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第十三章 ルッコラ
想いのゆくえ
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ナリアを決してコンテストに出してはいけない。
アースは、エリクたちにそう言っていた。しかし、エリクたちが出すまでもなく、ナリアはコンテストに出場していた。
「出ているなら、それでいいんじゃないか。審査を通ったってことは、星の人だってこともバレていないだろうし」
クロヴィスは、どこから持ってきたのか、飴の袋から飴を取り出してなめ始めた。長時間に及ぶコンテストを、飴をなめながら見ようという算段なのか。
エリクは、クロヴィスの言ったことに一抹の不安を覚えた。
「でも、アースさんの言っていたことも気になるよ。ナリアさんが出ると、きっといいことがない」
すると、クロヴィスとセリーヌの目が座った。二人ともにやにやすると、エリクの背を勢い良く叩いた。
「何するの、二人とも!」
セリーヌがくすくすと笑う。
「大丈夫よ、エリク。きっとティエラさんが勝つわ」
エリクは、それを聞いて真っ赤になった。さっきの呟きは聞かれていたのだ。
「セリーヌ、それ、ずるいよ」
すると、今度はクロヴィスが真顔でエリクの肩に手を置いた。
「大丈夫だ、エリク。何かよくわからないが、俺も、あの黒髪のティエラって子が勝つ気がする。星の人であるナリアさんを超える美女か、興味深い」
「あのティエラさんが、エリクの初恋の子なのよね」
セリーヌが、嬉しそうに、ティエラを指さす。彼女は、ちょうど司会者に紹介されたところで、少し憂いの残る表情に、笑みを含ませていた。
「あの表情がいいんだろうな。色っぽい。ナリアさんは相変わらず不気味だし、リゼットとジャンヌは、あれは厚化粧だな、やりすぎだ」
舞台を指さして、飴を入れた口を、クロヴィスが動かす。まるで審査員であるかのような口ぶりに、セリーヌとエリクは笑った。
「ナリアさんよりティエラのほうがきれいだよね。うん。でも、僕は、彼女に優勝してほしくないんだ」
エリクが不安を口にすると、クロヴィスとセリーヌは笑った。
「分かるわ、エリク。その独占欲が、恋」
セリーヌは、そう言ってエリクの手を握った。独占欲、本当にそれなのだろうか。エリクは、もっと昔からティエラのことを知っている気がする。懐かしくて、なんだか少し、切ない。
恋というものは、そういうものなのだろうか? こんなにも切なくて、懐かしくて、相手を求めてしまうものなのだろうか?
エリクが考え込んでいると、舞台にいるすべての女性が紹介され、それぞれを審査するために、審査員と会場に点数票が配られた。エリクたちのところにもそれは来て、会場のすべての人間にそれは行き渡った。
「エリクは、ティエラさんに投票するの?」
セリーヌが聞いてきたが、エリクには答えることができなかった。どのみち、皆ティエラに投票するだろうし、エリクの一票で何かが変わるとは思えない。しかし、エリク自身の気持ちをティエラに伝えたくもあった。
そんなエリクの気持ちを知っているセリーヌは、エリクが持つ、白紙の投票用紙を見た。そして、こう言った。
「エリク、自分に正直になったほうがいいわ。これからどうなるかとか、彼女をどうしたいとか、そう言う不安や欲求をかなぐり捨てれば、きっと自分の気持ちが分かる」
そう言われて、エリクはセリーヌを見た。彼女は笑っている。少なくとも、このことでエリクをからかう気ではないのだろう。
「やってみるよ、セリーヌ」
エリクはそう言って、紙に付いていたペンをとり、ティエラの名前をそこに書いた。
「ティエラのことが好きなんだ」
そう言って、紙を折りたたむと、投票用紙の回収に来た係員にそれを渡した。
アースは、エリクたちにそう言っていた。しかし、エリクたちが出すまでもなく、ナリアはコンテストに出場していた。
「出ているなら、それでいいんじゃないか。審査を通ったってことは、星の人だってこともバレていないだろうし」
クロヴィスは、どこから持ってきたのか、飴の袋から飴を取り出してなめ始めた。長時間に及ぶコンテストを、飴をなめながら見ようという算段なのか。
エリクは、クロヴィスの言ったことに一抹の不安を覚えた。
「でも、アースさんの言っていたことも気になるよ。ナリアさんが出ると、きっといいことがない」
すると、クロヴィスとセリーヌの目が座った。二人ともにやにやすると、エリクの背を勢い良く叩いた。
「何するの、二人とも!」
セリーヌがくすくすと笑う。
「大丈夫よ、エリク。きっとティエラさんが勝つわ」
エリクは、それを聞いて真っ赤になった。さっきの呟きは聞かれていたのだ。
「セリーヌ、それ、ずるいよ」
すると、今度はクロヴィスが真顔でエリクの肩に手を置いた。
「大丈夫だ、エリク。何かよくわからないが、俺も、あの黒髪のティエラって子が勝つ気がする。星の人であるナリアさんを超える美女か、興味深い」
「あのティエラさんが、エリクの初恋の子なのよね」
セリーヌが、嬉しそうに、ティエラを指さす。彼女は、ちょうど司会者に紹介されたところで、少し憂いの残る表情に、笑みを含ませていた。
「あの表情がいいんだろうな。色っぽい。ナリアさんは相変わらず不気味だし、リゼットとジャンヌは、あれは厚化粧だな、やりすぎだ」
舞台を指さして、飴を入れた口を、クロヴィスが動かす。まるで審査員であるかのような口ぶりに、セリーヌとエリクは笑った。
「ナリアさんよりティエラのほうがきれいだよね。うん。でも、僕は、彼女に優勝してほしくないんだ」
エリクが不安を口にすると、クロヴィスとセリーヌは笑った。
「分かるわ、エリク。その独占欲が、恋」
セリーヌは、そう言ってエリクの手を握った。独占欲、本当にそれなのだろうか。エリクは、もっと昔からティエラのことを知っている気がする。懐かしくて、なんだか少し、切ない。
恋というものは、そういうものなのだろうか? こんなにも切なくて、懐かしくて、相手を求めてしまうものなのだろうか?
エリクが考え込んでいると、舞台にいるすべての女性が紹介され、それぞれを審査するために、審査員と会場に点数票が配られた。エリクたちのところにもそれは来て、会場のすべての人間にそれは行き渡った。
「エリクは、ティエラさんに投票するの?」
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そんなエリクの気持ちを知っているセリーヌは、エリクが持つ、白紙の投票用紙を見た。そして、こう言った。
「エリク、自分に正直になったほうがいいわ。これからどうなるかとか、彼女をどうしたいとか、そう言う不安や欲求をかなぐり捨てれば、きっと自分の気持ちが分かる」
そう言われて、エリクはセリーヌを見た。彼女は笑っている。少なくとも、このことでエリクをからかう気ではないのだろう。
「やってみるよ、セリーヌ」
エリクはそう言って、紙に付いていたペンをとり、ティエラの名前をそこに書いた。
「ティエラのことが好きなんだ」
そう言って、紙を折りたたむと、投票用紙の回収に来た係員にそれを渡した。
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