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霧の中で
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不思議なティータイム
その湖は朝靄を作り、朝靄は周辺全体に広がり、幻想的な空間を広げていく。
この家からはその湖畔の風景が綺麗に見えている。家をぐるりと囲うように広がるイングリッシュガーデンはよく手入れされていて、この季節、家の門を飾って生えている露草やセージの花が霧に紛れて薄い緑を落とし込んでいる。
家の中は暖かく、本格的な真夏を迎えるのには少し心許なかった。
その家に住んでいるのは女性一人だけで、毎日何かしらのお菓子を焼いては隣人に配っている。
最近は隣人の家が留守なのか、ベルを押しても出て来ないので、お菓子だけを軒先に置いていくことになったのだが。
彼女は名前をマリーと言った。イギリスのこの地に引っ越してくる前はフランスにいた。
彼女は一人で気ままに暮らしたいと思っていた。そのためにフランスからやって来た。
マリーは、午前中全てを使って庭をいじり、午後にお菓子を作った。今日はいつもより一枚多く、アップルパイを作る予定だ。午後少し遅めの時間に友人が来るからだ。
マリーの心は踊っていた。アップルパイを二枚焼くのは初めてで、備え付けのオーブンをどう使おうかと迷っていた。
庭仕事をしながら、テーブルセッティングや今回使う食器や茶器のことを考える。鼻歌を歌いながらオレガノの植え替えをする。
「お茶はどのようなものがいいかしら?」
ふと、空を見て立ち上がると、プロペラの飛行機が豪快な音を立てて頭の上はるか上空を過ぎていった。
庭いじりはオレガノの植え替えで終わった。グッと背伸びをして息を吐く。するとちょっとした心地よい疲れが湧き上がってきて、それに釣られるように空腹を感じた。長靴の底を洗って脱ぎ、着替えて家に上がると朝に用意してあったサンドイッチがテーブルにあったので、紅茶を丁寧に淹れてサンドイッチに合わせた。バターを効かせたサンドイッチは紅茶とよく合う。
ランチが終わると、昼使った分のお皿を洗う。それが済むとお菓子を作る器具をそこらじゅうから出した。そのうち冷蔵庫に入っているのは大きめのボウルとバター、粉などだ。それを出し終えるとバターを細かく切って、計量して振るった薄力粉の中にいれ、手で揉んでそぼろ状にした。そこに塩と少々の水を加えて練る。
「ダブルクラストだから、粉の量はいつもの倍」
などと呟きながらパイ生地をこねて冷蔵庫へ入れる。生地を寝かせている間に酸味の強いこの地独特の小さなリンゴを手に取った。ストッカーに幾つも常備しているのだが、今回のアップルパイのために新しく買ったリンゴがいくつか余計に買ってあった。
古い方から八つ切りにして砂糖で煮る。少々のシナモンを加えて三十分ほど煮込むと、半透明で香り高いりんごのコンポートができ上がった。
マリーは、時間を見た。時計は午後三時を回っている。
「少し急ぎましょう」
そう言って、型に生地を敷いて、そこにりんごのコンポートを乗せていく。それが終わったらもう一枚の生地で蓋をして卵液を塗ってオーブンに入れる。
オーブンの様子を見ながら焼いていくと、きちんと焼き目がついて生地がしっかりしてくるのに時間がかかった。
二枚同時に焼けるオーブンだが、どうしても火の周りにムラができてしまうため、アップルパイのような大きなものは気を使う。
そのうちにいい香りがしてきたので、焦がさないように気をつけながら様子を見て、しばらくしてから取り出した。
パイはうまく焼けていた。
マリーは、二枚のうち一枚を、冷まして友人に持たせることにした。もう一枚は二人で食べるため、ケーキカッターで八枚に切り、お茶の用意をしてあるテーブルに持っていった。
それが終わると、ついにエントランスのチャイムが鳴った。
ドアを開けると、このイギリスに来て初めてできた友人が、そこに立っていた。
「ずいぶん久しぶりになっちゃたわね。でも招待してくれてありがとう!」
彼女はそう言い、自分が持っていた花束をマリーに差し出した。
「花束は花屋さんで作ってもらったものだけど、私の気持ちも受け取ってね」
友人は、そう言って胸を張った。
マリーは嬉しさに小躍りしそうになったが、抑えた。
「外は霧がすごかったでしょう」
友人をむかえ入れながら、マリーは自分の顔が笑顔で満たされているのを感じた。この友人はマリーがこのイギリスに来て右往左往しているところを助けてくれた。恩人でもある。
友人は、マリーの質問にこう答えた。
「それほどでもなかったわ。この時間には、もう対岸も見えていたわよ」
喋りながらお茶の席に着く。ずいぶん遅い時間だが、マリーも友人も、気にすることはなかった。
マリーは、すでに淹れてあるいくつかの紅茶を友人に勧めた。
「エルシィに決めてもらおうと思って、四種類用意したわ。右からスリランカのヌワラエリヤ産。次がダージリンのセカンドフラッシュ、その左はアッサム、一番左はニルギリの冬摘み。どれも個性が強いし、エルシィの好みもわからなかったから」
席に座ってお茶を待っている友人のエルシィは、目を細くして考え込み、マリーを見た。
「苦くないのがいいな。香りは強くなくてもいいからさっぱりしてて、何よりあなたの焼いた美味しそうなアップルパイによく合うのがいいわ」
すると、マリーは少し考えて、一つのポットを持ち上げた。
「スリランカのお茶にしましょう。私はそんなに感性が強い方じゃないから知識頼みになっちゃうけど」
そう言いながら、ポットから静かにカップにお茶を注ぐ。
マリーが席につくと、エルシィはお菓子を食べる前に手を合わせた。
「あ、エルシィは仏教徒だったわね」
マリーがそう言って赤くなると、エルシィはニコリと笑って、手を合わせたまま目を閉じた。そしてすぐにフォークを手に取った。
「私のこれ、いまだにわかってくれる人が少なくて。それでもマリーがいるから少し楽になったわ」
そう言って、紅茶を口に含んだ。
すると、マリーはあっと言いながら席を立った。
「お花、飾りましょう」
マリーはそう言って、花束の包装をとり、花屋の店員が見栄え良くしてくれた物をそのままにして、大きな花瓶にそれを差した。
その花を二人が一緒に見える窓際に飾った。
「綺麗だわ」
マリーは花に見惚れた。それを見ているエルシィは何かとてもいいことをしたような気分になった。
そして、若い女性二人は、互いにとりとめもない会話を交わしては笑顔の交換をしてティータイムを楽しんだ。
楽しい時間はすぐに過ぎていってしまう。もう夕食の時間をゆうに越してしまった。二人はそれに気がつくと、急いで帰りの準備をした。マリーはパイを丁寧に包み、エルシィに手渡した。
そして、エルシィを見送るためにマリーがドアを開けた。
その時だった。
「あれ?」
エルシィは、少し焦った顔をして、外と中を見比べた。
「霧が濃くなってる」
エルシィは、そう言いながらドアの外を見せてくれた。すると、マリーはアッと声を上げた。
「この霧、多分、会いたい人に会える霧だわ」
エルシィは、びっくりして霧とマリーを見比べた。
「会いたい人に会えるって? どういうこと?」
マリーは緊張した面持ちを崩さないで、答えた。
「この霧の中、五メートルほど進むと、そこに、もう亡くなったけど会いたい人が立っていて、お話もできる。ただ、そこに辿り着けなかったら手にキャンディーを持って元の場所に帰れる。もし、会いたい人に会えたら、その代償に、一週間後に何らかの形で不幸なことが訪れる。今、ここで会いたい人がいたら、確実に会える。特にいなければキャンディーだけで済むの」
それを聞いて、エルシィはゾッとした。
「そんな」
エルシィは、その場にへたり込んだ。
「会いたかった人は、いるの、エルシィ?」
エルシィは、頭を抱えて涙を流した。
「ここに来たのは、ある人の葬儀のため。花は、葬儀用にセレクトしてもらったわ。亡くなったって聞いた時はびっくりして。でも、すごく会いたかったから、濃い霧の中でも潜っていけた。そういえば、私、その人がこの瞬間までやってきた行動を一部始終知ってる。ダブルクラストだから粉は二倍って言いながらお菓子を作っていたり、オレガノを植え替えたり」
それを聞いて、マリーは全身を凍り付かせた。
「それは、私」
かろうじて出した声が震える。
エルシィは、そんなマリーをそっと、抱きしめた。
「あなたを呼んだのは私だった。きっとこれには意味があるのよ。あなたを呼んだ限りは、私が不幸になる覚悟をしなきゃだめだよね」
マリーの体は冷たかった。
だが、彼女が流した涙は暖かかった。
「会えてよかったわ、マリー。私、ずっとあなたに言いたいことがあったの」
エルシィは、そう言ってマリーから離れた。両手を使ってマリーの涙を拭う。
「あなたは長い間病気と戦っていた。この家で眠るように死んだって聞いた。私があなたから受け取ったものはとても大きかったわ。私、この先訪れる不幸を必ず乗り越えてみせる。だから、天国から見ていてね。愛してる、マリー」
エルシィは、言葉を紡ぎながら大粒の涙を流した。マリーと再び抱き合うと、どんどん実体の無くなっていくマリーの体を抱きしめた。
マリーが完全に消えてしまうと、霧は綺麗に晴れ、涙を流しながら自分の体を抱くエルシィだけが、マリーの家の跡地に取り残されていた。
エルシィの目の前には、花束が横たわっていた。
その一週間後、エルシィは、車に轢かれ、片足を失った。
終わり
その湖は朝靄を作り、朝靄は周辺全体に広がり、幻想的な空間を広げていく。
この家からはその湖畔の風景が綺麗に見えている。家をぐるりと囲うように広がるイングリッシュガーデンはよく手入れされていて、この季節、家の門を飾って生えている露草やセージの花が霧に紛れて薄い緑を落とし込んでいる。
家の中は暖かく、本格的な真夏を迎えるのには少し心許なかった。
その家に住んでいるのは女性一人だけで、毎日何かしらのお菓子を焼いては隣人に配っている。
最近は隣人の家が留守なのか、ベルを押しても出て来ないので、お菓子だけを軒先に置いていくことになったのだが。
彼女は名前をマリーと言った。イギリスのこの地に引っ越してくる前はフランスにいた。
彼女は一人で気ままに暮らしたいと思っていた。そのためにフランスからやって来た。
マリーは、午前中全てを使って庭をいじり、午後にお菓子を作った。今日はいつもより一枚多く、アップルパイを作る予定だ。午後少し遅めの時間に友人が来るからだ。
マリーの心は踊っていた。アップルパイを二枚焼くのは初めてで、備え付けのオーブンをどう使おうかと迷っていた。
庭仕事をしながら、テーブルセッティングや今回使う食器や茶器のことを考える。鼻歌を歌いながらオレガノの植え替えをする。
「お茶はどのようなものがいいかしら?」
ふと、空を見て立ち上がると、プロペラの飛行機が豪快な音を立てて頭の上はるか上空を過ぎていった。
庭いじりはオレガノの植え替えで終わった。グッと背伸びをして息を吐く。するとちょっとした心地よい疲れが湧き上がってきて、それに釣られるように空腹を感じた。長靴の底を洗って脱ぎ、着替えて家に上がると朝に用意してあったサンドイッチがテーブルにあったので、紅茶を丁寧に淹れてサンドイッチに合わせた。バターを効かせたサンドイッチは紅茶とよく合う。
ランチが終わると、昼使った分のお皿を洗う。それが済むとお菓子を作る器具をそこらじゅうから出した。そのうち冷蔵庫に入っているのは大きめのボウルとバター、粉などだ。それを出し終えるとバターを細かく切って、計量して振るった薄力粉の中にいれ、手で揉んでそぼろ状にした。そこに塩と少々の水を加えて練る。
「ダブルクラストだから、粉の量はいつもの倍」
などと呟きながらパイ生地をこねて冷蔵庫へ入れる。生地を寝かせている間に酸味の強いこの地独特の小さなリンゴを手に取った。ストッカーに幾つも常備しているのだが、今回のアップルパイのために新しく買ったリンゴがいくつか余計に買ってあった。
古い方から八つ切りにして砂糖で煮る。少々のシナモンを加えて三十分ほど煮込むと、半透明で香り高いりんごのコンポートができ上がった。
マリーは、時間を見た。時計は午後三時を回っている。
「少し急ぎましょう」
そう言って、型に生地を敷いて、そこにりんごのコンポートを乗せていく。それが終わったらもう一枚の生地で蓋をして卵液を塗ってオーブンに入れる。
オーブンの様子を見ながら焼いていくと、きちんと焼き目がついて生地がしっかりしてくるのに時間がかかった。
二枚同時に焼けるオーブンだが、どうしても火の周りにムラができてしまうため、アップルパイのような大きなものは気を使う。
そのうちにいい香りがしてきたので、焦がさないように気をつけながら様子を見て、しばらくしてから取り出した。
パイはうまく焼けていた。
マリーは、二枚のうち一枚を、冷まして友人に持たせることにした。もう一枚は二人で食べるため、ケーキカッターで八枚に切り、お茶の用意をしてあるテーブルに持っていった。
それが終わると、ついにエントランスのチャイムが鳴った。
ドアを開けると、このイギリスに来て初めてできた友人が、そこに立っていた。
「ずいぶん久しぶりになっちゃたわね。でも招待してくれてありがとう!」
彼女はそう言い、自分が持っていた花束をマリーに差し出した。
「花束は花屋さんで作ってもらったものだけど、私の気持ちも受け取ってね」
友人は、そう言って胸を張った。
マリーは嬉しさに小躍りしそうになったが、抑えた。
「外は霧がすごかったでしょう」
友人をむかえ入れながら、マリーは自分の顔が笑顔で満たされているのを感じた。この友人はマリーがこのイギリスに来て右往左往しているところを助けてくれた。恩人でもある。
友人は、マリーの質問にこう答えた。
「それほどでもなかったわ。この時間には、もう対岸も見えていたわよ」
喋りながらお茶の席に着く。ずいぶん遅い時間だが、マリーも友人も、気にすることはなかった。
マリーは、すでに淹れてあるいくつかの紅茶を友人に勧めた。
「エルシィに決めてもらおうと思って、四種類用意したわ。右からスリランカのヌワラエリヤ産。次がダージリンのセカンドフラッシュ、その左はアッサム、一番左はニルギリの冬摘み。どれも個性が強いし、エルシィの好みもわからなかったから」
席に座ってお茶を待っている友人のエルシィは、目を細くして考え込み、マリーを見た。
「苦くないのがいいな。香りは強くなくてもいいからさっぱりしてて、何よりあなたの焼いた美味しそうなアップルパイによく合うのがいいわ」
すると、マリーは少し考えて、一つのポットを持ち上げた。
「スリランカのお茶にしましょう。私はそんなに感性が強い方じゃないから知識頼みになっちゃうけど」
そう言いながら、ポットから静かにカップにお茶を注ぐ。
マリーが席につくと、エルシィはお菓子を食べる前に手を合わせた。
「あ、エルシィは仏教徒だったわね」
マリーがそう言って赤くなると、エルシィはニコリと笑って、手を合わせたまま目を閉じた。そしてすぐにフォークを手に取った。
「私のこれ、いまだにわかってくれる人が少なくて。それでもマリーがいるから少し楽になったわ」
そう言って、紅茶を口に含んだ。
すると、マリーはあっと言いながら席を立った。
「お花、飾りましょう」
マリーはそう言って、花束の包装をとり、花屋の店員が見栄え良くしてくれた物をそのままにして、大きな花瓶にそれを差した。
その花を二人が一緒に見える窓際に飾った。
「綺麗だわ」
マリーは花に見惚れた。それを見ているエルシィは何かとてもいいことをしたような気分になった。
そして、若い女性二人は、互いにとりとめもない会話を交わしては笑顔の交換をしてティータイムを楽しんだ。
楽しい時間はすぐに過ぎていってしまう。もう夕食の時間をゆうに越してしまった。二人はそれに気がつくと、急いで帰りの準備をした。マリーはパイを丁寧に包み、エルシィに手渡した。
そして、エルシィを見送るためにマリーがドアを開けた。
その時だった。
「あれ?」
エルシィは、少し焦った顔をして、外と中を見比べた。
「霧が濃くなってる」
エルシィは、そう言いながらドアの外を見せてくれた。すると、マリーはアッと声を上げた。
「この霧、多分、会いたい人に会える霧だわ」
エルシィは、びっくりして霧とマリーを見比べた。
「会いたい人に会えるって? どういうこと?」
マリーは緊張した面持ちを崩さないで、答えた。
「この霧の中、五メートルほど進むと、そこに、もう亡くなったけど会いたい人が立っていて、お話もできる。ただ、そこに辿り着けなかったら手にキャンディーを持って元の場所に帰れる。もし、会いたい人に会えたら、その代償に、一週間後に何らかの形で不幸なことが訪れる。今、ここで会いたい人がいたら、確実に会える。特にいなければキャンディーだけで済むの」
それを聞いて、エルシィはゾッとした。
「そんな」
エルシィは、その場にへたり込んだ。
「会いたかった人は、いるの、エルシィ?」
エルシィは、頭を抱えて涙を流した。
「ここに来たのは、ある人の葬儀のため。花は、葬儀用にセレクトしてもらったわ。亡くなったって聞いた時はびっくりして。でも、すごく会いたかったから、濃い霧の中でも潜っていけた。そういえば、私、その人がこの瞬間までやってきた行動を一部始終知ってる。ダブルクラストだから粉は二倍って言いながらお菓子を作っていたり、オレガノを植え替えたり」
それを聞いて、マリーは全身を凍り付かせた。
「それは、私」
かろうじて出した声が震える。
エルシィは、そんなマリーをそっと、抱きしめた。
「あなたを呼んだのは私だった。きっとこれには意味があるのよ。あなたを呼んだ限りは、私が不幸になる覚悟をしなきゃだめだよね」
マリーの体は冷たかった。
だが、彼女が流した涙は暖かかった。
「会えてよかったわ、マリー。私、ずっとあなたに言いたいことがあったの」
エルシィは、そう言ってマリーから離れた。両手を使ってマリーの涙を拭う。
「あなたは長い間病気と戦っていた。この家で眠るように死んだって聞いた。私があなたから受け取ったものはとても大きかったわ。私、この先訪れる不幸を必ず乗り越えてみせる。だから、天国から見ていてね。愛してる、マリー」
エルシィは、言葉を紡ぎながら大粒の涙を流した。マリーと再び抱き合うと、どんどん実体の無くなっていくマリーの体を抱きしめた。
マリーが完全に消えてしまうと、霧は綺麗に晴れ、涙を流しながら自分の体を抱くエルシィだけが、マリーの家の跡地に取り残されていた。
エルシィの目の前には、花束が横たわっていた。
その一週間後、エルシィは、車に轢かれ、片足を失った。
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