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第一章〜阿修羅への道編〜 1巻
新たな旅の準備〜クウゴ〜
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暴走していた時の記憶は、黒は朧気ながら覚えている。
あれから目を覚まし、クーロンの街に戻ってきたのだ。
アルカナ絡みの件はクラスト達も黙っておく事となり、ギルドには報告していない。
そして、三日後の昼頃になると、クウゴが珍しくクラストを誘い食事をする事となった。
「本当に言っているのかい?」
いきなりの申し出に戸惑うクラスト。
「そうだ。
昨日、たまたま聞いちまったんだよ」
そして、昨日のことを話し始めた。
たまたま、葵とミイナが町中で歩きながら話している所に出くわしたのだ。
「あのお二人さんは……」
近づくと、二人の会話が聞こえてくる。
本当なら声を掛けるつもりだったが聞こえてきたワードに聞き耳を立てることにしたのである。
「アシュラねぇ」
葵のその一言がそうさせたのだ。
そんな葵に、ミイナが淡々とした声音で話した。
「そうよ。
アシュラはシイナ国の山岳地帯に住まうの。
調べによると、その地域一帯を力でねじ伏せて言うことを聞かせていると言うわ。
アイツの部下の振りをしてる時に聞いたのよ。
アルカナを集めて、あのお方という人物に送るってね。
アシュラ自身は自分が支配する地域があれば部下と言う立場でも構わないみたいね」
その台詞にピクリとクウゴは反応するも、変化の術を使って町人となり、二人の後をつけて、そのまま聞き耳を立て続ける。
ミイナが話を進める。
「でもね、カカ山だけは落とせてないみたい」
その情報にクウゴはホッとする。
カカ山はクウゴの故郷であるからだ。
「私が最後に聞いた情報だと、アシュラ達はカカ山を諦めるか悩んでいる様子よ。
ただ、正直、部下全員を送り込まれたら無理かもしれないわね」
そういうと、裏路地に入り、直ぐに葵とミイナは振り返って、クウゴに向けて警戒する。
「あんた、あたいらの後を付けて何しようって言うんだい?」
葵は杖を、ミイナは手を前に出して魔法陣を浮かばせて何時でも打てると言いたげに構えている。
そんな二人に両手を上げて降参の意を示して見せた。
「俺だよ俺」
変身を解くと、クウゴはいつもの全身毛を生やし、拳法着の上に中華風の身軽そうな鎖帷子の鎧に手甲とすね当てを装備した格好に戻る。
「クウゴじゃないか」
葵が驚いて見せると、ミイナは表情があまり変化しないが、納得したふうに頷いた。
「あなた、棒猿族だから、さっきの話が気になったのかしら?」
それに葵が尋ねた。
「どういうことだい?」
ミイナが説明する。
「カカ山は棒猿族の里だから、気になったのね」
それに素直にクウゴは頷いた。
「確かにそうだな。
で、さっきの話は、いつぐらいの話だ?」
それに対して、ミイナは答える。
「ひと月ぐらい前ね。
このパーティに入る前だから」
少し俯き気味になり、
「そうか」
かなり気にしている様子である。
そんな彼になにか言おうとするも、先にクウゴが言う。
「アシュラをどうするんだ?」
それにミイナが淡々とした口調で答えた。
「私の父を殺そうとしたのだから、始末されても文句は言えないって事ね」
ミイナから闘志の様なオーラが全身に纏われる。
それを見ると、クウゴは意を決して話した。
「俺は、元々、アシュラが危険だと思ってたんだ。
だから、冒険者になって強くなって、アシュラに対抗できるようにしてきた。
カカ山が狙われてるなら、俺も黙ってはいられねぇんだ。
だから……」
そして、クラストに告げる。
「あいつらはアシュラを倒す気でいる。
それなら俺とも利害が一致するんだ。
だから、このパーティを抜けて、あっちのパーティについて行きたいんだ。
話によると、あいつらはもうすぐ、アシュラがいるシイナ国に向かうらしい」
クラストは肘をテーブルについて手を組みながら黙って聞くと、瞑ってた目を開ける。
「仕方ないな……。
俺としては、クウゴがいなくなるのは寂しいし、ついて行ってやりたいとも思っているが……」
師であるジークフリートへの恩返しをしたく、嫌でもこの地域に留まる。
だから、ナンテタッケを拠点にしていたのだ。
本音はクウゴには残ってもらいたいが、説得する資格がない。
それは、クウゴがクラストパーティへの加入の条件に、自分の故郷を守る為、ある程度強くなったら抜ける という条件もあった。
互いに互いの立場を理解している。
そして、それに了承した。
「悪いが、故郷を守る為だ。
いつか必ず戻ってくる」
クウゴが約束すると、クラストは強く頷き、
「あぁ。待ってるよ」
友の門出に送迎会をやりたいと提案するのであった。
クウゴの申し出に黒は、条件をつけた。
勿論、クラストに引き抜きでは無いことを話す事だった。
それとは別に、アルカナの事はなるべく、他言無用にということを話す。
クウゴは了承して、クラストに話をしに行っている。
黒達は手分けして、アシュラ討伐の為に食料に衣料品等を買い揃えている。
ちょっとした、平穏回である。
葵とハチクイナとリューリの三人と、黒とミイナの二人に別れた。
葵達三人は、女三人ということもあり、楽しみながら歩き、自分達に与えられた買い出しをしている。
女子に必需品な生理用品は黒がアルカナの機能で買っているものを与えているので不要であり、衣服も店売りよりも黒が用意したものの方がはるかに品質がよく、デザインも良いことから、ほとんど買うものなんてなかった。
だから三人で女子会を開き、カフェでお茶とお菓子を楽しんでいる。
「ミイナやイナは、アシュラを倒したらどうするの?」
リューリがハチクイナに尋ねると、ハチクイナは、少し表情を曇らせて応えた。
「お姉様は、国民に愛されない王族がいては足枷になりかねないと言っているのです。
だから、黒さん達のパーティに居続けるみたいなのです。
私は……」
少ししょんぼりとして、
「私は、城に戻るのです。
ミイナ姉様のことや意志を伝えなきゃ行けないのです。
それに、四女とは言え、上二人の姉様の身や子供に何かあった時に私の子供が跡取りになるので、いなきゃダメなのですよ」
いつかミイナが言っていた件である。
「王族って大変なんだね……」
今から寂しさを滲ませるリューリに、葵も寂しげに言う。
「そうさね……。
王族に生まれるってことは、息苦しいって事なのかもね。
その分、その息苦しさや不自由さの代わりに、普通の人よりかは贅沢とかできるけどね」
そんな知った様な台詞に、いつかの葵の態度を思い出す。
「葵って、貴族とか地位のある立場の人だったりするの?」
「なんでそう思うんだい?」
気分を害した様子はなく、素朴な疑問と言わん態度で尋ねる。
「いや、なんか色々と知ってる風に言うしさ、葵ってあまり自分の過去を話さないじゃん」
言い終わってから、少々踏み込みすぎたか? とリューリは思うも、相変わらずの態度で葵が答える。
「そうさね……。
まぁ、あまりいい思い出は無いからね。
それに、あたいのいた学び舎には、貴族や皇族がいたのさ。
そういう連中の話を聞いてたから、知ってる風に聞こえるのかもね」
「なるほどね。
ってことは、やっぱりお嬢なの?」
葵は首を横に振った。
「そんな大層な者じゃないさ。
その学び舎は平民なんかも通ってたからねぇ。
そういう所なのさ。
そこで、貴族や皇族は平民が如何に自分たちの為に何をしてくれていて、どう感謝するべきかを学ぶ場でもあるのさ。
だから、敬意はあるけどね、学び舎の中では普通に接するのがマナーだったよ。
まぁ、中には将来のコネを作りたくて近寄る輩もいたけどね」
いたみたい、ではなく、いた、とはっきり言った事に引っかかりを覚えるも、リューリはそれ以上踏み込むことはしなかった。
そんな話にハチクイナが感心する。
「それは良い体験だと思うのです。
私の国だと、国民と一緒に勉学をするというのはないのです。
父と母に進言してみたいのです」
そういうが、葵はあまりおすすめしなかった。
「それなりにリスクがある事だよ。
平民も入れる施設だからね。
暗殺者やテロにあったら、大変なんだよ。
あたいの国みたいに島国ならリスクは低いけど、ミイナの国のように大陸の国がそれをやるのは危険すぎると思うんだ」
「確かにそうですね……。
でも、国民と密になって交流する機会があるのは、きっと、いい事なのです。」
少しやる気になっているハチクイナを微笑ましくリューリと葵が見つめる。
それと同時に、この子と一緒にいられる時間がアシュラ討伐までなんだなぁ と、寂しく思う。
何かしてあげられないか? とリューリは考えてしまうが、直ぐに、否!! 沢山の思い出を作ってあげた方がいい と切り替わる。
「お茶菓子、おかわりしちゃおうか!!」
提案すると、葵が涼しげに指摘する。
「最近、体重増えたって言ってなかったかい?」
お茶をすする葵に構わず、
「今日はいいの。
イナも食べたいでしょ?」
そんなリューリの態度に、困ったお姉ちゃんなのです と思いながら、
「私も食べるのです」
と、同意したのであった。
その頃、黒とミイナは淡々と食材を買い漁って行くのであった。
アクナはアリガ族のテントで休ませてもらっている。
不馴れな砂漠に疲れがドーンと押し寄せてしまい、寝込んでしまったのだ。
村の医者によると、命に別状はなく一週間程休めば体調も良くなるだろうとの事であった。
「黒乃様は、旅をしていらっしゃるのですよね……。
まだ、街に居られるのでしょうか?」
アイナに尋ねると、元気付けるように言う。
「まだ大丈夫だと思うよ。
なんでも、目標金額まで路銀を貯めるまでいるって言ってたからね。
それに、村の人の目撃証言によると、一昨日の証言になるけど、クーロンの街にいるらしいよ」
クーロンの街だとここから歩いて一日ちょっとで着く距離である。
何かあればすぐに行けるだろうと考えてのことであった。
アイナは思い出すように言う。
「それに、ステップを出る前に、この村に寄ってくれるって言うからさ。
その依頼をその時に言えばいいんじゃないかな?」
「必ずお会いできるのですね。
なら……良かった……」
確実に会えることがわかると、安心してしまい、眠りについてしまう。
そんなアクナを優しげな眼差しでアイナが見つめた。
そして、ミイナ達を思い浮かべて呟いた。
「本当に、お姫様ってやつは大変なんだね。
ゆっくり休むんだよ」
テントを暗くしてやり、そっと表へと出ていく。
翌日となり、この日からクウゴが正式加入という形となった。
「改めて、クウゴだ。
22歳で見ての通り棒猿族。
アシュラを倒すまでよろしく頼む」
ひょうきんなハイトーンの聞いた声音で皆に自己紹介をする。
すると、リューリがその後の事を尋ねた。
「アシュラを倒したあとはどうするの?
クラストのパーティに戻るの?」
それにクウゴは腕を組んで悩ましげに答えた。
「それだと、俺が一方的にお前さんたちを利用したみたいになるからなぁ。
だからよ、俺としてはお前さんたちのアルカナって奴? を集めるのを手伝いたいと思ってる」
その提案に、黒は歓迎の意を示した。
「俺としては歓迎したい。
それに前衛が増えるのはありがたい事だ」
他の四人は? と視線を向けると、葵が答える。
「いきなりついて行きたいなんて言われた時は、驚いたさね。
でも、黒の言う通り、前衛専門が増えるなら、あたいとしては歓迎するよ」
それに同意するように、異議なしと発言する三人。
そんな歓迎ムードに、クウゴはホッと一息ついた。
そんなクウゴの肩に腕を回して、黒がにぃと笑いかける。
「女主体のパーティだけどよ、男同士頑張ろうぜ」
男の仲間が出来たことを嬉しく思う黒を見て、悪戯っぽく横目にリューリが肘を付いた。
「美人を独り占め出来なくなるよ」
「そんな気は俺にはないが?」
真顔で答えるものだから、ため息をついてみせる。
首を横に振りやれやれという感じで自分の位置に戻った。
それに疑問符をつける黒に対して、クウゴが肩を組んだままヒソヒソと話した。
「いいのかよ」
「なにがだ?」
そんな黒の反応に、ため息を漏らす。
「あのなぁ。
あんな美人にあぁ言われてんだからよ。
恋愛感情とかないのか?」
今まで恋愛的な事は現実世界でも、夢を旅していた時もあったはあったが、夢の比率が高く、どんなに愛してもいつかは滅びる という感覚を持ってしまっている為、麻痺しているのだ。
ただ、それでも、今のところは大切な人・仲間という感情意外は、本人の意識下では感じていない。
葵に対しては特別な感情を抱いているのだが、黒自身それには気がついていない。
「恋愛感情ねぇ……色々な夢を旅してきたから分からなくなってるのかもな」
クウゴには、自分が何者なのかの詳細は話している。
そんな、また、クウゴはため息を吐いた。
「女連中は苦労しそうだな」
そんなクウゴは黒の今の境遇に対して羨ましさが滲む台詞に、黒は首を傾げた。
「そうか?
自分で言うのも何だが、美味い料理を出してくれる男の仲間ぐらいにしか思ってないんじゃないか?」
「そんなことないだろ?
異性だしな」
「そんなもんなのか?」
するという、クウゴが少し真剣な声音で告げる。
「黒よ。
これから俺も仲間だからよ。
女を泣かすようなことはするなよ」
黒はそれに強く頷いて見せる。
「今のところ、泣かせたことは無いさ。
だから、これからもそういう事は起こさないよ」
本当にわかっているのか? と思ってしまうクウゴだが、今はその意見を飲み込んだ。
「ならいいがよ。
考えてやれよ」
恋愛ねぇ~ と黒は思うと、
「わかったよ。
配慮してみる」
まぁ、今はそれだけでいいだろう と、クウゴもそれ以上は言わなくなった。
その後、陣形や連携を話し合った。
クウゴはアタッカーでありタンクでは無い為、今まで通り、黒がサブタンクアタッカー的な立ち位置で立ち回り、リューリとクウゴが前衛をしっかり倒し切る感じとなった。
取りこぼしを黒とハチクイナが魔法と剣技で処理しつつ、後衛二人が火力支援をしっかり行うと言う具合で陣形を組む。
リューリとクウゴで倒しきれない時は、タンクとして黒が前に出て、隙を作りに行く。
それに合わせて、リューリとクウゴが仕掛けつつ引くを繰り返すヒットアンドアウェイを主体にしようとも決まる。
そして、早速と言う感じで、ギルドへ行き手頃な依頼を受けた。
クウゴは慣れた感じでしっかりと自分の役目をこなし、少し驚いて見せる。
「リューリは本当に、いくつものパーティから追い出されるほどだったのか?」
それにリューリは頷いた。
「そうだよ。
でも、黒達と組むようになって、私も合わせなきゃって意識するようにしてる」
クウゴが驚いたのはそんなリューリや黒や後衛組の援護が、クラストといた時よりもしっくりきてしまっている事だ。
「こんなに戦いやす事、クラストたちといた時でも、なかなかなかったぞ?」
クウゴがリューリに言うと、襲いかかってきた雑魚を大剣で切り裂いてから答える。
「あぁ、それわかるよ。
黒や葵の育った文化が人に合わせる事に重きをおく文化だったからじゃないのかな?」
ほう~ とクウゴは声を上げて、迫り来る雑魚の脳天に棒を叩き落とした。
頭蓋骨が陥没する感触を感じながら、答える。
「確かに、大陸側の人間は自分主体の考えの方が強いからな。
ある意味バランスが取れてるのかもな」
それに同調して、ミイナとハチクイナも動いているため、その傾向は強い。
「だから、俺たちが自由に戦える訳か」
クウゴが納得すると、黒が後ろから声を掛ける。
「今度は二人だけで敵わない敵を想定して動くぞ」
それに呼応するように、二人は黒と立ち位置が変わった。
黒が強い敵を押さえておき、雑魚から後衛を守りつつ、狙える時に前に出て致命傷を狙うようクウゴとリューリが戦う。
後衛の護衛としてハチクイナが二人の前に立ち、葵とミイナは、敵への攻撃とチャンスを作れるように遠距離攻撃を行っている。
黒はデスワームの事を思い出しながら、刀を振るい、それに合わせるように同じ場所にリューリが双剣投げたり、大剣で切りつけたりする。
それを見て、クウゴも合わせるように棒を振るう。
後衛二人も雑魚が黒達や自分たちに近づかない様、牽制の攻撃を行い、ハチクイナはしっかり細身剣を握りながら魔法も駆使して取りこぼしに応戦する。
回数を重ねる毎に馴染んでいき、クウゴは前からこのパーティでずっと戦ってきてたか? と錯覚するほどであった。
そして、一通り想定した攻撃パターンや陣形を試すと、今度は、塔のアルカナで家に戻り、昼食を取りながら話し合った。
クウゴも遠慮なく、寧ろ、早く馴染めるよう意見する。
「やっぱりよ、黒が一人で前に出て戦うのが厳しい時も想定した方がいいんじゃねぇか?」
それには葵も同意した。
「そうさね。
前みたいに空亡の力を暴走させちまっても、次は止められるか分からないしね」
それは自覚があったのか、黒も考えていた。
「確かにそうだが、タンクっぽい事が出来そうか?」
クウゴに尋ねる。
リューリはアタッカーに振り切らせているため、タンク系とは見ていない。
すると、ニヤリ とクウゴは口角を上げてみせる。
「俺はタンク職ほど固くはねぇがよ」
毛を何本か抜き、ふぅ~ と息を吹きかける。
するとそこには、クウゴが五人ほど現れた。
「分身の術か?」
黒が尋ねると、
「ご名答。
棒猿族は特殊な術が使えるんだ」
と、今度は全身を鋼の様に固くしてみせる。
「これは金剛の術って言うんだ。
全身を金剛石のように固くしてな、魔法も物理も防ぐことが出来る。
この辺を駆使すりゃサブタンクぐらいならできると思うぞ」
そんな能力を使っていたなぁ と黒達はクラストのパーティと共同の時の事を思い出す。
「確かに、これなら二人で守りの前衛もやりやすそうなのです」
ハチクイナが言うと、同意する様にリューリが言う。
「そうだね。
二人が作ってくれたチャンスに、私の重たい一撃を叩き込むイメージかな?」
黒に問うと頷いた。
「その通りだ。
早速、試してみるか?」
食事も食べ終わる頃になり、立ち上がろうとする。
そんな黒にミイナが淡々とした声音でいう。
「急に動くと体に悪いわ。
少し食休みしてからにして欲しいのだけど?」
その台詞、納得してみせる。
「確かにそうだな。
少し休んでからにするか」
そして、クウゴの方を向いた。
「ついでに、クウゴの部屋も教えておきたい。
必要ならものがあれば聞きたいしな」
その台詞に、目を丸くする。
「この家に俺の部屋もあるのか?」
「当然だろ?」
「そんなに広いのか? この家は」
「まぁ、女神の力の一旦だからな。
ある程度の事は出来るさ」
「そいつはいいな」
早速二階へいく。
階段を上ると、明らかに一階の面積よりも大きい事がわかる空間にたどり着く。
「こりゃぁすげぇな。
部屋が6こもあるのか」
それに頷き、
「ここが俺の部屋で、隣が葵だ。
葵の正面がリューリでこっちの部屋がミイナとハチクイナの部屋だ。
一人一部屋って言ったが、姉妹だからって遠慮したんだ。
まぁ、それはさておき、クウゴは俺の部屋の正面の部屋だ」
ドアを開けると、中はシンプルな部屋の作りに、知らない器具がいくつか並べられていた。
「これはなんだ?」
それはバーベルやダンベル、ランニングマシンにサンドバッグが置かれていた。
「筋トレってやつだな」
「筋トレ? なんだそりゃ」
「筋肉に負荷をかけて鍛えることによって身体能力を上げるんだよ」
「レベルでステータスが上がるのにそんなことして意味あるのか?」
そう。
実はリューリが少し太ってダイエットしたいと言い出した時に、筋トレセットを渡したのだ。
すると、レベルが上がっていないのに、腕力や体力等のパラメータが少し上がっていることに気がついたのだ。
「こういうので、専門的に鍛えるとステータスが少し上がるみたいなんだよ」
「へぇ~。
そりゃぁ、初めて聞いたなぁ」
そして、置かれているダンベルに手を伸ばした。
「これはどう使うんだ?」
すると、黒がそれを受け取り腕を屈伸させる。
「こうやってここの筋肉に負荷をかけてやると腕の力が上がるんだ。
力のパラメータに影響する」
へぇ~ と感心し他にも聞こうとするが、その様子を見て黒が先に言う。
「今日の予定が終わったら教える。
とりあえず、部屋の案内をしよう」
「部屋の案内って、俺の部屋以外にもあるのか?」
すると、二階にあるトイレで使い方を教える。
見た事の無い設備に不思議がるクウゴに黒はハチクイナや葵たちに教えた時に同じ反応を見ているため慣れた感じである。
「黒のいた世界は便利なんだな」
「まぁな。
あとは風呂を教えないとな」
一階に降りると、風呂場を案内した。
風呂場を見るやいなや驚いてみせる。
「ちょっとした大衆浴場だな」
クウゴが感想を漏らすと、黒が頷いた。
「イメージとしちゃそういう感じだ。
パーティは六人ぐらいを想定してたからな。
裸の付き合いもできるよう広々としてる感じにしたんだよ」
黒の台詞に、ほう~ と息を漏らした。
「今までは男一人だったから、黒は寂しくないな」
それに肩を竦めて答えた。
「まぁな。
背中を流しあって親交を深めてってのに憧れてたからよ。
是非とも、よろしく頼むぜ」
そんな素直な意見に目を丸くした。
「てっきり、内気なやつだと思ってたよ」
「いや、多分、どちらかと言うと内気だな。
皆が楽しんでるのを見る方が好きだ」
そんな黒に肩を組んで答える。
「俺がいりゃ、嫌でも和に入ることになるぜ」
「お手柔らかに頼むよ」
薄く笑みを浮かべて、黒が答えた。
其れに、にぃ と口角が上がる笑顔でクウゴが言う。
「仲良くしてくれよな」
「こちらこそな」
上手くやって行けるだろうと、黒もクウゴも思う。
意外と互いの性格が合いそうだな とも、黒は思った。
あれから目を覚まし、クーロンの街に戻ってきたのだ。
アルカナ絡みの件はクラスト達も黙っておく事となり、ギルドには報告していない。
そして、三日後の昼頃になると、クウゴが珍しくクラストを誘い食事をする事となった。
「本当に言っているのかい?」
いきなりの申し出に戸惑うクラスト。
「そうだ。
昨日、たまたま聞いちまったんだよ」
そして、昨日のことを話し始めた。
たまたま、葵とミイナが町中で歩きながら話している所に出くわしたのだ。
「あのお二人さんは……」
近づくと、二人の会話が聞こえてくる。
本当なら声を掛けるつもりだったが聞こえてきたワードに聞き耳を立てることにしたのである。
「アシュラねぇ」
葵のその一言がそうさせたのだ。
そんな葵に、ミイナが淡々とした声音で話した。
「そうよ。
アシュラはシイナ国の山岳地帯に住まうの。
調べによると、その地域一帯を力でねじ伏せて言うことを聞かせていると言うわ。
アイツの部下の振りをしてる時に聞いたのよ。
アルカナを集めて、あのお方という人物に送るってね。
アシュラ自身は自分が支配する地域があれば部下と言う立場でも構わないみたいね」
その台詞にピクリとクウゴは反応するも、変化の術を使って町人となり、二人の後をつけて、そのまま聞き耳を立て続ける。
ミイナが話を進める。
「でもね、カカ山だけは落とせてないみたい」
その情報にクウゴはホッとする。
カカ山はクウゴの故郷であるからだ。
「私が最後に聞いた情報だと、アシュラ達はカカ山を諦めるか悩んでいる様子よ。
ただ、正直、部下全員を送り込まれたら無理かもしれないわね」
そういうと、裏路地に入り、直ぐに葵とミイナは振り返って、クウゴに向けて警戒する。
「あんた、あたいらの後を付けて何しようって言うんだい?」
葵は杖を、ミイナは手を前に出して魔法陣を浮かばせて何時でも打てると言いたげに構えている。
そんな二人に両手を上げて降参の意を示して見せた。
「俺だよ俺」
変身を解くと、クウゴはいつもの全身毛を生やし、拳法着の上に中華風の身軽そうな鎖帷子の鎧に手甲とすね当てを装備した格好に戻る。
「クウゴじゃないか」
葵が驚いて見せると、ミイナは表情があまり変化しないが、納得したふうに頷いた。
「あなた、棒猿族だから、さっきの話が気になったのかしら?」
それに葵が尋ねた。
「どういうことだい?」
ミイナが説明する。
「カカ山は棒猿族の里だから、気になったのね」
それに素直にクウゴは頷いた。
「確かにそうだな。
で、さっきの話は、いつぐらいの話だ?」
それに対して、ミイナは答える。
「ひと月ぐらい前ね。
このパーティに入る前だから」
少し俯き気味になり、
「そうか」
かなり気にしている様子である。
そんな彼になにか言おうとするも、先にクウゴが言う。
「アシュラをどうするんだ?」
それにミイナが淡々とした口調で答えた。
「私の父を殺そうとしたのだから、始末されても文句は言えないって事ね」
ミイナから闘志の様なオーラが全身に纏われる。
それを見ると、クウゴは意を決して話した。
「俺は、元々、アシュラが危険だと思ってたんだ。
だから、冒険者になって強くなって、アシュラに対抗できるようにしてきた。
カカ山が狙われてるなら、俺も黙ってはいられねぇんだ。
だから……」
そして、クラストに告げる。
「あいつらはアシュラを倒す気でいる。
それなら俺とも利害が一致するんだ。
だから、このパーティを抜けて、あっちのパーティについて行きたいんだ。
話によると、あいつらはもうすぐ、アシュラがいるシイナ国に向かうらしい」
クラストは肘をテーブルについて手を組みながら黙って聞くと、瞑ってた目を開ける。
「仕方ないな……。
俺としては、クウゴがいなくなるのは寂しいし、ついて行ってやりたいとも思っているが……」
師であるジークフリートへの恩返しをしたく、嫌でもこの地域に留まる。
だから、ナンテタッケを拠点にしていたのだ。
本音はクウゴには残ってもらいたいが、説得する資格がない。
それは、クウゴがクラストパーティへの加入の条件に、自分の故郷を守る為、ある程度強くなったら抜ける という条件もあった。
互いに互いの立場を理解している。
そして、それに了承した。
「悪いが、故郷を守る為だ。
いつか必ず戻ってくる」
クウゴが約束すると、クラストは強く頷き、
「あぁ。待ってるよ」
友の門出に送迎会をやりたいと提案するのであった。
クウゴの申し出に黒は、条件をつけた。
勿論、クラストに引き抜きでは無いことを話す事だった。
それとは別に、アルカナの事はなるべく、他言無用にということを話す。
クウゴは了承して、クラストに話をしに行っている。
黒達は手分けして、アシュラ討伐の為に食料に衣料品等を買い揃えている。
ちょっとした、平穏回である。
葵とハチクイナとリューリの三人と、黒とミイナの二人に別れた。
葵達三人は、女三人ということもあり、楽しみながら歩き、自分達に与えられた買い出しをしている。
女子に必需品な生理用品は黒がアルカナの機能で買っているものを与えているので不要であり、衣服も店売りよりも黒が用意したものの方がはるかに品質がよく、デザインも良いことから、ほとんど買うものなんてなかった。
だから三人で女子会を開き、カフェでお茶とお菓子を楽しんでいる。
「ミイナやイナは、アシュラを倒したらどうするの?」
リューリがハチクイナに尋ねると、ハチクイナは、少し表情を曇らせて応えた。
「お姉様は、国民に愛されない王族がいては足枷になりかねないと言っているのです。
だから、黒さん達のパーティに居続けるみたいなのです。
私は……」
少ししょんぼりとして、
「私は、城に戻るのです。
ミイナ姉様のことや意志を伝えなきゃ行けないのです。
それに、四女とは言え、上二人の姉様の身や子供に何かあった時に私の子供が跡取りになるので、いなきゃダメなのですよ」
いつかミイナが言っていた件である。
「王族って大変なんだね……」
今から寂しさを滲ませるリューリに、葵も寂しげに言う。
「そうさね……。
王族に生まれるってことは、息苦しいって事なのかもね。
その分、その息苦しさや不自由さの代わりに、普通の人よりかは贅沢とかできるけどね」
そんな知った様な台詞に、いつかの葵の態度を思い出す。
「葵って、貴族とか地位のある立場の人だったりするの?」
「なんでそう思うんだい?」
気分を害した様子はなく、素朴な疑問と言わん態度で尋ねる。
「いや、なんか色々と知ってる風に言うしさ、葵ってあまり自分の過去を話さないじゃん」
言い終わってから、少々踏み込みすぎたか? とリューリは思うも、相変わらずの態度で葵が答える。
「そうさね……。
まぁ、あまりいい思い出は無いからね。
それに、あたいのいた学び舎には、貴族や皇族がいたのさ。
そういう連中の話を聞いてたから、知ってる風に聞こえるのかもね」
「なるほどね。
ってことは、やっぱりお嬢なの?」
葵は首を横に振った。
「そんな大層な者じゃないさ。
その学び舎は平民なんかも通ってたからねぇ。
そういう所なのさ。
そこで、貴族や皇族は平民が如何に自分たちの為に何をしてくれていて、どう感謝するべきかを学ぶ場でもあるのさ。
だから、敬意はあるけどね、学び舎の中では普通に接するのがマナーだったよ。
まぁ、中には将来のコネを作りたくて近寄る輩もいたけどね」
いたみたい、ではなく、いた、とはっきり言った事に引っかかりを覚えるも、リューリはそれ以上踏み込むことはしなかった。
そんな話にハチクイナが感心する。
「それは良い体験だと思うのです。
私の国だと、国民と一緒に勉学をするというのはないのです。
父と母に進言してみたいのです」
そういうが、葵はあまりおすすめしなかった。
「それなりにリスクがある事だよ。
平民も入れる施設だからね。
暗殺者やテロにあったら、大変なんだよ。
あたいの国みたいに島国ならリスクは低いけど、ミイナの国のように大陸の国がそれをやるのは危険すぎると思うんだ」
「確かにそうですね……。
でも、国民と密になって交流する機会があるのは、きっと、いい事なのです。」
少しやる気になっているハチクイナを微笑ましくリューリと葵が見つめる。
それと同時に、この子と一緒にいられる時間がアシュラ討伐までなんだなぁ と、寂しく思う。
何かしてあげられないか? とリューリは考えてしまうが、直ぐに、否!! 沢山の思い出を作ってあげた方がいい と切り替わる。
「お茶菓子、おかわりしちゃおうか!!」
提案すると、葵が涼しげに指摘する。
「最近、体重増えたって言ってなかったかい?」
お茶をすする葵に構わず、
「今日はいいの。
イナも食べたいでしょ?」
そんなリューリの態度に、困ったお姉ちゃんなのです と思いながら、
「私も食べるのです」
と、同意したのであった。
その頃、黒とミイナは淡々と食材を買い漁って行くのであった。
アクナはアリガ族のテントで休ませてもらっている。
不馴れな砂漠に疲れがドーンと押し寄せてしまい、寝込んでしまったのだ。
村の医者によると、命に別状はなく一週間程休めば体調も良くなるだろうとの事であった。
「黒乃様は、旅をしていらっしゃるのですよね……。
まだ、街に居られるのでしょうか?」
アイナに尋ねると、元気付けるように言う。
「まだ大丈夫だと思うよ。
なんでも、目標金額まで路銀を貯めるまでいるって言ってたからね。
それに、村の人の目撃証言によると、一昨日の証言になるけど、クーロンの街にいるらしいよ」
クーロンの街だとここから歩いて一日ちょっとで着く距離である。
何かあればすぐに行けるだろうと考えてのことであった。
アイナは思い出すように言う。
「それに、ステップを出る前に、この村に寄ってくれるって言うからさ。
その依頼をその時に言えばいいんじゃないかな?」
「必ずお会いできるのですね。
なら……良かった……」
確実に会えることがわかると、安心してしまい、眠りについてしまう。
そんなアクナを優しげな眼差しでアイナが見つめた。
そして、ミイナ達を思い浮かべて呟いた。
「本当に、お姫様ってやつは大変なんだね。
ゆっくり休むんだよ」
テントを暗くしてやり、そっと表へと出ていく。
翌日となり、この日からクウゴが正式加入という形となった。
「改めて、クウゴだ。
22歳で見ての通り棒猿族。
アシュラを倒すまでよろしく頼む」
ひょうきんなハイトーンの聞いた声音で皆に自己紹介をする。
すると、リューリがその後の事を尋ねた。
「アシュラを倒したあとはどうするの?
クラストのパーティに戻るの?」
それにクウゴは腕を組んで悩ましげに答えた。
「それだと、俺が一方的にお前さんたちを利用したみたいになるからなぁ。
だからよ、俺としてはお前さんたちのアルカナって奴? を集めるのを手伝いたいと思ってる」
その提案に、黒は歓迎の意を示した。
「俺としては歓迎したい。
それに前衛が増えるのはありがたい事だ」
他の四人は? と視線を向けると、葵が答える。
「いきなりついて行きたいなんて言われた時は、驚いたさね。
でも、黒の言う通り、前衛専門が増えるなら、あたいとしては歓迎するよ」
それに同意するように、異議なしと発言する三人。
そんな歓迎ムードに、クウゴはホッと一息ついた。
そんなクウゴの肩に腕を回して、黒がにぃと笑いかける。
「女主体のパーティだけどよ、男同士頑張ろうぜ」
男の仲間が出来たことを嬉しく思う黒を見て、悪戯っぽく横目にリューリが肘を付いた。
「美人を独り占め出来なくなるよ」
「そんな気は俺にはないが?」
真顔で答えるものだから、ため息をついてみせる。
首を横に振りやれやれという感じで自分の位置に戻った。
それに疑問符をつける黒に対して、クウゴが肩を組んだままヒソヒソと話した。
「いいのかよ」
「なにがだ?」
そんな黒の反応に、ため息を漏らす。
「あのなぁ。
あんな美人にあぁ言われてんだからよ。
恋愛感情とかないのか?」
今まで恋愛的な事は現実世界でも、夢を旅していた時もあったはあったが、夢の比率が高く、どんなに愛してもいつかは滅びる という感覚を持ってしまっている為、麻痺しているのだ。
ただ、それでも、今のところは大切な人・仲間という感情意外は、本人の意識下では感じていない。
葵に対しては特別な感情を抱いているのだが、黒自身それには気がついていない。
「恋愛感情ねぇ……色々な夢を旅してきたから分からなくなってるのかもな」
クウゴには、自分が何者なのかの詳細は話している。
そんな、また、クウゴはため息を吐いた。
「女連中は苦労しそうだな」
そんなクウゴは黒の今の境遇に対して羨ましさが滲む台詞に、黒は首を傾げた。
「そうか?
自分で言うのも何だが、美味い料理を出してくれる男の仲間ぐらいにしか思ってないんじゃないか?」
「そんなことないだろ?
異性だしな」
「そんなもんなのか?」
するという、クウゴが少し真剣な声音で告げる。
「黒よ。
これから俺も仲間だからよ。
女を泣かすようなことはするなよ」
黒はそれに強く頷いて見せる。
「今のところ、泣かせたことは無いさ。
だから、これからもそういう事は起こさないよ」
本当にわかっているのか? と思ってしまうクウゴだが、今はその意見を飲み込んだ。
「ならいいがよ。
考えてやれよ」
恋愛ねぇ~ と黒は思うと、
「わかったよ。
配慮してみる」
まぁ、今はそれだけでいいだろう と、クウゴもそれ以上は言わなくなった。
その後、陣形や連携を話し合った。
クウゴはアタッカーでありタンクでは無い為、今まで通り、黒がサブタンクアタッカー的な立ち位置で立ち回り、リューリとクウゴが前衛をしっかり倒し切る感じとなった。
取りこぼしを黒とハチクイナが魔法と剣技で処理しつつ、後衛二人が火力支援をしっかり行うと言う具合で陣形を組む。
リューリとクウゴで倒しきれない時は、タンクとして黒が前に出て、隙を作りに行く。
それに合わせて、リューリとクウゴが仕掛けつつ引くを繰り返すヒットアンドアウェイを主体にしようとも決まる。
そして、早速と言う感じで、ギルドへ行き手頃な依頼を受けた。
クウゴは慣れた感じでしっかりと自分の役目をこなし、少し驚いて見せる。
「リューリは本当に、いくつものパーティから追い出されるほどだったのか?」
それにリューリは頷いた。
「そうだよ。
でも、黒達と組むようになって、私も合わせなきゃって意識するようにしてる」
クウゴが驚いたのはそんなリューリや黒や後衛組の援護が、クラストといた時よりもしっくりきてしまっている事だ。
「こんなに戦いやす事、クラストたちといた時でも、なかなかなかったぞ?」
クウゴがリューリに言うと、襲いかかってきた雑魚を大剣で切り裂いてから答える。
「あぁ、それわかるよ。
黒や葵の育った文化が人に合わせる事に重きをおく文化だったからじゃないのかな?」
ほう~ とクウゴは声を上げて、迫り来る雑魚の脳天に棒を叩き落とした。
頭蓋骨が陥没する感触を感じながら、答える。
「確かに、大陸側の人間は自分主体の考えの方が強いからな。
ある意味バランスが取れてるのかもな」
それに同調して、ミイナとハチクイナも動いているため、その傾向は強い。
「だから、俺たちが自由に戦える訳か」
クウゴが納得すると、黒が後ろから声を掛ける。
「今度は二人だけで敵わない敵を想定して動くぞ」
それに呼応するように、二人は黒と立ち位置が変わった。
黒が強い敵を押さえておき、雑魚から後衛を守りつつ、狙える時に前に出て致命傷を狙うようクウゴとリューリが戦う。
後衛の護衛としてハチクイナが二人の前に立ち、葵とミイナは、敵への攻撃とチャンスを作れるように遠距離攻撃を行っている。
黒はデスワームの事を思い出しながら、刀を振るい、それに合わせるように同じ場所にリューリが双剣投げたり、大剣で切りつけたりする。
それを見て、クウゴも合わせるように棒を振るう。
後衛二人も雑魚が黒達や自分たちに近づかない様、牽制の攻撃を行い、ハチクイナはしっかり細身剣を握りながら魔法も駆使して取りこぼしに応戦する。
