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序章〜始まりの街ドナイ〜
最初の街
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中世ヨーロッパを思わせる石畳の街並み。
道を忙しなく行き交う人々は、その日を精一杯生きていて、活気が溢れている。
幾つかの違いは、しっかりと整備された上下水道とお風呂という衛生面であった。
治安は日本よりは悪いが、そこら中で犯罪が起こるようなことはない。
そんな異世界に、黒色の肩幅まであるつば広ハットに、肩甲骨の辺りまで伸ばした長い黒髪をうなじの辺りで結び、黒のトンビコートに、黒の革パンに黒のショートブーツを履いていて、腰には二本の刀を携えた黒はそこに突如現れたかのように立っていた。
そんな黒を過ぎ行く人達は、まるで最初からそこにいたかのように気にもとめず、各々の予定へと歩んでいる。
黒はどんなステータスになったか気になるも、数値化されているのか? と疑問に思う。
何となく、ステータス表示 と頭の中で叫ぶと、ゲームの画面みたいにステータスが、頭の中に表示れた。
初期値
力25、体力23、丈夫さ22、器用さ23、素早さ26、魔力26、魔力操作24、意志力22、魅力22、愛25。
刀剣レベル1、火、水、風、土、太陽、月レベル5、黒刀・黒夢、白銀刀・綺羅夢共にレベル5。
そして、勿論、本人はレベル1である。
頭の中に映るステータスを見て、これは初期値として高いのか? 低いのか? と黒は首を傾げてしまう。
ゲーム表記式ならと一つ前の画面に戻りたいと、考えると画面が変わった。
そこにはカテゴリが表示され、上からステータス、技、魔法、アイテム欄、装備の、順番で表示された。
試しに装備欄を開いてみると、武器は要求通り黒刀・黒夢、白銀刀・綺羅夢、防具は、無傷のハット、強靭なトンビコート、強脚の皮パン、瞬足のブーツが装備されており、ゲームでよくある灰色表記で外すことが出来ないか、他の装備が装備できないようになっている。
画面を前の画面に戻すと、下の方に数字が書かれているのに気が付き、30000ケロと書かれている。
ケロはこの世界のお金の単位であることは、すぐに理解した。
アイテム欄を見ると、一つだけ表示されており、女神からのメモと言うのがあった。
そのアイテムを選択すると、まずは冒険者ギルドに登録すると魔物をただ狩るよりもお金が稼げますよ と表示され、辺りを見渡し歩きながらギルド探しを始めた。
街中の看板には不思議な模様が書かれており、違和感を覚える。
なんだか分からず、人に尋ねることにする。
黒は人見知りな所はあるがコミュ障という訳では無い。
視界に入った、西洋の鎧に大きな大剣と紋章が刺繍されたマントを羽織る、騎士とも冒険者とも取れる金髪を刈り込んだ、頬に十字傷のある男に黒は話しかけた。
「いきなりで悪いが聞きたいことがある」
男は黒の物言いに、特に気を悪くすることなく首を傾げる。
「おう。なんだ?」
「冒険者ギルドに行きたいんだがどこにあるか教えて欲しい」
すると、男は目を丸くし、黒は何か変なことを聞いたか? と思ってしまう。
「冒険者ギルド??????」
何事? と、黒が思っていると、男は盛大に、豪快に笑って見せた。
「お前さん、この街は初めてか?」
「ああ。
だから知らないことの方が多いな。
まさか、冒険者ギルド自体この街には無いのか?」
聞き返すと、楽しげに右方向を指さした。
「何言ってやがんだよ。
ここにあるじゃねぇか。
まさか、文字も読めねぇのか?」
その方向を見ると、見慣れない模様で書かれた看板に、二階建ての児童図書館程の大きさの建物があった。
その看板の模様をよくよく見ると確かに、冒険者ギルドと書かれていることが分かる。
なるほど。見慣れない文字だから理解にラグがあるのか 変な模様だと思ってた と黒は思うと、男に頭を下げる。
「俺の見落としだな。
教えてくれてありがとう」
そんな誠実な態度に、男はキョトンとしてから、バツが悪そうに後頭部の辺りを掻く。
「いやいや、俺も笑いすぎちまってすまねぇな」
意外な台詞に黒は気分を害することなく同意する。
「いや、俺も同じ立場なら、あそこまで大笑いはしないが、クスリと来るかもしれん」
肯定的に言うと、黒の事を気に入ったのか、男が握手を求めた。
「俺の名はアーサー・バレンタインだ。
この国のこの街を管轄する騎士の傍ら、訓練を兼ねて冒険者ギルドに所属している」
その手を握り黒も答える。
「丁寧にありがとうよ。
俺は……」
名乗りに少し詰まる。
この世界で、黒乃 黒は胡散臭く映らないか? と考えてしまったが、相手が騎士という事もあり、素直に名乗った。
「黒乃 黒だ。
これから冒険者ギルドに登録しようと思っている」
すると、アーサーは首を傾げた。
「珍しい名前だな?
東の島国の名前に近い気がする」
異世界ものの定番、日本風の場所があるのか と黒は思うと、アーサーがさらに尋ねた。
「そこの出身なのか?
服装もこの辺りの国じゃ見たことないものだが」
そこは、明晰夢で色々と経験してきた黒である。
予め決めていた設定を口にする。
「俺は孤児でね。
なんでも、この名前の書かれた紙と二本の刀と一緒に捨てられていたらしい。
この格好は、俺を拾ってくれたじいさんが、異国で手に入れたいい防具だとのことで譲り受けたものだ。
まぁ、拾ってくれたじぃさんはもう死んで、元々冒険者に、なりたかったからこの街に来たって訳さ」
その話を信じて疑わず、黒の肩をガシッと掴んで感心する。
「苦労してきたんだな。
冒険者、頑張れよ」
激励しだすアーサーに黒は質問を投げかけた。
「俺の住んでた場所は山の中だったから常識や普通がわからないんだ。
だから聞きたいんだが、ギルドへの登録料とかはどのくらいかかるんだ?」
アーサーは腕を組んで頷いた。
「いくら持ってる?」
「30000ケロ」
「30000ケロ!?」
金額に驚いてみせる。
「足りないか?」
この世界の価値が分からず尋ねると、首を横に振った。
「いや、足りはするが、30000ケロありゃ、三ヶ月は普通に宿代込みで飲み食い出来る金額だ。
お前のじぃさんの金か?」
「あぁ。
死ぬ前にお前のために貯めといたって渡されたんだ」
「いいじぃさんに拾われたな」
感心に似た様子で頷く。
そして、アーサーは、ふむ、と息を漏らした。
「俺に着いてきな。
登録の案内やギルドの利用方法、あと、おすすめの宿屋に、食い物屋まで案内してやるよ」
面倒見がいいんだな と黒は思うも、遠慮してしまう。
「いや、時間や用事は大丈夫なのか?」
ははっ、と笑ってみせるアーサーは快く答えた。
「問題ない。
今日は非番だし、ギルドの依頼も大したのがなかったから、一杯引っ掛けに行くところだったんだよ」
そういうと、着いてきな と一言言うと歩き出した。
黒は、それに続きスムーズに事が運びそうだ と、この幸運に足取り軽くついて行く。
「レミア。
その装置"も"壊れてるんじゃねぇか?」
アーサーが受付嬢のレミアに問う。
レミアは藤色の長い髪に、豊満な胸元は男の視線を引き付け、キュッとしまった腰周りのスタイルがよく、可愛らしい童顔の二十歳程の女性である。
そんなレミアも困った表情で、間延びするようなおっとりとした口調で困惑しながら答えた。
「それはありませんよ~。
これ、新品ですよ。
今週、予備として仕入れたやつですよ」
「それにしてもよ……」
背の高いアーサーが黒を見下ろす。
「そんな視線送られてもなぁ」
黒も苦笑いを浮かべて、肩を竦めてしまう。
「いや、普通ありえないぜ。
18歳なら、魔物やモンスターと戦わず、普通に生活してても、最低でもレベル10は超えてるもんだ」
それに続くようにレミアも、相変わらずの口調で続く。
「それに、このステータスは、才能ない人で50レベル、天才で20レベルのステータスですよ。
それに四属性の魔法が使えて、普通、光と闇の特殊二属ならありますが、太陽と月って、未知の属性魔法までありますし……」
何者だ? と言う視線を二人から受ける黒は、話を逸らすように尋ねた。
「俺もわからんが、ギルドへの登録はできるのか?」
その台詞に、アーサーも、どうなんだ? と視線をレミアに送る。
「出来なくはないですが……イレギュラーが過ぎます。
ギルド長ーーレイギンさんに話を通してからにしてもらいたいので、少し待っていてください」
そういうと、黒のステータス表の紙を持って、カウンターから出ると、2階へと上がって行ってしまう。
残された二人は、アーサーの提案でギルド内にある食堂兼酒場へと移動する。
丁度、空いている席があり、二人は向かい合って座った。
すぐに、ウェイトレスの少女ーーシャーナがやってくると、アーサーが黒に尋ねる。
「飲めるか?」
酒には自信のある黒は頷いてみせると、アーサーは常連のようでメニュー表を見ることなく注文を口にする。
「エールを二つに、ボアのステーキとヘルコンドルの唐揚げ、野草のマゴ油サラダ一皿」
注文を終えると、お前はどうする? と黒に視線を送る。
「メニュー表を見たいとこだが、今はアーサーと同じので」
そう答えると、アーサーは了解と一言言うとシャーナに向き直る。
「だそうだ。頼むな」
人のいいオッサンの如くシャーナに優しく言うと、シャーナはメモを読み上げてから、厨房へと向かった。
そして、アーサーは少し真剣な目付きになる。
「黒のレベルが、もし、上がらないとなると、覚悟しといた方がいいかもな」
「それはどういうことだ?」
「レベルってのは、上がるとステータスも上がる。
勿論、上がり方は人それぞれでな。
俺みたいに力や丈夫さ、体力のステータスの伸びがいい奴は、大剣使いか、盾持ちのタンクをやるもんなんだ。
それプラス、ステータスがいくら適正でも覚えられる技がその武器種と合致しているとも限らねぇんだ」
女神の話を思い出しながら、今は知らないフリをするかと、首を傾げた。
「そうなのか」
「あぁ。
だから、運の悪ぃ奴はステータス的には弓を使うべきでも、覚えられる技が細身剣だけだったりする。
まぁ、弓は器用さ、素早さ、魔力が要で、デバフやバフ系の技が多い細身剣は素早さ、器用さ、意志力、魅力、愛のステータスが必要だが、素早さと器用さが被っているからまだいいが、コレが大剣だったら、力、体力、丈夫さ、器用さと殆ど被ってねぇから目も当てられねぇんだわ。
そういう奴は魔法に走るが、魔法のステータスも絶望的だと、冒険者は無理ってことだ」
武器には各ステータスによる依存がある。
それは以下の通りである。
ステータス説明
力……大剣、長剣、双剣、斧、棍棒、槍、格闘のダメージソース
体力……ゲームで言う所のHPに相当し、この世界では、打たれ強さであり、傷の付き方や出血の仕方などに関係する。前衛職の大剣、盾持ち長剣等のタンク職に必要なステータス
丈夫さ……傷ついた時の痛みや苦痛に対する耐性関係に相当する。前衛職の大剣、盾持ち長剣等のタンク職に必要なステータス。
器用さ……細身剣、短剣のダメージソース。長剣、双剣、弓、斧、棍棒、槍の命中率。大剣の攻撃速度。
素早さ……行動速度に関係する。特に長剣、双剣、細身剣、弓の攻撃速度に関連する。
魔力……特定の特殊武器種と弓と杖と魔法のダメージソース。
魔力操作……特定の特殊武器種や魔法の威力の加減をどの程度操れるかのステータス。
意志力……特定の特殊武器を操るときのダメージソース。状態異常の混乱、金縛り、錯乱、恐怖への耐性に関係する。デバフ系魔法・技の効果に関係する。
魅力……魅了される確率と魅了する確率に関係する。防御系補助魔法・技の時の効果に関係する。
愛……回復系の治癒能力に関係する。力、器用さ、素早さ、魔力、魔力操作、愛のバフ魔法・技の効果に関係する。
魔力量……ゲームで言うところのMPであり個々人により数値が違い、数値としてはこの世界では表記していない。
感覚で魔力量の消費は魔力操作によりコントロールしている。
感覚の善し悪しは、魔力操作で決まる。
魔力量を込めれば込めるほど威力が上がるが消耗し、魔力操作が低いと暴走する。
「なるほど」
黒が武器とステータスの相関関係をしり、感心していると、アーサー呆れたような顔つきをする。
「なるほどってな……。
つまりだな、お前はまぁ、数値的には珍しくどれも似たようなもんだから武器や魔法については問題ないんだ。
だがな」
深刻さをますような声音へと変化していく。
「レベル1でしかも次のレベルまで経験値0って事は、これ以上ステータスが上がらねぇってことだ。
まぁ、ステータス的には、レミアの言う通り、天才なら20レベル、才能なしなら50レベルだから、良くてDランク冒険者って所だ」
ランクがA側かZ側かどちらに行くと高いランクなのかよく分からずにつぶやくように言う。
「Dランクか……」
そんな様子の黒を見て、こいつわかってねぇな と察したアーサーはわざわざ説明してくれる。
「よくわかってねぇみたいだから一応教えておくが、ランクはHランクからはじまってA、S、SSと未だに誰も達成していないXランクが最大だ。
まぁ、Dランクなら衣食住には困らない程度の稼ぎになるが、下手したら冒険者じゃない職に着いた方がいいことの方が多いな」
警告のような口ぶりに、黒は、
「心配してくれてるのか?」
と言うと、アーサーは首を横に振った。
「いいや。
それでも冒険者になる覚悟があるかって事だ」
言い切ったタイミングで、先程のシャーナが酒と料理を持ってくる。
このか細い腕でどうやって両手にこの量の料理が乗った盆を持っているのか? と黒は目を丸くする。
「アーサーさん、こっちの盆お願いします」
顔なじみのようで、アーサーの名を口にするとアーサーも少女に呆れたような顔つきで答えた。
「何回かに分ければいいだろうが」
「だって、早く飲み食いしたいでしょ?」
「こっちとら毎度、落とさないかとヒヤヒヤさせられるぜ」
言いながら、慣れた手つきで片方の盆を取ってやると、もう片方の盆に乗ったエールと食事をシャーナは黒とアーサーの前に並べ、アーサーも慣れたもので、盆の上の物をテーブルに並べ、それを終えると盆をシャーナに渡した。
「ごゆっくり~」
ニコッと、可愛らしい無邪気な笑顔を残して、シャーナは次の客へと行ってしまう。
そんな無邪気な印象を受けるシャーナを見送ると、
「さぁ、食うか」
アーサーが提案する。
「そうだな」
黒も答え、エールのジョッキを互いにぶつけて乾杯をする。
半分ほど一気に黒が飲むと、
「いい飲みっぷりだな。
でも。気をつけろよ。
ここのエールは急に酔いが来るからな」
警告するアーサーに、黒はジョッキを置いて答える。
「肝に銘じとく。
それと」
黒は真剣な声音でアーサーに伝えた。
「さっきの話だが、それでも冒険者になるよ」
意志の固さを感じ取ってか、アーサーはみなまで言うまいと言わんばかり答える。
「そうかい。
まぁ、何かありゃ、これも縁だ。相談してくれ。
最悪、うちの騎士団の雑兵としてぐらいには、雇ってやんよ」
「その時は、頼む」
黒がアーサーにこの世界のこの街の常識のレクチャーを受けている。
「んで、値切るのは当たり前。
値切らねぇと、良心的な店で割高、ひでぇ店だと倍以上の金額も請求されるぜ」
関西人じゃないんだよなぁ~ と黒は思う。
アーサーは他にも続けた。
「女より先にものを食べたり、道をゆくのが基本的な考え方だな。
女を守るという意味で、食べ物が腐ってないか? 道の先になにか障害はないかとかを見るんだ。
逆に女は、男を立てたり、弱ってる時は代わりに頑張ってやると言う具合だ」
そういう考えもあるのか と黒は思った。
「他には……」
湯に入る時は髪や体を洗ってから、食後は皿を纏めといてやる、お互い様精神を忘れない、など、黒の知っている常識が多かった。
「あと、最後に」
これだけは守れよ と言わんばかりの顔つきでアーサーが言う。
「ギルドの受付嬢は絶対に怒らせるなよ?」
「なぜ?」
間延びするような口調が尋ねると、
「そりゃ、怖ぇし、暴力的だし、仕事回してくれねぇし……」
と、後ろを振り返り言葉が止まる。
レミアがアーサーの後ろにたっていたのだ。
「よっ、よう。どうだったんだ?」
と、誤魔化すように尋ねるが、
「アーサーさん」
「はい」
「次のクエストは覚悟しておきましょうね」
ニコニコのレミアと汗ダラダラのアーサーの対比に、黒はクスリとした。
そんな黒にレミアが、レイギンからの回答を答えた。
「一応、ギルド登録は良いそうですが、条件として、レイギンさんと面談をしなければなりません」
その台詞に、ほぉ~ とアーサーがこぼした。
「珍しいな……って、相手が相手だからか」
黒へと一瞥する。
黒は冒険者になれるならと承諾した。
「わかった。
今丁度、食い終わったから、今からでもいいか?」
黒が答えると、レミアは頷いた。
「着いてきてください」
その背に黒が着いていくと、アーサーもその後を着いていく。
そんなアーサーに、レミアが、
「アーサーさんは呼ばれてないですよ?」
歩きながら言うと、
「ツレねぇこと言うなって。
レイギンの野郎の面を久々に見てやろうって思ってんだ」
少し考える様に視線を上げて、
「まぁ、いいかな?」
気にせず歩いていった。
石造りの階段に赤い絨毯のような敷物が敷かれ、滑り止めとしているようである。
黒は、まさにゲームの世界 と感想を思いながら、ついて行くと、1番大きい両開きの部屋の前に着いた。
その扉にレミアは数回ノックをする。
「入ってください」
まるで誰が来たのかわかっているかのように、爽やかで聞き取りやすい声音が許可する。
「失礼します」
レミアが両開きの片方を開き、黒とアーサーが続いて中に入る。
黒を一瞥して、アーサーへと声をかけようとするがアーサーが、遮る。
「よう!!
久しぶりだな」
ゲンナリとした顔つきでレイギンは眉間をもんで言う。
「貴方を呼んだ覚えはありませんが?」
冷たく言うとアーサーは気にも止めずに答えた。
「いやなぁ。
俺もこいつの事が気になってな。
お前の見解も聞きてぇから来たんだよ」
何を言っても無駄そうであると判断し、レイギンは話を始める。
「君が黒乃 黒くんだね」
年齢は三十路前に見えるが、落ち着き具合から四十代にも、見える。
「そうだ。
黒乃 黒だ」
自己紹介すると、レイギンは頷いた。
「早速だが、君は何者だ?」
すると、アーサーに話した通り、孤児であり、自分自身の出自がどうなっているのか分からない風に、答える。
それに、ふむ、と考えるように、顎を撫でた。
「その、太陽と月の魔法のことは何かわかるかい?」
黒はまだ試していないが、頭の中で魔法の欄を開くと、太陽はサンシャイン、月はムーンボルトと書かれており、その説明を話す。
「サンシャインは小さな太陽を召喚し、その熱で相手を焼き付ける。
ムーンボルトは月光の矢を放って相手に刺さると、魔力量を吸収し自分のものにしつつダメージを与える魔法。
どちらも基本魔法しか覚えていない」
ふむ、とレイギンは考える風になる。
「光魔法の基本魔法はシャイニングアローといい、光の矢をレベルに応じて複数本放つというものだ。
闇魔法の基本魔法はヘルファイアで冥府の黒き業火で敵を焼き尽くすものがあるが、君の太陽と月魔法の能力とは逆みたいだね」
それに、アーサーもレミアも同意するような顔つきをする。
レミアが遠慮がちに言う。
「私も質問をいいですか?」
「どうぞ」
レイギンが頷くと、
「この、刀剣レベルってなんでしょうか?」
それはアーサーも気になっていたようで興味深そうな表情を作った。
酒場で聞かなかったのは、余りにも特殊だったから、他の者に聞かれないようにするためだ。
黒はそれに憶測で答えてみせる。
「おそらく、俺の場合、レベルは上がらないけど、この刀剣レベルが上がるって事だと思う。
だから、刀剣を使えば強く成れるってことかなって思ってる」
レイギンは痛い所を突く。
「なら、レベルが1という事は、山で育ての親と過ごしていた時、一度も刀剣で、魔物や獣相手に戦った事はないと?」
「……」
遂にボロが出てしまったと思う黒。
だが、直ぐに機転を効かせて打開を図る。
「じぃさんに稽古はつけてもらっていたが、魔物や獣相手の時は、まず、魔法を使えって教わったんだよ。
本当は刀剣も使いたかったが、遠距離の魔法でまずは、相手の動きを観察しろって。
この刀剣レベルは、稽古ではなく実践でないと上がらないみたいだ」
ふむ と胡散臭さを覚えているような顔つきだが、レイギンは結論を出した。
「まぁ、悪い人には見えないと思うが、アーサーやレミアはどう思う?」
先にアーサーが答える。
「確かに、引っかかるところは、さっき飯を共にした時から感じていたが、悪いやつじゃないと思うぞ」
