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第十七章 風に舞う葉
村長の巡回
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村長アヒムは、毎朝早起きの老人たちの家を巡って挨拶をするのが日課だった。どこから回ろうかと考えていると、どこからか薪割りの音が聞こえてきたので、そこに行ってみた。
すると、村の外れにある森の近くで、大工のウドが一人の女性と一緒に薪割りをしていた。
その女性はエリクの母であるエルヴィールで、ウドの薪割りを少し離れた場所からじっと見ていた。
ウドが割った薪を片付ける際に声をかける。すると、二人ともアヒムに気がついていったん薪割りをやめた。ウドは額の汗を拭くために、エルヴィールの持っているタオルを受け取った。
「涼しい朝のうちにやっておこうと思ってな。開業中は薪割りをする時間なんて、ないかもしれないだろう?」
ウドは、そう言ってニヤリと笑った。
「ウドさんが気分転換になるんだったら、構いませんよ」
アヒムは、そう言って手を振り、ウドの元を後にした。
次いで酪農家のゲルデの元に寄った。牛の近くにいると思いきや、彼女はすでに乳搾りを終えたあとだった。牛舎にはいなかったので探していると、家の庭の真ん中にあるテーブルにコーヒーを並べていた。
ゲルデは大のもてなし好きで、昔から自分の家で作ったチーズやヨーグルトで来客をもてなしていた。しかし村がこうなってからは客の一人も来ていない。
「ゲルデ、おはよう」
声をかけると、ゲルデは笑って答えた。
テーブルにある椅子には二人の女性が腰掛けている。リゼット、ナリアの二人だ。
「ゲルデさんのお家のヨーグルトをいただいていたのよ! これが美味しいの! レストランのデザートやソースに使って欲しいってアースさまに言わなきゃ」
リゼットが興奮している。その横でニコニコしながらナリアがスープを口に運んでいた。二人はゲルデの家に泊まったのだろうか。
「そりゃあ、うちのヨーグルトがあのシェフさんの腕で美味しく調理されれば嬉しいことこの上ないね! お嬢ちゃん、お願いできるかい?」
ゲルデがそう言って高らかに笑うと、リゼットは胸を張った。
「当然よ! 生産量は少ないから、数量限定でね!」
ゲルデとリゼットの楽しげな会話に終わりが見つからなかったので、アヒムは三人に手を振って、他の家に行くことにした。
泉を起点にして村の中心を流れる小川にかかる小さな橋を渡ると、三軒目の家が見えてくる。
その一番手前の家がハンナの家だ。昔町で暮らしていたホテルマンの女性で、リタイヤ後にここに移り住んできた。この村の魅力を誰よりも感じている人だと、自他共に認めている。そんな彼女は一人だけレストランのコスチュームを着て、外に出て発声練習をしていた。
声をかけると、笑顔で応対してくれた。
「サポートとはいえ、私に声をかけてくるお客さんもいるかもしれないからね。昔取った杵柄じゃないけど、もっとできることはあるはずだから」
ハンナはそう言って、笑顔で発声練習を続けた。
しかし、そんなところにちょっとした荷物を持ったセリーヌとエーテリエが来たものだから、ハンナは一旦練習をやめた。
「もっと魅力的なメニューポップが作りたいんです」
セリーヌはそう言って、自分の作ったメニューを見せた。ハンナは少しそれを見て、こう言った。
「あんたのはもうちょっと遊び心があるといいね。料理の質を考えるとこれくらい堅苦しくてもいいけど、それはコースだけにしましょ。定番メニューなんかはもっと字を丸っこくして、絵も入れるといいよ。確かナリアさんは絵が得意だったでしょ?」
エーテリエは、ただ単にハンナにたくさんの英雄譚を聴きたくてやってきた。接客の参考にするというよりただの興味だったので、長い時間聞くためにいくつか飲み物や食べ物を持参していた。
ここも、今日は大丈夫だとわかったので、アヒムは次の場所へ向かうことにした。
この先にある広い農園は、農家のエッカルトが管理していた。この夏、街に出荷するために作っている野菜は白い茄子とかぼちゃ、きゅうり、トマト、じゃがいも、それに高地栽培に向いているレタスとハーブ類だった。
エッカルトは畑にいた。朝早くから虫の退治をしたり有機肥料を蒔いたりしていたのだ。一緒にいたのはセベルで、エッカルトの横でよく教わりながら虫を潰していた。
「この兄ちゃん、漁師出身だから高原野菜は初めてらしいんだ」
エッカルトは嬉しそうに言いながら、セベルに丁寧に作業を教えていった。
セベルは一旦立ち上がって汗を拭くと、アヒムに笑いかけた。
「エッカルトさんはすごいですね。本当に野菜に優しいって感じます」
そういったセベルの顔はいつもよりさらに爽やかだった。
