56 / 147
第九章 ひまわり亭
町の人々に囲まれる二人
しおりを挟む
街に買い物に出たナリアとアースは、二人で歩いているところを何人もの人間に二度見されていた。皆の注目を集める中、二人は、この組み合わせで町に出たことを少し後悔した。
「濃い、組み合わせだったかもしれません、わたくしたち」
ナリアは、そう言って地面に視線を落とした。それでも周りが気になっているので、ちらちらと商店や街路樹を見ていた。
「来てしまった以上は仕方がない。必要なものを買って帰るぞ」
アースがそう言って歩みを早めたものだから、ナリアは一瞬、付いていけずにつんのめってしまった。それをアースが素早く受け止めた。
「早かったな。すまない」
「いいのです」
ナリアは安心したように笑ってアースを見た。すると、周りの視線がナリアたちに集中した。
「あの二人、ただの美男美女じゃないわ」
「いいシーン、見ちゃった。えへへ。あとで友達皆に自慢しなきゃ!」
そんな声がひそひそと聞こえてきたので、二人は皆の視線を浴びながら動かなければならなくなった。皆の視線を浴びながら、近くの商店の影に逃げ込んで、その裏手にある公園のベンチに腰掛ける。
「どうやら、わたくしたちはエリクたちがいないと目立つようですね」
ナリアは息を切らせていた。裾の長いドレスをたくし上げて走ったからだ。
ベンチに座って、周りに視線がないのを確かめると、ようやくそこは落ち着いた空間になった。
「アース」
しばらく休むと、ナリアのほうから声がかかった。乱れた髪を整えている。
「エリクたちを、あなたはどう見ますか?」
アースは、ナリアのその質問に、少し考えた。どう答えたらいいのか迷っているというより、自分の考えをどうまとめようかと迷っている感じだった。
しばらくして、アースは難しい顔をして答えた。
「あいつらは、喧嘩をしたほうがいい」
すると、ナリアは何か聞きたそうな顔をした。
「あなたもそう考えていましたか。彼らは自然に喧嘩ができると思いますか?」
ナリアが純粋な顔で聞いてくるので、アースは少し押され気味になってしまった。こういうのを、彼は得意ではなかったからだ。
「まあ、なるようになるだろう」
アースは、そう答えるしかなかった。ナリアはいったん引くと、ベンチに座りなおした。
「アース、わたくしたち、恋人に見えるのですね。双子のようなものなのに、全く似ていない。なんだか滑稽に思えてきてしまいます」
「似ていないから、そう見えるんじゃないか?」
「まあ、そうですけれども」
ナリアは、なんだか嬉しそうにしている。それを見て、アースは疲れたようにため息をついた。
「ナリア、なぜ俺を呼んだ?」
ナリアは、遠くを見つめていた。少し寂しげな表情をすると、いまだ遠くにある何かを見つめたまま、アースの手を握った。
「寂しくなったのかもしれません」
アースは、その答えに、一言、そうか、とだけ言って、ナリアの手を握り返した。
その時だった。
「いたぞ!」
男性の声が聞こえて、二人はびくりとしてそちらを見た。すると、何人もの町の人が商店の影からこちらをうかがっていた。
「手を繋いでる! やっぱりいい関係なんだわ! いいなあ羨ましい」
町の人が、そんなことを言いながら遠巻きに見ている。ナリアとアースは、少し落胆した。
「彼らの気配が読めなかったなんて」
ナリアが、アースからそっと手を離す。
「どうやって買い物をしましょう? 手ぶらでは帰れません」
「ここは、恋人で通すしかなさそうだな。余計な誤解を招くわけにはいかない」
ナリアは、それに合意した。そして、二人で一緒に立ち上がると、町の人たちに手を振った。
「濃い、組み合わせだったかもしれません、わたくしたち」
ナリアは、そう言って地面に視線を落とした。それでも周りが気になっているので、ちらちらと商店や街路樹を見ていた。
「来てしまった以上は仕方がない。必要なものを買って帰るぞ」
アースがそう言って歩みを早めたものだから、ナリアは一瞬、付いていけずにつんのめってしまった。それをアースが素早く受け止めた。
「早かったな。すまない」
「いいのです」
ナリアは安心したように笑ってアースを見た。すると、周りの視線がナリアたちに集中した。
「あの二人、ただの美男美女じゃないわ」
「いいシーン、見ちゃった。えへへ。あとで友達皆に自慢しなきゃ!」
そんな声がひそひそと聞こえてきたので、二人は皆の視線を浴びながら動かなければならなくなった。皆の視線を浴びながら、近くの商店の影に逃げ込んで、その裏手にある公園のベンチに腰掛ける。
「どうやら、わたくしたちはエリクたちがいないと目立つようですね」
ナリアは息を切らせていた。裾の長いドレスをたくし上げて走ったからだ。
ベンチに座って、周りに視線がないのを確かめると、ようやくそこは落ち着いた空間になった。
「アース」
しばらく休むと、ナリアのほうから声がかかった。乱れた髪を整えている。
「エリクたちを、あなたはどう見ますか?」
アースは、ナリアのその質問に、少し考えた。どう答えたらいいのか迷っているというより、自分の考えをどうまとめようかと迷っている感じだった。
しばらくして、アースは難しい顔をして答えた。
「あいつらは、喧嘩をしたほうがいい」
すると、ナリアは何か聞きたそうな顔をした。
「あなたもそう考えていましたか。彼らは自然に喧嘩ができると思いますか?」
ナリアが純粋な顔で聞いてくるので、アースは少し押され気味になってしまった。こういうのを、彼は得意ではなかったからだ。
「まあ、なるようになるだろう」
アースは、そう答えるしかなかった。ナリアはいったん引くと、ベンチに座りなおした。
「アース、わたくしたち、恋人に見えるのですね。双子のようなものなのに、全く似ていない。なんだか滑稽に思えてきてしまいます」
「似ていないから、そう見えるんじゃないか?」
「まあ、そうですけれども」
ナリアは、なんだか嬉しそうにしている。それを見て、アースは疲れたようにため息をついた。
「ナリア、なぜ俺を呼んだ?」
ナリアは、遠くを見つめていた。少し寂しげな表情をすると、いまだ遠くにある何かを見つめたまま、アースの手を握った。
「寂しくなったのかもしれません」
アースは、その答えに、一言、そうか、とだけ言って、ナリアの手を握り返した。
その時だった。
「いたぞ!」
男性の声が聞こえて、二人はびくりとしてそちらを見た。すると、何人もの町の人が商店の影からこちらをうかがっていた。
「手を繋いでる! やっぱりいい関係なんだわ! いいなあ羨ましい」
町の人が、そんなことを言いながら遠巻きに見ている。ナリアとアースは、少し落胆した。
「彼らの気配が読めなかったなんて」
ナリアが、アースからそっと手を離す。
「どうやって買い物をしましょう? 手ぶらでは帰れません」
「ここは、恋人で通すしかなさそうだな。余計な誤解を招くわけにはいかない」
ナリアは、それに合意した。そして、二人で一緒に立ち上がると、町の人たちに手を振った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる