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その2

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 ゴブリン達を討伐しに巣に攻め込む為には準備が必要だった。
 例えば、槍をつくったり、剣を研いだり、鎧を調整したり、矢を沢山用意とかね。

 それなりに日数がかかるので、その間に駄目もとで領主様の館がある町へと救援を求める使者が送られた。
 もしも領主家が兵を出してくれるなら、それにこしたことはない、という訳だ。

「村の近くの森に多数のゴブリンが巣食ってしまったようなので退治してください」

 ってカンジの要請をするらしい。
 実際はもっとかしこまった文面らしいけどね。

 村内はにわかに物々しい雰囲気に包まれだしたけど、私はあんまりやるコト普段と変わらなかった。
 簡単な魔法ならともかく、それなりの魔法を使うには複雑な身振り手振りとかが必要だったから、動きを妨げる固い鎧とか着れないし、ポジション的には後衛の魔法系だから武器もない。手に持つのは魔法の発動体である杖って決まってる。これがないと魔法は使えないからね。

 ゴブリンが住み着いたとみられる森は村からすぐ近くの所だから、たくさんの保存食を用意するとかの必要もないし、念の為に水筒もってクッキーとかをニ、三箱もっていけば十分だろう。

 というワケで私の準備はすぐに済んだ。
 なので、普段通り神殿で掃除したり、洗濯したり、料理したり、偶に神官様のお手伝いをして過ごしていた。

 太陽が巡り星と月が過ぎゆき、やがて使者が村に帰ってきて、

「……駄目だったよ」

 という結果を皆に伝えた。
 やっぱりね。

 いよいよ、自分達でやるしかないと決意を固める事になり、討伐は三日後に決行となった。
 一日自由時間過ごして、一日身体を休めて、三日目に出発、という事らしい。
 ゴブリンってそんなに強い魔物じゃないらしいから、まず大丈夫だとは思うんだけど、戦いには絶対はないらしいからね。

 もしかしたら死んじゃうかもしれないし。

 そうなっても悔いが残らぬように過ごせとの事だった。

 といっても私は特にやる事も思いつかなかったので普段通りに過ごす事にした。明日世界が滅びるっていわれても私は日課をこなしてるような気がする。

 ただ、回りの人達はそうでもないらしかった。例えば、私が神殿の庭を箒でさっさか掃いてるとリオンが朝っぱらから神殿にやってくるなんて事もあった。

「あれ、リオン、おはよー。こんなに朝早くに珍しい。カミサマにお祈り捧げにきたの?」
「おはよう。そうだな、ついでだから祈ってくか……」

 ついで、という事は何か他に用事があるらしい。
 神殿に祈り以外で何の用だろ、と思っていると、

「なぁプリム、酒盛りしねぇ?」
「は?」
「いや、俺、シトロン酒漬けててさ。寝かしはじめて一年とか二年とかになるのがあるんだけど、この際、パーッとあけちまおうかなって……」

 シトロン酒!
 シトロンとは、柑橘系の果物だ。
 そのまま食べても美味しいけど、お酒にするとミラクルに美味しい、とっても神の恵みな食べ物なのだ!

「……それで、えぇと、プリムも一緒にどうだ? プリム、シトロン酒が好きだったろ?」
「良いのっ? シトロンのお酒って長く寝かせれば寝かせる程、美味しくなるんだよっ?」
「お、おう、らしいな。でも折角の酒、呑まずに死んじまったらそれこそ勿体ねぇからな……今日楽しくやって。今度、生き残れたらまた新しく作るさ」
「なるほどー。そういう事なら、ご相伴に預かれるというなら是非!」
「相変わらず神官見習いなのに酒に目が無いな」
「神官見習いだからだよ。神官様が飲ませてくれないんだもん。あと酒好きっていったって私がここまで好きなのはシトロン酒だけだよ。で、何時に、どこ集合?」
「今から、俺んち」
「え、朝っぱらからお酒のむの?」
「別にいーだろ、こんな時くらい」
「それもそうか」

 だってシトロン酒だもんね。
 もうじき生きるか死ぬかの戦いをやる訳だし。
 朝? だからなに? バチはあたらない筈だよ。

「それじゃ一応、外出してきても良いか神官様にお伺いたててくるね」

 自由時間って話だったけれど、何か仕事あるかもしれないし。

「って、リオンはお祈りもしていくんだっけ? 一緒に本殿いく?」
「おう」

 という訳で私はリオンと一緒に本殿へと向かった。
 神官様は外出許可はくれたしいつも通りニコニコはしてたんだけど、どことなくリオンを見る目がきつかった。
 ……リオンちで酒盛りするとかは言わなかったんだけどなぁ。何か隠し事してるって気配でバレバレだったのかしらん。


 手土産に作り過ぎてた保存食用の手製のクッキーを持って私はルンルン気分でリオンの家へと向かった。
 リオンの家は村はずれにある、主に丸木などを組み合わせて作られた小さな平屋だ。
 ちょっとちっちゃいけど立派なものだと思う。だってリオンが自分で建てた家だからね。
 私とリオンは同じ孤児だけれど、明確に差がある。
 私は赤子の頃に神官様に拾って育てていただいて、成人してからも神殿に住まわせて貰ってるのだけれど、リオンは十歳の時に伝染病で両親を失くしてからはずっと一人で(猟師のカシムさんに弟子入りとかはしてたけど)生きてきた。
 凄いと思う。
 リオンのそういう所は尊敬している、口にだしては言わないけど。

「あれ? 今日は随分と綺麗にしてるじゃん」

 村では私と同い年の子供はリオンだけだったから、距離が近くて、小さい頃から何度もリオンの家には遊びに来た事があるんだけど、だいたいとっちらかってんだよね。
 それがなんと、今日はとっても整理整頓されていた。あちこちピカピカしてて雑巾とかもしっかりかけられてる模様。
 珍しい事もあるもんだ。生死を賭けた戦いを前にしてこいつもついに悔い改めたのかしら。

「……お前がうるさいからな」
「人間の生活環境として当然だよ。でも随分頑張ったんだねぇ、エライエライ」
「う、うるせー、頭撫でるな、バカ」
「あはは、ごめんごめん。お邪魔しまーす」

 この段階になって「年頃の女が一人暮らしの男の家に上がるのは不用心なのでは?」とふと今更ながらに常識的な事が脳裏に浮かんだ。
 でも相手はリオンだし、まぁ大丈夫だよね。
 リオンはなんだかんだ紳士だし、ちっちゃな頃からの幼馴染だし、今までだって何度もこの家に遊びに来てるけど、何も問題は起こらなかったし。
 何故か、今まで考えもしなかった心配が脳裏に浮かんだのだけど、私はすぐにそれを掻き消した。
 私とリオンに限ってそれはないだろうと、その時はそう、思ったんだ。






 思ってたんだけど、

「……んんっ?!」

 美味しいお酒を沢山いただいて、気分がとっても良くなっていて、気づいたら、私はリオンに唇を奪われていた。
 頭が真っ白になって硬直していたら、さらにベッドの上に押し倒された。

「……いいよな?」

 えっ……何が?
 まったく良くないよ!
 リオンの手が私の頬を撫でてる。
 なっ……なんでぇ?
 私はリオンを睨んだ。
 ……キミ、ちょっと目が怖いぞ?!
 目が座っていてギラギラしてる。
 え、え、ええーっ?!

