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第四章 ニッコウキスゲ
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次の朝になって、朝食をとる段になると、エリクはジャンヌとリゼットに、きのうの夜の話をした。すると、二人は顔を見合わせて笑った。
「エリクらしいね、それ。天然だわマジ。でも、狩りに誘うの、私は賛成かな。リゼットはどう?」
ジャンヌがそう質問すると、リゼットは指でオーケーサインを出した。口に食べ物が入っていたからだ。リゼットは、食べ物を飲み込むと、クロヴィスをまじまじと見つめた。
「まさか、家族の在り方に対してクロヴィスにいろいろ言われるなんてね」
そう言って、水を飲み、口を拭く。
「まあいいわ。今日はちょうどここの観光巡りをしようとしていたところなの。宿は二泊三日にしてあるし、きのうごちそうを食べたから少しお金も減ったしね。毛皮をとるためにも、この周辺の案内をセリーヌに頼みつつ山に下りて狩りをしてきましょ」
皆の財布を握っているのはリゼットだ。個人個人が持っている小遣い以外は彼女が管理していた。実質、皆の行動を決めるのはリゼットになってきていた。
四人は、早々に朝食を食べ終わると、支度をして宿を出た。まっすぐにセリーヌの家に向かう。セリーヌの家のある場所はニッコウキスゲに囲まれていてとてもいい場所だ。
エリクがドアを叩くと、少し間をおいてセリーヌが出てきた。ずいぶん暗い顔をしている。昨日のことがあったからだろうか。
「セリーヌ、今日、僕たちに付き合ってほしい場所があるんだ」
すると、セリーヌは少し暗い表情をやわらげた。
「どこへ?」
「うん、狩りに一緒に行こうと思うんだ」
「狩りに?」
狩り、その言葉を聞いて、セリーヌは突然表情を明るくした。嬉しそうに舞い上がるとエリクの肩にがっしりと手を置いて掴んだ。
「本当に、狩りに行っていいんですか?」
エリクが頷き、皆が驚いていると、セリーヌは家の奥に走っていった。
「準備しますから、上がって待っていてください! 台所にお茶がありますから、皆さんでどうぞ!」
四人は、それぞれを見て、皆が皆驚いているのを知った。まさかこんな反応が返ってくるとは想像していなかったからだ。セリーヌが準備をしている間、四人は家に上がらせてもらった。お茶は一人分しか用意していなかったので、飲むことができなかった。
「セリーヌの家、何だか寂しいね」
エリクは周りを見渡した。そう言えばこの家は飾り気がない。必要なもの以外は置いていない、そんな感じだった。
「セリーヌは研究のために各地を転々としているから、引っ越しも多い。そうしているうちに、必要最低限のものしか持ち歩かないようになったんだろうな」
クロヴィスはエリクにそう返して、寂しそうな顔をした。クロヴィスは、引っ越しこそしないものの、今まで根無し草だった。どこかに定住しないという意味では、セリーヌとよく似ていた。
そんなことを話しているうちに、セリーヌが準備をしてやってきた。狩りに行くにしては重装備だ。大きな袋を三つも持っている。
「それ、本当に必要なもの?」
ジャンヌが困った顔をすると、セリーヌは自信たっぷりに頷いた。
「私の研究書と全財産、それと、一番大事な香辛料や乾燥ハーブです。どれも狩りには欠かせません!」
「どれも不要に思えるけど」
リゼットが苦笑いをした。
「まあ、いいわ。それ一人で持てるのね、セリーヌ。フレデリクに乗せられるのは、あと一人分が限度よ」
「分かりました。お荷物にならないように頑張ります!」
セリーヌはやる気だった。全財産が三袋というのは、ここにいる人間の中では多いほうだ。とはいえ、普通の人間から見ると少なかった。
狩場は、セリーヌの家からほど近かった。高原を北に行き、山地へ戻るとすぐに狩りのできそうな山道に出た。
「ここで、エリクとジャンヌが実践を兼ねて狩りをする。俺も手伝うが、基本はお前たち二人だ。リゼットとセリーヌは俺たちが迷わないように場所をしっかりと把握していてくれ。リゼットは位置把握の錬術が使えるだろう?」
狩場に着いてからクロヴィスが説明すると、それぞれがそれぞれの役割を認識していた。リゼットがもちろんよ、と言うので、クロヴィスは続けた。
「セリーヌは、狩りをしていい動物としてはならない動物を教えてくれ。この狩場は両方が混じっている。禁猟区ならまだ分かるが、ここはそうじゃない。混じってしまったら俺には判別ができない」
「分かりました」
セリーヌは、三つの袋を抱えたまま強く頷いた。
そして、狩りが始まった。
エリクは、矢をうまく撃てるようにはなったが、的に確実に当てることはまだできない。ジャンヌはその逆で、うまく当てることはできても力が足りなくて得物に投げナイフが刺さらない。
「エリク、木の幹に当ててけん制なさい!」
狩りのできるうさぎを狙っていたエリクに、リゼットが叫ぶ。その叫び声でウサギは逃げてしまい、せっかく見つけたウサギをエリクは取り逃がしてしまった。
その後、自分のせいだとわかったリゼットは何も言わなくなったが、今度はセリーヌが大きい声を張り上げた。
「ジャンヌさん、それはダメです! 白狐は狩ってはいけません!」
そんな調子で狩りをはじめて小一時間、それぞれがそれぞれの結果を持ち寄って帰ってきた。エリクはうさぎを二羽、ジャンヌはうさぎとヘビ、トカゲを一匹ずつ狩ってきた。
「あのキツネが狩れたらなあ」
ジャンヌが残念がると、クロヴィスが、ジャンヌが狩ってきたトカゲやヘビを見た。
「あのキツネが白くなくても、お前の腕じゃナイフは通らなかっただろうな。トカゲやヘビが精いっぱいと言ったところだろう。それでも毒のあるヘビやトカゲを狩ってこなかったところを見ると、まだ余裕はあるな。エリクは、矢を当てずに狩ってきたか」
そう言いながら、エリクの狩ってきたウサギを見まわす。矢じりの跡が見られない。
「エリクは腕を上げたな。動いているものに矢を当てられなくても、地面に当てて逃げ場をなくし、追い詰めていって狩る。この短時間で二羽はすごいな」
クロヴィスのその評価で、エリクは照れ笑いをして、ジャンヌは肩を落とした。
「やっぱ、こうなるかあ」
そう言って髪の毛をくるくるしているジャンヌの肩を、セリーヌが叩いた。
「クロヴィスはあなたを認めていると思います」
「なんで? あきらかに私のほうが力不足だって言ってたじゃん」
すると、セリーヌは首を横に振った。
「ジャンヌ、あなたには確かに力はありませんが、自分の能力に見合った狩りの仕方ができる、そういうことが言いたかったんだと思います。その上で、まだ余裕があるといったのは、この狩りで疲れ切っているエリクと違ってあなたには余裕がある。だから頑張ればもっと大物を狙えるだけの技量があるって言いたかったんですよ」
「技量がある? 私に?」
ジャンヌが驚いて聞き返すと、セリーヌは笑って答えた。
「もちろんです。私も見ていてそう思いました」
すると、クロヴィスがエリクを連れて女子のもとへやってきた。リゼットが錬術を解くと、少し重かった体の調子がよくなってきた。
「さて、昼飯にするか」
そう言うと、皆で手分けして薪を集めるよう指示した。この山にはなれていないので、皆が昼食を食べる位置にセリーヌを立たせ、彼女と呼びあって声が聞こえる範囲までしか行かないようにした。そうやって薪を集めると、ジャンヌがウサギやヘビ、カエルの皮を剥ぎ、クロヴィスが肉の仕込みを始めた。
「あ、ちょっと待ってください」
クロヴィスが、自分の持っていた香辛料を、フレデリクに持たせた荷物の中から出そうとすると、セリーヌがそれを止めた。
そして、不思議がる皆を横目に、自分の大きな袋の中からいくつかの香辛料や調味料、そしてソース類を出した。それぞれを自分の信じたとおりの調合で混ぜ合わせると、それをウサギ肉に振りかけた。
「これが焼けたら、このソースに肉をつけて召し上がってください」
そう言われ、肉が焼けるのを待って、四人がソースに香草で焼いた肉をつけると、これがまたおいしかった。
「おいしい! 昨日のレストランのよりもずっとおいしいわ!」
リゼットが舌鼓をうつ。
「いままで何食べていたんだろ、私たち」
トカゲの肉でさえ美味しく食べられたのだから、ジャンヌの感激は半端なものではなかった。クロヴィスとエリクは、目を見合わせて笑った。
「セリーヌ、あんたは、人を観察する力がある。さっきの話、聞いていたが、ジャンヌやエリクのことをよく見てくれていた」
「それは」
セリーヌは、そう言って赤くなった。
「それは、ジャンヌやエリクのことがとても気になって。学者としては全くダメで、観察力なんて全くないんです」
「それにしちゃ、ちゃんと白い狐を見分けて止めてくれたじゃない」
ジャンヌが、ハーブ兎を食べながら言った。
「それに、私たちをちゃんと見てくれていなきゃ、あんなことできなかったし、朝、あんな顔していなかったと思う。クロヴィスがあなたのことを思って、家族のことを思って言ってくれたことを真実だと思ったから泣いていたんでしょ」
ジャンヌが食べ終わって、指を舐めた。そして、セリーヌに笑いかける。皆が食べ終わると、一息ついて、エリクがセリーヌに話しかけた。
「セリーヌ、もう僕は、君に家族になってほしいとは言わないよ。だけど、ここまで付き合ってくれたんだから、付き合いついでに一つ、お願いをしていいかな」
セリーヌは、少し寂しそうに、頷いた。
本当は、家族が欲しかった。こんな暖かくて楽しい家庭なら、自分も入っていきたかった。それを言うタイミングを逃して、寂しくなってしまったのだ。
そのセリーヌの表情を拾ったクロヴィスが、セリーヌの肩を叩いた。
「言ってもいいんだぞ、今の気持ち。それと、エリクの願いも聞いてやってくれ」
すると、セリーヌはそのまま泣き出してしまった。ぽろぽろと涙を流しながら肩も声も振るわせていた。
「昨日、リゼットとエリクが誘ってくれて嬉しかった。落ち込んだ私を、パンを盗んでジャンヌが励ましてくれて嬉しかった。今日、狩りに行くことよりも、狩りに誘ってくれたことのほうが嬉しかった。狩りで、クロヴィスが私に役割を与えてくれた時、嬉しかった。なにより、クロヴィスが私の気持ちを言い当てた時、ドキリとした」
エリクが、自分のほうに乗り出してきた。リゼットからハンカチを受け取って、セリーヌに渡す。セリーヌはそれを受け取って涙を拭いた。
「私は、本当はみんなと家族になりたい。こうやってみんなと薪を囲んで、おいしい料理を食べてもらって、もっともっと幸せな気持ちになりたい。もし許されるのなら、研究なんてどうでもいいから、皆と世界中を旅してまわりたい」
すると、エリクが、そっと、セリーヌのほうに手を差し伸べてきた。
「おかえりなさい、セリーヌ」
セリーヌは、その手を取ると、強く握って何度も頷いた。
「ただいま、エリク」
「エリクらしいね、それ。天然だわマジ。でも、狩りに誘うの、私は賛成かな。リゼットはどう?」
ジャンヌがそう質問すると、リゼットは指でオーケーサインを出した。口に食べ物が入っていたからだ。リゼットは、食べ物を飲み込むと、クロヴィスをまじまじと見つめた。
「まさか、家族の在り方に対してクロヴィスにいろいろ言われるなんてね」
そう言って、水を飲み、口を拭く。
「まあいいわ。今日はちょうどここの観光巡りをしようとしていたところなの。宿は二泊三日にしてあるし、きのうごちそうを食べたから少しお金も減ったしね。毛皮をとるためにも、この周辺の案内をセリーヌに頼みつつ山に下りて狩りをしてきましょ」
皆の財布を握っているのはリゼットだ。個人個人が持っている小遣い以外は彼女が管理していた。実質、皆の行動を決めるのはリゼットになってきていた。
四人は、早々に朝食を食べ終わると、支度をして宿を出た。まっすぐにセリーヌの家に向かう。セリーヌの家のある場所はニッコウキスゲに囲まれていてとてもいい場所だ。
エリクがドアを叩くと、少し間をおいてセリーヌが出てきた。ずいぶん暗い顔をしている。昨日のことがあったからだろうか。
「セリーヌ、今日、僕たちに付き合ってほしい場所があるんだ」
すると、セリーヌは少し暗い表情をやわらげた。
「どこへ?」
「うん、狩りに一緒に行こうと思うんだ」
「狩りに?」
狩り、その言葉を聞いて、セリーヌは突然表情を明るくした。嬉しそうに舞い上がるとエリクの肩にがっしりと手を置いて掴んだ。
「本当に、狩りに行っていいんですか?」
エリクが頷き、皆が驚いていると、セリーヌは家の奥に走っていった。
「準備しますから、上がって待っていてください! 台所にお茶がありますから、皆さんでどうぞ!」
四人は、それぞれを見て、皆が皆驚いているのを知った。まさかこんな反応が返ってくるとは想像していなかったからだ。セリーヌが準備をしている間、四人は家に上がらせてもらった。お茶は一人分しか用意していなかったので、飲むことができなかった。
「セリーヌの家、何だか寂しいね」
エリクは周りを見渡した。そう言えばこの家は飾り気がない。必要なもの以外は置いていない、そんな感じだった。
「セリーヌは研究のために各地を転々としているから、引っ越しも多い。そうしているうちに、必要最低限のものしか持ち歩かないようになったんだろうな」
クロヴィスはエリクにそう返して、寂しそうな顔をした。クロヴィスは、引っ越しこそしないものの、今まで根無し草だった。どこかに定住しないという意味では、セリーヌとよく似ていた。
そんなことを話しているうちに、セリーヌが準備をしてやってきた。狩りに行くにしては重装備だ。大きな袋を三つも持っている。
「それ、本当に必要なもの?」
ジャンヌが困った顔をすると、セリーヌは自信たっぷりに頷いた。
「私の研究書と全財産、それと、一番大事な香辛料や乾燥ハーブです。どれも狩りには欠かせません!」
「どれも不要に思えるけど」
リゼットが苦笑いをした。
「まあ、いいわ。それ一人で持てるのね、セリーヌ。フレデリクに乗せられるのは、あと一人分が限度よ」
「分かりました。お荷物にならないように頑張ります!」
セリーヌはやる気だった。全財産が三袋というのは、ここにいる人間の中では多いほうだ。とはいえ、普通の人間から見ると少なかった。
狩場は、セリーヌの家からほど近かった。高原を北に行き、山地へ戻るとすぐに狩りのできそうな山道に出た。
「ここで、エリクとジャンヌが実践を兼ねて狩りをする。俺も手伝うが、基本はお前たち二人だ。リゼットとセリーヌは俺たちが迷わないように場所をしっかりと把握していてくれ。リゼットは位置把握の錬術が使えるだろう?」
狩場に着いてからクロヴィスが説明すると、それぞれがそれぞれの役割を認識していた。リゼットがもちろんよ、と言うので、クロヴィスは続けた。
「セリーヌは、狩りをしていい動物としてはならない動物を教えてくれ。この狩場は両方が混じっている。禁猟区ならまだ分かるが、ここはそうじゃない。混じってしまったら俺には判別ができない」
「分かりました」
セリーヌは、三つの袋を抱えたまま強く頷いた。
そして、狩りが始まった。
エリクは、矢をうまく撃てるようにはなったが、的に確実に当てることはまだできない。ジャンヌはその逆で、うまく当てることはできても力が足りなくて得物に投げナイフが刺さらない。
「エリク、木の幹に当ててけん制なさい!」
狩りのできるうさぎを狙っていたエリクに、リゼットが叫ぶ。その叫び声でウサギは逃げてしまい、せっかく見つけたウサギをエリクは取り逃がしてしまった。
その後、自分のせいだとわかったリゼットは何も言わなくなったが、今度はセリーヌが大きい声を張り上げた。
「ジャンヌさん、それはダメです! 白狐は狩ってはいけません!」
そんな調子で狩りをはじめて小一時間、それぞれがそれぞれの結果を持ち寄って帰ってきた。エリクはうさぎを二羽、ジャンヌはうさぎとヘビ、トカゲを一匹ずつ狩ってきた。
「あのキツネが狩れたらなあ」
ジャンヌが残念がると、クロヴィスが、ジャンヌが狩ってきたトカゲやヘビを見た。
「あのキツネが白くなくても、お前の腕じゃナイフは通らなかっただろうな。トカゲやヘビが精いっぱいと言ったところだろう。それでも毒のあるヘビやトカゲを狩ってこなかったところを見ると、まだ余裕はあるな。エリクは、矢を当てずに狩ってきたか」
そう言いながら、エリクの狩ってきたウサギを見まわす。矢じりの跡が見られない。
「エリクは腕を上げたな。動いているものに矢を当てられなくても、地面に当てて逃げ場をなくし、追い詰めていって狩る。この短時間で二羽はすごいな」
クロヴィスのその評価で、エリクは照れ笑いをして、ジャンヌは肩を落とした。
「やっぱ、こうなるかあ」
そう言って髪の毛をくるくるしているジャンヌの肩を、セリーヌが叩いた。
「クロヴィスはあなたを認めていると思います」
「なんで? あきらかに私のほうが力不足だって言ってたじゃん」
すると、セリーヌは首を横に振った。
「ジャンヌ、あなたには確かに力はありませんが、自分の能力に見合った狩りの仕方ができる、そういうことが言いたかったんだと思います。その上で、まだ余裕があるといったのは、この狩りで疲れ切っているエリクと違ってあなたには余裕がある。だから頑張ればもっと大物を狙えるだけの技量があるって言いたかったんですよ」
「技量がある? 私に?」
ジャンヌが驚いて聞き返すと、セリーヌは笑って答えた。
「もちろんです。私も見ていてそう思いました」
すると、クロヴィスがエリクを連れて女子のもとへやってきた。リゼットが錬術を解くと、少し重かった体の調子がよくなってきた。
「さて、昼飯にするか」
そう言うと、皆で手分けして薪を集めるよう指示した。この山にはなれていないので、皆が昼食を食べる位置にセリーヌを立たせ、彼女と呼びあって声が聞こえる範囲までしか行かないようにした。そうやって薪を集めると、ジャンヌがウサギやヘビ、カエルの皮を剥ぎ、クロヴィスが肉の仕込みを始めた。
「あ、ちょっと待ってください」
クロヴィスが、自分の持っていた香辛料を、フレデリクに持たせた荷物の中から出そうとすると、セリーヌがそれを止めた。
そして、不思議がる皆を横目に、自分の大きな袋の中からいくつかの香辛料や調味料、そしてソース類を出した。それぞれを自分の信じたとおりの調合で混ぜ合わせると、それをウサギ肉に振りかけた。
「これが焼けたら、このソースに肉をつけて召し上がってください」
そう言われ、肉が焼けるのを待って、四人がソースに香草で焼いた肉をつけると、これがまたおいしかった。
「おいしい! 昨日のレストランのよりもずっとおいしいわ!」
リゼットが舌鼓をうつ。
「いままで何食べていたんだろ、私たち」
トカゲの肉でさえ美味しく食べられたのだから、ジャンヌの感激は半端なものではなかった。クロヴィスとエリクは、目を見合わせて笑った。
「セリーヌ、あんたは、人を観察する力がある。さっきの話、聞いていたが、ジャンヌやエリクのことをよく見てくれていた」
「それは」
セリーヌは、そう言って赤くなった。
「それは、ジャンヌやエリクのことがとても気になって。学者としては全くダメで、観察力なんて全くないんです」
「それにしちゃ、ちゃんと白い狐を見分けて止めてくれたじゃない」
ジャンヌが、ハーブ兎を食べながら言った。
「それに、私たちをちゃんと見てくれていなきゃ、あんなことできなかったし、朝、あんな顔していなかったと思う。クロヴィスがあなたのことを思って、家族のことを思って言ってくれたことを真実だと思ったから泣いていたんでしょ」
ジャンヌが食べ終わって、指を舐めた。そして、セリーヌに笑いかける。皆が食べ終わると、一息ついて、エリクがセリーヌに話しかけた。
「セリーヌ、もう僕は、君に家族になってほしいとは言わないよ。だけど、ここまで付き合ってくれたんだから、付き合いついでに一つ、お願いをしていいかな」
セリーヌは、少し寂しそうに、頷いた。
本当は、家族が欲しかった。こんな暖かくて楽しい家庭なら、自分も入っていきたかった。それを言うタイミングを逃して、寂しくなってしまったのだ。
そのセリーヌの表情を拾ったクロヴィスが、セリーヌの肩を叩いた。
「言ってもいいんだぞ、今の気持ち。それと、エリクの願いも聞いてやってくれ」
すると、セリーヌはそのまま泣き出してしまった。ぽろぽろと涙を流しながら肩も声も振るわせていた。
「昨日、リゼットとエリクが誘ってくれて嬉しかった。落ち込んだ私を、パンを盗んでジャンヌが励ましてくれて嬉しかった。今日、狩りに行くことよりも、狩りに誘ってくれたことのほうが嬉しかった。狩りで、クロヴィスが私に役割を与えてくれた時、嬉しかった。なにより、クロヴィスが私の気持ちを言い当てた時、ドキリとした」
エリクが、自分のほうに乗り出してきた。リゼットからハンカチを受け取って、セリーヌに渡す。セリーヌはそれを受け取って涙を拭いた。
「私は、本当はみんなと家族になりたい。こうやってみんなと薪を囲んで、おいしい料理を食べてもらって、もっともっと幸せな気持ちになりたい。もし許されるのなら、研究なんてどうでもいいから、皆と世界中を旅してまわりたい」
すると、エリクが、そっと、セリーヌのほうに手を差し伸べてきた。
「おかえりなさい、セリーヌ」
セリーヌは、その手を取ると、強く握って何度も頷いた。
「ただいま、エリク」
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