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第一章 四葉のクローバー
難しいランチ
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南門を出て、初めて見たそれは、エリクにとって想像していたよりもはるかに大きく、広いものだった。
草原に出た三人は、まずその広く開放感ある世界に酔いしれていた。リゼットは背を伸ばして深呼吸をした。ジャンヌは腰に手を当てて首を回し、ストレッチ運動をしていた。
そして、エリクは、倒れた。
今まで牢の中にしかいなかったのだから仕方がない。地平線というものに酔ってしまったのだ。彼は目を回してしまっていた。
二人に助け起こされると、エリクは頭を抱えて二人を見た。
「これが、外の世界、草原なんだね。広いって、こういうことを言うんだ。すこし、怖くなったよ」
そう言われて、リゼットたちは改めて自分たちが進もうとしている草原を見た。どこまでも続く緑は、遠くへ行くほど青く色を変えていっている。地平線に至るまでそれは続き、どこまでが草原で、この草原をどこまで行けば次の町へたどり着けるのかも分からなかった。とりあえずの地図を、町の書店で買ってきてはいるが、その地図も、こうも草原が広いのでは役に立つのか分からなかった。
旅に必要だと感じ、ここへ来る途中に町で買ったコンパスを、ジャンヌが自分のカバンから出した。まっすぐ南は、自分たちの向いている方向で間違いはない。
「とりあえず、歩いてみようか、エリク」
エリクは、グラグラする頭を抱えたまま頷いた。自分がどこをどう歩いているのかが定かではない。これでは、ウサギを狩るどころか草原に出ただけで死んでしまうかもしれない。
しかし、エリクはくじけなかった。
何度も何度も、二人の肩を借りながら南へと一歩ずつ、確実に歩を進めていった。三十分もすれば、一人で歩いて、草原の草を踏みしめる感覚を感じるまでになっていた。
そして、エリクが自分の足でしっかりと走れるようになるまで時間はたいしてかからなかった。環境への適応能力が高いのか、これが人並みなのか、それは分からなかったが、エリクが普通に草原を歩けるようになって、二人は安心した。
安心したところで陽は南中高度に達し、お昼ご飯の時間になった。町から出るときに買ってきた保存食と一回分の食事があったので、まずはランチ用に買った食事から食べることにした。保存食は一か月以上持つので、その間は狩をして、その動物の肉を食べることにした。
「美味しいでしょ、私のセレクト」
リゼットが胸を張って得意げに言うので、一緒に食べていたジャンヌは吹き出してしまった。
「これ、エリクが選んだんだと思ってた! リゼット、あんたのセレクトにしちゃ、ちょっとお粗末じゃない? 外の世界の食べ物をあまり知らないエリクならと思って許していたけど、これはねえ」
「あんたそれ、すごくエリクに失礼なの、分かってる?」
そう言って、リゼットは荷物の中にあった花のステッキを取り出して、ランチボックスの上にかざした。少し何かを念じると、ステッキをぐるりと振って、また、元の荷物の中に戻した。
「文句があるなら今度はこれを食べてから言いなさいよね」
リゼットはそう言って威張ってみせた。それが気に入らないジャンヌは、エリクの手を引っ張ってランチボックスの中に突っ込ませた。
「痛いよ、ジャンヌ。いったいどうしたんだい?」
「それくらい我慢しなさいよ、怪力男。で、その料理どう? 錬術かけられたランチなんて怖くて食べられなくてさ」
そう言われて、エリクはランチボックスからひとつ、サンドイッチを選んで手に持ち、食べてみた。
「おいしい! さっきのよりずっとおいしいよ、ジャンヌ。これ、どうやったの、リゼット?」
その感嘆する声を聴いて、リゼットはより鼻高々になり、ジャンヌは舌打ちをした。
リゼットは天狗になって答えた。
「錬術は魔法じゃないのよ。これは、れっきとした科学。使えるのは銀の森の住人である私たちだけだけどね。今のは、料理の中にある元素の組成をちょっといじくっただけよ。少し錬術をかけるだけでもこんなにおいしくなるんだから、感謝しなさいよ」
「それさ、自分のフォローになってないじゃん。どころか無能の証明ってやつ」
頭を抱えて、あきれ顔でジャンヌがリゼットの鼻っ柱を折った。
「なんですって、ちょっとこっちに来なさいよ、ジャンヌ! 今日こそ白黒つけてやるわ!」
そう言って、ランチボックスとエリクを置いて、ジャンヌとリゼットは先に行ってしまった。エリクは急いでランチボックスを片付けて、二人の荷物を持つと、二人の後を追った。
「二人とも、ランチくらいはゆっくりしようよ!」
そう叫んだが、喧嘩をしている二人には聞こえるはずがなかった。
草原に出た三人は、まずその広く開放感ある世界に酔いしれていた。リゼットは背を伸ばして深呼吸をした。ジャンヌは腰に手を当てて首を回し、ストレッチ運動をしていた。
そして、エリクは、倒れた。
今まで牢の中にしかいなかったのだから仕方がない。地平線というものに酔ってしまったのだ。彼は目を回してしまっていた。
二人に助け起こされると、エリクは頭を抱えて二人を見た。
「これが、外の世界、草原なんだね。広いって、こういうことを言うんだ。すこし、怖くなったよ」
そう言われて、リゼットたちは改めて自分たちが進もうとしている草原を見た。どこまでも続く緑は、遠くへ行くほど青く色を変えていっている。地平線に至るまでそれは続き、どこまでが草原で、この草原をどこまで行けば次の町へたどり着けるのかも分からなかった。とりあえずの地図を、町の書店で買ってきてはいるが、その地図も、こうも草原が広いのでは役に立つのか分からなかった。
旅に必要だと感じ、ここへ来る途中に町で買ったコンパスを、ジャンヌが自分のカバンから出した。まっすぐ南は、自分たちの向いている方向で間違いはない。
「とりあえず、歩いてみようか、エリク」
エリクは、グラグラする頭を抱えたまま頷いた。自分がどこをどう歩いているのかが定かではない。これでは、ウサギを狩るどころか草原に出ただけで死んでしまうかもしれない。
しかし、エリクはくじけなかった。
何度も何度も、二人の肩を借りながら南へと一歩ずつ、確実に歩を進めていった。三十分もすれば、一人で歩いて、草原の草を踏みしめる感覚を感じるまでになっていた。
そして、エリクが自分の足でしっかりと走れるようになるまで時間はたいしてかからなかった。環境への適応能力が高いのか、これが人並みなのか、それは分からなかったが、エリクが普通に草原を歩けるようになって、二人は安心した。
安心したところで陽は南中高度に達し、お昼ご飯の時間になった。町から出るときに買ってきた保存食と一回分の食事があったので、まずはランチ用に買った食事から食べることにした。保存食は一か月以上持つので、その間は狩をして、その動物の肉を食べることにした。
「美味しいでしょ、私のセレクト」
リゼットが胸を張って得意げに言うので、一緒に食べていたジャンヌは吹き出してしまった。
「これ、エリクが選んだんだと思ってた! リゼット、あんたのセレクトにしちゃ、ちょっとお粗末じゃない? 外の世界の食べ物をあまり知らないエリクならと思って許していたけど、これはねえ」
「あんたそれ、すごくエリクに失礼なの、分かってる?」
そう言って、リゼットは荷物の中にあった花のステッキを取り出して、ランチボックスの上にかざした。少し何かを念じると、ステッキをぐるりと振って、また、元の荷物の中に戻した。
「文句があるなら今度はこれを食べてから言いなさいよね」
リゼットはそう言って威張ってみせた。それが気に入らないジャンヌは、エリクの手を引っ張ってランチボックスの中に突っ込ませた。
「痛いよ、ジャンヌ。いったいどうしたんだい?」
「それくらい我慢しなさいよ、怪力男。で、その料理どう? 錬術かけられたランチなんて怖くて食べられなくてさ」
そう言われて、エリクはランチボックスからひとつ、サンドイッチを選んで手に持ち、食べてみた。
「おいしい! さっきのよりずっとおいしいよ、ジャンヌ。これ、どうやったの、リゼット?」
その感嘆する声を聴いて、リゼットはより鼻高々になり、ジャンヌは舌打ちをした。
リゼットは天狗になって答えた。
「錬術は魔法じゃないのよ。これは、れっきとした科学。使えるのは銀の森の住人である私たちだけだけどね。今のは、料理の中にある元素の組成をちょっといじくっただけよ。少し錬術をかけるだけでもこんなにおいしくなるんだから、感謝しなさいよ」
「それさ、自分のフォローになってないじゃん。どころか無能の証明ってやつ」
頭を抱えて、あきれ顔でジャンヌがリゼットの鼻っ柱を折った。
「なんですって、ちょっとこっちに来なさいよ、ジャンヌ! 今日こそ白黒つけてやるわ!」
そう言って、ランチボックスとエリクを置いて、ジャンヌとリゼットは先に行ってしまった。エリクは急いでランチボックスを片付けて、二人の荷物を持つと、二人の後を追った。
「二人とも、ランチくらいはゆっくりしようよ!」
そう叫んだが、喧嘩をしている二人には聞こえるはずがなかった。
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