「……プリム、男の家に一人でやってきて、何もされないと思ってた?」
「だ、だって、今までなんにもなかったじゃん! どうしたのリオン! もしかしてもう呑み過ぎた?! それとも何か悪いものでも食べちゃったの?!」
「ああ、お前はそういう女だよな」

 リオンは深々と溜息をついた。
 でも私の上から退いてくれようとはしなかった。

 あの。
 重いんですけど……

「別におかしくなった訳じゃない。ずっとこうしたいと思ってた」

 ……
 ひぇっ。
 ま、まじですか……

「本当だ。今までは我慢してただけだ」
「じゃ、じゃあ今回も今からでも我慢しましょう! リオン、何も起こらなかった事にします、私は、ここで止めてくれれば。人は過ちを犯す生き物ですが、プリムは思うのです、悔い改める事によって更生の道が開け、天国への扉もまた、罪を犯した者にも神はお慈悲を――んぐうっ!」

 口を塞がれた。
 しかも今度は舌が入って来た。
 ぬるぬるとした舌先が私の舌に強引に絡みついてくる。

(んんっ?!)

 粘膜と粘膜とがこすれて。
 リオンの舌が私の咥内を執拗に蹂躙してゆく。

(……っ!)
 
 息が。
 できない。
 頭が。
 ぼーっと。
 してきた……
 ちょっと、長いよ、リオン……

「地獄で良い」

 散々に私の咥内を嬲ってから、息も絶え絶えになっている私を見下ろしてリオンは言った。

「……なんでぇ?」

 視界が滲んでいる。
 呼吸が荒い。
 顔が熱い。
 身体が熱い。

「死ぬかもしれないから」

 私はリオンを睨んだ。

「……そういうの、そういう商売のお姉さんが村にもいるじゃない。手近な所で済ませようとするのやめてよ。酷いよ」
「そうじゃない。俺はお前が欲しいんだ」

 翠色の瞳が私を見つめている。

「俺はお前が好きなんだ」

 また口を塞がれる。
 心臓がドクンとはねた。
 あっ。
 胸が、ドキドキしはじめる。
 舌と舌がぬるぬると擦れ合うのが気持ちが良い。
 頭が。
 思考が。
 どんどん白くなってゆく。

(あっ……)

 駄目。
 駄目だ。
 このまま流されるのは不味い。

「……んんっ!」

 私は口を塞がれながらも抗議するようにリオンの胸元を両手で強く押した。
 リオンはなかなか口を離してくれなかったけど、ぐいぐいと両手で押すと、やがて離してくれた。

「……プリムは、嫌か?」
「い、嫌かって……」

 ぜいぜいと息を整えつつ呟く。
 嫌かっていうと、そりゃ。
 嫌かっていうと……
 嫌かっていうと…………どう、なんだ? 私?!
 リオンの事は嫌いじゃないけど、でも。

「そ、そういうのは結婚してからするものだし……」
「なら結婚しよう、今度のゴブリン討伐が終わったら」
「はぁっ?!」

 私はリオンを強く睨んだ。
 キミ、てきとーいってないよね?
 リオンの手が私の頬にあてられる。
 翠色の瞳が私を見ている。

「ずっと前から思ってた。俺はお前と結婚したい」

 えーっと……
 ……
 だめだ、心臓の音がうるさすぎる。
 酸素が足りない。
 頭がまともに働いてくれない。
 お酒なんか飲むんじゃなかった!

 あっ。
 また口が……っ!
 口が。
 キスされるの、キモチイイ……

「プリムは嫌か?」

 ぽーっとした頭で考える。
 たぶん、嫌じゃないんだ、きっと。
 ちょっと急な事で吃驚してるけど。
 この村でずっと生きていくつもりなら、この村の誰かと結婚するのが自然な訳で。
 その相手としてリオンの事を考えた事が一度も無い訳じゃなくて。
 でも私達でそんなのあるかなーとかは思った事はあるけれども、嫌だとは思った記憶がない。

「……嫌じゃ、ないけど」
「じゃあいいな」

 そういうとリオンは口付けしながら今度は胸とか、お尻とかも揉んで来た。
 このすけべめ、と思ったのだけれども、私は全然抵抗できなくて、リオンの成すがままにされてしまったのだった。


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