41 / 123
第五章 戻す者
またまたいきなり目的地
しおりを挟む
「地球の子」
五、戻す者
輝たちは、英国に帰ると、学校に行くその前に、町子の親友である吉江友子と田中朝美が英語を勉強するのを手伝わなければならなかった。日本である程度は勉強していたし、輝たちが外国をうろうろしている間にも頑張っていたのだが、なかなか追いつかない。そんなこんなしているうちに、フリーランスであったカリーヌが屋敷に引っ越してきた。もう一人、フランスから男性を連れてきていたが、その人は後から紹介するという。
夏休み直前に迫ったある日、突然、シリウスが屋敷を訪ねてきた。一人の少女が一緒で、彼女は可愛らしい赤いワンピースを着ていて、長い黒髪の三つ編みを二つ、前に垂らしていた。ワンピースに合わせた赤い帽子がよく似合っていた。シリウスは、彼女を屋敷のロビーに入れて、町子と輝を呼んだ。
「クエナだ」
シリウスが彼女の名前を呼ぶと、町子も輝もびっくりして、腰を抜かした。
「クチャナさんに連絡しなきゃ!」
町子は、そう言うと、パレスチナにいた時シリウスからもらった腕時計に手をやった。しかし、シリウスはそれを止めた。
「クチャナには連絡してある。クエナはもう追われることはない。これ以上は傷つかないんだ。クチャナ一人いれば十分に守り抜ける。博士にも連絡は行っている」
シリウスがそれだけ話すと、ようやく輝も町子も落ち着いてきた。クエナが攫われたのは、彼女の中からシリンのなんらかの情報をコピーするため。それが終わったから、助け出されてもしつこく追われることはなかった。組織は徹底して自分達の正体をクエナや博士から隠していたが、クエナを救出したある人物には知られてしまった。
そこまで話して、シリウスは一旦話を切った。
クエナを救出した人物は、誰なのだろう。シリウスは具体的に誰なのかを言っていなかった。だから、特に話さなくてもいい人物なのだろうかと思った。しかし、妙に引っかかる。聞いてみようかとも思ったが、なぜか、聞かないほうがいいような気がした。
「そういえば、このままだと夏休みにもつれ込むよね、学校」
お茶を淹れ始めた輝を横目に、町子が頬杖をつく。シリウスに呼ばれてここにきて、ようやく朝美や友子から解放されていた。少し、気が晴れていた。
「あれ?」
輝がお茶を配っていると、シリウスが、新しく輝が買ってきて置いてあった湯呑みを持って、首を傾げた。
「お前ら、米国に行くんじゃないのか?」
「米国?」
町子と輝の声が揃った。
「なんで米国に行くんだよ。また俺たちに内緒で進めてんのかよ」
「あ、これ、内緒だったのか? 俺はお前たちについて行ってくれって言われたんだ。確か、町子のおじいさんにだったかな」
輝と町子は、頭を抱えた。またこれだ。行き先も期日も告げずにいきなりどこかへ行けという。こんなことが続くようであれば、学校どころではない。町子だけではなく、輝も苛立ちを覚えた。
「まあ、このことに関しては許してくれ。俺も愛妻をドイツに放ったままこんなことをしているからな。町子のおじいさんから声をかけられることもしょっちゅうなんだ。それもいきなり」
「シリウスさんもなんだ」
町子が、呆れ顔でため息をついた。最近はこんなことばかりでため息しか出ない。肩を落としている町子を元気づけるため、シリウスはこんなことを言い始めた。
「あいつに連絡を取るか。あいつ。ほら、おじさん」
そう言って、携帯端末を取り出して、連絡を始めた。輝も町子もそれを止めたが、もう繋がってしまったらしく、シリウスは通話を始めた。何を話しているのか、その内容まではよくわからなかったが、楽しそうな会話をしていることは分かった。
「あいつ、今、奥さんの実家にいるみたいなんだ」
シリウスが電話を切ると、輝はびっくりした。
「奥さんの実家?」
おじさんは、冒険者みたいな人だ。奥さんはいると聞いていたが、むしろ、その奥さんと一緒に冒険していそうなほどに、冒険者じみていた。それがこんなに所帯じみているなんて。
ショックだった。
輝がショックを受けている隣で、町子がニヤリと笑った。
「あれだけのイケメンだもん。何やってもイケメンなんだよ。奥さん想いでいいじゃん。それとも違う意味でショック?」
またこの類の話題だ。
輝はおじさんのことを恋愛対象として見ているわけではない。ただ、想像と違っていて、そのギャップにショックを受けただけだ。
「そりゃあショックだろ。想像と違ったんだから。だったら町子はどうなんだよ。おじさんのこと好きじゃないのか? それこそあんなイケメン」
それを聞いて、町子はびっくりした顔をした。そして、シリウスと輝を見比べた。
「なんで私に聞くの? 私は他に好きな人が」
そこまで言って、町子はハッとした。手で口を抑えると、真っ赤な顔をして輝を見た。
「最低!」
輝にそう吐き捨てて、町子はロビーから出て行ってしまった。輝もシリウスも固まって呆然としていたが、気がついて外を見るとすでに町子の姿はなかった。
「地雷を踏んだな、輝」
シリウスは、そう言って先に引き下がり、ロビーに戻ってお茶をすすり始めた。クエナが気を遣って、急須の中に新しいお湯を注ぐ。輝は、屋敷の入り口に立ち尽くしていた。何が何だか分からないが、町子を怒らせてしまったのだろうか。そう思っても、どうしたらいいのか分からない。もやもやした気持ちを抱えながら、輝は次に北米に発つ日付を、シリウスに尋ねた。
アメリカ合衆国に発つのは、この日から三日後のことだった。
五、戻す者
