真珠を噛む竜

るりさん

文字の大きさ
上 下
11 / 147
第二章 ヒカリゴケ

これから

しおりを挟む
 クロヴィスを家族の一員に迎え入れたエリクたちは、森の出口近くまで進んで、その先から始まる街道から受ける風を利用して、洗濯物を乾かした。そのあいだにエリクとクロヴィスは昼食の果物や木の実を取りに行き、リゼットとジャンヌは地図とにらみ合いをしていた。
「この地図だと、この先にある村と、そこからちょっと外れた街道沿いの町しか載っていないのよね。村に地図を置いてあるような大きな書店があるとは思えないから、このまま街道沿いを歩いて町に行ったほうがいいかしら」
 地図のそこら中に、リゼットは指を動かしている。かなり迷っているようだ。
「街道沿いだと真南からはそれるよ。それでもいいなら街に行くべきだけどね。どのみち地図がないと動きようがないんでしょ。だったら、町に寄ったあと村への道に戻るか、もしくはもっといい道があれば、町で手に入れた地図を使って真南のルートに戻ればいいよ」
 同じく、地図を指さして町と村を行ったり来たりしながら説明するジャンヌに、リゼットは舌を巻いた。
「ジャンヌ、私、あんたのことただの頭悪い泥棒としか思っていなかったわ。意外」
「頭悪い泥棒?」
 ジャンヌは、リゼットの物言いにイラっとしてにらみつけた。すると、リゼットは得意げにステッキを取りだして、ジャンヌに一振りした。
 すると、ジャンヌのイライラした気持ちが静かに収まり、スッキリした気分になって、ジャンヌは今のリゼットの言葉をうまく受け流せるようになっていた。
「まあいいわ。どうせあんたのことだから、うまい誉め言葉なんて出てこなかったんでしょ。怒る価値もないわ」
 今度はその物言いにリゼットのほうがカチンときたが、そこは流すことにした。そして、リゼットは自分の術がうまくいったことを確信してまた鼻を伸ばした。
「ジャンヌ、あなたでテストさせてもらったわ。ごめんなさいね。でも、私もただボーっとしていたわけじゃないのよ。錬術だって日々鍛錬なんだから」
「日々鍛錬、ねえ」
 ジャンヌは、そう言ってため息をついた。
「結局、私が一番弱いわけか。エリクには怪力があるし、あんたには錬術がある。クロヴィスは長剣を使いこなしているみたいだし。クマに勝てそうにないのは、私だけか」
「クマね、私の錬術でもクマは無理だわ。女二人、守られるだけってなんか悔しいわね」
「秘密の特訓でもするかな、私」
 ジャンヌは、ふと、そう呟いた。すると、リゼットが突然手を打ち鳴らして、嬉しそうに立ち上がった。
「それよ、ジャンヌ! 特訓よ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...