回数を重ねる毎に馴染んでいき、クウゴは前からこのパーティでずっと戦ってきてたか? と錯覚するほどであった。
そして、一通り想定した攻撃パターンや陣形を試すと、今度は、塔のアルカナで家に戻り、昼食を取りながら話し合った。
クウゴも遠慮なく、寧ろ、早く馴染めるよう意見する。
「やっぱりよ、黒が一人で前に出て戦うのが厳しい時も想定した方がいいんじゃねぇか?」
それには葵も同意した。
「そうさね。
前みたいに空亡の力を暴走させちまっても、次は止められるか分からないしね」
それは自覚があったのか、黒も考えていた。
「確かにそうだが、タンクっぽい事が出来そうか?」
クウゴに尋ねる。
リューリはアタッカーに振り切らせているため、タンク系とは見ていない。
すると、ニヤリ とクウゴは口角を上げてみせる。
「俺はタンク職ほど固くはねぇがよ」
毛を何本か抜き、ふぅ~ と息を吹きかける。
するとそこには、クウゴが五人ほど現れた。
「分身の術か?」
黒が尋ねると、
「ご名答。
棒猿族は特殊な術が使えるんだ」
と、今度は全身を鋼の様に固くしてみせる。
「これは金剛の術って言うんだ。
全身を金剛石のように固くしてな、魔法も物理も防ぐことが出来る。
この辺を駆使すりゃサブタンクぐらいならできると思うぞ」
そんな能力を使っていたなぁ と黒達はクラストのパーティと共同の時の事を思い出す。
「確かに、これなら二人で守りの前衛もやりやすそうなのです」
ハチクイナが言うと、同意する様にリューリが言う。
「そうだね。
二人が作ってくれたチャンスに、私の重たい一撃を叩き込むイメージかな?」
黒に問うと頷いた。
「その通りだ。
早速、試してみるか?」
食事も食べ終わる頃になり、立ち上がろうとする。
そんな黒にミイナが淡々とした声音でいう。
「急に動くと体に悪いわ。
少し食休みしてからにして欲しいのだけど?」
その台詞、納得してみせる。
「確かにそうだな。
少し休んでからにするか」
そして、クウゴの方を向いた。
「ついでに、クウゴの部屋も教えておきたい。
必要ならものがあれば聞きたいしな」
その台詞に、目を丸くする。
「この家に俺の部屋もあるのか?」
「当然だろ?」
「そんなに広いのか? この家は」
「まぁ、女神の力の一旦だからな。
ある程度の事は出来るさ」
「そいつはいいな」
早速二階へいく。
階段を上ると、明らかに一階の面積よりも大きい事がわかる空間にたどり着く。
「こりゃぁすげぇな。
部屋が6こもあるのか」
それに頷き、
「ここが俺の部屋で、隣が葵だ。
葵の正面がリューリでこっちの部屋がミイナとハチクイナの部屋だ。
一人一部屋って言ったが、姉妹だからって遠慮したんだ。
まぁ、それはさておき、クウゴは俺の部屋の正面の部屋だ」
ドアを開けると、中はシンプルな部屋の作りに、知らない器具がいくつか並べられていた。
「これはなんだ?」
それはバーベルやダンベル、ランニングマシンにサンドバッグが置かれていた。
「筋トレってやつだな」
「筋トレ? なんだそりゃ」
「筋肉に負荷をかけて鍛えることによって身体能力を上げるんだよ」
「レベルでステータスが上がるのにそんなことして意味あるのか?」
そう。
実はリューリが少し太ってダイエットしたいと言い出した時に、筋トレセットを渡したのだ。
すると、レベルが上がっていないのに、腕力や体力等のパラメータが少し上がっていることに気がついたのだ。
「こういうので、専門的に鍛えるとステータスが少し上がるみたいなんだよ」
「へぇ~。
そりゃぁ、初めて聞いたなぁ」
そして、置かれているダンベルに手を伸ばした。
「これはどう使うんだ?」
すると、黒がそれを受け取り腕を屈伸させる。
「こうやってここの筋肉に負荷をかけてやると腕の力が上がるんだ。
力のパラメータに影響する」
へぇ~ と感心し他にも聞こうとするが、その様子を見て黒が先に言う。
「今日の予定が終わったら教える。
とりあえず、部屋の案内をしよう」
「部屋の案内って、俺の部屋以外にもあるのか?」
すると、二階にあるトイレで使い方を教える。
見た事の無い設備に不思議がるクウゴに黒はハチクイナや葵たちに教えた時に同じ反応を見ているため慣れた感じである。
「黒のいた世界は便利なんだな」
「まぁな。
あとは風呂を教えないとな」
一階に降りると、風呂場を案内した。
風呂場を見るやいなや驚いてみせる。
「ちょっとした大衆浴場だな」
クウゴが感想を漏らすと、黒が頷いた。
「イメージとしちゃそういう感じだ。
パーティは六人ぐらいを想定してたからな。
裸の付き合いもできるよう広々としてる感じにしたんだよ」
黒の台詞に、ほう~ と息を漏らした。
「今までは男一人だったから、黒は寂しくないな」
それに肩を竦めて答えた。
「まぁな。
背中を流しあって親交を深めてってのに憧れてたからよ。
是非とも、よろしく頼むぜ」
そんな素直な意見に目を丸くした。
「てっきり、内気なやつだと思ってたよ」
「いや、多分、どちらかと言うと内気だな。
皆が楽しんでるのを見る方が好きだ」
そんな黒に肩を組んで答える。
「俺がいりゃ、嫌でも和に入ることになるぜ」
「お手柔らかに頼むよ」
薄く笑みを浮かべて、黒が答えた。
其れに、にぃ と口角が上がる笑顔でクウゴが言う。
「仲良くしてくれよな」
「こちらこそな」
上手くやって行けるだろうと、黒もクウゴも思う。
意外と互いの性格が合いそうだな とも、黒は思った。
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