13 / 14
また消えた 【ラルフサイド】
しおりを挟む
4年間離れ離れになっていて、ようやく一緒に学園に通えると思っていたのに、くそ迷惑な令嬢と、その後の生徒達のせいで、鬱陶しくなったアーシャは1週間で学校を飛び級して卒業してしまった。
このままではまた俺の手の届かない所に行ってしまう。焦った俺は両親にも頼み込んで、アーシャが王城で過ごせるようにしてもらった。
権力万歳。この時ばかりは王子でよかったって思ったね。
なのに、またアーシャが消えてしまった。今度は妖精の手によって。
初めは誘拐かなにかと思って、侍女と護衛の報告を聞いてすぐに俺は隣国のドラゴンの所に物理的に飛んだ。ドラゴンの子と一緒に消えたから、ドラゴン狙いじゃないかと思ったんだ。しかし、親ドラゴンは話を聞く前から既に、子供がいなくなったことに気づいていた。
『あの子達は妖精界に行った』
「妖精界?何故だ」
『妖精は気になるものがあると相手の事情も考えずに連れて行ってしまうんだ。彼らに悪気はないのだけどね、子供と一緒だよ。まあ何十年か待っていたら帰ってくるだろう』
「何十年?そんなに待てるか!」
妖精は善悪の感情が無いのだとか。自分の興味があるかないかだけだから、興味がなくなったり、目的が終わったら連れて帰ってくれるだろうけど、時間軸が違うからすぐに帰ってくるとは限らない。
それで、何十年。
何千年と生きているドラゴンならば、気長に待てるだろうけど、人間が待っていられるわけないだろ。
「妖精界に行く事は出来ないのか?」
行けるのならば、どんな事があっても連れ戻しに行くから。
『妖精界は妖精王が呼ばないと入れないんだよ。妖精界とは妖精王の作った亜空間なのだよ。しかし妖精王自体がその亜空間にいるから、周りから干渉する事が出来ないのさ』
いつ戻るか分からない。絶望しかなかった。
自国に帰って、両親に報告する。
両親は、痛ましそうに俺を見たけれど、いつまでも待ってはいられない。将来はきちんと王太子として務めを果たせ、と言われた。つまりは後継を作れという事だ。
だから俺は、学校を卒業する16まではアーシャが消えたことも世間には言わないでくれとお願いをした。アーシャの部屋もそのままにしていて欲しいと。それまでにアーシャが戻ってくればいいし、戻って来なかったら申し訳ないけれど弟を王太子にしてくれ、と。
俺はアーシャ以外と結婚するつもりも、誰かを娶って子を孕ませるつもりもない。16で見つからなかったら、王位継承を返上して、陰ながら国を支えてアーシャを待つ生活をするつもりだ、と言うと両親は「そこまでなのか」と更に痛ましい顔で俺を見つめた。
ルドルフ従兄さんという前例があるからか、両親は渋々ながら納得してくれたけれど、16歳までは、王太子としてきちんと自覚を持ち、勉強しろときつく約束させられた。
その後、また親ドラゴンの元に行き、魔法を教えてもらうことにした。親ドラゴンが子供を感知できるのは、魔力というのが生物によってそれぞれ違っていて、全く同じ生物はいないからだそう。だからアーシャの魔力を感知できるようになって、探索能力の距離を世界まで広げられれば、アーシャがいつ戻ってきても気づけるし、場所もわかる、という訳だ。ちょうどよく、俺にはアーシャが魔力を込めて作ってくれた魔道具があった。魅了や洗脳などの精神系攻撃を無効にするリングだ。精神攻撃が一番厄介だから、と王家全員に作ってくれたものだが、違う意味でも役に立った。
魔力を感じ取って、見つけ出す。言葉に言えば簡単だけれど、習得するには、比喩でなく血反吐を吐くような訓練が必要だった。
学校で俺に話しかけてくる令嬢はもういない。俺がどれだけアーシャを好きだか、邪魔をしたら結末がどうなるのか分かっているからだ。放課後は煩わしいお茶会などもなく、思う存分魔力探索の訓練をすることが出来た。
執念の賜物か、15歳の誕生日前に、アーシャの魔力を感じ取れるようになった。確かに居場所はこの世界では無さそうだ。アーシャの魔力を頼りに転移をしてみたが、たどり着くことは出来なかった。
ある日、アーシャの魔力がこの世界に現れた。すかさずその場所に飛んだ。
アーシャの姿を見つけた時は、もう絶対離さないと決めた。
卒業だの婚約だの言ってられない。アーシャの気持ちを気長に待つのもやめた。
アーシャはこんなにも天才なのに何故か自己評価が低い。だから自分じゃなくても…なんて平気で言えるんだ。
アーシャが恋や愛などの感情に疎いし、俺に特別な感情を持ってないのも知っている。だけど俺にはアーシャしか考えられない、この恋が実らないのなら一生一人でも良い。
だからどうか。俺で諦めてくれないかな。一生アーシャだけを愛し続けて、誰よりも大事にするから。
「愛しているんだ」
今すぐにでも自分の物にしなければきっとまた俺の前から消えてしまうだろう?
このままではまた俺の手の届かない所に行ってしまう。焦った俺は両親にも頼み込んで、アーシャが王城で過ごせるようにしてもらった。
権力万歳。この時ばかりは王子でよかったって思ったね。
なのに、またアーシャが消えてしまった。今度は妖精の手によって。
初めは誘拐かなにかと思って、侍女と護衛の報告を聞いてすぐに俺は隣国のドラゴンの所に物理的に飛んだ。ドラゴンの子と一緒に消えたから、ドラゴン狙いじゃないかと思ったんだ。しかし、親ドラゴンは話を聞く前から既に、子供がいなくなったことに気づいていた。
『あの子達は妖精界に行った』
「妖精界?何故だ」
『妖精は気になるものがあると相手の事情も考えずに連れて行ってしまうんだ。彼らに悪気はないのだけどね、子供と一緒だよ。まあ何十年か待っていたら帰ってくるだろう』
「何十年?そんなに待てるか!」
妖精は善悪の感情が無いのだとか。自分の興味があるかないかだけだから、興味がなくなったり、目的が終わったら連れて帰ってくれるだろうけど、時間軸が違うからすぐに帰ってくるとは限らない。
それで、何十年。
何千年と生きているドラゴンならば、気長に待てるだろうけど、人間が待っていられるわけないだろ。
「妖精界に行く事は出来ないのか?」
行けるのならば、どんな事があっても連れ戻しに行くから。
『妖精界は妖精王が呼ばないと入れないんだよ。妖精界とは妖精王の作った亜空間なのだよ。しかし妖精王自体がその亜空間にいるから、周りから干渉する事が出来ないのさ』
いつ戻るか分からない。絶望しかなかった。
自国に帰って、両親に報告する。
両親は、痛ましそうに俺を見たけれど、いつまでも待ってはいられない。将来はきちんと王太子として務めを果たせ、と言われた。つまりは後継を作れという事だ。
だから俺は、学校を卒業する16まではアーシャが消えたことも世間には言わないでくれとお願いをした。アーシャの部屋もそのままにしていて欲しいと。それまでにアーシャが戻ってくればいいし、戻って来なかったら申し訳ないけれど弟を王太子にしてくれ、と。
俺はアーシャ以外と結婚するつもりも、誰かを娶って子を孕ませるつもりもない。16で見つからなかったら、王位継承を返上して、陰ながら国を支えてアーシャを待つ生活をするつもりだ、と言うと両親は「そこまでなのか」と更に痛ましい顔で俺を見つめた。
ルドルフ従兄さんという前例があるからか、両親は渋々ながら納得してくれたけれど、16歳までは、王太子としてきちんと自覚を持ち、勉強しろときつく約束させられた。
その後、また親ドラゴンの元に行き、魔法を教えてもらうことにした。親ドラゴンが子供を感知できるのは、魔力というのが生物によってそれぞれ違っていて、全く同じ生物はいないからだそう。だからアーシャの魔力を感知できるようになって、探索能力の距離を世界まで広げられれば、アーシャがいつ戻ってきても気づけるし、場所もわかる、という訳だ。ちょうどよく、俺にはアーシャが魔力を込めて作ってくれた魔道具があった。魅了や洗脳などの精神系攻撃を無効にするリングだ。精神攻撃が一番厄介だから、と王家全員に作ってくれたものだが、違う意味でも役に立った。
魔力を感じ取って、見つけ出す。言葉に言えば簡単だけれど、習得するには、比喩でなく血反吐を吐くような訓練が必要だった。
学校で俺に話しかけてくる令嬢はもういない。俺がどれだけアーシャを好きだか、邪魔をしたら結末がどうなるのか分かっているからだ。放課後は煩わしいお茶会などもなく、思う存分魔力探索の訓練をすることが出来た。
執念の賜物か、15歳の誕生日前に、アーシャの魔力を感じ取れるようになった。確かに居場所はこの世界では無さそうだ。アーシャの魔力を頼りに転移をしてみたが、たどり着くことは出来なかった。
ある日、アーシャの魔力がこの世界に現れた。すかさずその場所に飛んだ。
アーシャの姿を見つけた時は、もう絶対離さないと決めた。
卒業だの婚約だの言ってられない。アーシャの気持ちを気長に待つのもやめた。
アーシャはこんなにも天才なのに何故か自己評価が低い。だから自分じゃなくても…なんて平気で言えるんだ。
アーシャが恋や愛などの感情に疎いし、俺に特別な感情を持ってないのも知っている。だけど俺にはアーシャしか考えられない、この恋が実らないのなら一生一人でも良い。
だからどうか。俺で諦めてくれないかな。一生アーシャだけを愛し続けて、誰よりも大事にするから。
「愛しているんだ」
今すぐにでも自分の物にしなければきっとまた俺の前から消えてしまうだろう?
1
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
地味な聖女は離婚される
碧桜 汐香
恋愛
地味な聖女であるメルティアは、歴代最高の聖女だ。
そんなメルティアを国に囲い込むため、メルティアは第四王子と結婚することとなった。そして、メルティアと第四王子は、順調な結婚生活を送っていた。
しかし、第四王子は女好きだ。貴賤の意識が低く平民出身のメルティアともいい関係を築いたが、彼はいい女をより好む。
第四王子と夫婦の交わりを交わすことで力が弱まっていくメルティアは、離縁を申し出られた。夫婦の愛を確かめ合ったその夜に。
「メルティアの身体は好みだから、妾とかにして置いてあげてもいいよ?」
そんな第四王子は、美人な後輩聖女ハレリーと再婚した。
そんな王宮から逃げ出し、隣国の教会で治癒に当たるメルティアのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる