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海が鳴いている25
しおりを挟む「あァ……あンっ……は、んんんっ」
和室の磨りガラスから差し込む朝日が、部屋全体を照らしている中、畳の上に無造作に敷いた敷き布団の上で、二回り近く体格差のある二人が身体を重ねている。早朝で夏の盛りを少し過ぎたと言っても、まだまだ暑く、二人の身体は自分の汗か相手の汗なのかも解らないほど濡れそぼっていた。
グチュ、グチュ、グチュ、と一定のリズムを刻む濡れた音は、章良のペニスを咥え込んだ、真琴の後孔から漏れ出す白く泡になった粘液の音だ。章良は身体を反らせ、腰を少し持ち上げる様にして真琴の細い腰を掴み、中から前立腺を何度も擦り上げてやると、腰を固定され逃げる事の出来ない真琴が布団のシーツを掴み細い悲鳴を上げ始める。
「ああァ――――――――っあああ、そこっ……そこだめぇ!」
「はっ、ここマコちゃん好きだよな……気持ちいい?」
「はっ、は……あ、あ、あっ……ああァァっ、き……きもち……いいっ! じょうすいくん、じょう……んんっん――――――!!」
身体を捩る様にして腰を浮かせ、顔を背けてシーツを噛みながら全身をブルブルと痙攣させ、真琴は何度目かの絶頂に達していた。ピンと伸びた足の指がギュウと握り込まれるが、真琴のペニスは先が腹に当たるくらい硬くなったまま精子を吐く事は無い。ただ身体の痙攣と共にフルフルと震えるのみで、メスイキと呼ばれる状態になっていた。
「っ……締まる……」
直腸が中に入っている章良のペニスを完全に包み込み、締め上げながら蠕動を始める。まるでもっと欲しい、もっと愛せと言わんばかりに章良を束縛する。章良はこの瞬間が好きだった、普段、自分の気持ちはあまり口にしない真琴。何か提案してもいつも章良の意見を優先して、もし自分が別れを切り出したとしても、恐らく真琴は「解った、君がそう決めたのならいいよ」とあっさりと手を離してしまう危うさを感じてしまう所があるが、セックスをしている時だけは、とても赤裸々に強欲で「離さないで」と自分を束縛して来る様だった。身体は正直とは正にこの事を言うのだと、そんな真琴の本心を確認したくて、こうして何度も揺さぶり鳴かせ愛してしまう。
「マコちゃん……マコちゃん、愛してる」
「……ぼ……僕も……あ……ァ……」
真琴の足をくの字に折り曲げ、そのまま身体を乗り上げて行く。章良の身体が上へと擦れながら身体全体を押さえつけられる事によって、真琴の中にある章良のペニスが真琴の最奥を目指しズルズルとせり上がった。腸内にあるヒダを一枚ずつ押し開かれる感覚に背筋を悪寒に似たものがゾワリと這い上がり、内臓が胸を詰まらせ、生理的な涙が真琴の目尻を濡らせる。
「うっ…………っ」
「はっ、は……マコちゃん……苦しい?」
真琴が口で喘ぐ仕草をするのを見て、章良がその体勢から真琴を解放しようと身体を離して行くのを、真琴の腕がそれを許さない様に、しっかりと章良の首に腕を回し引き寄せた。
「や、やだ……いかないで……」
「でも、苦しそうだよ」
「大丈夫……君と離れるほうが……もっと苦しいよ」
引き寄せた耳元で真琴がつぶやく。
「このまま、中に出して」
章良は真琴の頭を両手で掴み、自分を求める様に伸びた赤い舌を絡め取った。そのまま腰だけを前後に動かして行くと、真琴の足が章良の腰をホールドする。完全に密着した身体は、お互いの汗で滑りその摩擦がまた快感を生んでいく。
「あああァ、気持ちイイ……いい……ァァァ、っ……ああああああ!」
「マコちゃん、イキそう? イキそうなの?」
「ァ……あっ、あっ、やっ……ああァ……い……いっちゃうっ、またクる――っ」
真琴の腰が跳ねて中が何度も収縮を繰り返しているのは、真琴がまたアクメの頂点に達している事が解る。
「はァ……ああっ……すごい、マコちゃんの中っ」
「やぁ……っイってるっ……イってるからぁぁ――っああああああ――!!」
「イキそうっ……っ……イク、イクよっ」
「キてっ……キて――――ああああっァァ――――――――――!!」
それでも容赦無く真琴の最奥を目指し、緩んで来た最後の扉を押し開いた瞬間。これまで以上の締め付けを感じて章良は真琴の中へ自身の欲望を放出した。自分の中でこれまで到達した事の無い場所で、何度も叩きつける様に吐き出す精液と、ビクビクと痙攣する章良のペニスを感じながら、行きすぎた快感に襲われた真琴の意識はプツリと途絶えた。
「……ちゃん……ちゃん……マコちゃん! マコちゃん!?」
頬を軽く叩かれてゆっくりと意識が浮上して行き、泣きそうな声で必死に自分の名を呼ぶ声に眼を開けると、そこには今にも泣き出しそうなほど情けない顔をした章良が居て、思わず真琴がクスリと笑う。
「……なんて顔……ふふ……」
「マコちゃん!?」
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ! 突然意識が無くなって、呼んでも揺すっても全然起きなくて……っ……おれ……マコちゃんを壊しちゃったかと……っ」
上から自分の顔を見下ろしている青っぽい瞳が揺れたと思った瞬間、ポロポロと涙が降り注ぎ始め、真琴の顔をポツポツと濡らして行く。真琴はまだ力の入らない震える手を章良の頬へと当て、労る様に撫でる。
「そう……ごめんね、大丈夫だよ」
まるで子供の様に涙を流す章良を、真琴が抱き締め愛していると囁くと、それに応える様に章良も真琴を強く抱き締めた。
あの事件から十日が経ち、真琴の身体の傷も癒えて、今日の午後に東京から刑事が真琴を迎えに来る事になっている。事件に関わっていない事は誰の目にも明らかだったが、孝史の犯した罪と事情を知っているとして共助や共犯の疑いは晴れてはいない。重要参考人として東京へと連行され、暫くは身柄を確保される事になる。おそらく、過去に起きたあの暴行事件の事も全て話さなくてはならないだろうと覚悟もしている。思い出したくも無い凄惨な出来事で、真琴の中では最大のトラウマだったが、これを乗り越えなければならないのも解っている。
真琴が島を出る日が決まってからと言うもの、章良はこれまで以上に真琴の側を離れず、常に寄り添いくっついて歩いていた。真琴も人目のある所では注意はするが、やはり離れたく無い気持ちの方が大きく、こうして人の目を盗み時間さえあれば抱き合っており、これまで経験して来たセックスは一体何だったのかと思える程、章良とのセックスの気持ちよさに溺れ、心と体が満たされて行く幸せを噛み締めていた。
「マコちゃん」
「ん? なに浄水君」
「やっぱり、離れたく無い……マコちゃんを一人にしたくない」
「……浄水君……僕だって離れたくないよ、でも……僕はこれまでの過去と決別する必要があるんだ、これが終わればまたここに帰って来るし」
「俺、逢いに行くから」
「うん……待ってる」
もう一度お互いの気持ちを確認する様に唇を合わせて行く。少しだけ開いた窓の外からは、オドドーン……オドドーン……と島の岸壁に叩きつける波の音が聞こえて来る、真琴はその音を聞きながら章良が〈新山齋〉として書いた物語を思い出していた。何故今それが頭に浮かんだのかは解らないが、遠くから聞こえるオドドーン、オドドーンと言う波の音が、まるで鳴き声の様だと思った。
「……海が鳴いているみたいだ」
「うん」
ぽつりとそう言葉を漏らした真琴を、章良はより一層強く抱き締めた。
オドドーン……オドドーン……オドドーン。
繰り返し叩きつける波の音は、泣いているかの様に切なく聞こえて来る。それはまるで、これから二人の身に起こる先の事を悲しんでいるかの様だった。
2019/12/18 海が鳴いている25
八助のすけ
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コメントありがとうございます。
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