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第十一章 スノー・ドロップ
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第十一章 スノー・ドロップ
エリクたちはムーンライトブーケを探すために、町の廃墟の周りに広がる森へとひとりひとり散っていった。
その様子を見ていたのはセベルとエーテリエで、ナリアやアースさえ行ってしまった後の幌馬車を任されていた。
エーテリエは、ひとつ、大きなため息をつくと、はるか遠くに見える大きな山脈を見た。
「南へ行けばアルプス山脈。温室育ちの私にはきついわね」
「幌馬車は持っていけないんだから、俺たちの出番もだいぶ減るな」
セベルもぼーっとしながら返した。
「もっとも、今までずっと忘れられていた感じがするけどな」
エーテリエは頷いて大きなため息をついた。
「そうなんだよねえ。私たちの存在意義って何だろうね。セベルはまだナリアの夫でアースの弟子っていうポジションがあるけど、私何もないもん」
「そうでもないさ。ナリアに関しても師匠に関しても、何だか俺を置いていっている感じがする。エリクやクロヴィスに全部持っていかれているし、ナリアはリゼットに取られてしまったよ」
「そうよねえ。でも、ナリアがいる以上、私たちが付いていくしかない。足手まといにならなきゃいいけど」
二人は、そう言って同じ方向を見てまた、ため息をついた。気分が晴れない。今までずっと忘れ去られていたというのもあるが、自分たちが今まで何一つ成し遂げていないという劣等感にも苛まれていた。
「この辺が、潮時かな」
ふと、エーテリエが思ったことを口にした。ナリアにはすでにアースという護衛がいる。いままでナリアの護衛を務めていたエーテリエはお払い箱なのではないだろうか。そう思って、目を覚ますように背伸びをする。それに対してセベルは、まだ振り切れずにいた。ナリアが自分のものだとは思わない。彼女はすべての人間に分け隔てなく接している。その中でも特にリゼットと仲がいい、それだけなのだ。だから、まだついていきたいという欲求があった。
「俺も、エータみたいに吹っ切れることができればな」
セベルも、そう言って背伸びをした。
「リゼットやほかの人間に嫉妬しているわけじゃないが、なんだか寂しいよ。旅をする人数が増えたのに、寂しさは増すばかりだ」
背伸びをやめ、幌馬車から降りると、セベルは外の空気を吸った。
「いっそのこと、俺も、おふくろたちのいる港町に帰るかな。ナリアの故郷の森の村のすぐ近くだしな」
セベルは、喋りながら、昨日エリクが座っていた木の切り株の上に座った。天気は良く、例外なく今日も暑かった。額ににじむ汗を拭いて、空を見る。
すると、誰かがこちらに向かってくる気配がして、セベルとエーテリエはそちらを向いた。
アースだ。手には何も持っていない。彼は二人に気づくと片手を上げて合図をした。そして、すぐにキャンプ地につくと、セベルとエーテリエの真中あたりに座り込んだ。
「担当したエリアにはなかった。他の皆はまだなのか」
その質問に、二人は頷いた。
そして、まず、エーテリエが、非常に聞きづらい質問をしてみることにした。
「あの、私たち、この先どうしたらいいのか分からないんですが」
すると、アースは少し驚いた顔をした。
「何が分からないんだ?」
すると、今度はエーテリエをセベルがフォローした。
「俺たち、この先幌馬車もないのについていっていいんでしょうか。食料も資金も、人数が多いほど消費も激しくなります。いっそのこと俺たち故郷に帰ったほうがいいのかなって」
すると、アースはセベルの話の途中辺りから笑いをこらえ出し、ついには吹き出して笑ってしまった。
「思いつめるな。資金繰りは心配いらない。幌馬車を売ったら金になるだろう。中にある不要なものも売ればいい。荷物はシンプルになるから、どれが今の自分に最も必要なのか、自然に分かってくるはずだ。お前たちは今まで、あの五人に大して関わってこなかったから、自分たちの存在意義を疑っているんだろう?」
二人は、同時に深く頷いた。アースは少し真剣な顔に戻って、まずセベルを見た。
「セベル、お前がいないとナリアが悲しむ。自分がフラフラしていてもどこかに必ずお前がいるから安心していられるんだ。エーテリエ、お前もそうだ。ナリアには友人が少ない。あの性格なんだ、分かるだろう。あれでも不器用だから腹を割って話せる女性の友達は少ないんだ。いざというとき、エーテリエやセベルがいるから安心して動くことができる。いてもらわなければ困るんだよ。俺としてもな」
「師匠からしても?」
アースは、笑って頷いた。
「楽しいんだよ、お前たちといるとな」
そう言って、アースは二人から目を逸らした。
「ナリアがこれ以上悲しむ姿は見たくない、それだけだ」
アースは、そう言うと、焚火の跡の近くに布を敷いて、そこに横になってしまった。
「これ以上、悲しませたくない?」
セベルは、アースの言っていることがよく分からなかった。彼は、セベルがナリアと出会う前の何かを知っているのだろうか。
横を見ると、エーテリエが何かを考えこんでいる。しばらくすると彼女は腰に手を当ててひとつ、大きく息を吐いた。
「ま、分からないことごちゃごちゃ考えても仕方ないわね。でも、私たちが必要とされているとわかった以上、ナリアを悲しませることはしないほうがいい。やっぱ一緒に行きましょう、セベル」
そう言って、暗い顔をしているセベルの肩を叩いた。
セベルは、男性として、少しアースに嫉妬しているのかもしれない。自分の知らないナリアを知っている。そこが引っかかっているのかもしれない。
