16 / 16
16話
しおりを挟む
平穏な時間はあっという間に過ぎる。ふと顔を上げて自習ブースの壁に設置されている時計を見れば、時刻はすでに八時をまわっていた。
「もうこんな時間か。集中しているとあっという間だな」
「すごいね、龍。今月の週末課題として設定されているところ、もう全部終わってるんだ」
横から夏樹が俺の方を覗き込みながら驚いている。週末課題というのはその名の通り、週末にやって月曜日に提出を求められる課題のことで量としては遠回しに遊びに行くなと言われている気がするほどの量だ。
「ギリギリまでやらないで、追われるのは好きじゃないだけだよ」
あとは大体週末に梓に助けてくれと泣きつかれるせいでやる時間がなくなるという理由もあったが。ゆったりと教材を片付けながら、夏樹の方を見る。その手にはパンダのシャン君に加えて、茶色のクマが増えていた。ご丁寧にシルクのような布でできたドレスまで着ている。俺の休日の格好よりもすごい。
「チャッピーだよ」
俺の視線に気づいた夏樹がクマの名前を教えてくれる。正直全然興味ないから、別に教えてくれなくてもいいんだけどな……
「龍。ちょっと早いかもしれないけど、そろそろ梓ちゃんを起こしに行ったら? 昨日はギリギリアウトみたいだったから、今日は少し早めに起してあげた方がいいんじゃない?」
俺がのんびりしているのを見て、夏樹は心配になったらしい。だが、その必要は今日に限ってはないのだ。
「朝スマホを開いたら、梓からこんなメッセージが来てたから今日はそんなに急ぐつもりはないよ」
スマホの画面を操作して、夏樹にそのメッセージを見せる。夏樹はシャン君とチャッピーを両手に握りしめたまま、俺のスマホに顔を近づけた。
「なになに……『明日はヘンゼルとグレーテル作戦をやっちゃうから大丈夫! 起こさなくていいよ!』か。本当に起こさないつもり?」
「まさか」
梓の起こさなくて大丈夫なんて、怒らないから正直に言ってごらんぐらい信用してない。あれ言う人、だいたい正直に話すと結局怒るからな。
「というかヘンゼルとグレーテル作戦ってなんなの? 家から学校までの道にお菓子を並べるとか?」
「それを梓が順に拾い食いしながら学校に来たら俺は泣くぞ。ひとまずわけ分からないことをやって、何かやらかすのが目に見えてるから二十分前になっても教室にいなかったら起しに行くつもりだよ」
鍵束をくるくると指先で回しながら答える。別に梓のことを信用していないわけではないが、その言葉を百パーセント鵜呑みにしていいかどうかも分かっている。少なくとも三パーセントは信用しているつもりだ。
「もうこんな時間か。集中しているとあっという間だな」
「すごいね、龍。今月の週末課題として設定されているところ、もう全部終わってるんだ」
横から夏樹が俺の方を覗き込みながら驚いている。週末課題というのはその名の通り、週末にやって月曜日に提出を求められる課題のことで量としては遠回しに遊びに行くなと言われている気がするほどの量だ。
「ギリギリまでやらないで、追われるのは好きじゃないだけだよ」
あとは大体週末に梓に助けてくれと泣きつかれるせいでやる時間がなくなるという理由もあったが。ゆったりと教材を片付けながら、夏樹の方を見る。その手にはパンダのシャン君に加えて、茶色のクマが増えていた。ご丁寧にシルクのような布でできたドレスまで着ている。俺の休日の格好よりもすごい。
「チャッピーだよ」
俺の視線に気づいた夏樹がクマの名前を教えてくれる。正直全然興味ないから、別に教えてくれなくてもいいんだけどな……
「龍。ちょっと早いかもしれないけど、そろそろ梓ちゃんを起こしに行ったら? 昨日はギリギリアウトみたいだったから、今日は少し早めに起してあげた方がいいんじゃない?」
俺がのんびりしているのを見て、夏樹は心配になったらしい。だが、その必要は今日に限ってはないのだ。
「朝スマホを開いたら、梓からこんなメッセージが来てたから今日はそんなに急ぐつもりはないよ」
スマホの画面を操作して、夏樹にそのメッセージを見せる。夏樹はシャン君とチャッピーを両手に握りしめたまま、俺のスマホに顔を近づけた。
「なになに……『明日はヘンゼルとグレーテル作戦をやっちゃうから大丈夫! 起こさなくていいよ!』か。本当に起こさないつもり?」
「まさか」
梓の起こさなくて大丈夫なんて、怒らないから正直に言ってごらんぐらい信用してない。あれ言う人、だいたい正直に話すと結局怒るからな。
「というかヘンゼルとグレーテル作戦ってなんなの? 家から学校までの道にお菓子を並べるとか?」
「それを梓が順に拾い食いしながら学校に来たら俺は泣くぞ。ひとまずわけ分からないことをやって、何かやらかすのが目に見えてるから二十分前になっても教室にいなかったら起しに行くつもりだよ」
鍵束をくるくると指先で回しながら答える。別に梓のことを信用していないわけではないが、その言葉を百パーセント鵜呑みにしていいかどうかも分かっている。少なくとも三パーセントは信用しているつもりだ。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。
(お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです)
その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。
(その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性)
物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる