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第十五章 黒い薔薇にキスを
誰だって苦手な物はある
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ナリアの書いたシナリオは、見事に一時間で仕上がった。ナリアが素早くタイプライターを叩いている間にほかの人間たちは着替えを始めた。
話は、ここにいるすべての人間が主人公の話で、最初に出てくるのはエリクとリゼットだった。
ナリアの台本が出来上がると、それはそこにいた全員に配られた。セリフは一人一つか二つで、覚えることも少なかった。ほとんどアドリブで演じられる内容だった。
「決まったセリフがほとんどないから、演技力任せってのはあるけど、なんか楽しそう」
ジャンヌが台本を眺めていると、その隣で難しい顔をしているクロヴィスが、その正面にいるアースを見た。
アースは、真っ青になっていた。
「おい、大丈夫か?」
声をかけても返事がない。台本を抱えたまま動かなかった。
その様子を見て、ナリアがクロヴィスにこう言った。
「気にすることはありません。彼は極端にダイコンなだけです。不得手な分野も克服しなければなりませんから、このままで構いません」
クロヴィスは、ナリアが恐ろしくなってきた。
「災難だな。最近あんたこんなことばっかりじゃないか」
真っ青になっているアースの肩に、クロヴィスは手をかけた。すると、すこし震えているのが分かった。
「助けてくれ、クロヴィス」
女装して化粧までされた美人顔が、崩れる。いつも冷静なアースの顔が崩れるのはかなり珍しかったが、彼が一番嫌うものが重なることで、一時的に硬いガードが崩れていた。
練習が始まると、一番元気になったのがリゼットだった。
台本を片手に、本番さながらに迫真の演技を見せていた。
「リゼットは芸術の才能があるみたいね」
セリーヌが驚いていると、ジャンヌが大きくため息をついた。
「あんなの、付け焼刃に決まっているじゃん。今にぼろが出るよ」
それを聞いていたリゼットが、ジャンヌに食って掛かる。
「その芸術が一つもできないあんたには言われたくないわ!」
叫んで男性陣の練習場所を見ると、ノリノリのエリクやセベルを尻目に、アースとクロヴィスが悩んでいた。二人でセリフを確認しあうと、それぞれの役のセリフを小さい声でつぶやく。
「あ~れ~」
アースの呟きはひどい棒読みで、明らかにやる気のない声だった。だが本人は必死で、化粧が崩れるほどにひどい汗をかきながら読んでいた。
「あ~れ~って、ちょっと俺たちには似合わないよな」
クロヴィスがフォローすると、アースは頷いた。
「なんでこんなこと」
そう言って、クロヴィスとともにしくしくと泣いていた。そこへナリアが勢いよくスリッパを投げ飛ばした。
「船一隻と乗員がかかっているのです。しっかりなさい」
ナリアのスパルタが、はじまった。
そこで練習をしていた全員が、彼女の恐ろしさを知った。台所の中にいて、その様子を見ていたマリアだけが、楽しそうに笑っていた。
話は、ここにいるすべての人間が主人公の話で、最初に出てくるのはエリクとリゼットだった。
ナリアの台本が出来上がると、それはそこにいた全員に配られた。セリフは一人一つか二つで、覚えることも少なかった。ほとんどアドリブで演じられる内容だった。
「決まったセリフがほとんどないから、演技力任せってのはあるけど、なんか楽しそう」
ジャンヌが台本を眺めていると、その隣で難しい顔をしているクロヴィスが、その正面にいるアースを見た。
アースは、真っ青になっていた。
「おい、大丈夫か?」
声をかけても返事がない。台本を抱えたまま動かなかった。
その様子を見て、ナリアがクロヴィスにこう言った。
「気にすることはありません。彼は極端にダイコンなだけです。不得手な分野も克服しなければなりませんから、このままで構いません」
クロヴィスは、ナリアが恐ろしくなってきた。
「災難だな。最近あんたこんなことばっかりじゃないか」
真っ青になっているアースの肩に、クロヴィスは手をかけた。すると、すこし震えているのが分かった。
「助けてくれ、クロヴィス」
女装して化粧までされた美人顔が、崩れる。いつも冷静なアースの顔が崩れるのはかなり珍しかったが、彼が一番嫌うものが重なることで、一時的に硬いガードが崩れていた。
練習が始まると、一番元気になったのがリゼットだった。
台本を片手に、本番さながらに迫真の演技を見せていた。
「リゼットは芸術の才能があるみたいね」
セリーヌが驚いていると、ジャンヌが大きくため息をついた。
「あんなの、付け焼刃に決まっているじゃん。今にぼろが出るよ」
それを聞いていたリゼットが、ジャンヌに食って掛かる。
「その芸術が一つもできないあんたには言われたくないわ!」
叫んで男性陣の練習場所を見ると、ノリノリのエリクやセベルを尻目に、アースとクロヴィスが悩んでいた。二人でセリフを確認しあうと、それぞれの役のセリフを小さい声でつぶやく。
「あ~れ~」
アースの呟きはひどい棒読みで、明らかにやる気のない声だった。だが本人は必死で、化粧が崩れるほどにひどい汗をかきながら読んでいた。
「あ~れ~って、ちょっと俺たちには似合わないよな」
クロヴィスがフォローすると、アースは頷いた。
「なんでこんなこと」
そう言って、クロヴィスとともにしくしくと泣いていた。そこへナリアが勢いよくスリッパを投げ飛ばした。
「船一隻と乗員がかかっているのです。しっかりなさい」
ナリアのスパルタが、はじまった。
そこで練習をしていた全員が、彼女の恐ろしさを知った。台所の中にいて、その様子を見ていたマリアだけが、楽しそうに笑っていた。
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