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第十一章 スノー・ドロップ
ムーライトブーケの使い道
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ムーンライトブーケは、リゼットが入った森の中にたくさんあった。両手いっぱいにそのきれいなハーブを持って帰ってきたので、他の人間はびっくりして手伝いに入った。
リゼットはハーブを持って帰ってきたので他のメンバーよりも遅くなってしまっていたのだ。クロヴィスやジャンヌ、セリーヌやナリアのほうには全くなかった。エリクはムーンライトブーケによく似たハーブを持ってきていたが、違うものだった。
ムーンライトブーケは、ひとつの茎にいくつもの黄色い花を咲かせる薬草で、見た目はセージによく似ていた。葉が細長く、良い香りを放つのもセージによく似た部分だ。
「この花の色が、月の色によく似ているんだね」
花の香りを楽しみながら、ジャンヌが花を乾かす錬術を使い始めたリゼットに花を渡していく。
「セージに似ていますが、実はこれ、スイートバジルの変種なのです」
ナリアはにこにこしながら、ハーブが乾いていくのを見ていた。リゼットは真剣な顔で、錬術に集中している。今まで一度も失敗がない。このまますべての株を無事乾かすことができればいいのだが。
そんな風に考えて緊張しているリゼットを見て、エリクが彼女の肩を叩いた。
「リゼット、過集中だよ」
その言葉を聞いて、誰もがハッとした。リゼットひとりに重荷を負わせてしまっていた。ナリアとアースが立ち上がってリゼットの持っているハーブを分け合って、錬術を使い始めた。リゼットは、少し頬を赤らめて二人に従い、残ったハーブをゆっくりと乾かしていった。
ムーンライトブーケが乾き切ると、今度は皆でそれをすりつぶす作業にかかった。あいにく薬草をすりつぶす道具が一つしかなかったので、力のあるクロヴィスがエリクと交代でそれを請け負った。ジャンヌやリゼット、セリーヌやイェリンは、二人がすりつぶしやすいように、地面に敷いた布の上で乾いたハーブを砕いていった。
作業が終わることには、夜になっていた。
すりつぶし終えた、良い香りのするハーブを大きな袋に詰め、一行はイェリンにそれを渡した。
「これは、熱いお湯を使ってハーブティーにしたり、そのままお料理に入れたりして使ってください。ムーンライトブーケは強い薬草ですから、必ず火を通してくださいね」
ナリアは、そう言うと、イェリンの額にキスをした。
「あなたと、あなたのご家族に幸運がありますように」
ナリアがそう言うと同時に、イェリンは月下美人の鉢を抱えて涙を流した。
「アース、彼女の姉と母親の位置は分かりますね?」
すすり泣くイェリンの肩をエリクが抱いている。それを見て、ナリアがアースに尋ねた。
「地球でのイェリンの家の特定は簡単だったが、この星にいる彼女の姉の位置の特定に時間がかかった。イェリン、皆に言い残したことはないか?」
尋ねられると、イェリンは、頷いて、しばらく気分を落ち着けてから小さな声でこう話し始めた。
「私の家は、貧乏です。だから、いつも同級生にいじめられていて、友達の一人もいませんでした。でも、いま、私の前にはこうやって、わたしを助けてくれる人たちがたくさんいます。正直な話、気の強い姉も、弱い私に意地悪をしていました。本当はそんな姉と一緒に地球に帰るのは嫌です。でも、皆さんからもらった勇気は、それを乗り越えるのに十分なくらいの力をくれました。私、頑張ります」
ああ、そういう事情があったのか。
皆がイェリンを憐れんだ。しかし、そうしたところで彼女の運命は変えられない。イェリンは、最後にアースによる抱擁を受けると、ひとすじの涙を流しながら、静かに消えていった。
「行っちゃったね」
静かに、ジャンヌが呟く。それにはだれ一人返す言葉がなかった。皆に、より強い結束を与えてくれた少女・イェリン。彼女のことを忘れる者はいないだろう。
しんみりとした空気があたりを漂う中、キャンプに戻って皆が片づけをし始めた時だった。
ふと、アースが作業の手を止めて、変な顔をした。そして、皆を見渡した。
「失敗した」
アースのその一言に、皆は彼の手元を見た。だが、何も失敗した様子はない。
何を失敗したのだろう。皆が不思議に思っていると、アースが肩を落としながら、こう言った。
「イェリンの姉は、まだこの星だ」
リゼットはハーブを持って帰ってきたので他のメンバーよりも遅くなってしまっていたのだ。クロヴィスやジャンヌ、セリーヌやナリアのほうには全くなかった。エリクはムーンライトブーケによく似たハーブを持ってきていたが、違うものだった。
ムーンライトブーケは、ひとつの茎にいくつもの黄色い花を咲かせる薬草で、見た目はセージによく似ていた。葉が細長く、良い香りを放つのもセージによく似た部分だ。
「この花の色が、月の色によく似ているんだね」
花の香りを楽しみながら、ジャンヌが花を乾かす錬術を使い始めたリゼットに花を渡していく。
「セージに似ていますが、実はこれ、スイートバジルの変種なのです」
ナリアはにこにこしながら、ハーブが乾いていくのを見ていた。リゼットは真剣な顔で、錬術に集中している。今まで一度も失敗がない。このまますべての株を無事乾かすことができればいいのだが。
そんな風に考えて緊張しているリゼットを見て、エリクが彼女の肩を叩いた。
「リゼット、過集中だよ」
その言葉を聞いて、誰もがハッとした。リゼットひとりに重荷を負わせてしまっていた。ナリアとアースが立ち上がってリゼットの持っているハーブを分け合って、錬術を使い始めた。リゼットは、少し頬を赤らめて二人に従い、残ったハーブをゆっくりと乾かしていった。
ムーンライトブーケが乾き切ると、今度は皆でそれをすりつぶす作業にかかった。あいにく薬草をすりつぶす道具が一つしかなかったので、力のあるクロヴィスがエリクと交代でそれを請け負った。ジャンヌやリゼット、セリーヌやイェリンは、二人がすりつぶしやすいように、地面に敷いた布の上で乾いたハーブを砕いていった。
作業が終わることには、夜になっていた。
すりつぶし終えた、良い香りのするハーブを大きな袋に詰め、一行はイェリンにそれを渡した。
「これは、熱いお湯を使ってハーブティーにしたり、そのままお料理に入れたりして使ってください。ムーンライトブーケは強い薬草ですから、必ず火を通してくださいね」
ナリアは、そう言うと、イェリンの額にキスをした。
「あなたと、あなたのご家族に幸運がありますように」
ナリアがそう言うと同時に、イェリンは月下美人の鉢を抱えて涙を流した。
「アース、彼女の姉と母親の位置は分かりますね?」
すすり泣くイェリンの肩をエリクが抱いている。それを見て、ナリアがアースに尋ねた。
「地球でのイェリンの家の特定は簡単だったが、この星にいる彼女の姉の位置の特定に時間がかかった。イェリン、皆に言い残したことはないか?」
尋ねられると、イェリンは、頷いて、しばらく気分を落ち着けてから小さな声でこう話し始めた。
「私の家は、貧乏です。だから、いつも同級生にいじめられていて、友達の一人もいませんでした。でも、いま、私の前にはこうやって、わたしを助けてくれる人たちがたくさんいます。正直な話、気の強い姉も、弱い私に意地悪をしていました。本当はそんな姉と一緒に地球に帰るのは嫌です。でも、皆さんからもらった勇気は、それを乗り越えるのに十分なくらいの力をくれました。私、頑張ります」
ああ、そういう事情があったのか。
皆がイェリンを憐れんだ。しかし、そうしたところで彼女の運命は変えられない。イェリンは、最後にアースによる抱擁を受けると、ひとすじの涙を流しながら、静かに消えていった。
「行っちゃったね」
静かに、ジャンヌが呟く。それにはだれ一人返す言葉がなかった。皆に、より強い結束を与えてくれた少女・イェリン。彼女のことを忘れる者はいないだろう。
しんみりとした空気があたりを漂う中、キャンプに戻って皆が片づけをし始めた時だった。
ふと、アースが作業の手を止めて、変な顔をした。そして、皆を見渡した。
「失敗した」
アースのその一言に、皆は彼の手元を見た。だが、何も失敗した様子はない。
何を失敗したのだろう。皆が不思議に思っていると、アースが肩を落としながら、こう言った。
「イェリンの姉は、まだこの星だ」
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