ここで重苦しい事情を説明されても、うまく聞けるかどうか分からない。メルヴィンも瞳も糸魚川に置いてきたままだ。
三人とも、屋敷に着くまでは無言だった。彼らの後ろでセインとクチャナが何かを話していたが、何を話し合っているのかは分からなかった。
屋敷に着くと、そこに住んでいる人間のほぼ全員が、ロビーに集まっていた。そこには瞳とメルヴィンもいて、地球のシリンが手を回してくれたことがよく分かった。輝たちが安心していると、マルスがコーヒーを淹れてキッチンから出てきた。
「全く、この人数分のコーヒーを淹れるのは骨だな」
そう言いながらも、少し楽しそうにしている。彼は輝と町子、そしてフォーラをロビーに招き入れて、増やしてあった椅子に座るように促した。
「アースはまだここには来られないんだ。事情は僕とシリウスが説明する。怖い思いをさせてしまってすまない」
そう言って、ここに集まった人間全てを見渡した。マルスの隣にはシリウスが来て、椅子に座った。
シリウスが説明を始める。
「ムーン・アークは、クエナから盗んだ情報を使って人工シリンを作っている。自身に起こるすべての事柄を有利にする、独自の環を展開する人工シリンが量産されることによって、地球因果律の一部が狂いだし、地球のシリンはその修正に追われた。その隙をついて今回のような事件を起こし、彼らはすべてのシリンの情報を盗み取る作戦を始めた。しかし、その人工シリンを元の人間に戻すことができる人間がいた」
輝は、それを聞いて背中に寒気が走るのを感じた。
「俺か、命を狙われているのは」
輝が声を震わせると、マルスが歩いてきて輝の肩を叩いた。
「輝、君の身は地球のシリンが守るだろう。彼のことは信じてもいい。今、彼が動けないのは有名大学病院での心臓移植手術中だからだ。アースが動き出すことができれば、全てが解決する。だが今は、僕たちがなんとかするしかない」
「おじさんの手術が終わるのは、いつになるんですか?」
町子が不安げに聞いてきたので、シリウスが答えた。
「始まって、六時間は経ったかな」
その場にいる全員の顔から、血の気が引いた。
あんな気持ちの悪いムーン・アークの化け物から、どうやって輝を守ればいいのだろう。輝自身も下を向いて膝に置いた拳を震わせている。
「自分に力がないって、こんなに怖かったっけ」
輝は、そう言いながら、力無く笑った。もう、笑うしかなかった。先ほどフォーラたちを襲ってきたあの手。あれに掴まれたらどうなっていただろう。
そこにいた皆が絶望に打ちひしがれそうになっていたその時、突然、目の前が明るくなって、また、地球のシリンの意識世界が展開された。今度は先ほどより遠くの草原まで見渡せる広い空間で、空に浮かぶ地球も、随分と遠くに見えた。
「これだけの意識空間が展開されているとなると、この屋敷の周辺も囲まれてしまったか」
マルスがそう言って、唇を噛んだ。
メルヴィンは先ほどから落ち着いていたが、地球のシリンの意識空間に入り込んだその時、意を決して、輝の方へ移動した。
「僕が輝を護るよ。何の力もない僕だけど、一回くらいは、君を守る盾くらいにはなれるから」
輝は、それを聞いて、首を横に振った。
「そうじゃない」
輝は、メルヴィンの手を、ぎゅっと握った。
その時だった。
そこにいた全員の前に、一人の少女が現れた。
彼女の体は透けていて、幽霊のように儚かったが、しっかりとした笑顔をこちらにむけてきた。不思議と恐怖は感じない。おそらく、ムーン・アークとは関わりのない少女なのだろう。でなければ、こんな状態で地球のシリンの意識空間の中に入って来られるはずはない。
少女は、何もいわず、みんなに笑顔を向けたまま一礼して、ゆっくりと消えていった。
「手術は、成功したのかな」
ふと、町子がつぶやいた。何となく、この場の皆もそれを思っていた。先ほどの幻影は心臓移植手術の心臓を提供した女の子なのか、それとも、心臓が合わなくて死んでしまった移植先の女の子なのか。
