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第三章 粉挽き小屋
本当は好きじゃなかった?
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タクシーで帰る予定が、もう一度カリーヌを呼ぶことになり、一行はカリーヌを交えて、ホテルの輝の部屋に集まった。幸い部屋は広く、大人数が入っても余裕があった。輝は開いていたカーテンを静かに閉めて、部屋に持ち込んだ人数分のプラスチック・ボトルの水を配った。
すると、カリーヌが輝から水を受け取って、ため息をついた。
「町子さんね、なんだか辛そうだったわよ。ナポリにいる間ずっと」
輝が席に着くと、クチャナがカリーヌに返した。
「今回ここに来ることは、直前まで彼女には伏せられていた。それと何か関係あるのだろうか」
カリーヌは、ゆっくり首を横に振った。
「彼女、結構抱えている闇は深いかもしれない」
カリーヌは、そう言って真剣な顔をして輝を見た。
「なんとなく、わかっているんでしょ、彼女がどうして黒服の不審者について行ってしまったのか」
そう訊かれて、輝は少し考えた。今まで町子と触れ合ってきて、得たものは確かに多かった。最初会った時と今では確かに印象がまるで違う。
「俺が英国に来るって決まったとき、あまりに唐突で、俺自身戸惑った。それは、俺がなんの覚悟も準備もないまま周りが勝手に決めて、動いていたからで、それに対して怒ってもいた。そして、そのことに対してただ怒るだけで意見をしてこなかった俺自身にも苛立っていた。今、町子は俺と同じ立場なんだと思う。なのに、俺をあの時助けてくれた、おじさんみたいな存在が町子にはいない。それにもしかして、彼女は見るものっていう自分の立場がそんなに好きじゃないのかもしれないって思うんだ」
「見るものの立場がそんなに好きじゃない?」
クチャナが、怪訝な顔をした。
輝は、はい、と、付け加えて続けた。
「見るものも戻すものも、長老も巫女も、そんなもの好き嫌いでやるやらないを決められないってことくらいは俺にも彼女にも分かります。でも、それでも、今やらされていることが好きになれていないと、辛いんだって、それはわかってもらえるんじゃないかって。その、分かってもらえるんじゃないかっていう期待があるから、町子は怒っているんじゃないかなって思うんです」
輝の話が終わると、しばらくその場は沈黙に包まれた。誰も何も言わずに、床に目を落としたり、プラスチック・ボトルを握りしめていたりしていた。
しばらくして、沈黙に皆が慣れてくる頃、セインが手を上げた。
「もうすでに長老と巫女の役割に慣れきってしまった私たちにはどうしようもない問題だ。輝、君に町子を託してもいいだろうか?」
輝は、しっかりと頷いた。
「成功するかどうかはわかりませんが、やる気だけはありますんで」
輝のその言葉で、その場はお開きとなった。
セインもクチャナも、喧嘩をすれば強いほうだ。輝にはない戦闘能力という点では遥かに頼りになるだろう。ルフィナやマルコを確実に守ってくれるはずだ。それに今回は癒しを本領とする大天使のシリンがいる。喧嘩をすれば強いだろうが、それだけではダメだ。
輝は、先ほど閉めたカーテンを開いて、窓から見える街の明かりを眺めた。南アフリカの大都会ほど賑やかではないが、落ち着いた雰囲気のある街だった。空に、ポツリポツリと星が見える。月は上弦で、夜の街を綺麗に照らしていた。
「町子、君の言いたいことを聞かせてくれ」
輝は、そう呟いて、そっとカーテンを閉めた。
すると、カリーヌが輝から水を受け取って、ため息をついた。
「町子さんね、なんだか辛そうだったわよ。ナポリにいる間ずっと」
輝が席に着くと、クチャナがカリーヌに返した。
「今回ここに来ることは、直前まで彼女には伏せられていた。それと何か関係あるのだろうか」
カリーヌは、ゆっくり首を横に振った。
「彼女、結構抱えている闇は深いかもしれない」
カリーヌは、そう言って真剣な顔をして輝を見た。
「なんとなく、わかっているんでしょ、彼女がどうして黒服の不審者について行ってしまったのか」
そう訊かれて、輝は少し考えた。今まで町子と触れ合ってきて、得たものは確かに多かった。最初会った時と今では確かに印象がまるで違う。
「俺が英国に来るって決まったとき、あまりに唐突で、俺自身戸惑った。それは、俺がなんの覚悟も準備もないまま周りが勝手に決めて、動いていたからで、それに対して怒ってもいた。そして、そのことに対してただ怒るだけで意見をしてこなかった俺自身にも苛立っていた。今、町子は俺と同じ立場なんだと思う。なのに、俺をあの時助けてくれた、おじさんみたいな存在が町子にはいない。それにもしかして、彼女は見るものっていう自分の立場がそんなに好きじゃないのかもしれないって思うんだ」
「見るものの立場がそんなに好きじゃない?」
クチャナが、怪訝な顔をした。
輝は、はい、と、付け加えて続けた。
「見るものも戻すものも、長老も巫女も、そんなもの好き嫌いでやるやらないを決められないってことくらいは俺にも彼女にも分かります。でも、それでも、今やらされていることが好きになれていないと、辛いんだって、それはわかってもらえるんじゃないかって。その、分かってもらえるんじゃないかっていう期待があるから、町子は怒っているんじゃないかなって思うんです」
輝の話が終わると、しばらくその場は沈黙に包まれた。誰も何も言わずに、床に目を落としたり、プラスチック・ボトルを握りしめていたりしていた。
しばらくして、沈黙に皆が慣れてくる頃、セインが手を上げた。
「もうすでに長老と巫女の役割に慣れきってしまった私たちにはどうしようもない問題だ。輝、君に町子を託してもいいだろうか?」
輝は、しっかりと頷いた。
「成功するかどうかはわかりませんが、やる気だけはありますんで」
輝のその言葉で、その場はお開きとなった。
セインもクチャナも、喧嘩をすれば強いほうだ。輝にはない戦闘能力という点では遥かに頼りになるだろう。ルフィナやマルコを確実に守ってくれるはずだ。それに今回は癒しを本領とする大天使のシリンがいる。喧嘩をすれば強いだろうが、それだけではダメだ。
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「町子、君の言いたいことを聞かせてくれ」
輝は、そう呟いて、そっとカーテンを閉めた。
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