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第十一章 スノー・ドロップ
ブリザードが来る
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家族五人が、それぞれの夢を持つ。
そして、その上で家族全員の夢を設定する。
クロヴィスは、そんな話の後、こう続けた。
「家族の中で誰か一人が危険な目標を持ったら、誰かが止めるだろう? もし、表面だけがきれいで、中身がスカスカだったり有言実行できていなかったりしたら、それも誰かが叱る。家族ってのはそうやって出来上がっていくものだと思うんだよ。それに、家族全員の目標ってのも難しい。皆が納得する目標を立てなければいけないし、誰か一人でも反対者や落伍者がいれば、成立しない」
「個人の夢とみんなの夢の両立ってこと?」
クロヴィスは、頷いた。
そして、火を弄っていた枝をその中に放り込んだ。
「いまは、そんなことを考えている余裕が皆にはないかもしれない。でも、どこかで必ず引っかかってくるテーマだと思うんだ、俺は」
そう言って、しばらくクロヴィスは黙っていた。リゼットは、そんなクロヴィスの姿を見ながら、自分の中で何かが変わっていくのを感じた。
今までなかったものが自分の中に沸いてきて、それが自分の中でワクワクした気分を掻き立てた。
その夜はそのまますぎ、リゼットは見張りをエリクたちと交代して、そのまま夜を超えた。
次の朝は、雪もすっかりやんで、辺り一面が銀世界になっていた。雪を見たことのないジャンヌやリゼット、エリクは、はしゃいで雪遊びを始めた。
ひとしきり、楽しい時間を満喫すると、体力を維持するためにきちんと朝食をとった。そのあと早めに荷物を整えて出立する。
「アルプスのふもとの村までは速足でも二日はかかります。山を越えるだけなら一日で済みますが、村へ寄るとなると少し遠回りになるでしょう。ただし、村は国境を越えてすぐの位置にありますから、村から次の地域へはすぐに着くでしょう」
ナリアはそう説明して、なるべく早く出立することを皆に促した。ナリアは少し焦っていた。皆がそう感じる中、アースだけが何かを考えながら歩いていた。そして、隣を歩いていたエリクにこう言った。
「エリク、次の野宿地で、お前のこれからが試されるかもしれない」
そのセリフの意味が、エリクにはよく分からなかった。しかし、その時はすぐにやってきた。
一行が野宿をすると決めた場所は、森も林もない平原で、真っ白な雪に覆われた場所だった。太陽が照っている間は良いが、陽が沈むとたちどころに寒くなってしまう。
「本当にこんな場所で野宿するの?」
ジャンヌがあたりを見回してクロヴィスに問いかけた。そのクロヴィスも困った顔をして、あたりを見渡した。
「薪は前の林で集めたものがあるからいいが、ブリザードでも来たら一網打尽だな」
「ブリザード?」
近くで野宿の用意をしていたリゼットが手を止める。陽は暮れかけていた。もうここで野宿するしかないのだが、この場所が安全でないのは確かだった。
リゼットの問いには、セリーヌが返した。
「冬の嵐のことよ。あれをもろに食らうとその中では生きていけないわ」
それを聞いて、ジャンヌもリゼットもぞっとした。
「もっといい場所はなかったの? ナリアさん、この近くに洞穴とか森とか、そう言うのはないんですか?」
ジャンヌの問いに、ナリアは首を横に振った。
「残念ながら、この近くには平坦な岩場か平原しかありません」
皆の中から、そんな、という声がかかった。ナリアはこれを予測していたのだろうか。とりあえず、これ以上は進めないので、この場所で野宿することになった。
クロヴィスが集めておいた薪は一晩越えるには十分な量があった。それでも貴重な薪を浪費しないように、気を配りながら皆はスープを炊き、干し肉を食べた。
そして、昨日と同じメンバーで火の番をしながら固まって寝ることになった。幸い降り積もっている雪はそんなに深くはなかったので、人数分入れるくらいの穴を掘って風よけを兼ねた寝床を作った。
しかし、皆が寝静まったころ、ちょうどリゼットとクロヴィスが交代するために寝た時、それは起こった。
エリクと会話していたアースが、何かの異変に気が付いた。
「まずいな、こちらに近づいてくる」
そう言って、耳をそばだてた。何かの音を聞いている。エリクは、それがなんであるか分からなかったが、次第に想像できるようになってきた。
「ブリザード?」
エリクの顔がこわばった。もしそうだとしたら、大変なことになる。アースは何も答えずに緊張した顔をしていた。そして、ふと、エリクを見た。
「エリク、皆を守れるか?」
そう問われ、エリクは母の手紙の内容を思い出した。自分のなすべきこと、そして、自分がどうあるべきかを今、問われている。母は、そういったことに迷ったときにあの手紙を読めと言っていた。
エリクは、力強く、頷いた。