みんなが黙ってしまうと、ふと、少女がいた場所の空間が揺らぎ、誰かの影がそこに現れた。そして、その影をもとにゆっくりと、誰かの姿が形作られて行った。
そして、それが完成した姿を見て、輝やメルヴィンたちはあっと声を上げた。
「ミシェル先生!」
名を呼ばれたのは確かにミシェル・スミス先生だった。彼女はいつもの厳しい目つきとは違う、優しい目をしていた。そして、一度、目を閉じて手を胸に当てた。
「少女は環への帰還を果たしました。新しい持ち主へと移植された心臓は、もうすでに新しい体の元で生まれ変わりました」
ミシェル先生は、そう言って、はるかかなたに見える地球を眺めた。皆が、それに釣られて空に浮かぶ地球を見る。
美しかった。青空に溶けてしまいそうな地球の輪郭が少し儚げに見えたが、それでも環のある場所から見る地球には何か特別なものがある。
「ミシェル先生、地球のシリンは」
輝は、ミシェル先生のことを知っているのだろう。おそらく、環の中に入って来られて、さらにその中で平気でいられるのなら、相当長い間生きているシリンなのだ。
輝の問いに、ミシェル先生は頷いた。
「私たちをきちんと守ってくれています。ただ少しのミスも、ご自分で取り返すことができる技量をお持ちですから、安心なさい。それよりも、私たちにはやらなければならないことがあるはずです」
ミシェル先生は、そう言って、右手を上げた。それを見て、キッチンの近くにいたカリムが、椅子を倒して立ち上がった。
「ミカエル、その力を使うのに、地球のシリンの許可は得たのか?」
ミシェル先生は、強く頷いた。掲げた右手から光が迸ると、輝のほうを見た。
「高橋輝、手をお出しなさい」
輝は、少し躊躇いながら、立ち上がってミシェル先生の方へ右手を差し出した。すると、輝の頭の中に、いろいろな情報が流れ込んできた。あまりの情報の多さに眩暈がして、ふらついてしまったが、町子とメルヴィンが支えてくれた。
「地球のシリンが導き出した、これから起こりうる事象の断片です。起こるかもしれない、もしかしたら、起こらないかもしれない。そのうちのいくつかは、結果が変わっていくかもしれない。それをすべて統括するのが地球のシリン。生半可な覚悟で監視しているのではありません。そこへ、今回のような不確定要素が頻繁に起これば、地球のシリンであれ多少のミスは犯します。輝、あなたは、この激流の中に踏み込んで、環の中に囚われて情報を書き換えられている何人かのシリンたちにその情報を戻していかなければならない。見るものが不安定である以上は、彼女が目覚めるまであなた一人でそれを背負わなければなりません」
ミシェル先生の言っていることは、恐ろしく難しいことだった。町子は唇を噛んだ。自分は何もできないのだろうか。どんなに頑張っても、努力しても、目覚めていない以上輝の力にはなれないのだろうか。
町子のその考えを悟ったのか、ミシェル先生は、町子に右手を差し伸べた。それに釣られて、町子も右手を差し出した。
「森高町子、あなたには見るものとしての役割以上に、大切な役割が与えられました」
ミシェル先生は、そう言って、町子が差し出している右手をぎゅっと握った。そして、すぐにそれを離すと、優しく微笑みかけた。
「町子さん、自分の手をご覧なさい」
町子は、言われるがままに自分の手を見た。すると自分の右手の中指に、指輪がはまっているのが見えた。
「これは、何ですか、ミシェル先生?」
町子は不思議そうに自分の指を見た。何だか、自分の体が軽くなった気がする。先生が何かをしたのだろうか、それとも、指輪が何かをしたのだろうか。
ミシェル先生は、町子の手にはまった指輪を撫でた。すると、指輪のトップに青い宝石が現れた。
