45 / 147
第八章 トネリコ
痕跡
しおりを挟む
丸一日、早駆けして着いた村は、大きな広葉樹に囲まれた森の中の村だった。村の中央には大きなトネリコの木があり、そこら中から湧水が出ているきれいな村だった。
「感じる。確実にいます!」
馬を降りるとき、ナリアが少し焦った声を上げた。先程から背中に乗せているエリクの熱が上がっている。セリーヌと二人がかりでエリクを下ろして抱えると、まずは村にある唯一の宿に走っていった。
そして、宿の一室を借りるとともに、ナリアは宿の主人であるおかみさんに、このようなことを聞いていた。
「ここ数日で、見慣れない人間を見ませんでしたか?」
すると、おかみさんは、腕組みをして何かを考えていた。そして、何かを思い出したかのように手を叩くと、晴れ渡った空のようなさわやかな顔をした。
「そういや、三日前にね、ものすっごいカッコいいお兄さんをこの宿に泊めたよ! 夢のようだったわあ。なんか強そうだったなあ。あんないい男、この世には二人といないよ」
それを聞いて、ナリアは少しほっとした顔をした。それをみて、セリーヌはなんとなく、先程おかみさんが言っていた人が星の人なのだろうと想像した。
部屋に着いて、エリクを寝かせると、ずいぶんと憔悴した様子だった。急いで自分の腰に付けた革袋から水を取り出し、エリクに飲ませると、少し安心したような顔をしてまた眠りについた。
ナリアは、エリクとセリーヌのもとに顔を出すと、セリーヌに二つの種類の薬を渡した。
「一つは、熱の上昇を抑える薬、ひとつは、他の感染症にかからないように守る薬です。今すぐ飲ませて、あとは三時間ごとに飲ませ続けてください。私は星の人を探してきます。三時間以内には戻るつもりですが、念のために、ここに時計を置いていきます」
ナリアは、そう言って古い懐中時計をテーブルの上に置いた。そして、急いで宿を出ると、村中を探し回るために村人からの聞き込みを始めた。
「エリク、頑張ってくださいね。きっと、星の人は見つかります。そして、きっと、星の人はいいお医者さんですから」
セリーヌはエリクの手を握った。ずいぶんと熱い。その暑さに、不安になって、ナリアの帰りを今か今かとセリーヌは待ち続けた。薬は、すでに飲ませていた。
薬の効果が表れて、エリクの呼吸が少しずつ落ち着いてくると、セリーヌは胸をなでおろした。すると、次第に気持ちが緩んできて、セリーヌは、エリクの手を握ったまま、ベッドに突っ伏して眠ってしまった。
それから何時間が経っただろう。セリーヌが目を覚ますと、自分の肩に毛布が掛けられていて、誰かがこの部屋に寄ったことが分かった。それが理解できると、いつの間にか眠ってしまった自分に焦りを感じ、座っていた椅子から飛びあがった。
「いけない! 私はいつ居眠りを!」
するとその時、セリーヌの言ったセリフに返事が返ってきた。
「十分ほどだよ、セリーヌ」
それは、聞き覚えのある声だった。その声のしたほうを見ると、エリクが笑ってこちらを見ていた。ベッドから半身を起こしている。
セリーヌはびっくりして何も言えずにいた。文字通り言葉を失ってしまっていた。
「星の人が来てくれたんだ。すごくカッコよかったよ。熱もほら」
エリクは、言葉を失っているセリーヌの手を取って、自分の額に触れさせた。熱が下がっている。たった十分の間に何があったのだろう。こんなに早く熱を下げられる星の人とはいったいどんな人間なのだろう。
「エリク」
ようやく言葉を取り戻すと、セリーヌはエリクの名を呼んだ。胸がいっぱいになって、涙が目がしらに集まってくる。
「よかったあ。心配したんですよ」
セリーヌは、エリクの手を握りしめると、もう一度ベッドに突っ伏して、ひとしきり涙を流した。
「心配かけちゃったね。皆にも、報せないと」
自分のために涙を流してくれているセリーヌの背中をさすって、エリクが呟いた。すると、階下から誰かの話し声が聞こえてきた。エリクは二階の客室にいる。一階は受付とレストランがあるだけだ。
「ねえ、セリーヌ、お客さんかな」
セリーヌに声をかけると、彼女は顔を上げて涙を拭いた。階下に耳を澄ませると、確かに誰かの話し声が聞こえる。しかも、どこかで聞いたことのある声だ。
その話し声はいったん収まった。辺りは静まり返る。すると、今度は何人もの人間がこちらに上がってくる足音がした。エリクとセリーヌは少し、身構えた。すると、その足音は部屋の前で止まった。誰かが、部屋のドアを三回ノックした。
「どちら様?」
震える声で、セリーヌが返事をする。すると、ノックの音がやんで、代わりに声が聞こえてきた。
「どちら様とは失礼ね! セリーヌ、これで私が誰なのか分かったでしょ、ここ、鍵がかかっていて開かないの。開けてくれるかしら?」
「感じる。確実にいます!」
馬を降りるとき、ナリアが少し焦った声を上げた。先程から背中に乗せているエリクの熱が上がっている。セリーヌと二人がかりでエリクを下ろして抱えると、まずは村にある唯一の宿に走っていった。
そして、宿の一室を借りるとともに、ナリアは宿の主人であるおかみさんに、このようなことを聞いていた。
