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第十五章 黒い薔薇にキスを
着飾る男たち
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ローマの街の中には、世界的に有名なブランドの洋服店がいくつもあった。女性服のブランドで、値段もそこそこ高かったので、皆は敬遠していた。しかし、今回に限ってはそうも言っていられなかった。
「エリクやセベルは可愛らしくしたいの。クロヴィスは眼帯があるからすごく女性らしいドレスがいいし、アースさんは相当な美人ですから、かなりレベルの高いブランドの服も着こなせるはず」
セリーヌはそう言うと、洋服店巡りを始めた。
エリクは少女のような容貌なので、薄い緑色のフレアスカートに麦わら帽子を合わせ、トップスは白く清涼感のあるブラウスに、黄色いリボンを合わせた。肌は白いので、金髪のロングヘアーのかつらがよく似合った。
セベルは背が高く筋肉質なので、白い花柄の黒いロングスカートに、灰色のキャミソール、ベージュのカーディガンを合わせた。ロングスカートはもっともサイズの大きいものを選んだが、それでもくるぶしあたりまで出てしまうので、黒い靴下を履いてもらった。ラテン系のセベルには、茶髪の三つ編みがよく似合った。
アースは、細身でスタイルもよく、顔立ちはアジア系のハーフで相当な美形だったので、誰も何も迷うことがなかった。高級ブランド店に行ってスリットの入った薄い紫のロングスカートと白いフリルのついたブラウスに濃い紫のリボンをつけて合わせ、白いハイヒールを履かせた。小物は日傘で、暗い紫に、青のラインが入っていた。髪は黒のストレート・ロングヘアにした。
「クロヴィスは悩むわね」
洋服店が並ぶ通りの前で、セリーヌは悩んでいた。女装したほかの男性が通りを歩く人の目を引く。エリクに投げキッスをする人もいたし、アースを二度見して見とれていく人もいた。セベルは見た目だけでも男に見えるので、通りを歩く人は優しく見守ってくれていた。
「次の犠牲者はクロヴィスか」
アースが呟くと、セリーヌの素早い視線が飛んできた。
「何か言いましたか?」
「いえ、何も」
セリーヌの視線はナリア並みに鋭かった。いま、彼女に逆らえば、間違いなく男性四人はナリアに責められる羽目になる。
セリーヌは、気を取り直してクロヴィスの着替えを買いに、近くにあったブティックに入った。クロヴィスは何かをぶつぶつ言っていたが、店に入ると腹をくくったのか、何も言わなくなった。
セリーヌは、クロヴィスの服を選ぶのにだいぶ時間をかけた。なかなか似合う服がなかったからだ。クロヴィスはいつも黒い服を着ているし、イメージは黒だったが、女性ものの黒は似合わない。
「色を変えるしかないわ。クロヴィスに似合いそうな色は何かしら?」
セリーヌが悩んでいると、エリクが手を挙げた。
「青がいいよ。クロヴィスは青や緑が似合うよ」
その意見で、ピンときたセリーヌは、クロヴィスを連れて違う店に走った。そこは老舗のドレス専門店で、きれいなドレスがいくつもショーウィンドウに飾ってあった。
「ドレスだ!」
エリクがはしゃぐ。ナリアが作ったリゼットたちのドレスも素敵だったが、やはりプロの作るものは違う。
店に入ると、ドレスを作るのに使う様々な布が置いてあった。オーダーメイドも受け付けているのだろう。セリーヌは店先にあるベルを鳴らして店主を呼んだ。
店主の女性はすぐ来た。恰幅のいい女性で、おしゃれな服を着ていた。
「お嬢さんが、服を仕立てるのかい?」
店主が聞くので、セリーヌは首を横に振った。
「いえ、ここにいる男性です。クロヴィスと言うのですが、事情があって女装をしなければならなくなったので来たんです」
すると、店主は真剣な顔をしてクロヴィスを見た。頭からつま先までじっと見ると、あごに手を当てて考え込んだ。
しばらくの間、店の中が静かになった。
エリクが緊張して唾をのむ。セベルはしきりにクロヴィスを見ていた。アースはあさっての方向を向いている。全員セリーヌが化粧を施していて、エリクなどはもう女の子にしか見えなかった。
そんな状態でしばらく待っていると、突然、店主の女性が手を叩いた。
「ちょっと待っててちょうだい!」
女性はそう言うと、店の奥に走って行った。セリーヌはそれを見て胸が高鳴った。どう見ても女にしか見えないエリクとアースは、もはやネタにはならないだろう。しかし、セベルとクロヴィスは違う。見た目だけでも笑いを誘える。
しばらく待っていると、店主が何かを抱えて戻ってきた。皆の前にある大きなテーブルの上にそれを広げると、セリーヌは歓声を上げた。
「この考え方はなかったわ! これをくださいな!」
「エリクやセベルは可愛らしくしたいの。クロヴィスは眼帯があるからすごく女性らしいドレスがいいし、アースさんは相当な美人ですから、かなりレベルの高いブランドの服も着こなせるはず」
セリーヌはそう言うと、洋服店巡りを始めた。
エリクは少女のような容貌なので、薄い緑色のフレアスカートに麦わら帽子を合わせ、トップスは白く清涼感のあるブラウスに、黄色いリボンを合わせた。肌は白いので、金髪のロングヘアーのかつらがよく似合った。
セベルは背が高く筋肉質なので、白い花柄の黒いロングスカートに、灰色のキャミソール、ベージュのカーディガンを合わせた。ロングスカートはもっともサイズの大きいものを選んだが、それでもくるぶしあたりまで出てしまうので、黒い靴下を履いてもらった。ラテン系のセベルには、茶髪の三つ編みがよく似合った。
アースは、細身でスタイルもよく、顔立ちはアジア系のハーフで相当な美形だったので、誰も何も迷うことがなかった。高級ブランド店に行ってスリットの入った薄い紫のロングスカートと白いフリルのついたブラウスに濃い紫のリボンをつけて合わせ、白いハイヒールを履かせた。小物は日傘で、暗い紫に、青のラインが入っていた。髪は黒のストレート・ロングヘアにした。
「クロヴィスは悩むわね」
洋服店が並ぶ通りの前で、セリーヌは悩んでいた。女装したほかの男性が通りを歩く人の目を引く。エリクに投げキッスをする人もいたし、アースを二度見して見とれていく人もいた。セベルは見た目だけでも男に見えるので、通りを歩く人は優しく見守ってくれていた。
「次の犠牲者はクロヴィスか」
アースが呟くと、セリーヌの素早い視線が飛んできた。
「何か言いましたか?」
「いえ、何も」
セリーヌの視線はナリア並みに鋭かった。いま、彼女に逆らえば、間違いなく男性四人はナリアに責められる羽目になる。
セリーヌは、気を取り直してクロヴィスの着替えを買いに、近くにあったブティックに入った。クロヴィスは何かをぶつぶつ言っていたが、店に入ると腹をくくったのか、何も言わなくなった。
セリーヌは、クロヴィスの服を選ぶのにだいぶ時間をかけた。なかなか似合う服がなかったからだ。クロヴィスはいつも黒い服を着ているし、イメージは黒だったが、女性ものの黒は似合わない。
「色を変えるしかないわ。クロヴィスに似合いそうな色は何かしら?」
セリーヌが悩んでいると、エリクが手を挙げた。
「青がいいよ。クロヴィスは青や緑が似合うよ」
その意見で、ピンときたセリーヌは、クロヴィスを連れて違う店に走った。そこは老舗のドレス専門店で、きれいなドレスがいくつもショーウィンドウに飾ってあった。
「ドレスだ!」
エリクがはしゃぐ。ナリアが作ったリゼットたちのドレスも素敵だったが、やはりプロの作るものは違う。
店に入ると、ドレスを作るのに使う様々な布が置いてあった。オーダーメイドも受け付けているのだろう。セリーヌは店先にあるベルを鳴らして店主を呼んだ。
店主の女性はすぐ来た。恰幅のいい女性で、おしゃれな服を着ていた。
「お嬢さんが、服を仕立てるのかい?」
店主が聞くので、セリーヌは首を横に振った。
「いえ、ここにいる男性です。クロヴィスと言うのですが、事情があって女装をしなければならなくなったので来たんです」
すると、店主は真剣な顔をしてクロヴィスを見た。頭からつま先までじっと見ると、あごに手を当てて考え込んだ。
しばらくの間、店の中が静かになった。
エリクが緊張して唾をのむ。セベルはしきりにクロヴィスを見ていた。アースはあさっての方向を向いている。全員セリーヌが化粧を施していて、エリクなどはもう女の子にしか見えなかった。
そんな状態でしばらく待っていると、突然、店主の女性が手を叩いた。
「ちょっと待っててちょうだい!」
女性はそう言うと、店の奥に走って行った。セリーヌはそれを見て胸が高鳴った。どう見ても女にしか見えないエリクとアースは、もはやネタにはならないだろう。しかし、セベルとクロヴィスは違う。見た目だけでも笑いを誘える。
しばらく待っていると、店主が何かを抱えて戻ってきた。皆の前にある大きなテーブルの上にそれを広げると、セリーヌは歓声を上げた。
「この考え方はなかったわ! これをくださいな!」
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