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第十三章 ルッコラ
美女のかんざし
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それは、大変なことだった。
男性二人が泊まるツインルームに、超絶美女がいた。
そんなことは本来あってはならないはずだ。どこからそんなものが流れ込んできたのだろうか。
エリクが粟を食ってクロヴィスのところにやってきたので、ほかの人間も呼ばれて、再びカフェに集まった。
「その女の人って、どんな感じだったの?」
リゼットが聞いてきたので、エリクは自分が思い出せる限りの特徴を彼女に告げた。
「黒くて長い髪の女の人だった。すごくきれいな髪の毛なんだ。神秘的な人で、すらりとしていて、スタイルが良くて、体の線が出るような、スリットの入ったきれいなドレスを着ていたんだ。ドレスの色は青で、瞳の色も同じような青だった。とにかくきれいだったんだ。僕がビックリしたら、その人も僕を見てびっくりしてた。それで、ちょっと目のところが赤くなっていて、あれは泣いていたのかな」
「泣いていた? エリクの部屋で、神秘的な黒髪美女が?」
クロヴィスの声が裏返っていた。
「羨ましいぜ。でもエリク、お前一体その人に何をしたんだよ?」
クロヴィスは、そう言いながらエリクに詰め寄った。しかし、エリクはどう答えたらいいかわからず、困惑するだけだった。
「分からないよ、クロヴィス。僕はすぐに逃げてきちゃったんだから」
エリクが困っていると、その背中を受け止めて、セリーヌがなだめた。
「エリクの言っていることは本当よ、クロヴィス。責めてはいけないわ。でもエリク、あなたが逃げてきたっていうことは、その女の人がその後どうなったのか、分からないってことよね?」
エリクは、頷いた。
「ごめん。でも、さっき僕の部屋に行ったら、もう誰もいなくて。でも、女の人がいたベッドに、これが落ちていたんだ」
エリクは、そう言って何かの串をテーブルの上に出した。
「これ、何だろう? 串に飾りがついてる。ヒスイみたいな玉だね。きれい」
ジャンヌはそう言うと、その串を持ち上げて、光にかざしてみた。
黒く塗られた串の先には丸いヒスイの玉が付いていて、そのまわりに、かわいらしい桃の花をかたどった飾りがついていた。ほんのり優しく、いい香りが香ってくる。
皆がそれを観察していると、そこにナリアが、セベルとともにやってきた。
「それは、かんざしですね」
ナリアは、その串を見るなり、それがなんであるのかを言い当てた。女性だから知っていたのか、それとも、この星すべての文化に通じる星の人だから言えたのか。
ナリアは、そのまま嬉しそうにその場を去って行った。
「なんか怪しい」
ジャンヌが、去っていくナリアを見て、呟いた。その足を、リゼットが蹴る。
「何すんのよ、このチビ!」
ジャンヌが怒ると、リゼットも怒った。
「何すんのよ、じゃないわよ、このコソ泥! いいわ、今日こそ決着をつけようじゃないの。表に出なさい」
「いい度胸じゃない。望むところよ!」
喧嘩を始めたリゼットとジャンヌを、クロヴィスとエリクが抑える。セリーヌは二人の間に入って、なんとか激化を食い止めようとしていた。
すると、そこに、かなり疲れた顔をしたアースが入ってきて、席に着くと、店員にコーヒーを一杯、注文した。
「そういえば、あんた達はどこで何をしていたんだ?」
クロヴィスが問うと、ジャンヌとリゼットが静かになった。
アースは、ひとつ、大きなため息をつくと、クロヴィスとエリクを見比べた。
「クロヴィス、助けてくれ」
そう言って、頭を抱えてしまった。
クロヴィスとエリクは、互いに顔を見合わせて、何が起こったのか確認した。
「待て、一体何があったんだ?」
クロヴィスは問い返した。しかし、きちんとした答えは返ってこなかった。
その場にいた全員が静かになった。リゼットとジャンヌの喧嘩も収まっていた。
しばらくすると、コーヒーが来たので、同じ店員に、全員がコーヒーのお替りを頼んだ。まだここにいて、アースから悩みごとの原因を聞きだしたかったからだ。
しかし、その原因を聞きだすことはできなかった。ただ、彼は、コーヒーを飲んで目を座らせ、よくわからない地方の言葉で管を巻きながら、最後に、英語で、こう言った。