「ソロモンの指輪。すべての悪霊を拘束できます。悪霊がいない状態では青いですが、一体でも悪霊を拘束すれば赤くなります。どこかで人工シリンに出会ったらこれをかざすと良いでしょう。あなたがそれを拘束し、輝が地球の環に戻せばよい」
それを聞いて、町子は急に顔を明るくした。これで輝と一緒に戦える。輝を守っていける。少しでも力になれるのだ。
「ありがとうございます、ミシェル先生!」
町子が喜んでいると、次に、ミシェル先生は、メルヴィンに手を伸ばした。
「メルヴィン・スミス、こちらへ」
メルヴィンは、名前を呼ばれて、ガチガチに緊張してミシェル先生のところへ行った。すると、ミシェル先生はメルヴィンの両手のひらを自分に向けさせた。
「メルヴィン、あなたにはここに集うすべての人間を支える才能があります。あまねくすべての神話伝承に通じ、一本の楊枝から伝説の槌に至るまで全てを作り上げる鍛治の炎を授けるようにと、地球のシリンから仰せつかっています」
すると、メルヴィンの両手の上に、炎が現れて燃え始めた。メルヴィンはびっくりして、手を引っ込めようとしたが、ミシェル先生がその手を留めた。
「熱くはありません。少しじっとしていなさい」
ミシェル先生は、そう言って目を閉じた。すると、その場を温かい光が包み込み、皆は眩しさに目を閉じた。そして、皆が目を開けると、そこには神々しく光り輝く天使がいた。
「地球のシリンの力を代行するのなら、シリンとしての能力は晒さなければならない」
カリムが、誰にともなくつぶやいた。そして、それをカリーヌが補う。
「大天使ミカエル、すべての天使の長。地球のシリンの力を代行するにふさわしい姿ね」
ミカエルとなったミシェル先生は、その二人を少しだけ見て、メルヴィンに向き直った。
「メルヴィン、あなたのその両手は、長老と巫女が生み出す伝説の武器を作り上げることができます。クチャナとセインの求めに応じ、それをふさわしい人間に与えなさい。生活に必要なものから伝説の武器に至るまで、あなたは作り上げることができるでしょう。この槌をお持ちなさい」
ミシェル先生がそう言うのと同時に、メルヴィンの掌の上の炎は、鍛治が使うハンマーに変わった。
「ミシェル先生、いえ、ミカエル様、これは何ですか?」
ミカエルは、メルヴィンに微笑みかけた。あまりの神々しさに、そこにいたすべての人間が背筋を正した。
「ヴェルンドの槌、あなたがこれから生涯使っていく鍛治の良い相棒になってくれるでしょう。これを使い、修練に励むとよい」
メルヴィンは、ヴェルンドの槌を受け取り、涙を流した。彼は敬虔なキリスト教徒で、英国人ゆえにミカエルに対する信仰にもあつい。鍛治としての能力の伝達よりも、ミカエルに会えたことに感激していた。
そして、ミカエルは最後に輝を見た。
「輝、あなたにはまだ、地球のシリンからのギフトがあります」
そう言って、メルヴィンの元から離れたミカエルは、輝の方に向き直った。そして、両手を輝との間に翳した。
すると、そこに一振りの日本刀が現れた。
「地球のシリンによって創り出されるいくつかの伝承。陰陽五行に基づき、光と闇、木、火、土、金、水を拠り所として作られます。あなたのものは水。妖刀ムラサメ。これは南総里見八犬伝を発祥とします。しかし、水を操るその能力の他に、地球のシリンは伝承を必要としませんでした。この刀は妖を斬り、物質を切断することがありません。しかし、使用者の意図に応じて、その鋭い刀身が物質を切断することもあるでしょう。手入れはメルヴィンとともに行うようにとのこと。心してお使いなさい」
そう言って、ミカエルは目を閉じた。
すると、また眩く優しい光が辺りを包み込んだ。眩しさに目を閉じた皆が目を開けると、そこにはミシェル先生がいて、地球のシリンの意識空間は消えていた。
「もはや、意識空間は必要ありません」
ミシェル先生は、そう言って微笑み、屋敷のドアを開けた。そして、そこから出ると、中に入ってきた誰かと手を合わせた。ミシェル先生はそのまま屋敷を後にした。
そして、中に入ってきた誰かは、そこにいる皆を見渡した。
病院で手術を終えて、関係者にいろいろ説明したすぐ後なのだろう。白衣さえ着ていない。急いで来てくれたのだ。輝は、胸を撫で下ろした。メルヴィンが、目を丸くする。
「あ、あなたが、地球のシリン、アース・フェマルコートさんなんですか。なんか、かっこいい」
八、滑空する夢
新潟県糸魚川市。
輝と町子の故郷だ。
故郷に着いて市内にある民宿に泊まると、興奮しているメルヴィンを横目に、輝は幼馴染の親友に連絡をとった。しかし、携帯をどれだけ鳴らしても出ない。おかしい。今日ここに来ることは手紙で知らせていたのに。
輝が不思議に思ってそのことを町子に相談しようと部屋に戻ると、町子もメルヴィンも何か様子がおかしかった。二人とも、虚ろな目をしていて、目の焦点は合っていない。体から力を抜いて、ぼーっとしている。隣の部屋に行くと、突然瞳が飛び出してきて、何かから輝を守るように両手を広げて立ち塞がった。
「彼らには、触れさせない!」
瞳は、そう言って毅然とした態度をとった。彼女の前に何がいるのかは分からなかったが、次第に輝の中に以前の記憶が蘇ってきた。
異空間にも似たおかしい感覚。自分が絶対的敗北を喫する空間。普通の人間はもとより、まともなシリンの人間であれば気絶するほどに感覚を狂わされる。
「ムーン・アークの環」
輝がそうつぶやくと、瞳の目の前に、一人の見知らぬ人間が現れた。輝は咄嗟に瞳の前に出て、その人物の腕を掴んだ。
「瞳さん、下がって!」
輝がそう叫んだ途端、景色が変わった。
禍々しい空気は澄んだ凛とした空気に、閉ざされた景色は、大樹を湛える泉を抱く、森につながる草原へ。澱んだ風は爽やかな風に、暗い空間は明るい空間へ。
輝が手を掴んだ人工シリンが、悲鳴をあげて倒れた。
「地球の環へと戻れ」
輝がそう言うと、倒れた人工シリンはむくりと起き上がり、今までのことが嘘であったかのように穏やかな瞳をして輝たちを見た。そして、びっくりする瞳をよそに、一つ、誰にともなく頷くと、薄くなって消えていってしまった。
「この空間、地球のシリンの意識の中」
瞳が、そう呟いて、あたりを見渡す。先ほどまで民宿の部屋の中だったのが、全く違う場所になっていた。彼女は一度だけ、ここに来たことがある。はるか昔、桜のシリンとして生を受ける時に、一度だけ。
その地球のシリンが、どうしてわざわざ意識世界を広げて輝や瞳たちを助けたのだろう。
地球のシリンの意識空間のなか、空には大きな地球が見えた。こちらの時間に合わせて陽がどんどん暮れていって、ついには夜になった。しかし、夜になってもその空間は美しく、どこか懐かしい感覚を抱かせる場所で、いつまでもここにいたいと思わせてくれた。
その空間で、輝は、一つのメッセージを受け取った。輝は、わかりました、と、一言だけ言って、目を閉じた。すると、そこにいた全ての人間のところから、地球のシリンの意識空間は消えていった。
「綺麗な場所だったなあ」
いつから目を冷ましていたのか、メルヴィンがため息をつきながら立ち上がった。輝は、瞳と一緒に二人のいる部屋に行き、今受け取ったメッセージを町子たちに告げた。
「ムーン・アークが不審な動きをしているみたいなんだ。それがどんな動きなのかは、おじさんも調査中らしいんだけど、すでに何人かのシリンが行方をくらませている」
「おじさんが守れないってことが、あるの?」
町子は不安そうにしている。今まで地球のシリンがミスをすることなど一度もなかった。それなのに、今、目の前で何かが起こり、それを抑え切ることができていない。
「ムーン・アークの環が、そこらじゅうにできているみたいなんだ」
輝は、そう言うと、ムーン・アークの環の説明をした。町子たちは真剣に聞いていたが、途中から疑問を持ち始めたのか、首を傾げだした。
「でもおかしいよ。ムーン・アークの環って、あくまで地球因果律の中にあるんでしょ? おじさんが制御できないはずはないよ」
町子はそう言って、はっと何かに気がついた。今考えたこと全てが本当ならば、恐ろしいことになる。手が震えてきた。
その手を、瞳が包み込んだ。
「町子さんが何かに気がついたみたいですね。ここは私とメルヴィンくんがどうにかしますから、地球のシリンの指示に従ってください」
輝は、強く頷いて、震える町子の手を取った。そして、ゆっくりと立ち上がらせると、荷物を瞳たちに託して軽装になり、民宿の外に出た。
外は雨が降っていて、湿った空気が体にまとわりついてきた。町子はまだ震えている。少し歩くと、歩道に赤い車が横付けされた。車はドアを開け、そこから白い手が出てきて輝たちを誘った。どこかで見たことのある車、フォーラだった。
何も言わなくなってしまった町子と輝を乗せ、フォーラは急いで車を走らせた。
「地球のシリンがゲートを開いたわ。少し走ればそこを抜けて英国に出る。瞳さんとメルヴィン君には結界が張られているから大丈夫。事情はあなたたちの英国の家で話すわ」
フォーラは早口でそう話してから、歯を食いしばって車を限界の速度にまで加速させた。角を曲がるたびに横転しかけたが、なんとか持ち直してはスピードを上げる。後ろから何かが追ってきているのだろうか。赤信号さえも無視して走っていたが、不思議と歩行者や他の車はいない。
ムーン・アークの環の中の空間。
今、フォーラや輝たちがいるのはそこなのだろう。地球のシリンの空間で裂くことはできないのだろうか。
そう思った瞬間、輝たちの目の前の雨は止んだ。
突然、青空の元に出て、今まで車をたたいていた雨粒はポタポタと乾いた地面をたたいて滲みを作っていった。フォーラは車を停止させて、周りを確かめた。目の前には、輝たちが学校から帰る途中にあるコンビニがあり、利用客が突然現れた車にびっくりしていた。
「英国」
フォーラは、つぶやいてハッとし、後ろを見た。すると、無数の手が現れ、この車を捕まえようとこちらに伸びてきた。そこにいた人間の全てが悲鳴を上げて逃げた。フォーラが、止まっていた車を動かすためにエンジンをかけようとするが、かからない。
「やられた! あいつらの目的はこっちだったの?」
ここで輝たちを外に出すのは危なかった。しかし、動かない車の中にいても危険だ。どうしようかと迷っていると、突然、無数の手が動きを止め、空間に開いた裂け目の中に帰っていった。
まるで急いで帰るかのように消えていった無数の手が跡形もなくなるまで、時間はかからなかった。目の前には、クチャナとセインがいた。
「アースからの依頼でこちらにきました。読みが当たっていたようでなによりです」
セインがそう言い、右腕を胸の前に出した。そこに、大きな鷲が止まる。
「世界中のシリンたちに、地球のシリンによるフィルターがかけられました。ムーン・アークに、普通の人間とシリンを見分ける力は無くなりました。あなた方の安全を確保するためにも、屋敷へ急いでください」
クチャナがそう言い、左手を胸の前に出した。そこに大きな鷹が止まる。先ほどの手を追い払ったのはこの二匹の猛禽類に込められた巫女と長老の力だったのだろう。
フォーラは輝と町子を連れて、車を捨て、屋敷に向かうことにした。
輝も町子も、今の出来事でかなり疲れていた。ここで重苦しい事情を説明されても、うまく聞けるかどうか分からない。メルヴィンも瞳も糸魚川に置いてきたままだ。
三人とも、屋敷に着くまでは無言だった。彼らの後ろでセインとクチャナが何かを話していたが、何を話し合っているのかは分からなかった。
屋敷に着くと、そこに住んでいる人間のほぼ全員が、ロビーに集まっていた。そこには瞳とメルヴィンもいて、地球のシリンが手を回してくれたことがよく分かった。輝たちが安心していると、マルスがコーヒーを淹れてキッチンから出てきた。
「全く、この人数分のコーヒーを淹れるのは骨だな」
そう言いながらも、少し楽しそうにしている。彼は輝と町子、そしてフォーラをロビーに招き入れて、増やしてあった椅子に座るように促した。
「アースはまだここには来られないんだ。事情は僕とシリウスが説明する。怖い思いをさせてしまってすまない」
そう言って、ここに集まった人間全てを見渡した。マルスの隣にはシリウスが来て、椅子に座った。
シリウスが説明を始める。
「ムーン・アークは、クエナから盗んだ情報を使って人工シリンを作っている。自身に起こるすべての事柄を有利にする、独自の環を展開する人工シリンが量産されることによって、地球因果律の一部が狂いだし、地球のシリンはその修正に追われた。その隙をついて今回のような事件を起こし、彼らはすべてのシリンの情報を盗み取る作戦を始めた。しかし、その人工シリンを元の人間に戻すことができる人間がいた」
輝は、それを聞いて背中に寒気が走るのを感じた。
「俺か、命を狙われているのは」
輝が声を震わせると、マルスが歩いてきて輝の肩を叩いた。
「輝、君の身は地球のシリンが守るだろう。彼のことは信じてもいい。今、彼が動けないのは有名大学病院での心臓移植手術中だからだ。アースが動き出すことができれば、全てが解決する。だが今は、僕たちがなんとかするしかない」
「おじさんの手術が終わるのは、いつになるんですか?」
町子が不安げに聞いてきたので、シリウスが答えた。
「始まって、六時間は経ったかな」
その場にいる全員の顔から、血の気が引いた。
あんな気持ちの悪いムーン・アークの化け物から、どうやって輝を守ればいいのだろう。輝自身も下を向いて膝に置いた拳を震わせている。
「自分に力がないって、こんなに怖かったっけ」
輝は、そう言いながら、力無く笑った。もう、笑うしかなかった。先ほどフォーラたちを襲ってきたあの手。あれに掴まれたらどうなっていただろう。
そこにいた皆が絶望に打ちひしがれそうになっていたその時、突然、目の前が明るくなって、また、地球のシリンの意識世界が展開された。今度は先ほどより遠くの草原まで見渡せる広い空間で、空に浮かぶ地球も、随分と遠くに見えた。
「これだけの意識空間が展開されているとなると、この屋敷の周辺も囲まれてしまったか」
マルスがそう言って、唇を噛んだ。
メルヴィンは先ほどから落ち着いていたが、地球のシリンの意識空間に入り込んだその時、意を決して、輝の方へ移動した。
「僕が輝を護るよ。何の力もない僕だけど、一回くらいは、君を守る盾くらいにはなれるから」
輝は、それを聞いて、首を横に振った。
「そうじゃない」
輝は、メルヴィンの手を、ぎゅっと握った。
その時だった。
そこにいた全員の前に、一人の少女が現れた。
彼女の体は透けていて、幽霊のように儚かったが、しっかりとした笑顔をこちらにむけてきた。不思議と恐怖は感じない。おそらく、ムーン・アークとは関わりのない少女なのだろう。でなければ、こんな状態で地球のシリンの意識空間の中に入って来られるはずはない。
少女は、何もいわず、みんなに笑顔を向けたまま一礼して、ゆっくりと消えていった。
「手術は、成功したのかな」
ふと、町子がつぶやいた。何となく、この場の皆もそれを思っていた。先ほどの幻影は心臓移植手術の心臓を提供した女の子なのか、それとも、心臓が合わなくて死んでしまった移植先の女の子なのか。
みんなが黙ってしまうと、ふと、少女がいた場所の空間が揺らぎ、誰かの影がそこに現れた。そして、その影をもとにゆっくりと、誰かの姿が形作られて行った。
そして、それが完成した姿を見て、輝やメルヴィンたちはあっと声を上げた。
「ミシェル先生!」
名を呼ばれたのは確かにミシェル・スミス先生だった。彼女はいつもの厳しい目つきとは違う、優しい目をしていた。そして、一度、目を閉じて手を胸に当てた。
「少女は環への帰還を果たしました。新しい持ち主へと移植された心臓は、もうすでに新しい体の元で生まれ変わりました」
ミシェル先生は、そう言って、はるかかなたに見える地球を眺めた。皆が、それに釣られて空に浮かぶ地球を見る。
美しかった。青空に溶けてしまいそうな地球の輪郭が少し儚げに見えたが、それでも環のある場所から見る地球には何か特別なものがある。
「ミシェル先生、地球のシリンは」
輝は、ミシェル先生のことを知っているのだろう。おそらく、環の中に入って来られて、さらにその中で平気でいられるのなら、相当長い間生きているシリンなのだ。
輝の問いに、ミシェル先生は頷いた。
「私たちをきちんと守ってくれています。ただ少しのミスも、ご自分で取り返すことができる技量をお持ちですから、安心なさい。それよりも、私たちにはやらなければならないことがあるはずです」
ミシェル先生は、そう言って、右手を上げた。それを見て、キッチンの近くにいたカリムが、椅子を倒して立ち上がった。
「ミカエル、その力を使うのに、地球のシリンの許可は得たのか?」
ミシェル先生は、強く頷いた。掲げた右手から光が迸ると、輝のほうを見た。
「高橋輝、手をお出しなさい」
輝は、少し躊躇いながら、立ち上がってミシェル先生の方へ右手を差し出した。すると、輝の頭の中に、いろいろな情報が流れ込んできた。あまりの情報の多さに眩暈がして、ふらついてしまったが、町子とメルヴィンが支えてくれた。
「地球のシリンが導き出した、これから起こりうる事象の断片です。起こるかもしれない、もしかしたら、起こらないかもしれない。そのうちのいくつかは、結果が変わっていくかもしれない。それをすべて統括するのが地球のシリン。生半可な覚悟で監視しているのではありません。そこへ、今回のような不確定要素が頻繁に起これば、地球のシリンであれ多少のミスは犯します。輝、あなたは、この激流の中に踏み込んで、環の中に囚われて情報を書き換えられている何人かのシリンたちにその情報を戻していかなければならない。見るものが不安定である以上は、彼女が目覚めるまであなた一人でそれを背負わなければなりません」
ミシェル先生の言っていることは、恐ろしく難しいことだった。町子は唇を噛んだ。自分は何もできないのだろうか。どんなに頑張っても、努力しても、目覚めていない以上輝の力にはなれないのだろうか。
町子のその考えを悟ったのか、ミシェル先生は、町子に右手を差し伸べた。それに釣られて、町子も右手を差し出した。
「森高町子、あなたには見るものとしての役割以上に、大切な役割が与えられました」
ミシェル先生は、そう言って、町子が差し出している右手をぎゅっと握った。そして、すぐにそれを離すと、優しく微笑みかけた。
「町子さん、自分の手をご覧なさい」
町子は、言われるがままに自分の手を見た。すると自分の右手の中指に、指輪がはまっているのが見えた。
「これは、何ですか、ミシェル先生?」
町子は不思議そうに自分の指を見た。何だか、自分の体が軽くなった気がする。先生が何かをしたのだろうか、それとも、指輪が何かをしたのだろうか。
ミシェル先生は、町子の手にはまった指輪を撫でた。すると、指輪のトップに青い宝石が現れた。
「ソロモンの指輪。すべての悪霊を拘束できます。悪霊がいない状態では青いですが、一体でも悪霊を拘束すれば赤くなります。どこかで人工シリンに出会ったらこれをかざすと良いでしょう。あなたがそれを拘束し、輝が地球の環に戻せばよい」
それを聞いて、町子は急に顔を明るくした。これで輝と一緒に戦える。輝を守っていける。少しでも力になれるのだ。
「ありがとうございます、ミシェル先生!」
町子が喜んでいると、次に、ミシェル先生は、メルヴィンに手を伸ばした。
「メルヴィン・スミス、こちらへ」
メルヴィンは、名前を呼ばれて、ガチガチに緊張してミシェル先生のところへ行った。すると、ミシェル先生はメルヴィンの両手のひらを自分に向けさせた。
「メルヴィン、あなたにはここに集うすべての人間を支える才能があります。あまねくすべての神話伝承に通じ、一本の楊枝から伝説の槌に至るまで全てを作り上げる鍛治の炎を授けるようにと、地球のシリンから仰せつかっています」
すると、メルヴィンの両手の上に、炎が現れて燃え始めた。メルヴィンはびっくりして、手を引っ込めようとしたが、ミシェル先生がその手を留めた。
「熱くはありません。少しじっとしていなさい」
ミシェル先生は、そう言って目を閉じた。すると、その場を温かい光が包み込み、皆は眩しさに目を閉じた。そして、皆が目を開けると、そこには神々しく光り輝く天使がいた。
「地球のシリンの力を代行するのなら、シリンとしての能力は晒さなければならない」
カリムが、誰にともなくつぶやいた。そして、それをカリーヌが補う。
「大天使ミカエル、すべての天使の長。地球のシリンの力を代行するにふさわしい姿ね」
ミカエルとなったミシェル先生は、その二人を少しだけ見て、メルヴィンに向き直った。
「メルヴィン、あなたのその両手は、長老と巫女が生み出す伝説の武器を作り上げることができます。クチャナとセインの求めに応じ、それをふさわしい人間に与えなさい。生活に必要なものから伝説の武器に至るまで、あなたは作り上げることができるでしょう。この槌をお持ちなさい」
ミシェル先生がそう言うのと同時に、メルヴィンの掌の上の炎は、鍛治が使うハンマーに変わった。
「ミシェル先生、いえ、ミカエル様、これは何ですか?」
ミカエルは、メルヴィンに微笑みかけた。あまりの神々しさに、そこにいたすべての人間が背筋を正した。
「ヴェルンドの槌、あなたがこれから生涯使っていく鍛治の良い相棒になってくれるでしょう。これを使い、修練に励むとよい」
メルヴィンは、ヴェルンドの槌を受け取り、涙を流した。彼は敬虔なキリスト教徒で、英国人ゆえにミカエルに対する信仰にもあつい。鍛治としての能力の伝達よりも、ミカエルに会えたことに感激していた。
そして、ミカエルは最後に輝を見た。
「輝、あなたにはまだ、地球のシリンからのギフトがあります」
そう言って、メルヴィンの元から離れたミカエルは、輝の方に向き直った。そして、両手を輝との間に翳した。
すると、そこに一振りの日本刀が現れた。
「地球のシリンによって創り出されるいくつかの伝承。陰陽五行に基づき、光と闇、木、火、土、金、水を拠り所として作られます。あなたのものは水。妖刀ムラサメ。これは南総里見八犬伝を発祥とします。しかし、水を操るその能力の他に、地球のシリンは伝承を必要としませんでした。この刀は妖を斬り、物質を切断することがありません。しかし、使用者の意図に応じて、その鋭い刀身が物質を切断することもあるでしょう。手入れはメルヴィンとともに行うようにとのこと。心してお使いなさい」
そう言って、ミカエルは目を閉じた。
すると、また眩く優しい光が辺りを包み込んだ。眩しさに目を閉じた皆が目を開けると、そこにはミシェル先生がいて、地球のシリンの意識空間は消えていた。
「もはや、意識空間は必要ありません」
ミシェル先生は、そう言って微笑み、屋敷のドアを開けた。そして、そこから出ると、中に入ってきた誰かと手を合わせた。ミシェル先生はそのまま屋敷を後にした。
そして、中に入ってきた誰かは、そこにいる皆を見渡した。
病院で手術を終えて、関係者にいろいろ説明したすぐ後なのだろう。白衣さえ着ていない。急いで来てくれたのだ。輝は、胸を撫で下ろした。メルヴィンが、目を丸くする。
「あ、あなたが、地球のシリン、アース・フェマルコートさんなんですか。なんか、かっこいい」
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