ここも今日は問題ない。
アヒムは、全戸問題なく今日を迎えていることに安心して、自分の家に戻っていった。
レストランの開店は、今日を含めて三日ののちに控えていた。
すると、村の外れにある森の近くで、大工のウドが一人の女性と一緒に薪割りをしていた。
その女性はエリクの母であるエルヴィールで、ウドの薪割りを少し離れた場所からじっと見ていた。
ウドが割った薪を片付ける際に声をかける。すると、二人ともアヒムに気がついていったん薪割りをやめた。ウドは額の汗を拭くために、エルヴィールの持っているタオルを受け取った。
「涼しい朝のうちにやっておこうと思ってな。開業中は薪割りをする時間なんて、ないかもしれないだろう?」
ウドは、そう言ってニヤリと笑った。
「ウドさんが気分転換になるんだったら、構いませんよ」
アヒムは、そう言って手を振り、ウドの元を後にした。
次いで酪農家のゲルデの元に寄った。牛の近くにいると思いきや、彼女はすでに乳搾りを終えたあとだった。牛舎にはいなかったので探していると、家の庭の真ん中にあるテーブルにコーヒーを並べていた。
ゲルデは大のもてなし好きで、昔から自分の家で作ったチーズやヨーグルトで来客をもてなしていた。しかし村がこうなってからは客の一人も来ていない。
「ゲルデ、おはよう」
声をかけると、ゲルデは笑って答えた。
テーブルにある椅子には二人の女性が腰掛けている。リゼット、ナリアの二人だ。
「ゲルデさんのお家のヨーグルトをいただいていたのよ! これが美味しいの! レストランのデザートやソースに使って欲しいってアースさまに言わなきゃ」
リゼットが興奮している。その横でニコニコしながらナリアがスープを口に運んでいた。二人はゲルデの家に泊まったのだろうか。
「そりゃあ、うちのヨーグルトがあのシェフさんの腕で美味しく調理されれば嬉しいことこの上ないね! お嬢ちゃん、お願いできるかい?」
ゲルデがそう言って高らかに笑うと、リゼットは胸を張った。
「当然よ! 生産量は少ないから、数量限定でね!」
ゲルデとリゼットの楽しげな会話に終わりが見つからなかったので、アヒムは三人に手を振って、他の家に行くことにした。
泉を起点にして村の中心を流れる小川にかかる小さな橋を渡ると、三軒目の家が見えてくる。
その一番手前の家がハンナの家だ。昔町で暮らしていたホテルマンの女性で、リタイヤ後にここに移り住んできた。この村の魅力を誰よりも感じている人だと、自他共に認めている。そんな彼女は一人だけレストランのコスチュームを着て、外に出て発声練習をしていた。
声をかけると、笑顔で応対してくれた。
「サポートとはいえ、私に声をかけてくるお客さんもいるかもしれないからね。昔取った杵柄じゃないけど、もっとできることはあるはずだから」
ハンナはそう言って、笑顔で発声練習を続けた。
しかし、そんなところにちょっとした荷物を持ったセリーヌとエーテリエが来たものだから、ハンナは一旦練習をやめた。
「もっと魅力的なメニューポップが作りたいんです」
セリーヌはそう言って、自分の作ったメニューを見せた。ハンナは少しそれを見て、こう言った。
「あんたのはもうちょっと遊び心があるといいね。料理の質を考えるとこれくらい堅苦しくてもいいけど、それはコースだけにしましょ。定番メニューなんかはもっと字を丸っこくして、絵も入れるといいよ。確かナリアさんは絵が得意だったでしょ?」
エーテリエは、ただ単にハンナにたくさんの英雄譚を聴きたくてやってきた。接客の参考にするというよりただの興味だったので、長い時間聞くためにいくつか飲み物や食べ物を持参していた。
ここも、今日は大丈夫だとわかったので、アヒムは次の場所へ向かうことにした。
この先にある広い農園は、農家のエッカルトが管理していた。この夏、街に出荷するために作っている野菜は白い茄子とかぼちゃ、きゅうり、トマト、じゃがいも、それに高地栽培に向いているレタスとハーブ類だった。
エッカルトは畑にいた。朝早くから虫の退治をしたり有機肥料を蒔いたりしていたのだ。一緒にいたのはセベルで、エッカルトの横でよく教わりながら虫を潰していた。
「この兄ちゃん、漁師出身だから高原野菜は初めてらしいんだ」
エッカルトは嬉しそうに言いながら、セベルに丁寧に作業を教えていった。
セベルは一旦立ち上がって汗を拭くと、アヒムに笑いかけた。
「エッカルトさんはすごいですね。本当に野菜に優しいって感じます」
そういったセベルの顔はいつもよりさらに爽やかだった。
ここも今日は問題ない。
アヒムは、全戸問題なく今日を迎えていることに安心して、自分の家に戻っていった。
レストランの開店は、今日を含めて三日ののちに控えていた。
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