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第十一章 スノー・ドロップ
友達がいない
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アルプス山脈を越える前に、イェリンの姉に会いにいく。
そう決めた一行は、アースにその姉のいる、だいたいの位置を聞くことにした。すると、ちょうどこの先、皆が行こうとしている南の山脈のなかにいるという。山脈の中には村が一つだけあり、常に寒い気候にさらされながらもたくましく生きている人たちが住んでいるという。
「雪深い場所で、誰も近づかない山脈のふもとということもあり、世捨て人や人間が苦手な人が自然と集まって村を作ったみたいですね」
地図を見ながら、ナリアが自分の中の知識を掘り起こしていく。彼女は地図を見るだけで、その土地がどういう場所なのか言い当てることができた。それが星の人の力なのだということをエリクたちが知ったのは、アースが教えてくれた時だった。
「イェリンの姉は、花小人のようなもので、植物や信仰を媒体にして生まれてきた人間だ」
道中、アースはイェリンの姉のことを、少しだけ教えてくれた。
「彼女の媒体は、スノー・ドロップだ」
「それは、花とかキノコの名前なんですか?」
エリクが訊くと、アースはふと、クロヴィスを見た。この星と地球に共通する植物なのだから、アースが野暮ったい説明をするよりも、花を愛しているクロヴィスが説明したほうがいい、そう考えた。
クロヴィスは、その考えを受け取って、少し照れた。だが、まんざらでもない様子で、こちらを見るエリクに説明を始めた。
「雪どけを告げる花だ。別名、雪待草。花言葉は『希望』だ。花弁は下を向いていて、街灯のランプのような感じで咲いている。白く可憐な花なんだが、よく増えるんだ。この先のアルプス山脈が雪深いのなら、おそらくこの夏、雪どけを迎えるだろうから、ちょうど咲いている頃かもしれないな」
クロヴィスの説明に、皆が歓声を上げた。的確だったからというのもあるが、クロヴィスがどれだけ花を愛しているのか。よく見えたからだ。
その先は、アルプス山脈に続く峠に差し掛かるまで、皆それぞれ楽しい話をしながら進んでいった。リゼットはジャンヌやセリーヌと、エリクはクロヴィスと、ナリアはアースと、そして、セベルはエーテリエと。
「なんかさ」
皆の真中を歩きながら、エーテリエがセベルに耳打ちをした。しんがりを務めて皆を守るのはナリアとアースだ。そして、先頭を行くのは力のあるエリクと旅慣れしているクロヴィスだった。そのあとをついてくる女性陣の後ろで、何だか二人はよそ者のような感じがしていた。
「セベル、私たち疎外感があるんだけど」
セベルは、エーテリエの言うことにいちいち耳を貸していた。彼女の言うことはどこか的を射ていたからだ。
「それは俺も感じているが、少しすれば慣れるんじゃないか? 俺たちは今まで別行動でいたんだから、皆とそんなに仲良くなくても不思議じゃない。むしろ、ベタベタ仲良くしているほうが不自然だ。少しずつ親交を深めていけばいいんだよ」
「でもさ、どうやったらいいか分からないじゃない。私もセベルも、ナリアと同じで友達少ないんだし」
そう、言い終わったとき、エーテリエは急いで自分の口を押えた。おそるおそる後ろを歩いているナリアを見る。ナリアは、相変わらずにこにこと笑ってエーテリエを見ている。
「わたくしの顔になにか?」
ナリアは、怒っている時も怒っていると分からないくらい、怒り方が静かだ。エーテリエは、今のナリアの心境が分からなくなって、胸がドキドキし始めるのを感じた。
「え、ええと、ナリア、今の、聞いてた?」
おそるおそる聞いてみると、ナリアは首をかしげて顎に人差し指をくっつけた。
「あら、それは、私に友達が少ない、ということでしょうか?」
ナリアのその答えに、エーテリエは頭を抱えて叫んだ。
「ごめんナリア! ほんっとごめん!」
