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第十五章 黒い薔薇にキスを
ごちゃごちゃな演劇
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翌朝、レナートが一日かけて宴会を開くというので、事前にそこに余興として予約を入れていたマリアが皆を送り出してくれた。その際に、マリアは、このインスラを代表してレナートをよろしくと言っていた。
化粧をして女装を終えた男性陣の中で、アースは、朝から謎の悪寒に震えていた。熱があるわけではない。なにか、幽霊に取りつかれているかのような悪寒だという。しかし、それも屋敷に着いたら収まってしまった。
「不思議ね」
リゼットが、きれいに整備された庭園の真ん中を屋敷に向かって歩きながら、きょろきょろと見まわした。
「これだけ豊かなのに、何が足りないっていうのかしら?」
その疑問には、ナリアが答えた。
「それは、これからアースが体現してくれるでしょう」
皆が一斉にアースを見た。
「どうしてそうなるんだ」
アースは、もはや泣きそうな顔で頭を抱えた。クロヴィスが、難儀だな、と声をかけて二人でとぼとぼと屋敷に歩いて行った。
屋敷に入り、宴会の出し物を出す人間たちの集う楽屋に行くと、実にたくさんの芸術家たちが集っていることが分かった。楽器を演奏したり歌ったりする者、絵を描くもの、大道芸をする者、人形劇をする者。いろいろな人間たちが集っていた。
「これ、私たちみたいな素人でうまくいくのかな」
ジャンヌが不安を口にすると、アースがため息をついた。
「ナリアが何を企んでいるのかは分からないが、おそらくはレナートの狙いは笑いじゃない」
すると、ナリアが後ろで不気味な笑いをした。
「分かっているのなら話が早い。あなたに生贄になってもらうことにしましょう」
「い、生贄?」
少し、エリクが怯えた。エリクの知る限りの生贄は、動物を殺すことに繋がっていたからだ。そんなエリクの肩を、セベルが叩く。
「大丈夫、師匠はお強い」
それを聞いて、エリクは安心した。アースは強い。だから、今回のことにもきっと、めげないで頑張っていける。
そうこうしているうちに、様々な芸を見せる人たちが、次々とレナートの不評を買って脱落していった。レナートは少し芸を見ただけで、すぐに役者を下げさせて、次の役者を呼ぶ。そうやって回転していくものだから、エリクたちの出番はすぐに来てしまった。
エリクたちは、ナリアに背を押される形でレナートの前に出た。勢いよくレナートの前に出たリゼットが、つんのめって倒れそうになり、体勢を立て直してレナートにごまかし笑いをした。
そのままなだれ込んできたほかのメンバーがリゼットを助けて、そのまま演劇モードに入る。
リゼットがサーベルをかざしてエリクとクロヴィスの二人を脅す。
「やいやい、この俺様の下にひれ伏しやがれ! この美女二人は俺様が頂くぜ、がっはっは!」
リゼットがそう言って笑うと、近くで見ていたジャンヌが笑いをこらえていた。それを知ったリゼットは、恥ずかしさに顔を赤らめた。
「今に見ていなさいジャンヌ!」
リゼットはそう言ってジャンヌに食って掛かろうとしたが、ナリアに止められた。そこで、一度、レナートはクスリと笑った。
続いて、怯える演技をしているエリクたちと、それに襲い掛かろうとしているリゼットとの間に、セリーヌが入った。
「お嬢さんたち、もう安心しなさい。拙者が来たからには海賊の好きにはさせないから」
すると、リゼットが次の手を打った。アースとセベルの二人を連れてきて縄でぐるぐる巻きにして、エリクたちのほうへ投げて行ったのだ。
そこで、アースとセベルがセリフを言うはずだったが、セベルだけになってしまった。
「あ~れ~」
セベルはそう言うと、くるくると回って見せた。アースがそれを立って見ていると、突然彼は何かにぶつかって転んでしまった。
「ナリア!」
アースが小声で吐き捨てると、ナリアは不気味な笑いをたたえたまま、舞台に目を移した。物語は、ジャンヌがみんなを助けるために、セリーヌに手を貸すところまで来ていた。
「助かった。ここは拙者一人ではなかなか」
「俺が来たからにはもう大丈夫だ。お嬢さんたち、ついてきなさい」
ジャンヌがそう言ってクロヴィスの手を取ろうとしたその時だった。
「演技はそこまで!」
レナートの声がかかった。そこで、彼は側近のうちのひとりに耳打ちをした。すると、側近は、アースとクロヴィスの二人だけを残して、ほかの人間たちを裏へ下がらせた。
「どういうことなの?」
セリーヌが不安そうに、残った二人を見ている。ジャンヌも同じだった。
「何か、嫌な予感がする」
ジャンヌはクロヴィスが心配だった。残った二人に、レナートは何をしようと言うのだろう。会話を聞いていると、レナートが二人を自室に誘っているのが分かった。
「どうやら、要求を呑まないと船を貸さないとか何とか言っているみたいですね」
ナリアは囁いた。不気味な笑いはもう残っていないが、どこか楽しそうにしている。
エリクは、それが少し嫌だった。
「クロヴィスとアースさんがどうなるか分からないんです。僕はナリアさんみたいに楽しめません」
エリクが口をとがらせると、ナリアはエリクの肩に手を当てた。
「あの二人は、船を借りに行ってくれているのですよ。応援いたしましょう」
化粧をして女装を終えた男性陣の中で、アースは、朝から謎の悪寒に震えていた。熱があるわけではない。なにか、幽霊に取りつかれているかのような悪寒だという。しかし、それも屋敷に着いたら収まってしまった。
「不思議ね」
リゼットが、きれいに整備された庭園の真ん中を屋敷に向かって歩きながら、きょろきょろと見まわした。
「これだけ豊かなのに、何が足りないっていうのかしら?」
その疑問には、ナリアが答えた。
「それは、これからアースが体現してくれるでしょう」
皆が一斉にアースを見た。
「どうしてそうなるんだ」
アースは、もはや泣きそうな顔で頭を抱えた。クロヴィスが、難儀だな、と声をかけて二人でとぼとぼと屋敷に歩いて行った。
屋敷に入り、宴会の出し物を出す人間たちの集う楽屋に行くと、実にたくさんの芸術家たちが集っていることが分かった。楽器を演奏したり歌ったりする者、絵を描くもの、大道芸をする者、人形劇をする者。いろいろな人間たちが集っていた。
「これ、私たちみたいな素人でうまくいくのかな」
ジャンヌが不安を口にすると、アースがため息をついた。
「ナリアが何を企んでいるのかは分からないが、おそらくはレナートの狙いは笑いじゃない」
すると、ナリアが後ろで不気味な笑いをした。
「分かっているのなら話が早い。あなたに生贄になってもらうことにしましょう」
「い、生贄?」
少し、エリクが怯えた。エリクの知る限りの生贄は、動物を殺すことに繋がっていたからだ。そんなエリクの肩を、セベルが叩く。
「大丈夫、師匠はお強い」
それを聞いて、エリクは安心した。アースは強い。だから、今回のことにもきっと、めげないで頑張っていける。
そうこうしているうちに、様々な芸を見せる人たちが、次々とレナートの不評を買って脱落していった。レナートは少し芸を見ただけで、すぐに役者を下げさせて、次の役者を呼ぶ。そうやって回転していくものだから、エリクたちの出番はすぐに来てしまった。
エリクたちは、ナリアに背を押される形でレナートの前に出た。勢いよくレナートの前に出たリゼットが、つんのめって倒れそうになり、体勢を立て直してレナートにごまかし笑いをした。
そのままなだれ込んできたほかのメンバーがリゼットを助けて、そのまま演劇モードに入る。
リゼットがサーベルをかざしてエリクとクロヴィスの二人を脅す。
「やいやい、この俺様の下にひれ伏しやがれ! この美女二人は俺様が頂くぜ、がっはっは!」
リゼットがそう言って笑うと、近くで見ていたジャンヌが笑いをこらえていた。それを知ったリゼットは、恥ずかしさに顔を赤らめた。
「今に見ていなさいジャンヌ!」
リゼットはそう言ってジャンヌに食って掛かろうとしたが、ナリアに止められた。そこで、一度、レナートはクスリと笑った。
続いて、怯える演技をしているエリクたちと、それに襲い掛かろうとしているリゼットとの間に、セリーヌが入った。
「お嬢さんたち、もう安心しなさい。拙者が来たからには海賊の好きにはさせないから」
すると、リゼットが次の手を打った。アースとセベルの二人を連れてきて縄でぐるぐる巻きにして、エリクたちのほうへ投げて行ったのだ。
そこで、アースとセベルがセリフを言うはずだったが、セベルだけになってしまった。
「あ~れ~」
セベルはそう言うと、くるくると回って見せた。アースがそれを立って見ていると、突然彼は何かにぶつかって転んでしまった。
「ナリア!」
アースが小声で吐き捨てると、ナリアは不気味な笑いをたたえたまま、舞台に目を移した。物語は、ジャンヌがみんなを助けるために、セリーヌに手を貸すところまで来ていた。
「助かった。ここは拙者一人ではなかなか」
「俺が来たからにはもう大丈夫だ。お嬢さんたち、ついてきなさい」
ジャンヌがそう言ってクロヴィスの手を取ろうとしたその時だった。
「演技はそこまで!」
レナートの声がかかった。そこで、彼は側近のうちのひとりに耳打ちをした。すると、側近は、アースとクロヴィスの二人だけを残して、ほかの人間たちを裏へ下がらせた。
「どういうことなの?」
セリーヌが不安そうに、残った二人を見ている。ジャンヌも同じだった。
「何か、嫌な予感がする」
ジャンヌはクロヴィスが心配だった。残った二人に、レナートは何をしようと言うのだろう。会話を聞いていると、レナートが二人を自室に誘っているのが分かった。
「どうやら、要求を呑まないと船を貸さないとか何とか言っているみたいですね」
ナリアは囁いた。不気味な笑いはもう残っていないが、どこか楽しそうにしている。
エリクは、それが少し嫌だった。
「クロヴィスとアースさんがどうなるか分からないんです。僕はナリアさんみたいに楽しめません」
エリクが口をとがらせると、ナリアはエリクの肩に手を当てた。
「あの二人は、船を借りに行ってくれているのですよ。応援いたしましょう」
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