輝たちは、英国に帰ると、学校に行くその前に、町子の親友である吉江友子と田中朝美が英語を勉強するのを手伝わなければならなかった。日本である程度は勉強していたし、輝たちが外国をうろうろしている間にも頑張っていたのだが、なかなか追いつかない。そんなこんなしているうちに、フリーランスであったカリーヌが屋敷に引っ越してきた。もう一人、フランスから男性を連れてきていたが、その人は後から紹介するという。
夏休み直前に迫ったある日、突然、シリウスが屋敷を訪ねてきた。一人の少女が一緒で、彼女は可愛らしい赤いワンピースを着ていて、長い黒髪の三つ編みを二つ、前に垂らしていた。ワンピースに合わせた赤い帽子がよく似合っていた。シリウスは、彼女を屋敷のロビーに入れて、町子と輝を呼んだ。
「クエナだ」
シリウスが彼女の名前を呼ぶと、町子も輝もびっくりして、腰を抜かした。
「クチャナさんに連絡しなきゃ!」
町子は、そう言うと、パレスチナにいた時シリウスからもらった腕時計に手をやった。しかし、シリウスはそれを止めた。
「クチャナには連絡してある。クエナはもう追われることはない。これ以上は傷つかないんだ。クチャナ一人いれば十分に守り抜ける。博士にも連絡は行っている」
シリウスがそれだけ話すと、ようやく輝も町子も落ち着いてきた。クエナが攫われたのは、彼女の中からシリンのなんらかの情報をコピーするため。それが終わったから、助け出されてもしつこく追われることはなかった。組織は徹底して自分達の正体をクエナや博士から隠していたが、クエナを救出したある人物には知られてしまった。
そこまで話して、シリウスは一旦話を切った。
クエナを救出した人物は、誰なのだろう。シリウスは具体的に誰なのかを言っていなかった。だから、特に話さなくてもいい人物なのだろうかと思った。しかし、妙に引っかかる。聞いてみようかとも思ったが、なぜか、聞かないほうがいいような気がした。
「そういえば、このままだと夏休みにもつれ込むよね、学校」
お茶を淹れ始めた輝を横目に、町子が頬杖をつく。シリウスに呼ばれてここにきて、ようやく朝美や友子から解放されていた。少し、気が晴れていた。
「あれ?」
輝がお茶を配っていると、シリウスが、新しく輝が買ってきて置いてあった湯呑みを持って、首を傾げた。
「お前ら、米国に行くんじゃないのか?」
「米国?」
町子と輝の声が揃った。
「なんで米国に行くんだよ。また俺たちに内緒で進めてんのかよ」
「あ、これ、内緒だったのか? 俺はお前たちについて行ってくれって言われたんだ。確か、町子のおじいさんにだったかな」
輝と町子は、頭を抱えた。またこれだ。行き先も期日も告げずにいきなりどこかへ行けという。こんなことが続くようであれば、学校どころではない。町子だけではなく、輝も苛立ちを覚えた。
「まあ、このことに関しては許してくれ。俺も愛妻をドイツに放ったままこんなことをしているからな。町子のおじいさんから声をかけられることもしょっちゅうなんだ。それもいきなり」
「シリウスさんもなんだ」
町子が、呆れ顔でため息をついた。最近はこんなことばかりでため息しか出ない。肩を落としている町子を元気づけるため、シリウスはこんなことを言い始めた。
「あいつに連絡を取るか。あいつ。ほら、おじさん」
そう言って、携帯端末を取り出して、連絡を始めた。輝も町子もそれを止めたが、もう繋がってしまったらしく、シリウスは通話を始めた。何を話しているのか、その内容まではよくわからなかったが、楽しそうな会話をしていることは分かった。
「あいつ、今、奥さんの実家にいるみたいなんだ」
シリウスが電話を切ると、輝はびっくりした。
「奥さんの実家?」
おじさんは、冒険者みたいな人だ。奥さんはいると聞いていたが、むしろ、その奥さんと一緒に冒険していそうなほどに、冒険者じみていた。それがこんなに所帯じみているなんて。
ショックだった。
輝がショックを受けている隣で、町子がニヤリと笑った。
「あれだけのイケメンだもん。何やってもイケメンなんだよ。奥さん想いでいいじゃん。それとも違う意味でショック?」
またこの類の話題だ。
輝はおじさんのことを恋愛対象として見ているわけではない。ただ、想像と違っていて、そのギャップにショックを受けただけだ。
「そりゃあショックだろ。想像と違ったんだから。だったら町子はどうなんだよ。おじさんのこと好きじゃないのか? それこそあんなイケメン」
それを聞いて、町子はびっくりした顔をした。そして、シリウスと輝を見比べた。
「なんで私に聞くの? 私は他に好きな人が」
そこまで言って、町子はハッとした。手で口を抑えると、真っ赤な顔をして輝を見た。
「最低!」
輝にそう吐き捨てて、町子はロビーから出て行ってしまった。輝もシリウスも固まって呆然としていたが、気がついて外を見るとすでに町子の姿はなかった。
「地雷を踏んだな、輝」
シリウスは、そう言って先に引き下がり、ロビーに戻ってお茶をすすり始めた。クエナが気を遣って、急須の中に新しいお湯を注ぐ。輝は、屋敷の入り口に立ち尽くしていた。何が何だか分からないが、町子を怒らせてしまったのだろうか。そう思っても、どうしたらいいのか分からない。もやもやした気持ちを抱えながら、輝は次に北米に発つ日付を、シリウスに尋ねた。
アメリカ合衆国に発つのは、この日から三日後のことだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる