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目をつけられました?

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 既に王妃様と両親、警護の者には話が伝わっていたようで、私が王弟殿下と共に会場に戻ると、すぐに王妃様のテーブルに呼ばれて労われました。

 「アリシア嬢、この度はありがとうございます。子供達に被害も出なかった事、本当に感謝しています」
 「王妃陛下、どうぞお顔をお上げになってください。私は揺らぎが気になっただけなのです。それよりも私の戯言を信じて、直ぐに騎士たちを連れてきてくれた王弟殿下の方が素晴らしいです」

 隣に座った王弟殿下の方を見る。

 「いや、私はなにもしていないよ」

 と、その時遠くの王太子のいるテーブルから楽しそうな笑い声が聞こえた。令嬢たちには何も知らされていないようだ。
 何事もなくて、お茶会が乱されることがなくて、本当に良かったと思う。

 でも王太子殿下はなんでまた私を睨んでいるのよ。



 「せっかくのお茶会だったのにごめんなさいね、今からこのテーブルに王太子を呼ぶわね」
 「いえ、結構です。せっかく皆様楽しそうにしていらっしゃるのだし、水を指すのは悪いです。それに私は、申し訳ないのですが、特に殿下に興味はございませんし」
「「「「え?興味無いの?」」」」

 両親と、王妃様、それに王弟殿下までがびっくりして私を見つめてくる。

 「ランカスター嬢はラルフをどう思う?」

 王弟殿下に尋ねられました。

 「どう思うと言われましても、会ったのは先程が初めてですし、会話も交わしていません。何も交流がない状態で、どう思えと?今は何も思いません、としか言いようがないです」

 なんなら、ずっと睨まれているから心象はよろしくない。

 「アリシアは、王太子殿下の為に勉強などを努力していたのではないのかい?」

 次に父親に尋ねられて、ああ、勘違いさせてしまっていたのよね。しまったなと思う。

 「初めはそうでしたが、今はやりたい事があるのです。私はまだ五歳でございます。結婚するのは早くても十年は先だと言うのに、既に婚約をしてしまったら、それに縛られて、労力も時間もその事だけに取られてしまいます。それに十年後にお互いどのような人間になっているかなど、今から分かるはずがありません。好意を持つとも持たれるとも限りません。私達はまだ何事にも移ろいゆく子供なのです。将来を縛ってしまいそうな婚約者は欲しくありません」

 確かにそうかもしれない、と大人達は思った。


 「あら、アリシア嬢は何をやりたいの?」
 「この世界では、魔力があるのは殆どが貴族で、平民の方達は魔力が微量しかありません。しかし、平民の暮らしを聞き及ぶ限り、掃除や洗濯など生活魔法が本当に必要なのは平民の方達だと思うのです。
 そこで、流す魔力は微量でも、その魔力を変換して生活魔法が使えるような、そんな魔道具を作りたいと思うのです」
 「へえ、ランカスター嬢は面白いことを考えるんだね。平民がみんな生活魔法を使えたら、楽をするようになってしまうんじゃないかい?」

 王弟殿下が、試すかのように質問してきた。

 「仕事が楽に出来るものがあるのに、使わない理由はないと思いますが?不必要なものに時間をかける必要がありますか?一日はどなたも平等に時間は決まっておりますのよ。それに、楽をするようになる、ではなく、空いた時間で他の仕事が出来るようになる、と考えれば、休息も取れ、仕事の回転率も増え、結果効率的です」
 「ちょちょちょ、ちょっと待って。ランカスター嬢は本当にラルフと同じ歳なの?」
 「はい、先日五歳になりました」

 王弟殿下は、はあと大きくため息をついたあと、ラルフの婚約を決めるのは、もっと後にしたら?と王妃様を見て言いました。




  まあ、なんにせよ、ゲート騒動はあったものの、王太子と話すことも無かったし、婚約者にならないで済みそうだ、などと帰りの馬車で考えていたら、小さい身体には今日の出来事は負担だったようで、母親の膝を枕に眠ってしまった。





 「あれ、絶対気に入ったよな」
 「気に入られたわね…王妃陛下と王弟殿下に」
 「アリシアは、嫌がっていたが…」
 「王家は絶対にアリシアを手放さないと思うわよ」
 「それなら、計画通り愛人の子を養子に引き取るか」
 「ごめんなさいね、貴方。私がもう二度と子供を産めないばかりに」
 「何を言う。こういう時のための契約愛人だろう。お前はアリシアを産んでくれただけで、十分だ。愛してるよ」
 「私もよ、あなた」
 「………」


 アリシアは、父親は母親に愛情がなくて浮気をしていると思っているようだが、実情は違う。

 
ランカスター一家を乗せた馬車は、そのまま静かに邸に向かって走っていった。
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