そう感じて、エーテリエはセベルをゆっくりと草の上に座らせた。そして、背中を優しく二回、叩くと、二人して草の上に寝そべって、そのまま眠ってしまった。
エリクたちはムーンライトブーケを探すために、町の廃墟の周りに広がる森へとひとりひとり散っていった。
その様子を見ていたのはセベルとエーテリエで、ナリアやアースさえ行ってしまった後の幌馬車を任されていた。
エーテリエは、ひとつ、大きなため息をつくと、はるか遠くに見える大きな山脈を見た。
「南へ行けばアルプス山脈。温室育ちの私にはきついわね」
「幌馬車は持っていけないんだから、俺たちの出番もだいぶ減るな」
セベルもぼーっとしながら返した。
「もっとも、今までずっと忘れられていた感じがするけどな」
エーテリエは頷いて大きなため息をついた。
「そうなんだよねえ。私たちの存在意義って何だろうね。セベルはまだナリアの夫でアースの弟子っていうポジションがあるけど、私何もないもん」
「そうでもないさ。ナリアに関しても師匠に関しても、何だか俺を置いていっている感じがする。エリクやクロヴィスに全部持っていかれているし、ナリアはリゼットに取られてしまったよ」
「そうよねえ。でも、ナリアがいる以上、私たちが付いていくしかない。足手まといにならなきゃいいけど」
二人は、そう言って同じ方向を見てまた、ため息をついた。気分が晴れない。今までずっと忘れ去られていたというのもあるが、自分たちが今まで何一つ成し遂げていないという劣等感にも苛まれていた。
「この辺が、潮時かな」
ふと、エーテリエが思ったことを口にした。ナリアにはすでにアースという護衛がいる。いままでナリアの護衛を務めていたエーテリエはお払い箱なのではないだろうか。そう思って、目を覚ますように背伸びをする。それに対してセベルは、まだ振り切れずにいた。ナリアが自分のものだとは思わない。彼女はすべての人間に分け隔てなく接している。その中でも特にリゼットと仲がいい、それだけなのだ。だから、まだついていきたいという欲求があった。
「俺も、エータみたいに吹っ切れることができればな」
セベルも、そう言って背伸びをした。
「リゼットやほかの人間に嫉妬しているわけじゃないが、なんだか寂しいよ。旅をする人数が増えたのに、寂しさは増すばかりだ」
背伸びをやめ、幌馬車から降りると、セベルは外の空気を吸った。
「いっそのこと、俺も、おふくろたちのいる港町に帰るかな。ナリアの故郷の森の村のすぐ近くだしな」
セベルは、喋りながら、昨日エリクが座っていた木の切り株の上に座った。天気は良く、例外なく今日も暑かった。額ににじむ汗を拭いて、空を見る。
すると、誰かがこちらに向かってくる気配がして、セベルとエーテリエはそちらを向いた。
アースだ。手には何も持っていない。彼は二人に気づくと片手を上げて合図をした。そして、すぐにキャンプ地につくと、セベルとエーテリエの真中あたりに座り込んだ。
「担当したエリアにはなかった。他の皆はまだなのか」
その質問に、二人は頷いた。
そして、まず、エーテリエが、非常に聞きづらい質問をしてみることにした。
「あの、私たち、この先どうしたらいいのか分からないんですが」
すると、アースは少し驚いた顔をした。
「何が分からないんだ?」
すると、今度はエーテリエをセベルがフォローした。
「俺たち、この先幌馬車もないのについていっていいんでしょうか。食料も資金も、人数が多いほど消費も激しくなります。いっそのこと俺たち故郷に帰ったほうがいいのかなって」
すると、アースはセベルの話の途中辺りから笑いをこらえ出し、ついには吹き出して笑ってしまった。
「思いつめるな。資金繰りは心配いらない。幌馬車を売ったら金になるだろう。中にある不要なものも売ればいい。荷物はシンプルになるから、どれが今の自分に最も必要なのか、自然に分かってくるはずだ。お前たちは今まで、あの五人に大して関わってこなかったから、自分たちの存在意義を疑っているんだろう?」
二人は、同時に深く頷いた。アースは少し真剣な顔に戻って、まずセベルを見た。
「セベル、お前がいないとナリアが悲しむ。自分がフラフラしていてもどこかに必ずお前がいるから安心していられるんだ。エーテリエ、お前もそうだ。ナリアには友人が少ない。あの性格なんだ、分かるだろう。あれでも不器用だから腹を割って話せる女性の友達は少ないんだ。いざというとき、エーテリエやセベルがいるから安心して動くことができる。いてもらわなければ困るんだよ。俺としてもな」
「師匠からしても?」
アースは、笑って頷いた。
「楽しいんだよ、お前たちといるとな」
そう言って、アースは二人から目を逸らした。
「ナリアがこれ以上悲しむ姿は見たくない、それだけだ」
アースは、そう言うと、焚火の跡の近くに布を敷いて、そこに横になってしまった。
「これ以上、悲しませたくない?」
セベルは、アースの言っていることがよく分からなかった。彼は、セベルがナリアと出会う前の何かを知っているのだろうか。
横を見ると、エーテリエが何かを考えこんでいる。しばらくすると彼女は腰に手を当ててひとつ、大きく息を吐いた。
「ま、分からないことごちゃごちゃ考えても仕方ないわね。でも、私たちが必要とされているとわかった以上、ナリアを悲しませることはしないほうがいい。やっぱ一緒に行きましょう、セベル」
そう言って、暗い顔をしているセベルの肩を叩いた。
セベルは、男性として、少しアースに嫉妬しているのかもしれない。自分の知らないナリアを知っている。そこが引っかかっているのかもしれない。
そう感じて、エーテリエはセベルをゆっくりと草の上に座らせた。そして、背中を優しく二回、叩くと、二人して草の上に寝そべって、そのまま眠ってしまった。
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