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第三章 銀の百合
街道の街のカフェ
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花屋に近づくと、ジャンヌとクロヴィスはすでに待ち合わせ場所に来ていた。二人の連れている馬を見ると、クロヴィスが感心したように馬を見渡した。
「リゼット、お前見る目あるじゃないか。長旅にはこういう馬がいい。よく見つけてきたな」
「この馬がいいって言ったのは、エリクよ。私一人だったら大きな間違いを犯すところだった。エリクがいったい何者なのか、よけい分からなくなってきたわ。それで、あなたたち、昼食の行き先は決まったの?」
リゼットがそう言って肩をすくめると、ジャンヌがクロヴィスを指さして、にやりとした。
「この花屋さんの二階が、カフェになっていてね、結構がっつりとした昼食が食べられるランチセットがあるのよ。しかも、お食事のお客様一人につき、花一輪サービスでくれるらしいわ。そのことを話したら、クロヴィスも二つ返事でオーケイ。だから、入ってみない?」
「花のサービスか、それもいいかもしれないわね。エリクはどう?」
「僕もいいと思う。花は好きだから」
「じゃあ、決まりね」
全員の意見が一致し、四人はカフェの中に入っていくことにした。
花屋の横にある階段を上り、カフェと書かれた看板があるドアを開けると、すぐにいい香りが四人のもとに届いてきた。
四人は、すぐに出てきた接客係の女の子に案内されて、窓側のテーブル席に座った。テーブルの上には、メニューと一緒におしゃれな花瓶に飾られた花が置いてあった。どの席にもそれはおいてあって、ひときわ大きな存在感を放っていた。
「おしゃれだし、いいお店ね。これで味が良かったら満足だわ」
リゼットは、そう言ってテーブルの上のメニューを手に取った。メニューには手ごろな価格のランチセットがいくつか載っていた。カフェとは思えないメニュー構成だったが、きっちりと本格コーヒーや紅茶も名を連ねていた。ここはおそらくランチタイムだけ豪華なメニューをやっているカフェなのだろう。
全員が頼むものを決めると、クロヴィスが店員を呼んだ。頼んだメニューはまちまちだったが、それぞれの個性が出た構成だった。
「ところで、これからどうするの? 地図を買いに書店に寄るんだよね」
ジャンヌが、料理待ちの間を使って皆に話しかけた。こう言った場所は、話をするのにはもってこいだ。
「すべては地図次第ね。どうやらこの街道も南へ進んでいるようだし、このまま行ってもいいんだけど、今までの近隣だけの地図じゃ何もわからないでしょ」
「確かにねえ。地図さまさまね」
各人は、料理が来るまで、それ以外はにも言わなかった。エリクはそもそも何も分かっていなかったし、長い間旅をしてきたクロヴィスは、故郷にさえ帰らなければそれでよかったからだ。
そうしているうちに、まず、リゼットの料理が来た。サラダとパンのセットで、メインは煮込みハンバーグだった。
「結構がっつり食べるんだね、リゼット」
何か嬉しそうに、エリクが言った。リゼットは得意げに答えた。
「こういう時に食べておかないと、旅は長いんだからね」
次には、クロヴィスの頼んだ料理が来た。セットメニューではなかったが、単品のカレーライスだった。
「辛いの?」
また、嬉しそうにエリクが聞いてきたので、クロヴィスは少し笑って応えた。
「この店で一番辛いやつだ」
すると、すぐに今度はジャンヌの分が来た。ミックスサンドイッチのセットだ。コーヒーも一緒に頼んでいた。
「ジャンヌのは、とても楽しそうだね」
エリクがニコニコとして話すので、ジャンヌもつられてニコニコしてしまった。
最後にエリクの頼んだスパゲッティーのセットが来ると、皆一緒に食べ始めた。料理は美味しかった。なので、すぐに皆平らげてしまった。無言で食べている間、四人の中には幸せな空気が充満していた。食べ終わって会計を済ませると、レジのお姉さんが、四人に一輪ずつ、カーネーションの花をくれた。ここは旅の途中に寄る人が多いからと、水の入った小さな革袋もセットにしてくれた。
四人がお姉さんに礼を言って店を出ると、花屋の店先に見たこともない花が並んでいた。先程はなかったものだ。
「なんだろう、これ」
エリクがその花に寄ってみてみると、それは、白銀に輝くきれいな百合の花だった。触ってみると、硬くて、まるで金属を触っているかのようだった。
エリクは、その花を見てほしくて、花屋を素通りしかけたクロヴィスたちの袖をつかんだ。クロヴィスやジャンヌは、エリクに連れられて花屋の軒先にある花を見た。
その花は太陽の光を浴びてキラキラと輝き、とても美しく見えた。
「クロヴィス、これすごくきれいな花だよ」
すると、クロヴィスはエリクの隣からすっと入り込んでその白銀の百合を手に取った。
「間違いない、これは、銀の森のものだ。どうしてこんな場所に?」
クロヴィスの顔は暗かった。何か、まずいことでもあったのだろうか。クロヴィスは、不安な顔をするエリクの肩を叩き、地図を買いに行こうとするリゼットを呼んだ。
リゼットは、クロヴィスに呼ばれて花屋に戻り、その花を見ると悲鳴を上げた。
「どうしてこんな! ひどい!」
手で口を覆って嘆くリゼットに、エリクは困惑した。自分の見つけた花がリゼットとクロヴィスを困らせてしまった、そう思った。
だが、違っていた。
「エリク、よく見つけてくれた。俺は店主に事情を聞いてくるから、リゼットを頼む」
「うん。でもクロヴィス、この花はいったい?」
クロヴィスは、その質問に、手短に答えた。
「本来摘んではいけない花、禁猟区である銀の森の花だ」
「リゼット、お前見る目あるじゃないか。長旅にはこういう馬がいい。よく見つけてきたな」
「この馬がいいって言ったのは、エリクよ。私一人だったら大きな間違いを犯すところだった。エリクがいったい何者なのか、よけい分からなくなってきたわ。それで、あなたたち、昼食の行き先は決まったの?」
リゼットがそう言って肩をすくめると、ジャンヌがクロヴィスを指さして、にやりとした。
「この花屋さんの二階が、カフェになっていてね、結構がっつりとした昼食が食べられるランチセットがあるのよ。しかも、お食事のお客様一人につき、花一輪サービスでくれるらしいわ。そのことを話したら、クロヴィスも二つ返事でオーケイ。だから、入ってみない?」
「花のサービスか、それもいいかもしれないわね。エリクはどう?」
「僕もいいと思う。花は好きだから」
「じゃあ、決まりね」
全員の意見が一致し、四人はカフェの中に入っていくことにした。
花屋の横にある階段を上り、カフェと書かれた看板があるドアを開けると、すぐにいい香りが四人のもとに届いてきた。
四人は、すぐに出てきた接客係の女の子に案内されて、窓側のテーブル席に座った。テーブルの上には、メニューと一緒におしゃれな花瓶に飾られた花が置いてあった。どの席にもそれはおいてあって、ひときわ大きな存在感を放っていた。
「おしゃれだし、いいお店ね。これで味が良かったら満足だわ」
リゼットは、そう言ってテーブルの上のメニューを手に取った。メニューには手ごろな価格のランチセットがいくつか載っていた。カフェとは思えないメニュー構成だったが、きっちりと本格コーヒーや紅茶も名を連ねていた。ここはおそらくランチタイムだけ豪華なメニューをやっているカフェなのだろう。
全員が頼むものを決めると、クロヴィスが店員を呼んだ。頼んだメニューはまちまちだったが、それぞれの個性が出た構成だった。
「ところで、これからどうするの? 地図を買いに書店に寄るんだよね」
ジャンヌが、料理待ちの間を使って皆に話しかけた。こう言った場所は、話をするのにはもってこいだ。
「すべては地図次第ね。どうやらこの街道も南へ進んでいるようだし、このまま行ってもいいんだけど、今までの近隣だけの地図じゃ何もわからないでしょ」
「確かにねえ。地図さまさまね」
各人は、料理が来るまで、それ以外はにも言わなかった。エリクはそもそも何も分かっていなかったし、長い間旅をしてきたクロヴィスは、故郷にさえ帰らなければそれでよかったからだ。
そうしているうちに、まず、リゼットの料理が来た。サラダとパンのセットで、メインは煮込みハンバーグだった。
「結構がっつり食べるんだね、リゼット」
何か嬉しそうに、エリクが言った。リゼットは得意げに答えた。
「こういう時に食べておかないと、旅は長いんだからね」
次には、クロヴィスの頼んだ料理が来た。セットメニューではなかったが、単品のカレーライスだった。
「辛いの?」
また、嬉しそうにエリクが聞いてきたので、クロヴィスは少し笑って応えた。
「この店で一番辛いやつだ」
すると、すぐに今度はジャンヌの分が来た。ミックスサンドイッチのセットだ。コーヒーも一緒に頼んでいた。
「ジャンヌのは、とても楽しそうだね」
エリクがニコニコとして話すので、ジャンヌもつられてニコニコしてしまった。
最後にエリクの頼んだスパゲッティーのセットが来ると、皆一緒に食べ始めた。料理は美味しかった。なので、すぐに皆平らげてしまった。無言で食べている間、四人の中には幸せな空気が充満していた。食べ終わって会計を済ませると、レジのお姉さんが、四人に一輪ずつ、カーネーションの花をくれた。ここは旅の途中に寄る人が多いからと、水の入った小さな革袋もセットにしてくれた。
四人がお姉さんに礼を言って店を出ると、花屋の店先に見たこともない花が並んでいた。先程はなかったものだ。
「なんだろう、これ」
エリクがその花に寄ってみてみると、それは、白銀に輝くきれいな百合の花だった。触ってみると、硬くて、まるで金属を触っているかのようだった。
エリクは、その花を見てほしくて、花屋を素通りしかけたクロヴィスたちの袖をつかんだ。クロヴィスやジャンヌは、エリクに連れられて花屋の軒先にある花を見た。
その花は太陽の光を浴びてキラキラと輝き、とても美しく見えた。
「クロヴィス、これすごくきれいな花だよ」
すると、クロヴィスはエリクの隣からすっと入り込んでその白銀の百合を手に取った。
「間違いない、これは、銀の森のものだ。どうしてこんな場所に?」
クロヴィスの顔は暗かった。何か、まずいことでもあったのだろうか。クロヴィスは、不安な顔をするエリクの肩を叩き、地図を買いに行こうとするリゼットを呼んだ。
リゼットは、クロヴィスに呼ばれて花屋に戻り、その花を見ると悲鳴を上げた。
「どうしてこんな! ひどい!」
手で口を覆って嘆くリゼットに、エリクは困惑した。自分の見つけた花がリゼットとクロヴィスを困らせてしまった、そう思った。
だが、違っていた。
「エリク、よく見つけてくれた。俺は店主に事情を聞いてくるから、リゼットを頼む」
「うん。でもクロヴィス、この花はいったい?」
クロヴィスは、その質問に、手短に答えた。
「本来摘んではいけない花、禁猟区である銀の森の花だ」
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