レミアも意見を述べる。
「私の意見で良ければ、黒さんいい人そうですし、能力値的には、Eランクぐらいまでなら行けそうなので、ギルドに迎え入れてもいいと思いますよ」
肯定的な二人の意見に黒はホッとする。
そんな二人の意見に、レイギンは頷く。
「ギルドへの登録は認めよう……ただし」
条件をつけ加えてきた。
「定期的に、君のステータス表を提出するように」
黒は少し迷うも、承諾する。
「わかった」
こうして晴れて、黒も冒険者となったのであった。
道を忙しなく行き交う人々は、その日を精一杯生きていて、活気が溢れている。
幾つかの違いは、しっかりと整備された上下水道とお風呂という衛生面であった。
治安は日本よりは悪いが、そこら中で犯罪が起こるようなことはない。
そんな異世界に、黒色の肩幅まであるつば広ハットに、肩甲骨の辺りまで伸ばした長い黒髪をうなじの辺りで結び、黒のトンビコートに、黒の革パンに黒のショートブーツを履いていて、腰には二本の刀を携えた黒はそこに突如現れたかのように立っていた。
そんな黒を過ぎ行く人達は、まるで最初からそこにいたかのように気にもとめず、各々の予定へと歩んでいる。
黒はどんなステータスになったか気になるも、数値化されているのか? と疑問に思う。
何となく、ステータス表示 と頭の中で叫ぶと、ゲームの画面みたいにステータスが、頭の中に表示れた。
初期値
力25、体力23、丈夫さ22、器用さ23、素早さ26、魔力26、魔力操作24、意志力22、魅力22、愛25。
刀剣レベル1、火、水、風、土、太陽、月レベル5、黒刀・黒夢、白銀刀・綺羅夢共にレベル5。
そして、勿論、本人はレベル1である。
頭の中に映るステータスを見て、これは初期値として高いのか? 低いのか? と黒は首を傾げてしまう。
ゲーム表記式ならと一つ前の画面に戻りたいと、考えると画面が変わった。
そこにはカテゴリが表示され、上からステータス、技、魔法、アイテム欄、装備の、順番で表示された。
試しに装備欄を開いてみると、武器は要求通り黒刀・黒夢、白銀刀・綺羅夢、防具は、無傷のハット、強靭なトンビコート、強脚の皮パン、瞬足のブーツが装備されており、ゲームでよくある灰色表記で外すことが出来ないか、他の装備が装備できないようになっている。
画面を前の画面に戻すと、下の方に数字が書かれているのに気が付き、30000ケロと書かれている。
ケロはこの世界のお金の単位であることは、すぐに理解した。
アイテム欄を見ると、一つだけ表示されており、女神からのメモと言うのがあった。
そのアイテムを選択すると、まずは冒険者ギルドに登録すると魔物をただ狩るよりもお金が稼げますよ と表示され、辺りを見渡し歩きながらギルド探しを始めた。
街中の看板には不思議な模様が書かれており、違和感を覚える。
なんだか分からず、人に尋ねることにする。
黒は人見知りな所はあるがコミュ障という訳では無い。
視界に入った、西洋の鎧に大きな大剣と紋章が刺繍されたマントを羽織る、騎士とも冒険者とも取れる金髪を刈り込んだ、頬に十字傷のある男に黒は話しかけた。
「いきなりで悪いが聞きたいことがある」
男は黒の物言いに、特に気を悪くすることなく首を傾げる。
「おう。なんだ?」
「冒険者ギルドに行きたいんだがどこにあるか教えて欲しい」
すると、男は目を丸くし、黒は何か変なことを聞いたか? と思ってしまう。
「冒険者ギルド??????」
何事? と、黒が思っていると、男は盛大に、豪快に笑って見せた。
「お前さん、この街は初めてか?」
「ああ。
だから知らないことの方が多いな。
まさか、冒険者ギルド自体この街には無いのか?」
聞き返すと、楽しげに右方向を指さした。
「何言ってやがんだよ。
ここにあるじゃねぇか。
まさか、文字も読めねぇのか?」
その方向を見ると、見慣れない模様で書かれた看板に、二階建ての児童図書館程の大きさの建物があった。
その看板の模様をよくよく見ると確かに、冒険者ギルドと書かれていることが分かる。
なるほど。見慣れない文字だから理解にラグがあるのか 変な模様だと思ってた と黒は思うと、男に頭を下げる。
「俺の見落としだな。
教えてくれてありがとう」
そんな誠実な態度に、男はキョトンとしてから、バツが悪そうに後頭部の辺りを掻く。
「いやいや、俺も笑いすぎちまってすまねぇな」
意外な台詞に黒は気分を害することなく同意する。
「いや、俺も同じ立場なら、あそこまで大笑いはしないが、クスリと来るかもしれん」
肯定的に言うと、黒の事を気に入ったのか、男が握手を求めた。
「俺の名はアーサー・バレンタインだ。
この国のこの街を管轄する騎士の傍ら、訓練を兼ねて冒険者ギルドに所属している」
その手を握り黒も答える。
「丁寧にありがとうよ。
俺は……」
名乗りに少し詰まる。
この世界で、黒乃 黒は胡散臭く映らないか? と考えてしまったが、相手が騎士という事もあり、素直に名乗った。
「黒乃 黒だ。
これから冒険者ギルドに登録しようと思っている」
すると、アーサーは首を傾げた。
「珍しい名前だな?
東の島国の名前に近い気がする」
異世界ものの定番、日本風の場所があるのか と黒は思うと、アーサーがさらに尋ねた。
「そこの出身なのか?
服装もこの辺りの国じゃ見たことないものだが」
そこは、明晰夢で色々と経験してきた黒である。
予め決めていた設定を口にする。
「俺は孤児でね。
なんでも、この名前の書かれた紙と二本の刀と一緒に捨てられていたらしい。
この格好は、俺を拾ってくれたじいさんが、異国で手に入れたいい防具だとのことで譲り受けたものだ。
まぁ、拾ってくれたじぃさんはもう死んで、元々冒険者に、なりたかったからこの街に来たって訳さ」
その話を信じて疑わず、黒の肩をガシッと掴んで感心する。
「苦労してきたんだな。
冒険者、頑張れよ」
激励しだすアーサーに黒は質問を投げかけた。
「俺の住んでた場所は山の中だったから常識や普通がわからないんだ。
だから聞きたいんだが、ギルドへの登録料とかはどのくらいかかるんだ?」
アーサーは腕を組んで頷いた。
「いくら持ってる?」
「30000ケロ」
「30000ケロ!?」
金額に驚いてみせる。
「足りないか?」
この世界の価値が分からず尋ねると、首を横に振った。
「いや、足りはするが、30000ケロありゃ、三ヶ月は普通に宿代込みで飲み食い出来る金額だ。
お前のじぃさんの金か?」
「あぁ。
死ぬ前にお前のために貯めといたって渡されたんだ」
「いいじぃさんに拾われたな」
感心に似た様子で頷く。
そして、アーサーは、ふむ、と息を漏らした。
「俺に着いてきな。
登録の案内やギルドの利用方法、あと、おすすめの宿屋に、食い物屋まで案内してやるよ」
面倒見がいいんだな と黒は思うも、遠慮してしまう。
「いや、時間や用事は大丈夫なのか?」
ははっ、と笑ってみせるアーサーは快く答えた。
「問題ない。
今日は非番だし、ギルドの依頼も大したのがなかったから、一杯引っ掛けに行くところだったんだよ」
そういうと、着いてきな と一言言うと歩き出した。
黒は、それに続きスムーズに事が運びそうだ と、この幸運に足取り軽くついて行く。
「レミア。
その装置"も"壊れてるんじゃねぇか?」
アーサーが受付嬢のレミアに問う。
レミアは藤色の長い髪に、豊満な胸元は男の視線を引き付け、キュッとしまった腰周りのスタイルがよく、可愛らしい童顔の二十歳程の女性である。
そんなレミアも困った表情で、間延びするようなおっとりとした口調で困惑しながら答えた。
「それはありませんよ~。
これ、新品ですよ。
今週、予備として仕入れたやつですよ」
「それにしてもよ……」
背の高いアーサーが黒を見下ろす。
「そんな視線送られてもなぁ」
黒も苦笑いを浮かべて、肩を竦めてしまう。
「いや、普通ありえないぜ。
18歳なら、魔物やモンスターと戦わず、普通に生活してても、最低でもレベル10は超えてるもんだ」
それに続くようにレミアも、相変わらずの口調で続く。
「それに、このステータスは、才能ない人で50レベル、天才で20レベルのステータスですよ。
それに四属性の魔法が使えて、普通、光と闇の特殊二属ならありますが、太陽と月って、未知の属性魔法までありますし……」
何者だ? と言う視線を二人から受ける黒は、話を逸らすように尋ねた。
「俺もわからんが、ギルドへの登録はできるのか?」
その台詞に、アーサーも、どうなんだ? と視線をレミアに送る。
「出来なくはないですが……イレギュラーが過ぎます。
ギルド長ーーレイギンさんに話を通してからにしてもらいたいので、少し待っていてください」
そういうと、黒のステータス表の紙を持って、カウンターから出ると、2階へと上がって行ってしまう。
残された二人は、アーサーの提案でギルド内にある食堂兼酒場へと移動する。
丁度、空いている席があり、二人は向かい合って座った。
すぐに、ウェイトレスの少女ーーシャーナがやってくると、アーサーが黒に尋ねる。
「飲めるか?」
酒には自信のある黒は頷いてみせると、アーサーは常連のようでメニュー表を見ることなく注文を口にする。
「エールを二つに、ボアのステーキとヘルコンドルの唐揚げ、野草のマゴ油サラダ一皿」
注文を終えると、お前はどうする? と黒に視線を送る。
「メニュー表を見たいとこだが、今はアーサーと同じので」
そう答えると、アーサーは了解と一言言うとシャーナに向き直る。
「だそうだ。頼むな」
人のいいオッサンの如くシャーナに優しく言うと、シャーナはメモを読み上げてから、厨房へと向かった。
そして、アーサーは少し真剣な目付きになる。
「黒のレベルが、もし、上がらないとなると、覚悟しといた方がいいかもな」
「それはどういうことだ?」
「レベルってのは、上がるとステータスも上がる。
勿論、上がり方は人それぞれでな。
俺みたいに力や丈夫さ、体力のステータスの伸びがいい奴は、大剣使いか、盾持ちのタンクをやるもんなんだ。
それプラス、ステータスがいくら適正でも覚えられる技がその武器種と合致しているとも限らねぇんだ」
女神の話を思い出しながら、今は知らないフリをするかと、首を傾げた。
「そうなのか」
「あぁ。
だから、運の悪ぃ奴はステータス的には弓を使うべきでも、覚えられる技が細身剣だけだったりする。
まぁ、弓は器用さ、素早さ、魔力が要で、デバフやバフ系の技が多い細身剣は素早さ、器用さ、意志力、魅力、愛のステータスが必要だが、素早さと器用さが被っているからまだいいが、コレが大剣だったら、力、体力、丈夫さ、器用さと殆ど被ってねぇから目も当てられねぇんだわ。
そういう奴は魔法に走るが、魔法のステータスも絶望的だと、冒険者は無理ってことだ」
武器には各ステータスによる依存がある。
それは以下の通りである。
ステータス説明
力……大剣、長剣、双剣、斧、棍棒、槍、格闘のダメージソース
体力……ゲームで言う所のHPに相当し、この世界では、打たれ強さであり、傷の付き方や出血の仕方などに関係する。前衛職の大剣、盾持ち長剣等のタンク職に必要なステータス
丈夫さ……傷ついた時の痛みや苦痛に対する耐性関係に相当する。前衛職の大剣、盾持ち長剣等のタンク職に必要なステータス。
器用さ……細身剣、短剣のダメージソース。長剣、双剣、弓、斧、棍棒、槍の命中率。大剣の攻撃速度。
素早さ……行動速度に関係する。特に長剣、双剣、細身剣、弓の攻撃速度に関連する。
魔力……特定の特殊武器種と弓と杖と魔法のダメージソース。
魔力操作……特定の特殊武器種や魔法の威力の加減をどの程度操れるかのステータス。
意志力……特定の特殊武器を操るときのダメージソース。状態異常の混乱、金縛り、錯乱、恐怖への耐性に関係する。デバフ系魔法・技の効果に関係する。
魅力……魅了される確率と魅了する確率に関係する。防御系補助魔法・技の時の効果に関係する。
愛……回復系の治癒能力に関係する。力、器用さ、素早さ、魔力、魔力操作、愛のバフ魔法・技の効果に関係する。
魔力量……ゲームで言うところのMPであり個々人により数値が違い、数値としてはこの世界では表記していない。
感覚で魔力量の消費は魔力操作によりコントロールしている。
感覚の善し悪しは、魔力操作で決まる。
魔力量を込めれば込めるほど威力が上がるが消耗し、魔力操作が低いと暴走する。
「なるほど」
黒が武器とステータスの相関関係をしり、感心していると、アーサー呆れたような顔つきをする。
「なるほどってな……。
つまりだな、お前はまぁ、数値的には珍しくどれも似たようなもんだから武器や魔法については問題ないんだ。
だがな」
深刻さをますような声音へと変化していく。
「レベル1でしかも次のレベルまで経験値0って事は、これ以上ステータスが上がらねぇってことだ。
まぁ、ステータス的には、レミアの言う通り、天才なら20レベル、才能なしなら50レベルだから、良くてDランク冒険者って所だ」
ランクがA側かZ側かどちらに行くと高いランクなのかよく分からずにつぶやくように言う。
「Dランクか……」
そんな様子の黒を見て、こいつわかってねぇな と察したアーサーはわざわざ説明してくれる。
「よくわかってねぇみたいだから一応教えておくが、ランクはHランクからはじまってA、S、SSと未だに誰も達成していないXランクが最大だ。
まぁ、Dランクなら衣食住には困らない程度の稼ぎになるが、下手したら冒険者じゃない職に着いた方がいいことの方が多いな」
警告のような口ぶりに、黒は、
「心配してくれてるのか?」
と言うと、アーサーは首を横に振った。
「いいや。
それでも冒険者になる覚悟があるかって事だ」
言い切ったタイミングで、先程のシャーナが酒と料理を持ってくる。
このか細い腕でどうやって両手にこの量の料理が乗った盆を持っているのか? と黒は目を丸くする。
「アーサーさん、こっちの盆お願いします」
顔なじみのようで、アーサーの名を口にするとアーサーも少女に呆れたような顔つきで答えた。
「何回かに分ければいいだろうが」
「だって、早く飲み食いしたいでしょ?」
「こっちとら毎度、落とさないかとヒヤヒヤさせられるぜ」
言いながら、慣れた手つきで片方の盆を取ってやると、もう片方の盆に乗ったエールと食事をシャーナは黒とアーサーの前に並べ、アーサーも慣れたもので、盆の上の物をテーブルに並べ、それを終えると盆をシャーナに渡した。
「ごゆっくり~」
ニコッと、可愛らしい無邪気な笑顔を残して、シャーナは次の客へと行ってしまう。
そんな無邪気な印象を受けるシャーナを見送ると、
「さぁ、食うか」
アーサーが提案する。
「そうだな」
黒も答え、エールのジョッキを互いにぶつけて乾杯をする。
半分ほど一気に黒が飲むと、
「いい飲みっぷりだな。
でも。気をつけろよ。
ここのエールは急に酔いが来るからな」
警告するアーサーに、黒はジョッキを置いて答える。
「肝に銘じとく。
それと」
黒は真剣な声音でアーサーに伝えた。
「さっきの話だが、それでも冒険者になるよ」
意志の固さを感じ取ってか、アーサーはみなまで言うまいと言わんばかり答える。
「そうかい。
まぁ、何かありゃ、これも縁だ。相談してくれ。
最悪、うちの騎士団の雑兵としてぐらいには、雇ってやんよ」
「その時は、頼む」
黒がアーサーにこの世界のこの街の常識のレクチャーを受けている。
「んで、値切るのは当たり前。
値切らねぇと、良心的な店で割高、ひでぇ店だと倍以上の金額も請求されるぜ」
関西人じゃないんだよなぁ~ と黒は思う。
アーサーは他にも続けた。
「女より先にものを食べたり、道をゆくのが基本的な考え方だな。
女を守るという意味で、食べ物が腐ってないか? 道の先になにか障害はないかとかを見るんだ。
逆に女は、男を立てたり、弱ってる時は代わりに頑張ってやると言う具合だ」
そういう考えもあるのか と黒は思った。
「他には……」
湯に入る時は髪や体を洗ってから、食後は皿を纏めといてやる、お互い様精神を忘れない、など、黒の知っている常識が多かった。
「あと、最後に」
これだけは守れよ と言わんばかりの顔つきでアーサーが言う。
「ギルドの受付嬢は絶対に怒らせるなよ?」
