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第十四章 花椒
レストラン構想
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宿に連泊した次の日の朝、遅い朝食を食べた後、ジャンヌは同室のリゼットがトイレに行っているのを見計らって部屋を早く出て、先に外に出ていた。すると、宿の庭先にある何かの木の実を、ナリアが摘んでいた。
「旅の間にこれを乾かすのですよ。アースが、これがこの先とても役に立つからって。でも、どうしてこれがこんな場所にあるのでしょうか」
ナリアは、そう言って笑った。
「これはなんていうんです?」
ジャンヌは、ナリアの笑顔にほっとした。ホッとしたら、自分の考えていたことがだいぶしみったれたことのように思えてきた。
「これは、昔、四川料理という、とても辛くておいしい料理に使われていたスパイスだと言っていました。ローマで中華料理の仮設レストランを作る予定ですから、中国各地の料理を知っているアースにお願いしたのです。たしか、ホアジャオとか」
「大きな町でレストランやるんですか!」
ジャンヌは、ナリアの話をほとんど聞いていなかった。自分で聞いた実の名前すら吹っ飛んでいた。それくらい、大都市でレストランをやるという衝撃は大きなものだった。
ナリアは、ジャンヌに微笑みかけた。
「ジャンヌ、あなたにはウェイトレスをやっていただこうと思うのです。だから、これからの長い旅の間に、できるだけ多くの料理とその味を皆で確かめ合おうと思うのです。なので、ここで鶏を仕入れて絞め、スープを作って凝固させて持ち歩きたい。大きな町では東からやってきた商人が鶏や食材をたくさん売っていますから、市場に行けばあるでしょう。ここでは調達できるだけの食糧を調達して、できるだけの料理を作りたい。料理の名前と味は、アースが教えてくれるでしょうから、字のきれいなセリーヌにメニューを書いてもらいます。本人にはもう話してありますから、あとはウェイトレスのあなたに了解をもらうだけなのです」
ホアジャオを摘みながらナリアは愉しそうに話していた。それを見ていて、ジャンヌはなんだかわくわくした。
「皆で協力してつくるレストランか、楽しそう!」
ジャンヌがそう言ってガッツポーズをとると、ナリアは嬉しそうに頷いた。
「皆さんそれぞれに役割がありますから、頑張ってくださいね」
「役割って、私やセリーヌ以外にも?」
ナリアは、にこにこと笑って答えた。
「リゼットは客引きの楽器であるフルートを吹くと言って頑張っていますよ。料理はアースにやらせます。彼は自分がどんな料理人よりも料理の腕が立つことを今まで隠してきました。罰です。セリーヌはお会計係で、ジャンヌはウェイトレス。セベルはお酒や飲み物を作ってくれますし、エリクは初めてのことだらけですから、色々覚えるのは大変でしょう。だから、食材をその時々に応じて調達してもらうようにします。市場との往復だけですからそんなに迷うことはないと思います。念のため、旅慣れているエーテリエを付けましょう」
そこまで言うと、ナリアは小さな実を摘むのをやめた。ナリアが持っている籠の中にはたくさんのホアジャオの実がある。
「わたくしも、この実の味ははっきりとは分からないのです」
ナリアは、笑ってそう言った。
「ジャンヌ、レストランには必ずたくさんのお客さんが入ります。アースの料理にはそれだけの力がある。だから、体力勝負のウェイターやウェイトレスには、もう一人、あなたと一緒に、クロヴィスを当てたいのです」
ジャンヌはそれを聞いて、ドキリとした。胸が苦しくなり、心臓が早鐘を打つ。
「クロヴィスと、あたしが?」
ナリアは、籠の中の実を皮の袋に開けた。
ジャンヌは、自分の手に力を込めた。手に持っているカバンのひもに、汗がにじむ。気が付いたら、歯を食いしばっていた。
「嫌だな。あいつと一緒に仕事はしたくない」
そのセリフを言った途端、ジャンヌは自分の胸が締め付けられるように痛くなるのが分かった。嫌なことを言った。自分で自分を傷つけるようなことを言った。それが分かっているのに、やめられない。
ナリアは、そんなジャンヌを見て、少し何かを考えて、そして、何かを言おうと口を開いた。すると、そこへ、フレデリクを連れたクロヴィスがやってきた。
それを見て、ジャンヌは逃げた。
ナリアのもとから立ち去り、宿の庭を抜けて、クロヴィスのいる宿の玄関ではない、従業員の通用口のほうへ。
「ジャンヌは、泣いていました」
