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第二章 青い薔薇
囚われた少女
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少女は、豪華な調度品に囲まれた部屋の中にいた。知らない場所だ。
自分の村から離れ、連れてこられてここにいる。それくらいは分かる。
この部屋は明るく清潔で、とても無理やり連れてきた人を入れる部屋だとは思えなかった。少女の経験から、人間を無理やり連れてきて閉じ込める場合は、暗くてじめじめした部屋の中だというのが当たり前だったからだ。待遇も良くて、食事は必ず温かい豪華なものを給仕が持ってくるし、部屋の内装も高級ホテルのようだった。少女は、そんな場所に閉じ込められている自分の姿を見た。
「平坦だわ」
いつも着ていたポンチョも、厚くて暖かい、色鮮やかなチョリータの服も、足を守る靴も、頭を守る山高帽も、全てが体からはなれて、一枚の薄いワンピースに変わっていた。空調の効いたこの部屋の中ではちょうど良かったが、少女はこれが気に入らなかった。しかし、脱ぐわけには行かない。少女の服はどこを探しても見つからなかったからだ。給仕にくる人間に問いただしても分からないと言うばかりだった。
そういえば、ここに無理やり連れてこられたのは少女だけではなかったはずだ。確か、村に滞在していた考古学者も一緒だったはずだ。彼は一体どうなったのだろう。ここにいるのは少女一人だけだ。
少女は、この場所から逃げたかった。考古学者や村の人、それに、たった一人の肉親である姉にも会いたかった。ここでは少女は一人だった。助けてくれる人も、話を聞いてくれる人も、誰もいない。
「お姉ちゃん、怖い」
少女は、これから自分の身に何が起こるのか知りたかった。自分がなぜ、村から遠く離れてこんな場所にいるのか。怖くて、不安だった。体を支える手が震えている。
少女は、考えた。恐らく、自分がここにいるのはシリンゆえだろう。あの考古学者はシリンのことを研究していた。そのために少女の村に寄り、そして、少女と共に連れてこられた。彼が村を荒らすことはなかったのに、ここに少女を連れてきた連中は、村を荒らしていった。彼らはいったい少女や考古学者になんの用があったのだろう。
少女は思い返した。
彼らは、少女や考古学者を連れてくる際に、こう言っていたのだ。
「村をこれ以上荒らされたくなければ、我々と一緒に来てもらおう。クリスフォード博士、あなたとその少女に関する研究は、すでに我々の手中にあるのだからね」
自分の村から離れ、連れてこられてここにいる。それくらいは分かる。
この部屋は明るく清潔で、とても無理やり連れてきた人を入れる部屋だとは思えなかった。少女の経験から、人間を無理やり連れてきて閉じ込める場合は、暗くてじめじめした部屋の中だというのが当たり前だったからだ。待遇も良くて、食事は必ず温かい豪華なものを給仕が持ってくるし、部屋の内装も高級ホテルのようだった。少女は、そんな場所に閉じ込められている自分の姿を見た。
「平坦だわ」
いつも着ていたポンチョも、厚くて暖かい、色鮮やかなチョリータの服も、足を守る靴も、頭を守る山高帽も、全てが体からはなれて、一枚の薄いワンピースに変わっていた。空調の効いたこの部屋の中ではちょうど良かったが、少女はこれが気に入らなかった。しかし、脱ぐわけには行かない。少女の服はどこを探しても見つからなかったからだ。給仕にくる人間に問いただしても分からないと言うばかりだった。
そういえば、ここに無理やり連れてこられたのは少女だけではなかったはずだ。確か、村に滞在していた考古学者も一緒だったはずだ。彼は一体どうなったのだろう。ここにいるのは少女一人だけだ。
少女は、この場所から逃げたかった。考古学者や村の人、それに、たった一人の肉親である姉にも会いたかった。ここでは少女は一人だった。助けてくれる人も、話を聞いてくれる人も、誰もいない。
「お姉ちゃん、怖い」
少女は、これから自分の身に何が起こるのか知りたかった。自分がなぜ、村から遠く離れてこんな場所にいるのか。怖くて、不安だった。体を支える手が震えている。
少女は、考えた。恐らく、自分がここにいるのはシリンゆえだろう。あの考古学者はシリンのことを研究していた。そのために少女の村に寄り、そして、少女と共に連れてこられた。彼が村を荒らすことはなかったのに、ここに少女を連れてきた連中は、村を荒らしていった。彼らはいったい少女や考古学者になんの用があったのだろう。
少女は思い返した。
彼らは、少女や考古学者を連れてくる際に、こう言っていたのだ。
「村をこれ以上荒らされたくなければ、我々と一緒に来てもらおう。クリスフォード博士、あなたとその少女に関する研究は、すでに我々の手中にあるのだからね」
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