「なぜ?」
間延びするような口調が尋ねると、
「そりゃ、怖ぇし、暴力的だし、仕事回してくれねぇし……」
と、後ろを振り返り言葉が止まる。
レミアがアーサーの後ろにたっていたのだ。
「よっ、よう。どうだったんだ?」
と、誤魔化すように尋ねるが、
「アーサーさん」
「はい」
「次のクエストは覚悟しておきましょうね」
ニコニコのレミアと汗ダラダラのアーサーの対比に、黒はクスリとした。
そんな黒にレミアが、レイギンからの回答を答えた。
「一応、ギルド登録は良いそうですが、条件として、レイギンさんと面談をしなければなりません」
その台詞に、ほぉ~ とアーサーがこぼした。
「珍しいな……って、相手が相手だからか」
黒へと一瞥する。
黒は冒険者になれるならと承諾した。
「わかった。
今丁度、食い終わったから、今からでもいいか?」
黒が答えると、レミアは頷いた。
「着いてきてください」
その背に黒が着いていくと、アーサーもその後を着いていく。
そんなアーサーに、レミアが、
「アーサーさんは呼ばれてないですよ?」
歩きながら言うと、
「ツレねぇこと言うなって。
レイギンの野郎の面を久々に見てやろうって思ってんだ」
少し考える様に視線を上げて、
「まぁ、いいかな?」
気にせず歩いていった。
石造りの階段に赤い絨毯のような敷物が敷かれ、滑り止めとしているようである。
黒は、まさにゲームの世界 と感想を思いながら、ついて行くと、1番大きい両開きの部屋の前に着いた。
その扉にレミアは数回ノックをする。
「入ってください」
まるで誰が来たのかわかっているかのように、爽やかで聞き取りやすい声音が許可する。
「失礼します」
レミアが両開きの片方を開き、黒とアーサーが続いて中に入る。
黒を一瞥して、アーサーへと声をかけようとするがアーサーが、遮る。
「よう!!
久しぶりだな」
ゲンナリとした顔つきでレイギンは眉間をもんで言う。
「貴方を呼んだ覚えはありませんが?」
冷たく言うとアーサーは気にも止めずに答えた。
「いやなぁ。
俺もこいつの事が気になってな。
お前の見解も聞きてぇから来たんだよ」
何を言っても無駄そうであると判断し、レイギンは話を始める。
「君が黒乃 黒くんだね」
年齢は三十路前に見えるが、落ち着き具合から四十代にも、見える。
「そうだ。
黒乃 黒だ」
自己紹介すると、レイギンは頷いた。
「早速だが、君は何者だ?」
すると、アーサーに話した通り、孤児であり、自分自身の出自がどうなっているのか分からない風に、答える。
それに、ふむ、と考えるように、顎を撫でた。
「その、太陽と月の魔法のことは何かわかるかい?」
黒はまだ試していないが、頭の中で魔法の欄を開くと、太陽はサンシャイン、月はムーンボルトと書かれており、その説明を話す。
「サンシャインは小さな太陽を召喚し、その熱で相手を焼き付ける。
ムーンボルトは月光の矢を放って相手に刺さると、魔力量を吸収し自分のものにしつつダメージを与える魔法。
どちらも基本魔法しか覚えていない」
ふむ、とレイギンは考える風になる。
「光魔法の基本魔法はシャイニングアローといい、光の矢をレベルに応じて複数本放つというものだ。
闇魔法の基本魔法はヘルファイアで冥府の黒き業火で敵を焼き尽くすものがあるが、君の太陽と月魔法の能力とは逆みたいだね」
それに、アーサーもレミアも同意するような顔つきをする。
レミアが遠慮がちに言う。
「私も質問をいいですか?」
「どうぞ」
レイギンが頷くと、
「この、刀剣レベルってなんでしょうか?」
それはアーサーも気になっていたようで興味深そうな表情を作った。
酒場で聞かなかったのは、余りにも特殊だったから、他の者に聞かれないようにするためだ。
黒はそれに憶測で答えてみせる。
「おそらく、俺の場合、レベルは上がらないけど、この刀剣レベルが上がるって事だと思う。
だから、刀剣を使えば強く成れるってことかなって思ってる」
レイギンは痛い所を突く。
「なら、レベルが1という事は、山で育ての親と過ごしていた時、一度も刀剣で、魔物や獣相手に戦った事はないと?」
「……」
遂にボロが出てしまったと思う黒。
だが、直ぐに機転を効かせて打開を図る。
「じぃさんに稽古はつけてもらっていたが、魔物や獣相手の時は、まず、魔法を使えって教わったんだよ。
本当は刀剣も使いたかったが、遠距離の魔法でまずは、相手の動きを観察しろって。
この刀剣レベルは、稽古ではなく実践でないと上がらないみたいだ」
ふむ と胡散臭さを覚えているような顔つきだが、レイギンは結論を出した。
「まぁ、悪い人には見えないと思うが、アーサーやレミアはどう思う?」
先にアーサーが答える。
「確かに、引っかかるところは、さっき飯を共にした時から感じていたが、悪いやつじゃないと思うぞ」
レミアも意見を述べる。
「私の意見で良ければ、黒さんいい人そうですし、能力値的には、Eランクぐらいまでなら行けそうなので、ギルドに迎え入れてもいいと思いますよ」
肯定的な二人の意見に黒はホッとする。
そんな二人の意見に、レイギンは頷く。
「ギルドへの登録は認めよう……ただし」
条件をつけ加えてきた。
「定期的に、君のステータス表を提出するように」
黒は少し迷うも、承諾する。
「わかった」
こうして晴れて、黒も冒険者となったのであった。
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