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第七章 ライラック香る町
自分の夢に自信がない
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第七章 ライラック香る町
運河の町に着いたエリクたちは、その街の広さに舌を巻いた。とにかく広くて垢抜けている。白い壁の建物が多いし、家々の庭も広い。何かの花の香りがどこからともなく漂ってきて、町にいるだけでもいい気分になった。
皆がそんな街に酔いしれる中、クロヴィスだけが何故か浮かない顔をしていた。
「クロヴィス、嫌なことでもあったの?」
エリクがのぞき込んでくるので、クロヴィスは、その浮かない顔をやめて、いつもの顔に戻した。
「いや、何でもない」
そう言って笑顔を取り戻したクロヴィスに、エリクは心配そうな顔を向けた。なにか、どこか無理をしていないだろうか。それが心配だった。
そんなエリクの考えを知ってか知らずか、リゼットが町に着いたときの恒例の、役割の振り分けを始めた。
「私とナリアさんは宿を取りに行ってくるわ。セリーヌとジャンヌは皮や、旅の途中で作ったマルベリーのジャムを売ってきてね。エリクとクロヴィスは幌馬車とフレデリクをお願いね。エーテリエさんとセベルさんは町の情報を集めてきてください。この先の地図やガイドブックがあればそれもお願いします」
リゼットはそう言うと早々に宿を取りに行ってしまった。ナリアとまだ話したいことがたくさんあるのだろう。
エリクは、クロヴィスと一緒に馬と馬車を預ける場所を探しに行くことにした。すると、エーテリエとセベルが一緒に歩きだした。
「途中までご一緒します」
エーテリエが、そう言って笑顔を見せた。あまり皆と話したことのないセベルも笑ってついてきてくれた。
「この町の観光案内所までは、どうやら道筋が同じようだ。一緒に行こう。ナリアも感じてはいるようだが、このところもう一つの地球が近く感じられる。何かが起こるかもしれない。その準備もしておきたいからね」
そう言うと、エーテリエと同じように、笑いかけてくれた。
エリクとクロヴィスはその笑顔に安心して、観光案内所までの道をセベルたちと一緒に過ごすことにした。
観光案内所を過ぎてセベルたちと別れ、フレデリクたちを預けると、エリクはもう一度クロヴィスに、先程浮かない顔をしていた理由を聞きたくなってきた。
「クロヴィス、さっきはどうしてあんな顔をしていたの? 何もないわけじゃないんだよね」
「まあ、確かに何もないわけじゃない。でも、これは俺の問題だから」
そう言って寂しそうな顔をしたクロヴィスに、エリクは少し不満を持った。
「クロヴィス、僕たち家族だろう。クロヴィスの問題も僕たちの問題なんだ。話してほしいよ」
すると、クロヴィスはいったん驚いた顔をして、そのあと、優しそうにエリクに笑いかけた。
「俺は、せっかく得た家族を傷つけたくない、そう思っていた。だけど、そうでもないみたいだな。エリクにそう言われると、話したくなっちまう」
クロヴィスは、ふと、空を見上げた。
クロヴィスは、この町に確かに問題を抱えていた。なるべくそれに触れないまま旅を続けたかったが、そうも言っていられなくなってもいた。
「みんなと落ち合ったら、話してみるよ」
クロヴィスは、エリクの肩を叩いて、元の場所に戻るように促した。途中、再びセベルたちと出会ったので、行動を共にしながら待ち合わせ場所に行くことにした。
「クロヴィスの悩みか」
セベルは、待ち合わせ場所に向かう途中、クロヴィスの事情をエリクから聞いて、少し考えながら話してくれた。
「君には、夢があるんだね、クロヴィス」
そう問われ、クロヴィスはびくりとした。これはエリクには話していないことだ。
「夢があるの? どんな夢、クロヴィス?」
エリクが目を輝かせている。クロヴィスは少しの罪悪感に苛まれながら、先をごまかせない状況に陥ったことを悟った。
「小さな夢だよ。人に話すほどのことじゃない」
「でも、夢は夢じゃないか」
そのやり取りを見て、セベルが苦笑した。
「クロヴィス、君は非現実的な夢を見るほど夢見がちじゃない。だから君の夢を過小評価するんだよ。君の夢、目標、なりたい君自身は誇っていいことだと思う。もっと自信を持ってほしいな」
「でも、俺の夢は俺にふさわしくないって、笑われるのが怖いんだ」
クロヴィスがそう言うと、今度はエーテリエがクロヴィスの肩を叩いた。
「家族になった人間が、あなたの夢を馬鹿にするものですか。笑っていたとしても、おそらくそれはあなたへの親近感ゆえでしょう。ほら、着きましたよ」
エーテリエは目の前を指さした。道に敷かれた石畳に目を落としていたクロヴィスが顔を上げると、リゼットやセリーヌたちが手を振って待ってくれていた。
エリクがクロヴィスの腕をつかみ、その中に連れて行く。皆は、暖かく迎え入れてくれた。そして、セベルは、リゼットにこの町より南の地図を手渡すと、こう言った。
