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第五章 ブドウに宿る記憶
大きな母
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クロヴィスがエリクを連れて狩りに出て、他のメンバーが野宿の用意をすることになった。一時間ほどしてクロヴィスが得物を捕って帰ってきた。今回はエリクの手柄もあったという。セリーヌがその得物を一つ一つ確認していく。まだ高原から出たばかりで、捕食してはいけない動物もいたからだ。
「大丈夫です」
すべての動物を見終わると、エリクとジャンヌの二人で皮を剥いだり内臓を削ぎ落したりする作業を始めた。そうしているとすぐに一刻が経ってしまった。
「森の山ブドウ、ジャムにするときっとおいしいよね」
ジャンヌがそう言いだすものだから、他の人間もあの森にあった山ブドウが気になってきてしまった。ちょうど水もないことだし、あの森の沢で水をもらいに行ってもいい頃ではないのか。
「一刻は経ったんだから、行ってもいいよね」
ジャンヌはもう我慢が出来なくなっていた。一人でも森の中に行きそうな勢いだったから、他のみんなも一緒についていくことにした。
森に入って先程の場所に行くと、山ブドウはまだたくさんあった。皆はそれを、今使っていない革袋に入れていった。すると、その場所にあの金髪の女性が現れた。彼女はまた木の上から降ってきた。
「今度はなんだ? 山ブドウを採るなと言うのか?」
何も言わずに降ってきたその女性を、クロヴィスは一瞥した。すると、その女性は長い髪を後ろに流すと、自分の名を名乗った。
「私はエーテリエ。旅の者です。私は、大きな母とその伴侶をこの森で守ってきました。あなた方には失礼をしましたが、大きな母があなた方とお話をしたいというので、特別に取り計らいをしに来ました」
すると、リゼットが、持っていた袋を取り落としそうになった。その袋をジャンヌが支える。リゼットは真っ青な顔をしていた。
「どうしたんだ、リゼット?」
クロヴィスは震えるリゼットの目の前で手を振って、その視線を確認する。リゼットは視線を落とし、地面をじっと見つめていた。
「無理もありません。花小人にとって、大きな母は偉大な存在。しかし、あなた方とも切っても切り離せないのですよ」
そう言って、エーテリエは笑った。そして、リゼットのほうへ行くと、その背にそっと手を当てた。
「大丈夫です。さあ、行きましょう。彼女は泉のほとりにいます」
そう言うエーテリエに連れられて泉のほとりへ向かう。フレデリクにはブドウと空いた革袋を持たせていた。水を入れるためだ。
少し歩いてから泉のほとりに着くと、そこには一人の女性がいた。白銀の長い髪を布で拭いていて、泉で水浴びそしていた後だということがうかがえた。その女性は所作から何からすべてが美しく、魅力的で、知的だった。彼女のことを何も知らないエリクたちにさえ知的だと感じさせるその人の隣には男性がいた。白銀の女性の瞳の色はきれいな瑠璃色だったが、その男性は黒い髪に金色の瞳を持っていた。どちらもなにか普通の人間とは違うオーラを持っていて、まるで別世界の住人に思えた。
女性は、エリクたちが近づいていくと、にこりと笑った。笑顔さえも魅力的だ。
「ナリア・エストリアと申します」
そう言って、ナリアと名乗ったその女性は、まず、クロヴィスに手を差し伸べてきた。
「クロヴィスさんですね、あなたの志はとても尊い。大事になさってください。それと、あなたの経験はご家族の中でとても頼りになります。自信を持ってください」
クロヴィスが照れてその手を握ると、ナリアのその柔らかい手は、次にリゼットに差し伸べられた。
「リゼット、あなたはとても頑張り屋さんなのですね。あなたの錬術はこれからご家族のみなさんを助けていくことでしょう。あとで、少し、錬術の練習をいたしましょうか」
「ナリアさま、いいのですか?」
真っ赤な顔をしたリゼットが声を震わせると、ナリアはにこりと笑ってくれた。そして、次に、ジャンヌに手を差し伸べた。
「ジャンヌさん、大きくなりましたね。あの時の花売りが、素敵な女性に育って、私もうれしい。その技でご家族を守り、助けていってくださいね」
すると、ジャンヌは飛び上がらんばかりに驚いた。
「あ、あなたはやはり!」
今のジャンヌには、それしか言えなかった。感動で涙を流すと、隣にいた男性がハンカチを出してくれた。
次に、ナリアはセリーヌに手を差し伸べた。セリーヌがモジモジとしていると、ナリアは笑ってその手を自分の手に重ねた。
「あなたは、真実を探るもの。その研究と豊富な知識はあなたたち一家を助けていくことでしょう。自信をもって、胸を張っていいのですよ」
すると、セリーヌは恥ずかしそうにナリアの手を握り返した。
最後に、ナリアはエリクに手を差し伸べた。
「お母様のことはわたくし達がお守りしています。ご心配なさらずに、有意義な旅を続けていただきたい。あなたのこと、あなたの真実はまだ、あなたがもう少し大きくなるまで伏せておきましょう。しかしいずれ明らかになること。あなた自身が、あなたの外と中にもう一人いる。そのことを念頭に、成長していくといいでしょう」
ナリアは、エリクに謎の言葉を残した。そして、何回目かの笑顔を見せると、こう言った。
「今日はいっしょにキャンプをしませんか? ちょうど、わたくしたちもここで野宿をしようとしていたのです」
「大丈夫です」
すべての動物を見終わると、エリクとジャンヌの二人で皮を剥いだり内臓を削ぎ落したりする作業を始めた。そうしているとすぐに一刻が経ってしまった。
「森の山ブドウ、ジャムにするときっとおいしいよね」
ジャンヌがそう言いだすものだから、他の人間もあの森にあった山ブドウが気になってきてしまった。ちょうど水もないことだし、あの森の沢で水をもらいに行ってもいい頃ではないのか。
「一刻は経ったんだから、行ってもいいよね」
ジャンヌはもう我慢が出来なくなっていた。一人でも森の中に行きそうな勢いだったから、他のみんなも一緒についていくことにした。
森に入って先程の場所に行くと、山ブドウはまだたくさんあった。皆はそれを、今使っていない革袋に入れていった。すると、その場所にあの金髪の女性が現れた。彼女はまた木の上から降ってきた。
「今度はなんだ? 山ブドウを採るなと言うのか?」
何も言わずに降ってきたその女性を、クロヴィスは一瞥した。すると、その女性は長い髪を後ろに流すと、自分の名を名乗った。
「私はエーテリエ。旅の者です。私は、大きな母とその伴侶をこの森で守ってきました。あなた方には失礼をしましたが、大きな母があなた方とお話をしたいというので、特別に取り計らいをしに来ました」
すると、リゼットが、持っていた袋を取り落としそうになった。その袋をジャンヌが支える。リゼットは真っ青な顔をしていた。
「どうしたんだ、リゼット?」
クロヴィスは震えるリゼットの目の前で手を振って、その視線を確認する。リゼットは視線を落とし、地面をじっと見つめていた。
「無理もありません。花小人にとって、大きな母は偉大な存在。しかし、あなた方とも切っても切り離せないのですよ」
そう言って、エーテリエは笑った。そして、リゼットのほうへ行くと、その背にそっと手を当てた。
「大丈夫です。さあ、行きましょう。彼女は泉のほとりにいます」
そう言うエーテリエに連れられて泉のほとりへ向かう。フレデリクにはブドウと空いた革袋を持たせていた。水を入れるためだ。
少し歩いてから泉のほとりに着くと、そこには一人の女性がいた。白銀の長い髪を布で拭いていて、泉で水浴びそしていた後だということがうかがえた。その女性は所作から何からすべてが美しく、魅力的で、知的だった。彼女のことを何も知らないエリクたちにさえ知的だと感じさせるその人の隣には男性がいた。白銀の女性の瞳の色はきれいな瑠璃色だったが、その男性は黒い髪に金色の瞳を持っていた。どちらもなにか普通の人間とは違うオーラを持っていて、まるで別世界の住人に思えた。
女性は、エリクたちが近づいていくと、にこりと笑った。笑顔さえも魅力的だ。
「ナリア・エストリアと申します」
そう言って、ナリアと名乗ったその女性は、まず、クロヴィスに手を差し伸べてきた。
「クロヴィスさんですね、あなたの志はとても尊い。大事になさってください。それと、あなたの経験はご家族の中でとても頼りになります。自信を持ってください」
クロヴィスが照れてその手を握ると、ナリアのその柔らかい手は、次にリゼットに差し伸べられた。
「リゼット、あなたはとても頑張り屋さんなのですね。あなたの錬術はこれからご家族のみなさんを助けていくことでしょう。あとで、少し、錬術の練習をいたしましょうか」
「ナリアさま、いいのですか?」
真っ赤な顔をしたリゼットが声を震わせると、ナリアはにこりと笑ってくれた。そして、次に、ジャンヌに手を差し伸べた。
「ジャンヌさん、大きくなりましたね。あの時の花売りが、素敵な女性に育って、私もうれしい。その技でご家族を守り、助けていってくださいね」
すると、ジャンヌは飛び上がらんばかりに驚いた。
「あ、あなたはやはり!」
今のジャンヌには、それしか言えなかった。感動で涙を流すと、隣にいた男性がハンカチを出してくれた。
次に、ナリアはセリーヌに手を差し伸べた。セリーヌがモジモジとしていると、ナリアは笑ってその手を自分の手に重ねた。
「あなたは、真実を探るもの。その研究と豊富な知識はあなたたち一家を助けていくことでしょう。自信をもって、胸を張っていいのですよ」
すると、セリーヌは恥ずかしそうにナリアの手を握り返した。
最後に、ナリアはエリクに手を差し伸べた。
「お母様のことはわたくし達がお守りしています。ご心配なさらずに、有意義な旅を続けていただきたい。あなたのこと、あなたの真実はまだ、あなたがもう少し大きくなるまで伏せておきましょう。しかしいずれ明らかになること。あなた自身が、あなたの外と中にもう一人いる。そのことを念頭に、成長していくといいでしょう」
ナリアは、エリクに謎の言葉を残した。そして、何回目かの笑顔を見せると、こう言った。
「今日はいっしょにキャンプをしませんか? ちょうど、わたくしたちもここで野宿をしようとしていたのです」
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