真珠を噛む竜

るりさん

文字の大きさ
上 下
79 / 147
第十一章 スノー・ドロップ

ブリザードが来る

しおりを挟む
 家族五人が、それぞれの夢を持つ。
 そして、その上で家族全員の夢を設定する。
 クロヴィスは、そんな話の後、こう続けた。
「家族の中で誰か一人が危険な目標を持ったら、誰かが止めるだろう? もし、表面だけがきれいで、中身がスカスカだったり有言実行できていなかったりしたら、それも誰かが叱る。家族ってのはそうやって出来上がっていくものだと思うんだよ。それに、家族全員の目標ってのも難しい。皆が納得する目標を立てなければいけないし、誰か一人でも反対者や落伍者がいれば、成立しない」
「個人の夢とみんなの夢の両立ってこと?」
 クロヴィスは、頷いた。
 そして、火を弄っていた枝をその中に放り込んだ。
「いまは、そんなことを考えている余裕が皆にはないかもしれない。でも、どこかで必ず引っかかってくるテーマだと思うんだ、俺は」
 そう言って、しばらくクロヴィスは黙っていた。リゼットは、そんなクロヴィスの姿を見ながら、自分の中で何かが変わっていくのを感じた。
 今までなかったものが自分の中に沸いてきて、それが自分の中でワクワクした気分を掻き立てた。
 その夜はそのまますぎ、リゼットは見張りをエリクたちと交代して、そのまま夜を超えた。
 次の朝は、雪もすっかりやんで、辺り一面が銀世界になっていた。雪を見たことのないジャンヌやリゼット、エリクは、はしゃいで雪遊びを始めた。
 ひとしきり、楽しい時間を満喫すると、体力を維持するためにきちんと朝食をとった。そのあと早めに荷物を整えて出立する。
「アルプスのふもとの村までは速足でも二日はかかります。山を越えるだけなら一日で済みますが、村へ寄るとなると少し遠回りになるでしょう。ただし、村は国境を越えてすぐの位置にありますから、村から次の地域へはすぐに着くでしょう」
 ナリアはそう説明して、なるべく早く出立することを皆に促した。ナリアは少し焦っていた。皆がそう感じる中、アースだけが何かを考えながら歩いていた。そして、隣を歩いていたエリクにこう言った。
「エリク、次の野宿地で、お前のこれからが試されるかもしれない」
 そのセリフの意味が、エリクにはよく分からなかった。しかし、その時はすぐにやってきた。
 一行が野宿をすると決めた場所は、森も林もない平原で、真っ白な雪に覆われた場所だった。太陽が照っている間は良いが、陽が沈むとたちどころに寒くなってしまう。
「本当にこんな場所で野宿するの?」
 ジャンヌがあたりを見回してクロヴィスに問いかけた。そのクロヴィスも困った顔をして、あたりを見渡した。
「薪は前の林で集めたものがあるからいいが、ブリザードでも来たら一網打尽だな」
「ブリザード?」
 近くで野宿の用意をしていたリゼットが手を止める。陽は暮れかけていた。もうここで野宿するしかないのだが、この場所が安全でないのは確かだった。
 リゼットの問いには、セリーヌが返した。
「冬の嵐のことよ。あれをもろに食らうとその中では生きていけないわ」
 それを聞いて、ジャンヌもリゼットもぞっとした。
「もっといい場所はなかったの? ナリアさん、この近くに洞穴とか森とか、そう言うのはないんですか?」
 ジャンヌの問いに、ナリアは首を横に振った。
「残念ながら、この近くには平坦な岩場か平原しかありません」
 皆の中から、そんな、という声がかかった。ナリアはこれを予測していたのだろうか。とりあえず、これ以上は進めないので、この場所で野宿することになった。
 クロヴィスが集めておいた薪は一晩越えるには十分な量があった。それでも貴重な薪を浪費しないように、気を配りながら皆はスープを炊き、干し肉を食べた。
 そして、昨日と同じメンバーで火の番をしながら固まって寝ることになった。幸い降り積もっている雪はそんなに深くはなかったので、人数分入れるくらいの穴を掘って風よけを兼ねた寝床を作った。
 しかし、皆が寝静まったころ、ちょうどリゼットとクロヴィスが交代するために寝た時、それは起こった。
 エリクと会話していたアースが、何かの異変に気が付いた。
「まずいな、こちらに近づいてくる」
 そう言って、耳をそばだてた。何かの音を聞いている。エリクは、それがなんであるか分からなかったが、次第に想像できるようになってきた。
「ブリザード?」
 エリクの顔がこわばった。もしそうだとしたら、大変なことになる。アースは何も答えずに緊張した顔をしていた。そして、ふと、エリクを見た。
「エリク、皆を守れるか?」
 そう問われ、エリクは母の手紙の内容を思い出した。自分のなすべきこと、そして、自分がどうあるべきかを今、問われている。母は、そういったことに迷ったときにあの手紙を読めと言っていた。
 エリクは、力強く、頷いた。
「俺が錬術でフォローする。お前は安心して自分のやるべきことを成せ。いいな」
 アースの声は力強かった。エリクは、はい、と一言言って、迫りくるブリザードがこちらに吹かせる強い風を受けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

当然だったのかもしれない~問わず語り~

章槻雅希
ファンタジー
 学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。  そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇? 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...