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また消えた 【ラルフサイド】

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 4年間離れ離れになっていて、ようやく一緒に学園に通えると思っていたのに、くそ迷惑な令嬢と、その後の生徒達のせいで、鬱陶しくなったアーシャは1週間で学校を飛び級して卒業してしまった。

 このままではまた俺の手の届かない所に行ってしまう。焦った俺は両親にも頼み込んで、アーシャが王城で過ごせるようにしてもらった。
 権力万歳。この時ばかりは王子でよかったって思ったね。

 なのに、またアーシャが消えてしまった。今度は妖精の手によって。
 初めは誘拐かなにかと思って、侍女と護衛の報告を聞いてすぐに俺は隣国のドラゴンの所に物理的に飛んだ。ドラゴンの子と一緒に消えたから、ドラゴン狙いじゃないかと思ったんだ。しかし、親ドラゴンは話を聞く前から既に、子供がいなくなったことに気づいていた。

 『あの子達は妖精界に行った』
 「妖精界?何故だ」
 『妖精は気になるものがあると相手の事情も考えずに連れて行ってしまうんだ。彼らに悪気はないのだけどね、子供と一緒だよ。まあ何十年か待っていたら帰ってくるだろう』
 「何十年?そんなに待てるか!」

 妖精は善悪の感情が無いのだとか。自分の興味があるかないかだけだから、興味がなくなったり、目的が終わったら連れて帰ってくれるだろうけど、時間軸が違うからすぐに帰ってくるとは限らない。
 それで、何十年。

 何千年と生きているドラゴンならば、気長に待てるだろうけど、人間が待っていられるわけないだろ。

 「妖精界に行く事は出来ないのか?」

 行けるのならば、どんな事があっても連れ戻しに行くから。

 『妖精界は妖精王が呼ばないと入れないんだよ。妖精界とは妖精王の作った亜空間なのだよ。しかし妖精王自体がその亜空間にいるから、周りから干渉する事が出来ないのさ』

 いつ戻るか分からない。絶望しかなかった。
 自国に帰って、両親に報告する。
 両親は、痛ましそうに俺を見たけれど、いつまでも待ってはいられない。将来はきちんと王太子として務めを果たせ、と言われた。つまりは後継を作れという事だ。
 だから俺は、学校を卒業する16まではアーシャが消えたことも世間には言わないでくれとお願いをした。アーシャの部屋もそのままにしていて欲しいと。それまでにアーシャが戻ってくればいいし、戻って来なかったら申し訳ないけれど弟を王太子にしてくれ、と。
 俺はアーシャ以外と結婚するつもりも、誰かを娶って子を孕ませるつもりもない。16で見つからなかったら、王位継承を返上して、陰ながら国を支えてアーシャを待つ生活をするつもりだ、と言うと両親は「そこまでなのか」と更に痛ましい顔で俺を見つめた。

 ルドルフ従兄さんという前例があるからか、両親は渋々ながら納得してくれたけれど、16歳までは、王太子としてきちんと自覚を持ち、勉強しろときつく約束させられた。

 その後、また親ドラゴンの元に行き、魔法を教えてもらうことにした。親ドラゴンが子供を感知できるのは、魔力というのが生物によってそれぞれ違っていて、全く同じ生物はいないからだそう。だからアーシャの魔力を感知できるようになって、探索能力の距離を世界まで広げられれば、アーシャがいつ戻ってきても気づけるし、場所もわかる、という訳だ。ちょうどよく、俺にはアーシャが魔力を込めて作ってくれた魔道具があった。魅了や洗脳などの精神系攻撃を無効にするリングだ。精神攻撃が一番厄介だから、と王家全員に作ってくれたものだが、違う意味でも役に立った。
 魔力を感じ取って、見つけ出す。言葉に言えば簡単だけれど、習得するには、比喩でなく血反吐を吐くような訓練が必要だった。
 
 学校で俺に話しかけてくる令嬢はもういない。俺がどれだけアーシャを好きだか、邪魔をしたら結末がどうなるのか分かっているからだ。放課後は煩わしいお茶会などもなく、思う存分魔力探索の訓練をすることが出来た。

 執念の賜物か、15歳の誕生日前に、アーシャの魔力を感じ取れるようになった。確かに居場所はこの世界では無さそうだ。アーシャの魔力を頼りに転移をしてみたが、たどり着くことは出来なかった。
 ある日、アーシャの魔力がこの世界に現れた。すかさずその場所に飛んだ。


 アーシャの姿を見つけた時は、もう絶対離さないと決めた。
 卒業だの婚約だの言ってられない。アーシャの気持ちを気長に待つのもやめた。
 アーシャはこんなにも天才なのに何故か自己評価が低い。だから自分じゃなくても…なんて平気で言えるんだ。 
 アーシャが恋や愛などの感情に疎いし、俺に特別な感情を持ってないのも知っている。だけど俺にはアーシャしか考えられない、この恋が実らないのなら一生一人でも良い。
 だからどうか。俺で諦めてくれないかな。一生アーシャだけを愛し続けて、誰よりも大事にするから。

 「愛しているんだ」

 今すぐにでも自分の物にしなければきっとまた俺の前から消えてしまうだろう?
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