自分のほうを向いて頭を下げるエーテリエを見て、ナリアはその手に優しく触れた。
「謝ることはないのよ、エータ。私には、数少なくともかけがえのない友人がいるのですから。あなたもその一人。そのことに関して引け目を感じることはないのですから」
ナリアのその言葉に、エーテリエは顔を上げた。緊張していた体と瞳を解放させて、大きく息を吐く。
「なんだか、拍子抜けしちゃった」
背の低い草が生えている草原を南に下りながら、エーテリエは、少しずつ周りが寒くなっているのを感じていた。だが、今のナリアの言葉は温かかった。
そんなエーテリエの様子を見ながら、クロヴィスが先頭から皆に声をかけた。
「明日からは峠越えになる。もう午後も半分を過ぎた。この辺で野宿をしようと思うんだが」
すると、皆は同意をした。
少し歩いたところに風を避けることができる林があった。この辺はもう既に肌寒く、草原で野宿をしていたら風邪をひいてしまう。林の中ならば風も凌げるし、何より薪の調達に手間がかからない。
「火事を起こさないように気をつけなきゃね」
皆が野宿の準備をしていると、エリクがクロヴィスに話しかけた。
「火の番は二人ずつ、交代でやるんだ。よほどのことがなければ大丈夫だと思うけどな」
そう言って、アースとナリアを見る。
「念のため、アースとナリアさんには別々になってもらうか。エリク、お前はアースと組んでくれ。ナリアさんはいつもリゼットが付いているから、たまにはセリーヌかジャンヌと組ませたいな」
すると、エリクの顔が輝いた。
「いいの、クロヴィス?」
クロヴィスは、頷いた。いつもよりも優しい瞳をしている。
「エリクはアースが好きなんだろう。ジャンヌやリゼットがナリアさんのことを好きなように。見ていれば分かるさ」
クロヴィスはそう言い終えると、エリクの肩を叩いてから、野宿の準備を再開した。しばらくしてハッと思い出したようにセリーヌの所へ行き、彼女と何かを話していた。
おそらく、クロヴィスはセリーヌとナリアを組ませる気だ。エリクはそう思った。そして、エリクもまた野宿の準備を再開すると、皆と一緒に狩に出てから夕食を済ませて、陽が落ちるのを待った。
そう決めた一行は、アースにその姉のいる、だいたいの位置を聞くことにした。すると、ちょうどこの先、皆が行こうとしている南の山脈のなかにいるという。山脈の中には村が一つだけあり、常に寒い気候にさらされながらもたくましく生きている人たちが住んでいるという。
「雪深い場所で、誰も近づかない山脈のふもとということもあり、世捨て人や人間が苦手な人が自然と集まって村を作ったみたいですね」
地図を見ながら、ナリアが自分の中の知識を掘り起こしていく。彼女は地図を見るだけで、その土地がどういう場所なのか言い当てることができた。それが星の人の力なのだということをエリクたちが知ったのは、アースが教えてくれた時だった。
「イェリンの姉は、花小人のようなもので、植物や信仰を媒体にして生まれてきた人間だ」
道中、アースはイェリンの姉のことを、少しだけ教えてくれた。
「彼女の媒体は、スノー・ドロップだ」
「それは、花とかキノコの名前なんですか?」
エリクが訊くと、アースはふと、クロヴィスを見た。この星と地球に共通する植物なのだから、アースが野暮ったい説明をするよりも、花を愛しているクロヴィスが説明したほうがいい、そう考えた。
クロヴィスは、その考えを受け取って、少し照れた。だが、まんざらでもない様子で、こちらを見るエリクに説明を始めた。
「雪どけを告げる花だ。別名、雪待草。花言葉は『希望』だ。花弁は下を向いていて、街灯のランプのような感じで咲いている。白く可憐な花なんだが、よく増えるんだ。この先のアルプス山脈が雪深いのなら、おそらくこの夏、雪どけを迎えるだろうから、ちょうど咲いている頃かもしれないな」
クロヴィスの説明に、皆が歓声を上げた。的確だったからというのもあるが、クロヴィスがどれだけ花を愛しているのか。よく見えたからだ。
その先は、アルプス山脈に続く峠に差し掛かるまで、皆それぞれ楽しい話をしながら進んでいった。リゼットはジャンヌやセリーヌと、エリクはクロヴィスと、ナリアはアースと、そして、セベルはエーテリエと。
「なんかさ」
皆の真中を歩きながら、エーテリエがセベルに耳打ちをした。しんがりを務めて皆を守るのはナリアとアースだ。そして、先頭を行くのは力のあるエリクと旅慣れしているクロヴィスだった。そのあとをついてくる女性陣の後ろで、何だか二人はよそ者のような感じがしていた。
「セベル、私たち疎外感があるんだけど」
セベルは、エーテリエの言うことにいちいち耳を貸していた。彼女の言うことはどこか的を射ていたからだ。
「それは俺も感じているが、少しすれば慣れるんじゃないか? 俺たちは今まで別行動でいたんだから、皆とそんなに仲良くなくても不思議じゃない。むしろ、ベタベタ仲良くしているほうが不自然だ。少しずつ親交を深めていけばいいんだよ」
「でもさ、どうやったらいいか分からないじゃない。私もセベルも、ナリアと同じで友達少ないんだし」
そう、言い終わったとき、エーテリエは急いで自分の口を押えた。おそるおそる後ろを歩いているナリアを見る。ナリアは、相変わらずにこにこと笑ってエーテリエを見ている。
「わたくしの顔になにか?」
ナリアは、怒っている時も怒っていると分からないくらい、怒り方が静かだ。エーテリエは、今のナリアの心境が分からなくなって、胸がドキドキし始めるのを感じた。
「え、ええと、ナリア、今の、聞いてた?」
おそるおそる聞いてみると、ナリアは首をかしげて顎に人差し指をくっつけた。
「あら、それは、私に友達が少ない、ということでしょうか?」
ナリアのその答えに、エーテリエは頭を抱えて叫んだ。
「ごめんナリア! ほんっとごめん!」
自分のほうを向いて頭を下げるエーテリエを見て、ナリアはその手に優しく触れた。
「謝ることはないのよ、エータ。私には、数少なくともかけがえのない友人がいるのですから。あなたもその一人。そのことに関して引け目を感じることはないのですから」
ナリアのその言葉に、エーテリエは顔を上げた。緊張していた体と瞳を解放させて、大きく息を吐く。
「なんだか、拍子抜けしちゃった」
背の低い草が生えている草原を南に下りながら、エーテリエは、少しずつ周りが寒くなっているのを感じていた。だが、今のナリアの言葉は温かかった。
そんなエーテリエの様子を見ながら、クロヴィスが先頭から皆に声をかけた。
「明日からは峠越えになる。もう午後も半分を過ぎた。この辺で野宿をしようと思うんだが」
すると、皆は同意をした。
少し歩いたところに風を避けることができる林があった。この辺はもう既に肌寒く、草原で野宿をしていたら風邪をひいてしまう。林の中ならば風も凌げるし、何より薪の調達に手間がかからない。
「火事を起こさないように気をつけなきゃね」
皆が野宿の準備をしていると、エリクがクロヴィスに話しかけた。
「火の番は二人ずつ、交代でやるんだ。よほどのことがなければ大丈夫だと思うけどな」
そう言って、アースとナリアを見る。
「念のため、アースとナリアさんには別々になってもらうか。エリク、お前はアースと組んでくれ。ナリアさんはいつもリゼットが付いているから、たまにはセリーヌかジャンヌと組ませたいな」
すると、エリクの顔が輝いた。
「いいの、クロヴィス?」
クロヴィスは、頷いた。いつもよりも優しい瞳をしている。
「エリクはアースが好きなんだろう。ジャンヌやリゼットがナリアさんのことを好きなように。見ていれば分かるさ」
クロヴィスはそう言い終えると、エリクの肩を叩いてから、野宿の準備を再開した。しばらくしてハッと思い出したようにセリーヌの所へ行き、彼女と何かを話していた。
おそらく、クロヴィスはセリーヌとナリアを組ませる気だ。エリクはそう思った。そして、エリクもまた野宿の準備を再開すると、皆と一緒に狩に出てから夕食を済ませて、陽が落ちるのを待った。
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