真珠を噛む竜

るりさん

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第十二章 白いオリーブ

鶏がらスープ、未知のスープ

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 アースとナリアの話では、このイタリアからずっと東のほうに、大きな国があったのだという。時代によって支配地域や民族が変わり、様々な思想が入り乱れる土地だったという。だからこそ、あらゆる地域の文化を吸収して国際的な文化を取り入れた、普遍性のある文明が花開いた。どこの誰が食べてもおいしいと感じる奇跡のような料理が生まれたのもそのためだ。
 その料理を、地球では総称して中華料理という。地方ごとに味や特徴が違う上、広大な国だった故に独自に進化をしていった地方の料理が沢山あった。
「中華料理に使われるスープのうち、最も作りやすくて有名なのが、鶏がらスープです。絞めた鶏の肉をとったあとのガラを、弱火で沸騰させずに一日煮込んで作ります。基本は、鶏がらの余計な部分を削ぎ落した後に強火にかけ、沸騰する直前に弱火にします。そのまま沸騰直前の状態を保って一日じっくりと煮込みます。出来たスープは、味を調えるために何度か味見をしながら、用途に応じて塩や胡椒を加えるといいでしょう。透明のスープですから、たくさんの料理に応用できます。細かく切った具材を、炊いたお米と一緒に炒めるチャーハンという料理にも欠かせません」
 朝食を食べながらナリアが説明していると、セリーヌがメモを取っていた。そして、おいしそうな想像をしてボーっとしている面々を尻目に、ナリアに質問をした。
「それは固形スープにできるのでしょうか?」
 ナリアは、笑って返した。
「もちろんです。リゼットの腕次第では、うまみが凝縮されて、よりおいしくなるでしょう」
 ボーっとしていたリゼットが、自分の名前に反応してびくりとした。他の皆がリゼットをじっと見ている。
「ま、任せなさいよ! 最近こう言うのは失敗していないんだから!」
「じゃあ決まりだ。ただ、鶏をどこで仕入れるかだが」
クロヴィスは、そう言いながらあたりを見渡した。
「鶏を扱っている人間はいないだろうか。商人でもいい」
 すると、早々に食べ終わって席を離れていたアースとセベルが、帰ってきて、クロヴィスを見た。
「ちょうどよかった、クロヴィス」
 セベルが、そう言って、皆を見渡して笑った。
「ナリアが鶏がらの話をしていたから、キャンプを見回っていたんだ。ちょうどいい感じの鶏を飼っている農家がこの近くにあるらしいって、地元の人間に聞いた。そこに行ってみようと思うんだけど」
 セベルの言葉に、皆が首を縦に振った。
「行く! それってどこなの?」
 リゼットが我先にと手を挙げたので、セベルと一緒にいたアースが、少し嬉しそうに言った。
「あの白い丘のふもとだ」
 その一言で、皆の一日の目標が決まった。まず、今から午前中、早くから毛糸製品を売る。そして、売れても売れなくても、太陽が南中高度に行く前、ちょうどナリアの懐中時計が十時を指すあたりになったらここを発って白い丘に向かう。
「そうと決まったら早めにここ畳んで、店のセッティングをしなきゃね!」
 ジャンヌがいつになくやる気を見せていた。クロヴィスが火を消して後始末をして、リゼットが錬術で灰を土に還していく。
 エステルは、その様子を見て寂しそうに笑っていた。それに気が付いたのはセリーヌで、先程値札を取り付けている時と違う表情をしている彼女にふと疑問を覚えた。
 セリーヌがどうしたのかと尋ねると、エステルは寂しそうな笑いをやめて、背伸びをした。
「私の父親は小さいうちに死んでしまって、母がイェリンと私を女手一つで育ててくれました。だから、あなた方のような大家族が羨ましいのかも」
 そう言って笑うエステルは、笑顔の裏に寂しさを隠したまま、皆の中に入っていった。
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