「この町の案内はクロヴィスに頼もう。おそらくここが彼の故郷だろうから」
運河の町に着いたエリクたちは、その街の広さに舌を巻いた。とにかく広くて垢抜けている。白い壁の建物が多いし、家々の庭も広い。何かの花の香りがどこからともなく漂ってきて、町にいるだけでもいい気分になった。
皆がそんな街に酔いしれる中、クロヴィスだけが何故か浮かない顔をしていた。
「クロヴィス、嫌なことでもあったの?」
エリクがのぞき込んでくるので、クロヴィスは、その浮かない顔をやめて、いつもの顔に戻した。
「いや、何でもない」
そう言って笑顔を取り戻したクロヴィスに、エリクは心配そうな顔を向けた。なにか、どこか無理をしていないだろうか。それが心配だった。
そんなエリクの考えを知ってか知らずか、リゼットが町に着いたときの恒例の、役割の振り分けを始めた。
「私とナリアさんは宿を取りに行ってくるわ。セリーヌとジャンヌは皮や、旅の途中で作ったマルベリーのジャムを売ってきてね。エリクとクロヴィスは幌馬車とフレデリクをお願いね。エーテリエさんとセベルさんは町の情報を集めてきてください。この先の地図やガイドブックがあればそれもお願いします」
リゼットはそう言うと早々に宿を取りに行ってしまった。ナリアとまだ話したいことがたくさんあるのだろう。
エリクは、クロヴィスと一緒に馬と馬車を預ける場所を探しに行くことにした。すると、エーテリエとセベルが一緒に歩きだした。
「途中までご一緒します」
エーテリエが、そう言って笑顔を見せた。あまり皆と話したことのないセベルも笑ってついてきてくれた。
「この町の観光案内所までは、どうやら道筋が同じようだ。一緒に行こう。ナリアも感じてはいるようだが、このところもう一つの地球が近く感じられる。何かが起こるかもしれない。その準備もしておきたいからね」
そう言うと、エーテリエと同じように、笑いかけてくれた。
エリクとクロヴィスはその笑顔に安心して、観光案内所までの道をセベルたちと一緒に過ごすことにした。
観光案内所を過ぎてセベルたちと別れ、フレデリクたちを預けると、エリクはもう一度クロヴィスに、先程浮かない顔をしていた理由を聞きたくなってきた。
「クロヴィス、さっきはどうしてあんな顔をしていたの? 何もないわけじゃないんだよね」
「まあ、確かに何もないわけじゃない。でも、これは俺の問題だから」
そう言って寂しそうな顔をしたクロヴィスに、エリクは少し不満を持った。
「クロヴィス、僕たち家族だろう。クロヴィスの問題も僕たちの問題なんだ。話してほしいよ」
すると、クロヴィスはいったん驚いた顔をして、そのあと、優しそうにエリクに笑いかけた。
「俺は、せっかく得た家族を傷つけたくない、そう思っていた。だけど、そうでもないみたいだな。エリクにそう言われると、話したくなっちまう」
クロヴィスは、ふと、空を見上げた。
クロヴィスは、この町に確かに問題を抱えていた。なるべくそれに触れないまま旅を続けたかったが、そうも言っていられなくなってもいた。
「みんなと落ち合ったら、話してみるよ」
クロヴィスは、エリクの肩を叩いて、元の場所に戻るように促した。途中、再びセベルたちと出会ったので、行動を共にしながら待ち合わせ場所に行くことにした。
「クロヴィスの悩みか」
セベルは、待ち合わせ場所に向かう途中、クロヴィスの事情をエリクから聞いて、少し考えながら話してくれた。
「君には、夢があるんだね、クロヴィス」
そう問われ、クロヴィスはびくりとした。これはエリクには話していないことだ。
「夢があるの? どんな夢、クロヴィス?」
エリクが目を輝かせている。クロヴィスは少しの罪悪感に苛まれながら、先をごまかせない状況に陥ったことを悟った。
「小さな夢だよ。人に話すほどのことじゃない」
「でも、夢は夢じゃないか」
そのやり取りを見て、セベルが苦笑した。
「クロヴィス、君は非現実的な夢を見るほど夢見がちじゃない。だから君の夢を過小評価するんだよ。君の夢、目標、なりたい君自身は誇っていいことだと思う。もっと自信を持ってほしいな」
「でも、俺の夢は俺にふさわしくないって、笑われるのが怖いんだ」
クロヴィスがそう言うと、今度はエーテリエがクロヴィスの肩を叩いた。
「家族になった人間が、あなたの夢を馬鹿にするものですか。笑っていたとしても、おそらくそれはあなたへの親近感ゆえでしょう。ほら、着きましたよ」
エーテリエは目の前を指さした。道に敷かれた石畳に目を落としていたクロヴィスが顔を上げると、リゼットやセリーヌたちが手を振って待ってくれていた。
エリクがクロヴィスの腕をつかみ、その中に連れて行く。皆は、暖かく迎え入れてくれた。そして、セベルは、リゼットにこの町より南の地図を手渡すと、こう言った。
「この町の案内はクロヴィスに頼もう。おそらくここが彼の故郷だろうから」
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