ナリアは、ジャンヌが逃げた方向を見たまま、クロヴィスのほうに振り向くことはなかった。クロヴィスは何も言わずに立ち去り、その場にあった石を手に取り、地面にたたきつけた。
「視界が開けるまでは、耐えるしかないのです」
ナリアは、そう言うと、小さな木の実が入った袋を、フレデリクに担がせるためにその場を立った。ホアジャオの木の陰に、小さくうずくまるリゼットを残して。
「旅の間にこれを乾かすのですよ。アースが、これがこの先とても役に立つからって。でも、どうしてこれがこんな場所にあるのでしょうか」
ナリアは、そう言って笑った。
「これはなんていうんです?」
ジャンヌは、ナリアの笑顔にほっとした。ホッとしたら、自分の考えていたことがだいぶしみったれたことのように思えてきた。
「これは、昔、四川料理という、とても辛くておいしい料理に使われていたスパイスだと言っていました。ローマで中華料理の仮設レストランを作る予定ですから、中国各地の料理を知っているアースにお願いしたのです。たしか、ホアジャオとか」
「大きな町でレストランやるんですか!」
ジャンヌは、ナリアの話をほとんど聞いていなかった。自分で聞いた実の名前すら吹っ飛んでいた。それくらい、大都市でレストランをやるという衝撃は大きなものだった。
ナリアは、ジャンヌに微笑みかけた。
「ジャンヌ、あなたにはウェイトレスをやっていただこうと思うのです。だから、これからの長い旅の間に、できるだけ多くの料理とその味を皆で確かめ合おうと思うのです。なので、ここで鶏を仕入れて絞め、スープを作って凝固させて持ち歩きたい。大きな町では東からやってきた商人が鶏や食材をたくさん売っていますから、市場に行けばあるでしょう。ここでは調達できるだけの食糧を調達して、できるだけの料理を作りたい。料理の名前と味は、アースが教えてくれるでしょうから、字のきれいなセリーヌにメニューを書いてもらいます。本人にはもう話してありますから、あとはウェイトレスのあなたに了解をもらうだけなのです」
ホアジャオを摘みながらナリアは愉しそうに話していた。それを見ていて、ジャンヌはなんだかわくわくした。
「皆で協力してつくるレストランか、楽しそう!」
ジャンヌがそう言ってガッツポーズをとると、ナリアは嬉しそうに頷いた。
「皆さんそれぞれに役割がありますから、頑張ってくださいね」
「役割って、私やセリーヌ以外にも?」
ナリアは、にこにこと笑って答えた。
「リゼットは客引きの楽器であるフルートを吹くと言って頑張っていますよ。料理はアースにやらせます。彼は自分がどんな料理人よりも料理の腕が立つことを今まで隠してきました。罰です。セリーヌはお会計係で、ジャンヌはウェイトレス。セベルはお酒や飲み物を作ってくれますし、エリクは初めてのことだらけですから、色々覚えるのは大変でしょう。だから、食材をその時々に応じて調達してもらうようにします。市場との往復だけですからそんなに迷うことはないと思います。念のため、旅慣れているエーテリエを付けましょう」
そこまで言うと、ナリアは小さな実を摘むのをやめた。ナリアが持っている籠の中にはたくさんのホアジャオの実がある。
「わたくしも、この実の味ははっきりとは分からないのです」
ナリアは、笑ってそう言った。
「ジャンヌ、レストランには必ずたくさんのお客さんが入ります。アースの料理にはそれだけの力がある。だから、体力勝負のウェイターやウェイトレスには、もう一人、あなたと一緒に、クロヴィスを当てたいのです」
ジャンヌはそれを聞いて、ドキリとした。胸が苦しくなり、心臓が早鐘を打つ。
「クロヴィスと、あたしが?」
ナリアは、籠の中の実を皮の袋に開けた。
ジャンヌは、自分の手に力を込めた。手に持っているカバンのひもに、汗がにじむ。気が付いたら、歯を食いしばっていた。
「嫌だな。あいつと一緒に仕事はしたくない」
そのセリフを言った途端、ジャンヌは自分の胸が締め付けられるように痛くなるのが分かった。嫌なことを言った。自分で自分を傷つけるようなことを言った。それが分かっているのに、やめられない。
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それを見て、ジャンヌは逃げた。
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「視界が開けるまでは、耐えるしかないのです」
ナリアは、そう言うと、小さな木の実が入った袋を、フレデリクに担がせるためにその場を立った。ホアジャオの木の陰に、小さくうずくまるリゼットを残して。
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