109 / 147
第十四章 花椒
意外な一面
しおりを挟む
大都市ローマは、外にも内にも開かれた町だった。街の入り口にある検問所では、街に入れてはいけない幾つかの食材と交易品をチェックするだけだった。ほとんどの荷物がうまく通り、街の中に入ると、いきなり高い建物がたくさんある市街地に出た。街のなかは緑地が整備され、高い建物も一番高いもので五階建てだった。
「質のいいインスラが整備されているのです」
ナリアが、誰ともなく語りかけると、セリーヌがそれをフォローする。
「インスラは、はるか昔のローマが作っていた集合住宅のようなもの、と、この間誰かに聞きました」
セリーヌは楽しそうにしている。様々な遺跡が残る街の中が、あまりにもきれいだったからだ。
ローマの街は、緑地が整備されて遺跡や史跡が多く残るだけではなく、皆が見たこともない珍しいものが売っている楽しい街でもあった。アースによると、地球のローマよりも街並みはきれいで、道の幅や建物の間も広いという。
ナリアは、先に斥候として行かせたジルに取らせた場所を確認した。
「コロッセオという大きな遺跡があります」
ナリアは、町の広場にある大きな噴水の前でみんなを集めて説明をした。
「その遺跡のある場所は、土地も大きくとってありますから、レストランを開くのも容易でしょう。わたくしはレストラン設営の許可を取ってきます。エリクとアース、エーテリエは買い出しに行ってください。ジャンヌとクロヴィス、セリーヌとリゼットはそれぞれ打合せを。セベルは衛生管理の資格を取りに行ってください」
ナリアがそう言うと、皆はそれぞれの役割をこなすために散って行った。
それぞれの役割をこなしながら、コロッセオの広場に向かう。ジャンヌたちも例外ではなかった。いまだに黙ったまま歩いているジャンヌとクロヴィスを見て、リゼットがため息をつく。
「アース様も、ナリア様も、セベルさんもいない。不安なのは分けるけど、たまには私たちも頼りにしてほしいものだわ」
そんなリゼットを見て、ジャンヌもため息をついた。
「あんたなんかに頼ることなんてひとつもない。頼りにしたところで何ができるっていうのよ。私たちのことは私たちで何とかするから、ほっといてよ」
「そうはいかないわ」
セリーヌが、そう言って腰に手をやった。ため息をついて苦笑いを浮かべる。
「ここにいる四人みんなが話し合わなければ、レストランは運営できないでしょ? 客引きのリゼットだって、どこでやれば接客の邪魔にならないのか分からないし、いつやればいいのかもわからない。私も、会計の声掛けがなければ会計のしようがないし、メニューは覚えていても、ジャンヌたちほど味に詳しいわけでもないもの。二人は、ずっとアースさんについていて料理の味にも詳しいはず。どのお客さんが何をどれだけ食べたのかを紙に書いてくれなければ困るし、そこに書かれた字も読めなければ困るわ。ジャンヌは字が書けないから、料理を運んだり、注文を暗記したりするでしょ? それを紙に書くのは私やクロヴィスなのよ。連携が取れていないと困るの。私たちホール係と厨房、客引き、それぞれがバラバラじゃいけないのよ」
セリーヌは、そう話してほかの三人を見た。よく見ると、遠くに食材を抱えて歩くエリクたちが見える。もう一仕事終えようとしているのだ。
「市場はこの近くなのかしら?」
ふと、リゼットが呟く。
「私たちって、レストランが開くまで、何もやることがないのかしら?」
すると、セリーヌは首を横に振った。
「メニューを書く、それを印刷しに印刷所に持ち込む。メニューの価格を覚えて、お釣りを用意しに換金所に行く。これは私の仕事。レストランの設営をしながら、お客さんの座る席の番号を確認する、座席の配置を工夫する。でないとホール係は動きづらいし、お客さんも歩けない。食べるのに必要なソースや調味料も配置する。調理師免許と土地の使用許可書、衛生管理免許の書類を張り付ける場所を確保する。客引き係のフルートを演奏する時間帯と場所を決める。同じ料理が出てきたときにどの席にいくつ配置するか、紛らわしい料理がどれとどれか、そう言ったことを厨房と相談する。とにかくやることはたくさんあるわ」
コロッセオに行くまでの間、説明を続けるセリーヌに、ほかの三人は何も言えなかった。ただ、口をあんぐり開けて聞いているしかなかった。
三人のうち、リゼットが口を開けるようになったのは、コロッセオにあるレストラン設営場所に着いた時だった。
「セリーヌはどうしてそんなにレストランに詳しいの?」
そう聞かれて、セリーヌは顔を赤らめた。
「私がいたニッコウキスゲの街で、レストランのアルバイトをしていたから」
三人は、それを聞いて歓声を上げた。
「人は分からないもんだね」
ジャンヌが何気なくそう言ってきたので、クロヴィスは、少し戸惑いがちに返事をした。すると、ジャンヌは顔を赤くしてうつむいてしまった。再び互いから目を逸らすジャンヌとクロヴィスを見て、リゼットがまた、ため息をついた。
「まあいいわ。レストランの設営が始まっているわよ。厨房係とセベルさんにナリアさんも来ているから、みんなで打合せよ」
四人は、それ以上何も言わないまま、きれいな石畳が敷かれた広場へと入って行った。
「質のいいインスラが整備されているのです」
ナリアが、誰ともなく語りかけると、セリーヌがそれをフォローする。
「インスラは、はるか昔のローマが作っていた集合住宅のようなもの、と、この間誰かに聞きました」
セリーヌは楽しそうにしている。様々な遺跡が残る街の中が、あまりにもきれいだったからだ。
ローマの街は、緑地が整備されて遺跡や史跡が多く残るだけではなく、皆が見たこともない珍しいものが売っている楽しい街でもあった。アースによると、地球のローマよりも街並みはきれいで、道の幅や建物の間も広いという。
ナリアは、先に斥候として行かせたジルに取らせた場所を確認した。
「コロッセオという大きな遺跡があります」
ナリアは、町の広場にある大きな噴水の前でみんなを集めて説明をした。
「その遺跡のある場所は、土地も大きくとってありますから、レストランを開くのも容易でしょう。わたくしはレストラン設営の許可を取ってきます。エリクとアース、エーテリエは買い出しに行ってください。ジャンヌとクロヴィス、セリーヌとリゼットはそれぞれ打合せを。セベルは衛生管理の資格を取りに行ってください」
ナリアがそう言うと、皆はそれぞれの役割をこなすために散って行った。
それぞれの役割をこなしながら、コロッセオの広場に向かう。ジャンヌたちも例外ではなかった。いまだに黙ったまま歩いているジャンヌとクロヴィスを見て、リゼットがため息をつく。
「アース様も、ナリア様も、セベルさんもいない。不安なのは分けるけど、たまには私たちも頼りにしてほしいものだわ」
そんなリゼットを見て、ジャンヌもため息をついた。
「あんたなんかに頼ることなんてひとつもない。頼りにしたところで何ができるっていうのよ。私たちのことは私たちで何とかするから、ほっといてよ」
「そうはいかないわ」
セリーヌが、そう言って腰に手をやった。ため息をついて苦笑いを浮かべる。
「ここにいる四人みんなが話し合わなければ、レストランは運営できないでしょ? 客引きのリゼットだって、どこでやれば接客の邪魔にならないのか分からないし、いつやればいいのかもわからない。私も、会計の声掛けがなければ会計のしようがないし、メニューは覚えていても、ジャンヌたちほど味に詳しいわけでもないもの。二人は、ずっとアースさんについていて料理の味にも詳しいはず。どのお客さんが何をどれだけ食べたのかを紙に書いてくれなければ困るし、そこに書かれた字も読めなければ困るわ。ジャンヌは字が書けないから、料理を運んだり、注文を暗記したりするでしょ? それを紙に書くのは私やクロヴィスなのよ。連携が取れていないと困るの。私たちホール係と厨房、客引き、それぞれがバラバラじゃいけないのよ」
セリーヌは、そう話してほかの三人を見た。よく見ると、遠くに食材を抱えて歩くエリクたちが見える。もう一仕事終えようとしているのだ。
「市場はこの近くなのかしら?」
ふと、リゼットが呟く。
「私たちって、レストランが開くまで、何もやることがないのかしら?」
すると、セリーヌは首を横に振った。
「メニューを書く、それを印刷しに印刷所に持ち込む。メニューの価格を覚えて、お釣りを用意しに換金所に行く。これは私の仕事。レストランの設営をしながら、お客さんの座る席の番号を確認する、座席の配置を工夫する。でないとホール係は動きづらいし、お客さんも歩けない。食べるのに必要なソースや調味料も配置する。調理師免許と土地の使用許可書、衛生管理免許の書類を張り付ける場所を確保する。客引き係のフルートを演奏する時間帯と場所を決める。同じ料理が出てきたときにどの席にいくつ配置するか、紛らわしい料理がどれとどれか、そう言ったことを厨房と相談する。とにかくやることはたくさんあるわ」
コロッセオに行くまでの間、説明を続けるセリーヌに、ほかの三人は何も言えなかった。ただ、口をあんぐり開けて聞いているしかなかった。
三人のうち、リゼットが口を開けるようになったのは、コロッセオにあるレストラン設営場所に着いた時だった。
「セリーヌはどうしてそんなにレストランに詳しいの?」
そう聞かれて、セリーヌは顔を赤らめた。
「私がいたニッコウキスゲの街で、レストランのアルバイトをしていたから」
三人は、それを聞いて歓声を上げた。
「人は分からないもんだね」
ジャンヌが何気なくそう言ってきたので、クロヴィスは、少し戸惑いがちに返事をした。すると、ジャンヌは顔を赤くしてうつむいてしまった。再び互いから目を逸らすジャンヌとクロヴィスを見て、リゼットがまた、ため息をついた。
「まあいいわ。レストランの設営が始まっているわよ。厨房係とセベルさんにナリアさんも来ているから、みんなで打合せよ」
四人は、それ以上何も言わないまま、きれいな石畳が敷かれた広場へと入って行った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる