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第3章 転生者/邂逅
第155話
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「その代わりと言ってはなんだけど、二人には俺がいない三日間の間にやってもらいたいことがある」
そう言って代表してシャルに渡したのは霊子結晶とお金が入った袋だった。
「頼みたいのは三つだ。一つは回収屋で霊子結晶の換金。換金時はサインを求められるだろうから、頼まれただとなんだの言って俺の名前を使ってもらって構わない。二つ目は食料の買い出し。そのお金は二人の三日分の食費も含まれてるから気をつけて。いずれにしてもフードを被るなりして顔をあまり見られないように気をつけてくれ」
「分かりました」
「それから三つ目はシャル、セシリアに魔術を教えてやってくれないか?」
「いいですけど……セシリアに魔術陣は難しくないですか?」
仮に魔術を発動するのに十分な霊子を持っていたとしても、教えた魔術陣を覚えるだけの記憶力がなければいざという時に使えない。そのことを懸念しての発言であったが、
「確かにそうだな。だからすごく簡単なものでいいと思う。まずは魔術をそもそも使えるだけの素質があるのかどうかを見極めて、もしあれば魔術札をシャルが作ってやればある程度は使えるわけだし」
「確かにそうですね。セシリア頑張りましょうね」
「食べ物出す魔術、使いたい」
「そうだな。そんな魔術があったら食べ物を定期的に買う必要がなくなるから大助かりだな。二人とも朝ごはんまだだから腹減っただろ? ちょっとそこらへんで買ってくるから待っててくれ」
「わーい、ご飯」
両手をあげて喜ぶセシリアに笑いかけると、少年は一度部屋を出ていった。
★
少しして少年が何かを買って戻ってくる。そこから漂ってくる香ばしい匂いに鼻腔をくすぐられたシャルは興味津々といった様子で彼の腕の中にあるものを見た。
「それはロイスですか?」
「あれ? 知ってるのか? 何か美味しそうなものがないか探してたら、おじさんが屋台で作ってたのを見つけたんだ」
「ロイスはノーランドの名物ですからね。ちょうど食べたいと思っていたので嬉しいです」
タレに漬け込んだ鶏肉を香ばしく焼き上げたものを葉野菜と薄く伸ばした小麦粉の生地で包んだそれを受け取ったシャルは小さな口で食べ始める。隣ではセシリアが子供のようにはしゃいでいた。
「おいしいです。濃厚なタレにさっぱりとした葉野菜がよく合いますね。昔食べた味から全然変わってないです」
「そういえば街に入る前に言ってたな。『六年前に来た時は』って。その時は家族で来たのか?」
「はい。たしかお母様の視察に付いてきた時に食べたんです。その時はクレア姉様も一緒にいて……懐かしいです。これを食べた瞬間、いつもはあまり表情を変えないクールなクレア姉様が目を輝かせたんです」
舌の上で広がる味が家族との思い出を呼び起こす。シャルはじんわりと心が温かくなるのを感じた。
そう言って代表してシャルに渡したのは霊子結晶とお金が入った袋だった。
「頼みたいのは三つだ。一つは回収屋で霊子結晶の換金。換金時はサインを求められるだろうから、頼まれただとなんだの言って俺の名前を使ってもらって構わない。二つ目は食料の買い出し。そのお金は二人の三日分の食費も含まれてるから気をつけて。いずれにしてもフードを被るなりして顔をあまり見られないように気をつけてくれ」
「分かりました」
「それから三つ目はシャル、セシリアに魔術を教えてやってくれないか?」
「いいですけど……セシリアに魔術陣は難しくないですか?」
仮に魔術を発動するのに十分な霊子を持っていたとしても、教えた魔術陣を覚えるだけの記憶力がなければいざという時に使えない。そのことを懸念しての発言であったが、
「確かにそうだな。だからすごく簡単なものでいいと思う。まずは魔術をそもそも使えるだけの素質があるのかどうかを見極めて、もしあれば魔術札をシャルが作ってやればある程度は使えるわけだし」
「確かにそうですね。セシリア頑張りましょうね」
「食べ物出す魔術、使いたい」
「そうだな。そんな魔術があったら食べ物を定期的に買う必要がなくなるから大助かりだな。二人とも朝ごはんまだだから腹減っただろ? ちょっとそこらへんで買ってくるから待っててくれ」
「わーい、ご飯」
両手をあげて喜ぶセシリアに笑いかけると、少年は一度部屋を出ていった。
★
少しして少年が何かを買って戻ってくる。そこから漂ってくる香ばしい匂いに鼻腔をくすぐられたシャルは興味津々といった様子で彼の腕の中にあるものを見た。
「それはロイスですか?」
「あれ? 知ってるのか? 何か美味しそうなものがないか探してたら、おじさんが屋台で作ってたのを見つけたんだ」
「ロイスはノーランドの名物ですからね。ちょうど食べたいと思っていたので嬉しいです」
タレに漬け込んだ鶏肉を香ばしく焼き上げたものを葉野菜と薄く伸ばした小麦粉の生地で包んだそれを受け取ったシャルは小さな口で食べ始める。隣ではセシリアが子供のようにはしゃいでいた。
「おいしいです。濃厚なタレにさっぱりとした葉野菜がよく合いますね。昔食べた味から全然変わってないです」
「そういえば街に入る前に言ってたな。『六年前に来た時は』って。その時は家族で来たのか?」
「はい。たしかお母様の視察に付いてきた時に食べたんです。その時はクレア姉様も一緒にいて……懐かしいです。これを食べた瞬間、いつもはあまり表情を変えないクールなクレア姉様が目を輝かせたんです」
舌の上で広がる味が家族との思い出を呼び起こす。シャルはじんわりと心が温かくなるのを感じた。
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