「俺が錬術でフォローする。お前は安心して自分のやるべきことを成せ。いいな」
アースの声は力強かった。エリクは、はい、と一言言って、迫りくるブリザードがこちらに吹かせる強い風を受けた。
そして、その上で家族全員の夢を設定する。
クロヴィスは、そんな話の後、こう続けた。
「家族の中で誰か一人が危険な目標を持ったら、誰かが止めるだろう? もし、表面だけがきれいで、中身がスカスカだったり有言実行できていなかったりしたら、それも誰かが叱る。家族ってのはそうやって出来上がっていくものだと思うんだよ。それに、家族全員の目標ってのも難しい。皆が納得する目標を立てなければいけないし、誰か一人でも反対者や落伍者がいれば、成立しない」
「個人の夢とみんなの夢の両立ってこと?」
クロヴィスは、頷いた。
そして、火を弄っていた枝をその中に放り込んだ。
「いまは、そんなことを考えている余裕が皆にはないかもしれない。でも、どこかで必ず引っかかってくるテーマだと思うんだ、俺は」
そう言って、しばらくクロヴィスは黙っていた。リゼットは、そんなクロヴィスの姿を見ながら、自分の中で何かが変わっていくのを感じた。
今までなかったものが自分の中に沸いてきて、それが自分の中でワクワクした気分を掻き立てた。
その夜はそのまますぎ、リゼットは見張りをエリクたちと交代して、そのまま夜を超えた。
次の朝は、雪もすっかりやんで、辺り一面が銀世界になっていた。雪を見たことのないジャンヌやリゼット、エリクは、はしゃいで雪遊びを始めた。
ひとしきり、楽しい時間を満喫すると、体力を維持するためにきちんと朝食をとった。そのあと早めに荷物を整えて出立する。
「アルプスのふもとの村までは速足でも二日はかかります。山を越えるだけなら一日で済みますが、村へ寄るとなると少し遠回りになるでしょう。ただし、村は国境を越えてすぐの位置にありますから、村から次の地域へはすぐに着くでしょう」
ナリアはそう説明して、なるべく早く出立することを皆に促した。ナリアは少し焦っていた。皆がそう感じる中、アースだけが何かを考えながら歩いていた。そして、隣を歩いていたエリクにこう言った。
「エリク、次の野宿地で、お前のこれからが試されるかもしれない」
そのセリフの意味が、エリクにはよく分からなかった。しかし、その時はすぐにやってきた。
一行が野宿をすると決めた場所は、森も林もない平原で、真っ白な雪に覆われた場所だった。太陽が照っている間は良いが、陽が沈むとたちどころに寒くなってしまう。
「本当にこんな場所で野宿するの?」
ジャンヌがあたりを見回してクロヴィスに問いかけた。そのクロヴィスも困った顔をして、あたりを見渡した。
「薪は前の林で集めたものがあるからいいが、ブリザードでも来たら一網打尽だな」
「ブリザード?」
近くで野宿の用意をしていたリゼットが手を止める。陽は暮れかけていた。もうここで野宿するしかないのだが、この場所が安全でないのは確かだった。
リゼットの問いには、セリーヌが返した。
「冬の嵐のことよ。あれをもろに食らうとその中では生きていけないわ」
それを聞いて、ジャンヌもリゼットもぞっとした。
「もっといい場所はなかったの? ナリアさん、この近くに洞穴とか森とか、そう言うのはないんですか?」
ジャンヌの問いに、ナリアは首を横に振った。
「残念ながら、この近くには平坦な岩場か平原しかありません」
皆の中から、そんな、という声がかかった。ナリアはこれを予測していたのだろうか。とりあえず、これ以上は進めないので、この場所で野宿することになった。
クロヴィスが集めておいた薪は一晩越えるには十分な量があった。それでも貴重な薪を浪費しないように、気を配りながら皆はスープを炊き、干し肉を食べた。
そして、昨日と同じメンバーで火の番をしながら固まって寝ることになった。幸い降り積もっている雪はそんなに深くはなかったので、人数分入れるくらいの穴を掘って風よけを兼ねた寝床を作った。
しかし、皆が寝静まったころ、ちょうどリゼットとクロヴィスが交代するために寝た時、それは起こった。
エリクと会話していたアースが、何かの異変に気が付いた。
「まずいな、こちらに近づいてくる」
そう言って、耳をそばだてた。何かの音を聞いている。エリクは、それがなんであるか分からなかったが、次第に想像できるようになってきた。
「ブリザード?」
エリクの顔がこわばった。もしそうだとしたら、大変なことになる。アースは何も答えずに緊張した顔をしていた。そして、ふと、エリクを見た。
「エリク、皆を守れるか?」
そう問われ、エリクは母の手紙の内容を思い出した。自分のなすべきこと、そして、自分がどうあるべきかを今、問われている。母は、そういったことに迷ったときにあの手紙を読めと言っていた。
エリクは、力強く、頷いた。
「俺が錬術でフォローする。お前は安心して自分のやるべきことを成せ。いいな」
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