「ミスコンなど、滅びてしまえ!」
男性二人が泊まるツインルームに、超絶美女がいた。
そんなことは本来あってはならないはずだ。どこからそんなものが流れ込んできたのだろうか。
エリクが粟を食ってクロヴィスのところにやってきたので、ほかの人間も呼ばれて、再びカフェに集まった。
「その女の人って、どんな感じだったの?」
リゼットが聞いてきたので、エリクは自分が思い出せる限りの特徴を彼女に告げた。
「黒くて長い髪の女の人だった。すごくきれいな髪の毛なんだ。神秘的な人で、すらりとしていて、スタイルが良くて、体の線が出るような、スリットの入ったきれいなドレスを着ていたんだ。ドレスの色は青で、瞳の色も同じような青だった。とにかくきれいだったんだ。僕がビックリしたら、その人も僕を見てびっくりしてた。それで、ちょっと目のところが赤くなっていて、あれは泣いていたのかな」
「泣いていた? エリクの部屋で、神秘的な黒髪美女が?」
クロヴィスの声が裏返っていた。
「羨ましいぜ。でもエリク、お前一体その人に何をしたんだよ?」
クロヴィスは、そう言いながらエリクに詰め寄った。しかし、エリクはどう答えたらいいかわからず、困惑するだけだった。
「分からないよ、クロヴィス。僕はすぐに逃げてきちゃったんだから」
エリクが困っていると、その背中を受け止めて、セリーヌがなだめた。
「エリクの言っていることは本当よ、クロヴィス。責めてはいけないわ。でもエリク、あなたが逃げてきたっていうことは、その女の人がその後どうなったのか、分からないってことよね?」
エリクは、頷いた。
「ごめん。でも、さっき僕の部屋に行ったら、もう誰もいなくて。でも、女の人がいたベッドに、これが落ちていたんだ」
エリクは、そう言って何かの串をテーブルの上に出した。
「これ、何だろう? 串に飾りがついてる。ヒスイみたいな玉だね。きれい」
ジャンヌはそう言うと、その串を持ち上げて、光にかざしてみた。
黒く塗られた串の先には丸いヒスイの玉が付いていて、そのまわりに、かわいらしい桃の花をかたどった飾りがついていた。ほんのり優しく、いい香りが香ってくる。
皆がそれを観察していると、そこにナリアが、セベルとともにやってきた。
「それは、かんざしですね」
ナリアは、その串を見るなり、それがなんであるのかを言い当てた。女性だから知っていたのか、それとも、この星すべての文化に通じる星の人だから言えたのか。
ナリアは、そのまま嬉しそうにその場を去って行った。
「なんか怪しい」
ジャンヌが、去っていくナリアを見て、呟いた。その足を、リゼットが蹴る。
「何すんのよ、このチビ!」
ジャンヌが怒ると、リゼットも怒った。
「何すんのよ、じゃないわよ、このコソ泥! いいわ、今日こそ決着をつけようじゃないの。表に出なさい」
「いい度胸じゃない。望むところよ!」
喧嘩を始めたリゼットとジャンヌを、クロヴィスとエリクが抑える。セリーヌは二人の間に入って、なんとか激化を食い止めようとしていた。
すると、そこに、かなり疲れた顔をしたアースが入ってきて、席に着くと、店員にコーヒーを一杯、注文した。
「そういえば、あんた達はどこで何をしていたんだ?」
クロヴィスが問うと、ジャンヌとリゼットが静かになった。
アースは、ひとつ、大きなため息をつくと、クロヴィスとエリクを見比べた。
「クロヴィス、助けてくれ」
そう言って、頭を抱えてしまった。
クロヴィスとエリクは、互いに顔を見合わせて、何が起こったのか確認した。
「待て、一体何があったんだ?」
クロヴィスは問い返した。しかし、きちんとした答えは返ってこなかった。
その場にいた全員が静かになった。リゼットとジャンヌの喧嘩も収まっていた。
しばらくすると、コーヒーが来たので、同じ店員に、全員がコーヒーのお替りを頼んだ。まだここにいて、アースから悩みごとの原因を聞きだしたかったからだ。
しかし、その原因を聞きだすことはできなかった。ただ、彼は、コーヒーを飲んで目を座らせ、よくわからない地方の言葉で管を巻きながら、最後に、英語で、こう言った。
「ミスコンなど、滅びてしまえ!」
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