「ここ数日で、見慣れない人間を見ませんでしたか?」
すると、おかみさんは、腕組みをして何かを考えていた。そして、何かを思い出したかのように手を叩くと、晴れ渡った空のようなさわやかな顔をした。
「そういや、三日前にね、ものすっごいカッコいいお兄さんをこの宿に泊めたよ! 夢のようだったわあ。なんか強そうだったなあ。あんないい男、この世には二人といないよ」
それを聞いて、ナリアは少しほっとした顔をした。それをみて、セリーヌはなんとなく、先程おかみさんが言っていた人が星の人なのだろうと想像した。
部屋に着いて、エリクを寝かせると、ずいぶんと憔悴した様子だった。急いで自分の腰に付けた革袋から水を取り出し、エリクに飲ませると、少し安心したような顔をしてまた眠りについた。
ナリアは、エリクとセリーヌのもとに顔を出すと、セリーヌに二つの種類の薬を渡した。
「一つは、熱の上昇を抑える薬、ひとつは、他の感染症にかからないように守る薬です。今すぐ飲ませて、あとは三時間ごとに飲ませ続けてください。私は星の人を探してきます。三時間以内には戻るつもりですが、念のために、ここに時計を置いていきます」
ナリアは、そう言って古い懐中時計をテーブルの上に置いた。そして、急いで宿を出ると、村中を探し回るために村人からの聞き込みを始めた。
「エリク、頑張ってくださいね。きっと、星の人は見つかります。そして、きっと、星の人はいいお医者さんですから」
セリーヌはエリクの手を握った。ずいぶんと熱い。その暑さに、不安になって、ナリアの帰りを今か今かとセリーヌは待ち続けた。薬は、すでに飲ませていた。
薬の効果が表れて、エリクの呼吸が少しずつ落ち着いてくると、セリーヌは胸をなでおろした。すると、次第に気持ちが緩んできて、セリーヌは、エリクの手を握ったまま、ベッドに突っ伏して眠ってしまった。
それから何時間が経っただろう。セリーヌが目を覚ますと、自分の肩に毛布が掛けられていて、誰かがこの部屋に寄ったことが分かった。それが理解できると、いつの間にか眠ってしまった自分に焦りを感じ、座っていた椅子から飛びあがった。
「いけない! 私はいつ居眠りを!」
するとその時、セリーヌの言ったセリフに返事が返ってきた。
「十分ほどだよ、セリーヌ」
それは、聞き覚えのある声だった。その声のしたほうを見ると、エリクが笑ってこちらを見ていた。ベッドから半身を起こしている。
セリーヌはびっくりして何も言えずにいた。文字通り言葉を失ってしまっていた。
「星の人が来てくれたんだ。すごくカッコよかったよ。熱もほら」
エリクは、言葉を失っているセリーヌの手を取って、自分の額に触れさせた。熱が下がっている。たった十分の間に何があったのだろう。こんなに早く熱を下げられる星の人とはいったいどんな人間なのだろう。
「エリク」
ようやく言葉を取り戻すと、セリーヌはエリクの名を呼んだ。胸がいっぱいになって、涙が目がしらに集まってくる。
「よかったあ。心配したんですよ」
セリーヌは、エリクの手を握りしめると、もう一度ベッドに突っ伏して、ひとしきり涙を流した。
「心配かけちゃったね。皆にも、報せないと」
自分のために涙を流してくれているセリーヌの背中をさすって、エリクが呟いた。すると、階下から誰かの話し声が聞こえてきた。エリクは二階の客室にいる。一階は受付とレストランがあるだけだ。
「ねえ、セリーヌ、お客さんかな」
セリーヌに声をかけると、彼女は顔を上げて涙を拭いた。階下に耳を澄ませると、確かに誰かの話し声が聞こえる。しかも、どこかで聞いたことのある声だ。
その話し声はいったん収まった。辺りは静まり返る。すると、今度は何人もの人間がこちらに上がってくる足音がした。エリクとセリーヌは少し、身構えた。すると、その足音は部屋の前で止まった。誰かが、部屋のドアを三回ノックした。
「どちら様?」
震える声で、セリーヌが返事をする。すると、ノックの音がやんで、代わりに声が聞こえてきた。
「どちら様とは失礼ね! セリーヌ、これで私が誰なのか分かったでしょ、ここ、鍵がかかっていて開かないの。開けてくれるかしら?」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

前代未聞のダンジョンメーカー
黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。
けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。
というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない?
そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。
小説家になろうでも掲載しております。

俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる