何でも完璧にこなせる幼馴染が唯一絶対にできないのは、俺を照れさせること

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続・二人きり(家) パート2

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 香織が作ってくれた夜ご飯を食べた後、二人で冷凍庫にあったアイスをんでいた。透明なプラスチックに入ったコーヒー味のアイスは直接咥えて吸って食べるタイプだったので、今は俺も香織も無言な状態。

(アイス食ってるだけでも映えるよなぁ)

 ポニーテールは解かれていた。
 口が小さいからか、垂れる黒髪が美しいからかは分からないが、とにかく今の香織は映えている。雑誌の表紙を飾ってもおかしくないほどだ。

 ちなみに、香織が作ってくれた夜ご飯の主菜は青椒肉絲チンジャオロースだった。程よく火が通ったピーマンの柔らかさとほろ苦さ、そして豚肉の質量がたまらなくマッチした一品で、なによりとろみのついたタレが白米と最高の調和を味合わせてくれたため、一口食べた瞬間から手が止まらなくなってしまい気が付けば完食していた。
 青椒肉絲は俺の大好物の一つでもあり、香織は分かってて作ってくれたんだろう。ありがたい。

「ふぅ、美味しかったぁ~」

「だな。また買っとくよ」

「じゃあまた食べにくるね」

 食べさせてもらったのは俺なんだけどね?
 こういう言い方をしてくれるのも香織の優しいところだな。
 お礼代わりに香織からアイスの空容器を受け取ってゴミ箱へ。

「ん?」

 自分の席に戻ろうとしたところで香織がちょいちょいと手招きしていることに気がついた。首を傾げながら香織の前に行くと、突然手を握られる。

「急にどうした?」

「んー、せっかく久しぶりに斗真の家に来たから、ゲームでもしたいなって思って」

「なるほど」

 香織の家には不定期で祖母がやってくるのでゲーム機の類は一切ない。香織を縛り付けるあの人がいない日は基本的に二人で外で遊んでいたのだが、雨が降っていたりする日は一緒に俺の家でゲームをして遊ぶことも多かった。
 もう時間も遅いので失念していたけどそうだよな。香織はここ一ヶ月勉強漬けだったのだ。当然遊びたい気持ちもあるだろう。
 
「……香織?」

 さっそく準備しようとするも、捕まれた手が解放されない。
 これだと身動きが取れないため硬直する俺。
 香織の言葉を待つ。

「今日はその、テレビゲームじゃなくて、私が考えてきたゲームがしたい」

 今まで一度もなかった提案に俺は素直に驚いた。
 でもまあ、学校でも一部の女子たちは自分たちで考案したという謎のゲームでバカ笑いしていたりするし、それに影響されたのだろうか。
 頷いてルール説明を求めると、なぜだか恥ずかしそうに俯かれる。

「……ターン制。相手に何か言ったりしたりして、先に照れさせた方の勝ち。ドキドキしたかどうかは自己申告で、あと過度なボディタッチは禁止」

「うわ、なんだそれ」

 つい本音が漏れてしまう。
 香織が言っているのは要するに、相手を照れさせる言葉や行動を交互にしていって、先に照れたほうが負けということだ。
 相手が誰だろうと自分の言動に顔を覆いたくなりそうなゲームだな……。

「それ絶対香織が考えたやつじゃないでしょ。学校の一部の人たちの間で流行ってそう」

 SNS大好きな集団とかがよくこういう恋愛系の遊びをしているのを見る。
 案の定、「ば、バレたか」と言って香織が笑った。

 俺としてはやる分には構わない。クサイ台詞を言ってる自分には右ストレートをお見舞いしたくなるだろうが、香織相手ならそんな恥ずかしさも多少は軽減される、と思う。
 でも、俺と香織に関して言えば、そのルールだといつまで経っても終わらない気がする。多少のことでドキドキするような間柄じゃないからな。

「先に目を逸らしたほうが負けってルールにしない? その方が終わりが見えそう」

「強気だねー斗真。私これでも学校では可愛いって言われてるんだけどなー?」

 学内一の美少女は少し不服そうだ。
 しかし、同意はしてくれて、さっそくと言わんばかりに香織は立ち上がった。俺の目線より二十センチほど下から見上げてくるのでじーっと見つめ返す。
 真顔も怖いだろうから少し口角を上げてみる。

「あ、逸らした」

「ま、まだ始まってないからっ!」

 告白された経験は数多あれど、香織は基本的に男への耐性が薄いのかもしれない。
 ラノベやアニメで女子にも多少慣れている俺と比べて香織はそういうのも滅多に見てこなかっただろうから、その差だな。
 それでも俺に対しては十分耐性もあるだろうに、随分早く逸らされた。

「私が先行ね」

 改めて気合いを入れ直した様子の香織が俺の目をまっすぐ見つめてくる。

「普通じゃんけんとかじゃないの?」

「余裕そうな人は大人しく先行を譲りなさい」

「……はい」

 さっきの俺の言葉がまだ不服なようだ。
 といっても香織のはわざとらしい笑みを孕んだ言葉なので、本気で怒っているというわけでは決してない。親しい仲での距離感というやつだ。

 もう一度、今度はしっかり笑って見せてから、香織はふぅ、と一呼吸。
 俺の頬に小さな手が添えられる。

「……大好きだよ」

「っ、」

 おお、なんかようやくこのゲームのゲーム性を理解した気がする。
 恋愛的な意味は無いはずなのに、雰囲気や仕草からそういう意味を感じ取れてしまう。なるほどなるほど、そんな感じね。

 俺はわずかに息を詰まらせたが、逸らすほどじゃない。
 それよりも香織の目の揺れと潤み方がやばい。
 口も横一文字に伸びていく。

「あ、あの、一回ずつインターバルを挟むことにしませんか」

「ダメ」

 やっぱり自分で言う方が恥ずかしいんだろうな。
 受けよりも攻めがキツいゲームとはこれいかに。

 香織はもう頬を真っ赤に染めていた。
 なんかこれ、すぐ終わるのでは。

 そう思って香織の気を休ませないよう俺はすぐに行動した。されたのと同じように香織の頬に手を添えて、オリジナリティとして親指の腹で撫でてやる。


「今日もすっごい可愛いよ。本当に、香織が世界で一番可愛い」

「──っ!?」

 うわ。
 うわうわうわうわうわ。
 何言ってんだこいつ! 寒気、鳥肌、心臓を鷲掴みにされたようなヒヤッとした感覚が俺の全身を駆け巡る。

 俺の恥ずかしさが伝播したのか、香織はしばらくフリーズしたあとで急にしゃがみ込んだ。「それは無理……無理」とぼそぼそ呟いている。
 分かってる。うん、俺も無理。

 髪の隙間から覗く耳を真っ赤に染めている香織を揶揄ってやりたかったが、多分俺も自分のセリフに同じような状態になっている。

 こんなゲームを学校でやってる連中はマジでどういう神経してるんだよ。

「俺の勝ちってことで終わりにしよう。これはゲームが悪い」

「……いや、もう一回」

「……本気で?」

「ねえ斗真、知ってる? 私ってなんでも二回目の方が強いんだよ」

 そんなありがたい豆知識を授けてくれる香織だったが、立ち上がってからもハァハァと息を荒げていた。

 香織のストレス解消のため、今日まで頑張ってきた彼女のためを思って頑張れ俺。

「……わかった、やるよ」

 再びの二十センチ。
 心なしかさっきより距離が近い。

 先手後手を入れ替えて、今度は俺から。
 二回とも見た目について褒めるのはどこか気が引けるので、今回は内面についてで行こう。あんまり傷が深くないようなやつがいい。

 俺は香織の手を握り、考えていた台詞を口にする。

「学校での完璧な香織も、こうして家で緩んでる香織も、俺はどっちも大好きだよ」

「~~~ッ!!」

 もちろん家族、幼馴染としてであるが、ゲーム的にちょっとだけ本気っぽく言ってみる。
 恋愛感情を除けば本心なので今回の反動ダメージは微かなものだった。ところが香織はそうでもないらしく、潤んだ瞳がプイっと明確に逸らされる。

 紅潮した頬。
 俺そんなすごいこと言ったかな?
 香織のおかげで今の俺がいることは疑いようもなく、そのことも含めて「好き」っていうのは何度も伝えてきたはずなんだけど。
 でもまあ経験値の差。ラノベとアニメ様様ってことだろう。

「二回目の方がなんだって?」

 揶揄う余裕があるので言ってやれば、洗面所へ走っていく香織の捨て台詞が聞こえてくる。

「今度やるときは負けないから!」

「え、またやるの……」

 このゲームの何をそんなに気に入ったのか、俺としてはもう十分お腹いっぱいだった。
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